そうして私と姉は三度王国魔法研究所へと向かうと薬をもらってきてフレンさんが待つ家へと帰る。
「薬を貰って来たよ」
「あぁ……」
「大丈夫よ。普通に薬草とかで作られている物だから変な物は混ざっていないって言っていたし、副作用が出るとも言ってなかったから」
私の言葉に薬をしばし見詰め躊躇っている様子の彼へと姉も安心させるように説明する。
「いや、この薬の事を疑っているわけではない。これはとても高度な魔術で作られた薬だとみてわかる。だが、これを飲んで本当に元に戻れるのか不安になってな……薬の効き目がどれほどのものかもわからない。これを作った者の力量が悪ければ効き目が中途半端になるのではないかと」
フレンさんの説明はよく分からなかったけれどそれってつまり半分人間に戻って半分が犬の姿ってことかな? 私は顔だけ犬で体が人間になってしまったフレンさんの姿をイメージしてしまい笑ってしまいそうになり堪える。
「だ、大丈夫よ。よくわからないけれど高度な魔術で作られているなら元に戻れるかもしれないじゃないの」
「そうだよ。飲んでみないと分からないじゃない」
姉も同じことを想像していたのか笑いそうなのを必死にこらえながら言う。私も頷き二人で促すとフレンさんは諦めた様子で一思いに瓶の中の薬を飲みほした。
「「っ」」
眩い光が彼の身体から放たれ部屋中にそのきらめきが広がり驚いていると次の瞬間犬の姿だったフレンさんの輪郭が人間の姿へと変わっていきそこには男の人が立っていた。
「……ど、どうだ? 元の姿に戻れているか?」
「「……」」
不安そうな顔で尋ねる美青年の姿に私も姉も呆気に取られてしまった。フレンさんがこんなにイケメンの男性だったなんて……犬の姿の時は全然平気だったけれど今から思えば男の人と一緒に屋根の下で生活していたのか……急に恥ずかしくなってきた。
「ど、どうした? まさか、元に戻れていないのか?」
「う、うんん。違うの、ちゃんと元に戻れているわ。ただちょっとびっくりしちゃって」
「はい。まさかフレンさんがこんな素敵な男性だったなんて思ってなくて……いえ、今のは変な意味ではなくてですね。ただちょっとイメージしていたのと違って驚いてしまっていてですね」
不安がる彼へと姉が我に返った様子で話す。私も慌てて説明するが頭が混乱していてうまく言葉が出てこない。
「とりあえず二人とも落ち着け。……俺の姿にそんなに驚くものでもないだろう」
「だ、だって」
「ねぇ……」
苦笑するフレンさんに私達はお互いの顔を見合わせ頷き合う。まさかこんな美青年だったなんて思っていなくてしかも年齢も私達より上みたいだしそんな年上の男の人だなんて思っていなかったから。なんて思っていると彼が小さく溜息を吐き出すと真面目な顔になる。
「二人には本当に今まで世話になった。元の姿に戻るために尽力してくれたこと俺は決して忘れない。そして全てが解決したら二人にはちゃんとお礼をしたいと思っている」
「ちょっと待って! 全てが解決したらって……元の姿に戻れたんだから問題は解決したんじゃないの?」
フレンさんの言葉に姉が驚いて尋ねる。元の姿に戻れたのにまだ何か解決できていないことがあるのだろうか?
