翌日。鳥の声とともに私の意識は浮上する。
「ん……」
「フィアナ」
目を覚ますと何故か心配と安堵の表情をした姉がいた。
「お姉ちゃん?」
「良かった、目が覚めたのね。待ってて今皆を呼んでくるから」
なぜそんなに心配されているのか全く分からなかったけれど姉は言うと慌てて私の部屋から出て行く。
私どうしてベッドに寝てるんだろう。確か昨日の夜玄関で小動物達が押し寄せてきて、それで一匹のうさぎがフレンさんに近づいていって、何でか分かんないけど私嫌な予感がしてフレンさんの前に駆け込んで。その後急に体調が悪くなって……
「あ、私倒れちゃったんだ」
そりゃ心配されて当然よね。そんなことを考えていると皆の足音が聞こえてきた。
「フィアナ、目が覚めたのか。良かった!」
「ドロシーの作った薬が効いたんだな」
「ドロシー?」
安堵の吐息と共にルキアさんが笑顔で言うとフレンさんも微笑む。でもドロシーさんて誰の事だろう。
「ドロシーはわたしの本当の名前よ。ヒルダって言うのはここに潜伏している間の仮の名前だったの。……それより具合は大丈夫? ごめんなさいね。貴女をこんな目に合わせて……」
「いいえ、私なら大丈夫ですから」
申し訳なさそうな顔のヒルダさん……いやドロシーさんの言葉に私は起き上り答える。
「もう、動いても大丈夫なのか?」
「はい。どこも悪くないから大丈夫ですよ」
レオンさんの言葉に私は小さく頷き答えた。だけどどうして二人はここにいるんだろう。
「フィアナが眠っている間いろいろなことが起こってな、この二人から話を聞いた。起きたばかりで悪いが聞いてくれるか」
「はい」
フレンさんの言葉に私は頷く。それから聞かされた話しに私は驚くばかりで理解するのに時間がかかった。ザールブルブの女王様が黒幕で女王の命を受けたカーネルさんの指示でドロシーさんとレオンさんはこの町に潜伏していた。そして女王は古代の破滅の魔法を復活し世界と戦争をする気でいて、手始めにこの国を狙っているということ。
「俺達は女王を止めるために女王の所に行く。ドロシー達には封印の魔法を使える人を探してきてもらって女王が復活させようとしている古代魔法を止めてもらえるように頼みに行くということになったんだ。それでフィアナとティアは危ないから今すぐ中立国であるコゥディル王国へと非難するんだ」
「ちょっと待ってフレン。私は逃げないよ。最後まで付き合うって決めたんだから」
「私も避難なんてしません。最後までお手伝いさせてください」
彼の言葉に姉が言うと私も揺るぎない思いを伝える。
「ここにいると危険だ。君達だけでも安全な場所に避難してもらいたいんだけど」
「どんな危険が待ち構えていようとも私は最後までレオンさんと一緒にいたいんです。……迷惑、でしょうか」
レオンさんの言葉はもっともだけどでも今さら逃げたりなんかしたくない。やっとレオンさんのお手伝いができるんだもの。最後まで一緒にいたいよ。
「っ! …………ずるいな。分かったよ。フィアナの好きにしていい」
「ティアとフィアナの気持ちは分かった。だけど無茶はするなよ」
レオンさんが困ったように微笑むとそう言って了承してくれる。フレンさんも私達の意志の固さに折れてくれた。
「それで、二人は如何するんだ?」
「私はフレン達についていくわ。だからレオン、フィアナの事お願いね」
「お、お姉ちゃん?」
ルキアさんの問いかけに姉が真っ先に声をあげて答える。お姉ちゃんいきなり何言ってるの。
「勿論。フィアナの身はオレが命に代えても守ってやるから安心しろって」
「レ、レオンさん?」
レオンさんも堂々と胸を張り答える。私が眠ってる間に何があったんだろう?
