女王がやろうとしていることをオルドラの国王様に知らせるために私達は宮殿へと向かう。
「俺が宮殿にいる陛下に知らせてくる。その間お前達は別館で待っていてくれ」
ルシアさんの言葉に私達は頷くと、彼が戻って来るまでの間別館で待っていることとなったのだが……
「……ずいぶんと遅いな。まさか、何かあったのか?」
心配そうな顔をしてフレンさんが言う。ルシアさんが宮殿に行ってからもう数時間は経過していて一向に戻ってこない彼の様子に不安を抱き始める。
「俺が様子を見てくる。フィアナはここで待っていてくれ」
「フレンさん……」
彼が言うと部屋を出て行くその背を見送りながらなんだか嫌な予感に胸が締め付けられて私は後を追うように別館の外へと飛びだす。
「っ!」
宮殿へと向かう途中の生け垣の前を通ると肩から血を流し膝をついている様子のフレンさんの姿が見えてきて、その彼の前に立っている人物の姿を見た途端私の足は自然とそちらへと向かっていた。
「やめて……やめてください!」
「フィアナ?」
フレンさんをかばうように前へと立ち通せんぼする私の姿に彼が驚いた声をあげる。
「……どけ、どかねば貴様も斬るぞ」
「……フレンさん、逃げて下さい」
「な、フィアナ何言ってるんだ。お前を置いて一人逃げるなんてできるわけないだろう」
静かな声で私に言い放つベルシリオさんの言葉には答えずにフレンさんへと小声で逃げるように伝えた。それに彼が私を置いて行くなんて考えられないといいたげに言う。
「私は大丈夫ですから、今は逃げて下さい」
「っ……」
私の勢いに押されフレンさんは立ち上がり王宮の方へと駆けて行った。
「……ベルシリオさん、どうして、フレンさんの命を狙うんですか? 見ず知らずの私を助けてくれてペンダントを取り返してくれた貴方が……それだけじゃない。私に仕事を紹介してくれてアニータさんに私が働けるように話を通してくれた、そんな優しい貴方がなぜ?」
「君には関係のないことだ。一つ忠告しておこうフレン王子に関わると君の命もない。死にたくなければそこをどけ」
涙ながらに訴える私に彼は鋭く冷たい瞳で私を見て淡々とした口調で話す。
「っ……!」
その時心臓がドクンと跳ね上がり視界がかすむ。息もできない程苦しくなり私はよろめく。
(まさか魔法の効果が発動したの? だめ、まだ何も解決できていない。ここで死んだらベルシリオさんの気持ちもわからないままなのに……)
抵抗する気持ちとは裏腹に意識がもうろうとして行き私はその場に倒れ込む。かすれていく視界の中でベルシリオさんの焦った顔を見たような気がした。
「フィアナ……しっかりしろ!」
誰かが呼びかける声に私の意識は浮上する。目を開けるとそこには心配そうな顔で見詰めるフレンさんとルシアさんの姿があった。
「フレンさん、ルシアさん……」
「お前の事が心配でルシアを探して戻って来てみたら倒れているフィアナを見つけたんだ」
「まさか魔法の効果が発動したのか?」
どうして二人がここにいるのだろうと思っているとフレンさんが説明してくれる。ルシアさんも不安そうな顔で尋ねる。
「私、まだ生きているんですね?」
「自然死に見せかけるための毒薬だ。おそらく何度か軽い発作を起こした後死に至るのだろう」
自分が生きていることを不思議に思いながら呟くとフレンさんが説明してくれた。
「起きれるか?」
「うん……?」
ルシアさんの言葉に従い起き上がった時額から何かが落ちてきてそれを右手でキャッチする。
「このハンカチは……」
それは私がベルシリオさんにあげた白いハンカチだった。
「いや、違う……」
同じ物だがそれよりももっと古いもののようである。そう言えばハンカチをあげた時驚いていたけどもしかして同じものを持っていたからだったのかな。
「ベルシリオさん……」
倒れてしまった私を気遣ってハンカチを濡らして額に当ててくれる優しい人がどうしてフレンさんの命を狙うのだろうか。知りたいよ。ベルシリオさんの気持ちを……
「起きたばかりで悪いが話を聞いてくれ。ザールブルブの女王の野望を国王様に知らせるために玉座の間に向かったところ中から話声が聞こえてな。国王様はその場で女王により捉えられ牢屋に入れられてしまった。俺は気付かれないようにそっと抜け出し別館へと戻っている途中でフレンと会い、お前の事を聞かされここに来たんだ」
「状況は最悪だ。早急に何とかしないといけなくなった。このままではオルドラの国王は女王によって殺されてしまうかもしれない。そうなる前に何とかして女王を止めるしかない。俺とルシアはこれから女王の下へと向かうが魔法の効果かが発動した以上下手に動き回るのは良くない。それで……フィアナはどうする?」
「私も一緒に行きます。呪いの事は心配ですがでもどこにいても変わらないなら、最後までお手伝いしたいので」
二人の話を聞いて私はそう答えた。フレンさんはおそらくここで待っていて欲しいのだろう。魔法が発動した以上いつ発作が起こるのかもわからないのだからなるべくなら動き回らない方が良いのは確かだ。それでも、女王の側にはきっと彼がいる。それならばどんなに危険だと分かっていても私は女王の下に行きたい。そして今度こそベルシリオさんの気持ちを知りたい。それが叶わなかったとしても、呪いの発動によりこれが最期になるならば彼の顔を見て死にたいから。
私達は急いで王宮の玉座の間へと向かっていった。そこで何が待ち受けているのか分からないけれど、それでも女王を止めるために私達は前へと進まないといけないのだ。
お姉ちゃん達なら大丈夫。きっと封印の魔法を扱える人を探して連れてきてくれるはずだから、だから今は私にできる事をするだけ。いつまた発作が起こるのか分からない不安の中私はできるだけ考えないようにして意識を女王を止める事へと向けた。
「お母様、本当に世界と戦争を始める気なのですか?」
玉座の間の扉の前へと来た時中から少年の声が聞こえてきた。
「そうです、フレンの死はオルドラの国王が我が国の政権交代を狙った為に起こった事。友好国でさえこのような事を企むのです。他国が我が国を攻め入らないという保証はありません。相手にやられる前にこちらから動かねばならないのです」
「で、ですが、お兄様が死んだという証拠は何も見つかっていないじゃないですか。それに船の事故がオルドラの国王がからんでいるという証拠も……」
女王だと思われる女性の言葉に少年がおどおどとした口調で話していた。
「いいですか、アレン。船の事故が何者かにより細工されて起こった事だということが分かったのです。そして先王の死を知っているのは我が国以外ではこのオルドラだけ。となれば先王の死を知ったこの国が次期国王となるフレンを殺し我が国を滅ぼそうと暗躍せんと狙った事でしょう。それ以外に考えられません」
「……」
「よってこれ以上こちらが動かないでいれば他の国も我が国を滅ぼそうと狙ってくることでしょう。ですからやられる前にこちらが他国を侵略する必要があるのです」
しばらくの間中から聞こえてくる話声に聞き耳を立てていたが、女王が今にも戦争を始めそうな雰囲気にこれ以上は待っていられないと私達は乗り込む決意をする。
勝利か敗北かなんか分からない。だけどこの扉が開け放たれた時私達の運命は決まるのだ。開かれていく扉を見詰めながら私は恐れにざわめく心音を鎮めようと胸に手を当て握りしめた。
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