「……二人にちゃんと話をしなくてはと思っていた。俺の話を聞いてくれるか?」
「勿論よ」
「はい」
改まった態度で尋ねてくる彼の様子に私も姉もただならぬ予感を感じて姿勢を正すと真っすぐにフレンさんの瞳を見返して頷く。
「有り難う……実は俺は隣国ザールブルブの第一王子で本当の名前をフレイル・レオン・ザールブルブという。最近俺の父親である国王が亡くなりその知らせを聞いて船に乗り国に帰っている途中で船が事故に合った。しかし事故ではなくそれは何者かにより細工されていて船は難破したんだ。それとともに俺は死に至る魔法をかけられたがそれを使った術者が未熟だったためか失敗に終わり俺は犬に姿が変わった。そうして浜辺へと流れついた俺は何とかこの国までたどり着いたのだが元に戻るすべも分からず途方に暮れていたところをティアに助けられたというわけだ」
「「……えっ。……えぇっ!?」」
フレンさんの口から語られた真実に私達は声をそろえて驚く。驚きを静める間も与えてもらえないまま彼の説明は続き黒幕が分かるまでの間もうしばらくここでかくまってもらいたいと言われた。
それからすぐに黒幕と繫がっていると思われる人物と接触するといったフレンさんについて王国魔法研究所へと向かうとヒルダさんとレオンさんに会う。何と彼女等が黒幕と繫がっている人物だとフレンさんは勘づいていたらしいのだ。結局逃げられてしまい私達は家へと帰ったのだが、その後ルシアさんとルキアさんにフレンさんが家にいることがバレてしまい二人にも協力してもらうこととなった。
そうして今私達はいつヒルダさんとレオンさんが襲ってきてもいいように戸締りをしてから作戦会議をするということになったのだが……
「うわっ!」
「今の声はルキアさん?」
二階の戸締りをしていた私の耳にルキアさんの悲鳴が聞こえてきてまさかヒルダさん達が攻め込んできたのではと思い慌てて声が聞こえてきた玄関へと向かう。
「フィアナ。一人で行っては危険だ! 俺も一緒に行こう」
階段を慌てて駆け下りているとルシアさんがやって来て私達は一緒に玄関へと向かう。
「ルキアさん大丈夫ですか?」
「何があった?」
「二人ともいいところに! ちょっと、手伝ってくれよ!」
私達が玄関に駆け付けるとドアノブを必死に抑えているルキアさんの姿があり説明を聞く間もなく私達は扉を塞ぐのを手伝う。何だかドアを爪でひっかくような音と動物達の鳴き声が聞こえてくるけど、一体何が起こっているというの?
「ルキアどうしたの?」
「大丈夫か?」
姉とフレンさんもやって来て私達の様子に疑問で一杯の顔で説明して欲しいと言いたげにルキアさんを見詰める。
「何か分からないけれど、凄い数の小動物達がこの家に押し寄せてきてるんだよ」
「へっ?」
切羽詰まった声で説明した彼の言葉に姉が驚きと呆気にとられた気持ちとで声を零す。
外から聞こえてくる動物達の鳴き声が一層増えて行っている。このままじゃ扉が壊れてしまうかも?
「俺がおとなしくさせてみるから扉を開けてくれ」
「「「……」」」
フレンさんの言葉に私達は頷き1、2の3で扉を開け放った。
「っ!」
瞬間イヌやネコやうさぎにイタチありとあらゆる小動物が一気に押し込んでくる。部屋中に収まりきらない程の数が飛び込んできたかと思った瞬間眩い光に辺り一面包まれた。きらめきが治まるとそこにはお座りして大人しくなっている小動物達の姿があった。
「どうしてこの子達は家に押し寄せてきたりなんかしたのかしら?」
「それは分からないが、とにかく部屋中をひっかきまわされずに済んでよかった」
姉の言葉にフレンさんが答える。彼の言う通り部屋中ひっちゃかめっちゃかにされなくて良かったと思っていると一匹のうさぎが足音を忍ばせてフレンさんに近づいていくのが見えて私は何だかわからないけれどとっさに体が動いていた。
「フレンさん!」
「フィアナ?」
彼の前へと駆けこむとフレンさんが驚く。それと同時にうさぎが手に持っていた小瓶が私の目の前へと投げつけられその中に入っていた無色の液体を吸い込んでしまう。
「ゴホ、ゴホ……っ。な、に?」
瞬間酷いめまいと息苦しさに襲われ私はその場へと倒れ込む。
「フィアナ!?」
驚きと悲痛な思いの姉の悲鳴を聞いたのを最後に私の視界は黒い世界へと落ちていった。
「ん?」
次に私が目覚めるともうすでに辺りは明るくなっていて、そして私は自分の部屋のベッドの中にいて、何が起こったのか一瞬思い出せなかったが、すぐに昨夜薬を浴びて意識を失ったことを思い出す。
「フィアナ!」
「お姉ちゃん?」
何故か涙を流し私を抱きしめる姉の様子に困惑していると、こちらも泣きたいのをこらえた表情のヒルダさんが私の顔を覗き込んできた。
「ごめんなさい、貴女をこんな目に合わせて、わたしっ……こんなつもりじゃなかったの」
「あの、どうして皆さんそんな泣きそうな顔をしてるんですか?」
涙をこらえながら喋るヒルダさん、いまだに私を抱きしめたまま泣き止まない様子の姉。フレンさん達も何かを悲しみ必死にそれを押し込めようとしている顔で私を見ていてどうしてこんなことになっているのだろうと疑問を抱く。
「身体は大丈夫か?」
「特に問題は……っぅ」
フレンさんの言葉に返事をして起き上がろうとした途端酷い頭痛に見舞われる。
「フィアナ、落ち着いて聞いてくれ。お前が被ってしまった薬は毒薬で、ゆっくりとだが確実に命を奪うらしい。この毒薬はある人物を暗殺するため開発された特別な毒薬で、不自然に思われないようにするため自然死に見せるために作られた毒物だそうだ」
「えっ……」
フレンさんの言葉に私は驚く。今何て言ったの? 不自然に思われないために開発された自然死に見せかけるための……毒薬?