「はいはい、ご馳走様。そんな事よりさっさと作戦を決行した方が良いんじゃないの」
「だが、外には最近怪しい奴がうろついているって情報がある。そいつがフレンの命を狙う刺客の可能性もあるだろう。慎重に動かないと相手にこちらの事が感づかれてしまえば終わりだ」
腕を組みドロシーさんが言う。それにルシアさんが難しい顔をして説明した。
「刺客? そんなの送り込んだなんて情報は聞いてないわよ」
「だが、最近この辺りをうろつく怪しい奴が目撃されているのは事実だぜ?」
彼女が不思議そうに言うとルキアさんが首をかしげて話す。
「あ……それ、多分オレの事だ」
「「「え?」」」
「「「はっ?」」」
レオンさんの言葉に私達の視線はそちらに集中した。
「王子を探し回ってたんだけどこの町の地理が分からなかったから迷子になってあっちこっち行ってたからな。まさか不審者あつかいされてたとは……」
「はぁっ? あんたね……」
「方向音痴は演技ではなく本当だったってことか」
苦笑して説明した彼へとドロシーさんが呆れかえる。フレンさんも小声で何か呟いていたけれどよく聞こえなかった。
「兎に角刺客がいないにしても注意するに越したことはないだろう。相手にこちらの動きが悟られないように慎重に行動しよう」
「えぇ。そうね、わたし達は転移魔法を使って街の外に向かうわ。フレン王子達は今すぐ女王のいるザールブルブへ向かって――」
「お邪魔するわね」
ルシアさんの言葉にドロシーさんが説明しているところにルチアさんの声が聞こえてくる。
「ルチア、どうしたの?」
「やっぱりここにいたのね。ルシアとルキアに王宮の使者から国王様の伝言が」
姉が驚いてルチアさんに尋ねると深刻な顔の彼女が口を開く。
「何かあったのか」
「ザールブルブの女王様がフレン王子の行方不明は我が国の陰謀だとし、条約を破棄し、この国と戦争を起こすと言ってきたそうなの。すでに国王様の所にザールブルブの兵士達が攻め込んできているそうよ。すごい濡れ衣だけれど……それで、ルシアとルキアにはフレン王子行方不明の真相を突き止めこの国の民を救ってほしいと。そして国王様の事は心配いらないからフレン王子の力になってやってほしいとのことよ」
ルキアさんの言葉にルチアさんは一気にそこまで話切る。すでに女王様がこの国に攻め込んできているなんて、猶予はないんじゃないかな。
「分かった。ルチアお前は町の皆を避難させる手伝いが終わったらコゥディル国に避難するんだ」
「……ティアもフィアナもルシアもルキアも皆わたしの知らないところで何か大きな問題にかかわっているのね。分かったわ。わたしも手伝ってあげたいけれど、何にも出来ないんですもの。足手まといになるから大人しくコゥディル国に避難しているわ。皆、無理だけはしないでね」
「うん、有り難うルチア」
ルシアさんの言葉に何かを悟ったルチアさんがそう言って心配そうな顔で無理矢理微笑む。姉も泣き出しそうなのを必死にこらえながら笑い力強い声で答えた。
ルチアさんが家から出て行くと私達も二手に分かれて作戦を決行することとなる。フレンさん達はオルドラの王宮に私達は町の外へと……絶対にこの大好きな街を救って見せるんだから。
「フィアナ」
「レオンさん?」
街の外に出て森の中へと向かいながらレオンさんが声をかけてくる。
「オレ、君が大好きだっていうこのオルドラ国を必ず護るから。だから、何があってもオレの事信じて側で見守っていてくれる」
「はい、私最後までレオンさんの事信じます」
レオンさんは私が好きなこの国を護りたいって言ってくれた。きっとその気持ちに嘘偽りはない。だから私も最後までレオンさんの事信じる。もう、すれ違いなんて嫌だから。
