過去の時代へと渡り用事を済ませた私はようやく全ての事を終えて元通りの生活に戻っていた。
「……あの日からもう5年。待ち続けると決めたけれど、本当にベルシリオさんは私の前に現れてくれるのかな?」
彼と別れ離れになる前に交わした約束を思い返しながらずっと私の前に現れてくれる日を待ち続けているがいつその日が来るのかは分からない。こうして毎日家の前でベルシリオさんが現れてくれるのではないかと期待しながら立っているのだが、いまだに現れる事もなく日にちは過ぎていく。
(そもそも罪を償ったらって言っていたけど、あの真面目で誠実なベルシリオさんの事だから一生その罪を背負い生きていくんじゃないかな? だとしたら私の前に現れてくれる日はまだまだ先になりそうな気も)
下手をしたら一生姿を現さずに終わってしまいそうだと嫌な感情に支配されそうになり首を振ってその考えを振り払った。
「そんなことはない。必ず彼は私の前に現れてくれるよ。だから信じて待たなきゃ」
「……お嬢さん、その、ずいぶんと長いこと待たせてすまない」
独り言を呟いていた時背後から誰かに声をかけられ驚いて振り返る。まさかと思い見詰めたさきには申し訳なさそうな顔で立つベルシリオさんの姿があった。
「ベルシリオさん……本当に、ベルシリオさん」
「なぜ、泣くのだ? 罪を償ったら必ず君の前に現れると言っただろう。俺が嘘をつくと思ったのか」
駆け寄りその胸に飛び込みながら私の視界は涙で霞む。そんな私を受け止め優しくあやすように頭を撫ぜながら困った顔で言う。
「そうじゃないです。信じていなかったわけじゃなくて、ただ……いつ私の前に現れるか分からない不安で毎日が過ぎて行ってしまうのが怖くて一生会えないままなんじゃないかって考えてしまって」
「君を不安にさせてしまってすまない。本当は合わす顔なんかなかったのだが、あの日あの時の君の言動が頭から離れなくて、本当はもっと早く姿を現すべきだった。ただ、俺が怖かっただけだ。君の前に現れる勇気がなくてそのせいで不安にさせてしまった、すまない」
「謝らないでください。ベルシリオさんは悪くないです。私……私もずっと怖かったんです。ですから、こうして本当に私の前に戻ってきてくださったことがとても嬉しくて……有り難う御座います」
お互いにいろいろ言いたいことはあるが何を話したらいいのか分からず謝り合う。それが続くと途端におかしくなり二人して小さく笑った。
「ベルシリオさんに謝らないといけないことがもう一つあって……そのあの時のハンカチを私過去の世界で使ってしまって今はもう持っていないんです。本当は再び会えた時に返そうと思っていたのですが、ごめんなさい」
「気にしなくていい。俺には君がくれたこのハンカチがある。それに、あの時フィアナが俺にハンカチで止血してくれなければ俺は腕を失っていた。だから、君には感謝している。剣士としてあり続けられたのはフィアナが俺を助けてくれたからなんだ」
私はベルシリオさんから離れると向かい合い、ハンカチを過去の世界で使ってしまった事を謝る。それに彼が優しい口調で話した。
「ベルシリオさん……」
「気付いていたのか? と言いたい顔だな。君が人攫いに連れて行かれそうになった時、あの時の女性に似ていると思った。そして気が付いたら俺は体が勝手に動いていた。そしてハンカチをプレゼントしてもらった時に確信した。あの時の女性は君だったのだと」
驚いて見上げるとそこには優しく微笑むベルシリオさんの顔がありつらつらと説明してくれる。
「あの、私ずっと考えていたのですが、あの時私の腕を引っぱって睡眠薬をかがせたのはベルシリオさん……ですよね?」
「君だけそっと逃がしてあげたかったのだがカイル様達に気付かれたうえに、周りにはザハルの兵士達がいた。君も処刑されると知っていたらあんなことはしなかった」
「どうして私を助けようとしてくれたんですか? 手当てしたお礼にしては私、貴方にいろいろな物を貰いすぎています」
私の言葉に彼が話す。その言葉にずっと疑問に思っていたことを尋ねた。
「……何故かと聞かれると俺もよく分からない。俺の怪我を手当てしてくれただけだから割り切らなくてはいけない。そう自分自身に言い聞かせてみても如何しても君の姿が頭から離れなくて、心から心配し手当てをしてくれた君の姿に俺は初めての気持ちに戸惑いとためらいを抱いた。今から思えばそれが……初恋だったのだろう。好きだという感情に気付いたのはずいぶんと後になってから、フィアナがいなくなってしまった後だったがな。だから諦めよう……そう思っていた時に再び君と出会った。だが、あの頃の君は俺の知っているフィアナではない。だからずっとこの気持ちに蓋をしてきたのだが、あんなことを言われたらもう、気持ちを隠しておけなくなってしまった」
「私あの時も今もずっとこの気持ちに変わりはありません。ベルシリオさんの事好きな気持ちに嘘はないです」
困った顔で語るベルシリオさんに私は素直な気持ちを伝える。
「フィアナ。俺の犯した罪は死ぬまで消えない。それでも、こんな俺でも受け入れてくれるのか?」
「勿論です。あの時も今も答えは変わりません。ベルシリオさんの側からもう二度と消えていなくなったりなんてしません。ですからこれからは私と一緒に生きて行ってくれますよね」
「……ザハルが滅ぼされた後城に仕えていた者達は路頭に迷うこととなった。そのほとんどがザァルブルブの城に仕える事で残ったが、離れていく者もいた。兵士達もほとんど残った。俺もそのうちの一人だが、俺がザァルブルブに残ったのにはもう一つ理由がある。ここにいればもう一度君に会えるだろうかと、次に会った時はちゃんと謝り気持ちを伝えようとそう思ったからだ。だが君に会えることはないまま月日は流れた。そして今こうして再び出会えた。二度と離れないと誓うし君の前から姿を消さないと誓おう」
真面目な顔で尋ねてきた彼へと私も思いのまま口に出して話す。それを聞いたベルシリオさんが答えるように言うと柔らかく微笑む。
こうして時を超えて実ったお互いの想いはこれから先も変わることなく続いていく事だろう。もうすれ違いもないし相手の気持ちがみえなくて不安で知りたいと思い悩むこともない。これからはお互い引かれ合い恋焦がれてそして募る想いをもう隠す必要はもうないのだ。そう思うと自然と口角が緩む。
「さて、これからが始まりですよ。まずは私達の事を皆に話してお付き合いを認めてもらわなくてはいけませんので」
「……君の周りの人達を説き伏せる自信はないが、努力はしてみよう」
彼の言葉につい苦笑してしまう。私の事を妹のように思い可愛がってくれているルシアさんやルキアさん。姉妹の様に育ったティアさんやルチアさん。それにフレンさん達にも話して認めてもらわなくてはいけないのだからちょっと大変かもしれない。
でも、私達の気持ちはちゃんと伝わるはず。だから大丈夫だよね。そう思いまずは姉に話をしなくてはと家の中へと入っていった。
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