「本当にごめんなさい!」
それで皆こんなに悲しそうな顔をしていて、姉は泣き止まなくてヒルダさんは自責の念に捕らわれているのね。
「そ、そっか。私死んじゃうのか……ははっ。びっくりしちゃうよ……」
そう言葉にしてみても実感がわかなくて嘘であってほしいと思う自分と現実を受け入れなきゃいけないという自分の間に揺れる。
「だが、助かる方法は一つだけあるんだ。千年に一度だけ花を咲かせると言われる大樹の実を使った解毒の薬を作ればフィアナにかけられた呪いは解けるんだ」
「それで私達は今から封印の魔法を知っている人物を探しながらザールブルブの王宮に保管されている大樹の実を盗み出して魔法薬を作って貴女の所に持ってくるわ。だから貴女はここで待っていて欲しいの」
「待って、封印の魔法って?」
レオンさんの言葉にヒルダさんが力強く頷くとそう言った。その言葉に私は待ったをかける。封印の魔法を知っている人を探すってどういうことなんだろう。
その様子にそうだったといった感じでフレンさんが私が倒れてしまった後から聞いた話をすべて教えてくれた。ザールブルブの女王が黒幕でフレンさんの命を狙っていたことその女王の命で動いているカーネルさんに指示されてヒルダさんとレオンさんはこの国に潜伏していたこと。女王は古代の破滅魔法を復活させて世界と戦争を始めようとしている事などいろいろ聞いて理解する。
「それなら、私もフレンさん達と一緒に行動します」
「フィアナ何言ってるんだ? いつ魔法薬の効果が発動するのか分からないんだぞ。ここにいればヒルダ達が直ぐに解毒の薬を届けに来てくれる」
「でも、何処にいたとしても魔法の発動する時間は同じなんですよね。それならそれまでに私にできる事をしたいんです。最後までフレンさんを助けるために力を貸したい。お願いします。私も連れて行ってください」
私の言葉にルシアさんが驚いて説教じみた事を言う。彼の言い分もわかるけれどでも私だって何もしないでじっと待っているなんて嫌だ。せめて最後になるなら命が終わる瞬間までフレンさんを助けたい。それからもう一度あの人に……もう一度一目だけでも最期にあの人に会いたい。会えるかどうかも分からないでももし、ベルシリオさんに会える可能性があるなら私……フレンさんと行動していればもしかしたら会えるかもしれないから。
「……分かった。フィアナがそこまで言うなら付いてこい」
「フィアナが最後まで諦めないって言うなら私だって最後まで諦めない! 必ず封印の魔法を知っている人に会ってそれを教えてもらって、千年樹の実を手に入れてヒルダに解毒の薬を作ってもらうわ。だからフィアナ、私達が戻って来るまで待っててね」
「うん!」
フレンさんがしばらく考えたのち承諾してくれる。その様子に姉も真剣な顔をして私に、いいえ自分自身に言い聞かせるかのように話す。それに大きく頷き答える。
それから私達は女王を止めるためオルドラの宮殿へ、姉達は町の外へと向かい私達はそれぞれの役目を果たす為に動き出した。
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