それからドロシーさんの探知魔法が示す森の中に入るとそこに居たのはなんとお母さんとお父さんで、話しを聞いたらお母さんが封印の魔法を扱える唯一の人物であると知った。そして姉にならその踊りが踊れるはずだと。私達はこのことをフレンさん達に伝えるために急いで引き返しお城へと向かった。
「城の警備が厳戒だな……」
「しかも外をうろついてるのはザールブルブの兵士ばかりということはすでに城は占領されていると考えた方が良いだろう」
中の様子を窺ってきたレオンさんが言った言葉にルキアさんも低い声で話す。
「王子達の居場所は分かっているわ。玉座の間まで一気に転移するわよ」
ドロシーさんの言葉に私達は魔法陣の範囲に入るように彼女の側へと近寄る。一瞬視界が歪むと次に見えてきたのは大きな扉だった。
「急ごう」
ルキアさんの言葉に従い中へと入るとそこには王国騎士団の男の人とカーネルさんに追い詰められている姉達の姿があった。
「加勢するぜ!」
「分かってるって」
ルキアさんの言葉にレオンさんは頷くとナイフを取り出し駆け込む。
「お姉ちゃん! 封印の魔法が分かったの。あのねお姉ちゃんならその踊りができるはずだってお母さんが言っていた。昔から体で覚えさせてきたからって」
「フィアナ……分かったやってみる」
レオンさん達が頑張っている間私は姉へと近寄りお母さんから聞いた話を説明する。
姉は了承すると踊りながら見た事のない文字の刻まれた魔法陣を描き出す。
「あの女を止めるのだ」
「ティアに手出しはさせない」
「食い止めるぞ」
女王の言葉にフレンさんが言うと駆け込んでくる王国騎士へと応戦する。ルキアさんもカーネルさんを止めようと動く。
「これでも食らいなさい」
「「くっ」」
しかしカーネルさんの魔法の方が早く発動しフレンさんとルキアさんは薙ぎ倒されてしまう。
「お兄様危ない」
「ルキア、隙を見せるな」
第二王子とルシアさんが叫んだ一瞬の出来事だった。フレンさんとルキアさんへと間合いを詰めた王国騎士の男性が持つ剣が容赦なく二人を襲う。
彼等は武器の平でそれを受け止めるがその拍子に剣が手から離れて床に転がってしまった。
「形勢逆転のようですね」
「さて、それは如何かな?」
「何?」
薄い笑みを浮かべるカーネルさんへとレオンさんがにやりと笑い言う。彼の言葉に王国騎士の男性が眉をしかめた。
「オレが暗殺者だってこと忘れたわけじゃないよな。オレは二人と違ってそう簡単にやられたりしないぜ」
「あなた一人で俺達と互角に戦えるとでも?」
レオンさんの言葉にカーネルさんが言う。レオンさんなにか作戦でもあるのかな?
「時間稼ぎの御託なら聞く気はない」
「おっと、相変わらず融通の利かない忠犬さんだな。そんな攻撃食らうわけない、だろ!」
騎士団の男性が言うと彼へと向かって斬りかかっていく。その剣をバク転して交わすと共にルキアさんの剣を右手で掴む。
「オレの身体能力舐めて貰っちゃ困るぜ」
にやりと笑い床に降り立ったレオンさんは言うのと共に右手に掴んだルキアさんの剣を放り投げ着地点にあったフレンさんの剣を左足で蹴り上げた。
「武器が戻ればこっちのもんだ」
「覚悟しろ」
フレンさんとルキアさんは彼の意図をきちんと理解しておりしっかりと自分の武器をキャッチする。
「しまった……」
カーネルさん達が慌ててフレンさん達へと応戦しようと動くよりも早く二人の剣が喉元へと当てられる。身動きが取れなくなった彼等は降参するように武器をその場へと捨てた。
それと共に姉が描き出していた魔法陣が完成し部屋一面が淡い光で満たされていく。
「っぅ」
女王はその場へと崩れるように座り込みこうして私達の戦いは幕を閉ざした。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!