追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
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カイルの場合

公開日時: 2022年5月9日(月) 03:00
文字数:2,036

 俺は王となり政を執り行ってきて何年もの時月が過ぎ去り気が付いたらすっかり歳を取ってしまっていた。

 

「ゴホ、ゴホ……また発作か」

 

食事を終えた途端訪れる咳込み。心臓を掴まれたかのような痛み。長年政を行ってきた体は老いと共にボロボロになっていたようで最近では発作を起こし倒れる事が多くなった。

 

「王様……失礼します」

 

「誰だ?」

 

その時部屋の中に誰かが入って来て俺は警戒する。王宮にいる者なら気配で分かるが、この相手は城にいる誰のものでもなかった。

 

「私です。お久しぶりですね」

 

「フィアナか? どうして、もう二度と来ることはないと思っていたのだが」

 

フードを脱ぎ去り顔をのぞかせたその人物はよく見知っている者の顔で警戒を解く。だが、未来から来た彼女がなぜまた俺の前に姿を現したのかその理由が全くもって分からない。

 

「……貴方にとても大切なお話をしに来ました。王様、その話をする前に確認したい事があります。貴方が家族も国も民も捨てて何者でもない「カイル」となる事を承諾くださるというのであれば私は貴方の命を助ける事が出来ます」

 

「それほど大切な話なんだな。…………分かった。何者でもない俺になることを約束しよう」

 

彼女の言葉に数分考えこんだ後答える。俺が王でも父でもないただのカイルになることが俺の命を救うとは一体どういうことなのだろうか。

 

「それではまずこの薬を飲んでください。これを飲めば貴方の身体の異変は良くなります」

 

「その薬は何だ?」

 

「解毒の薬です。王様、驚かないで聞いてください。貴方の命を狙い食事に毒を少量ずつまでて飲ませている人物がいます。その人物は無色透明の毒薬を作るように命令しそれを魔法使いの長が作り出しました。不自然ではない自然な死に見せかけるようにと開発されたゆっくりとだが確実に人を死に至らしめる薬を……その薬の効果を打ち消すことのできる唯一の解毒薬。それがこちらの薬になるのです」

 

待て、毒薬だと? 俺の命を狙う人物がいるという事か。そいつは一体何者なんだ? 真相を知るために俺はフィアナへと口を開く。

 

「毒薬を……一体誰が俺の命を狙っているというのだ」

 

「女王様です。全ては第二王子であるアレン王子を王の座に就かせるために考えた企てです」

 

「王妃が俺の命を狙ったと?」

 

いささか信じられない事実だった。確かに政略結婚であったが俺は王妃を愛し彼女も俺を愛してくれているものだと思っていた。フレンとアレンの仲を裂こうとしたりとした時期もあったがそれもなくなり落ち着いたものだと思っていた。

 

「王様、とても信じがたい事実かもしれませんが確かなことです。貴方の命を狙いそしてフレン王子の命も狙い亡きものとしようとしました。ですが女王のことはフレン王子達に任せていれば大丈夫です。貴方は自分の事を」

 

「俺は如何すればいい?」

 

衝撃を受けたが今はフィアナの話を聞く。そうしなければ前に進めないからだ。

 

「これからアンジュさんが持ってくる食事以外は決して口に入れないようにしてください。そうして時が来たらこの薬を飲んでください。これを飲むと一時的に心臓が止まり仮死状況となります。ジャスティンさんとリックさんに頼んで埋葬が終わった後こっそりと夜中に誰にも気づかれないように墓を掘り起こして棺を運んでもらうように頼んであります。そうして次に貴方が目覚めた時は森の中にいるでしょう。そこからオルドラの王国魔法研究所にいるハンスさんに会いに行ってください。その後は彼が何とかしてくれます」

 

「分かった……」

 

「どうか、私の事を今でも大切な友だと思ってくださっているなら、私の言葉を信じて下さい。……用件はそれだけです。あまり長いをすると誰かに気付かれてはまずいので私はこれで失礼します」

 

彼女はそれだけ言うと俺に二つの小瓶を渡して時渡の能力を使い未来へと帰っていった。

 

いささか信じがたい事実。だが、わざわざ未来から俺の命を助けるためにフィアナは再び時を超えて目の前に現れてくれたのだろう。それならば俺は友の言葉を信じよう。王でも父親でもない何者でもない「カイル」として生きていこうと決意する。

 

「王妃の事はフレン達に任せよう」

 

俺は言うと時が来るのを待った。そうして言われたとおりのその日が訪れる。

 

「王様……」

 

「アンジュ、後は任せたぞ」

 

王妃が最後の毒をもったのを確認したと彼女から聞かされ俺はフィアナが渡してくれた小瓶の薬を飲み干す。床に転がった小瓶はアンジュが気付かれないように回収してくれることだろう。だから後は任せよう。襲ってくる酷い頭痛の後に視界がぼやけるとそこで俺の意識は失われた。

 

次に目が覚めたら本当に棺は森の中に運び込まれていて、ジャスティンとリックが上手い事運んでくれたのだろう。そうしてオルドラへと向かうと王国魔法研究所にいるハンスに会い、そのまま宮殿にいるライディンに会いに行った。

 

ライディンもフィアナから話を聞いていたようで俺は別館にひそかに用意された魔法が一切効かない特殊な部屋で身を隠すこととなる。

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