過去の時代での用事を全て終わらせて元の時代へと戻って来る。
「ふぅ……」
「フィアナ、お帰りなさい」
無事にすべての事が終わり肩の荷が下りたと思っている私に姉が声をかけてきた。
「ただいま。もうこれで用事が終わったから過去の時代に飛ぶことはないよ」
「そう、無事にすべての事が終わって良かったわ。フレンも貴女の事ずっと心配していたわよ。だけど一国の王様だから自由に動き回れないでしょ。貴女を見送った後帰ってからは一度も来ていないわ。ずっと我慢してきたみたい。すぐに会いに行ってあげたらどうかしら?」
「勿論そのつもりだよ。私、フレンさんに会いたい。会って話したい事が一杯あるんだ」
姉の言葉に私は逸る気持ちを押さえながら話す。今すぐにここを飛び出していきたいくらいだ。
「ふふ。そう言うと思って頼んでおいてよかったわ」
「え?」
「わたしが転移魔法を使って一気にザールブルブまで連れて行ってあげるわ。フィアナ、準備は良い?」
どういう事だろうと驚いているとリビングにドロシーさんが入ってきて説明してくれる。もしかしてお姉ちゃん私のためにドロシーさんに連絡して来てもらったの? な、何だか申し訳ないな……
「お忙しいのにすみません……」
「いいのよ。命の恩人である貴女のためならどんな時でも助けに来るわよ。それに、次期王妃様に今のうちに取り入っておかないとね」
「も、もう……ドロシーさんたら」
最後は冗談だろうけれど笑いながら言われた言葉に困ったなぁと思いながら呟く。
「さ、お話はこのくらいにして……フィアナ、私の近くに来て」
「はい」
彼女の言葉に近くへと寄る。すると転移魔法が発動し私達はリビングから町の外へと移動していた。
「転移魔法は一定の距離しか移動できないから、何度か使わないといけないのだけれど、明日の朝までには王宮に到着できるから心配しないでね」
「ドロシーさん気を使って頂いて有り難う御座います。でも、大丈夫ですよ」
ドロシーさんに気を遣わせてしまっている。確かにフレンさんに一秒でも早く会いたいと思うけれども、それはただの我が儘だから、だから大丈夫だと伝えた。
「そうね、こうしていると思い出すわ。フィアナとレオンとルキアとわたしで転移魔法を使ってザールブルブに向かった時の事を」
「あの時は本当に大変でしたね」
女王を止めるためにザールブルブへ向かった時の事を思い出しながら私達は小さく笑う。
「あの時のフィアナは知らなかったことだけれど、貴女の言葉のおかげでわたしはフィアナをそして世界中の人達を救う手助けができたのよね」
「私も、あの時ドロシーさんがこのペンダントの事を教えてくれたおかげで姉達が助かり今という未来があるのです。ですから、有難う御座います」
「元を辿れば全てフィアナのおかげなのだけれどね」
彼女にお礼を述べると照れ隠しのように早口で言い放ちそっぽを向く。その後再び転移魔法を展開した。
「さぁ、到着したわよ。さっさと王様に会いに行ってきなさい」
「も、もう。ドロシーさんそんなに背中を押さないでください」
頑張れと言わんばかりに背中を押され私は転びそうになりながら抗議する。
「会いたかったんでしょ。なら、さっさと会いに行ってきなさいな」
「はい」
小さく笑い言われたのでこれ以上は隠しても無駄だと判断し、素直に返事をするとフレンさんがいる謁見の間へと向かっていった。
「フレンさん!」
「フィアナ」
玉座の間へと駆け足で向かうとフレンさんの胸に飛び込む。驚いたもののしっかりと受け止めてくれた。
「お帰り……もう、用事は終わったのか?」
「うん。これでもう過去に行くことはないよ。だから、もう二度とフレンさんの前からいなくなるなんてことないから、約束を守るよ」
私の言葉に驚いたフレンさんが顔を見詰めてきた。
「……そうか。あの約束、昔は意味を理解できなかった。だが、フィアナと出会い理解した。十五歳の時のフィアナは俺の知っているお前ではなく二十歳になったフィアナが俺がずっと待ち続けていた女(ひと)であったのだと。フィアナ、あの時お前の名前を教えてくれと言えなかったことをずっと後悔していた。だが、知らなくても自然と引き合うように出会えた。犬になってしまった俺を助けたのがお前の姉で、そこで初めて出会った。記憶に残るあの人とそっくりで初めは戸惑いもした。だが――」
「フレンさん。ペンダントを見た時に言った言葉。あれは、私があの時の人だったのかどうかを確かめたくて聞いた言葉だったんだよね?」
私から離れると淡々とした口調で語り始めた彼の言葉を遮り尋ねる。
「あぁ、そうだ。だがあの時のお前は俺と出会う前のフィアナで、俺は知っているけれどお前は俺の事を知らなかった。……ようやく再会できた」
「フレンさん。ずいぶんと長い間待たせてしまいごめんなさい。それから私の事をずっと待ち続けてくれていて、覚えていてくれて有り難う」
柔らかく微笑む彼に私も涙で滲む視界の中感謝の言葉を述べた。
「フィアナ、お前が大人になったら結婚しようといった言葉、あれは嘘ではない。そして全ての事が片付いた今、結婚して欲しいと思っている」
「答えは勿論、決まっています。私はずっとずっとフレンさんの事が好きなんですから」
「有り難う」
私の返事を聞いた彼が優しくそして数秒だけのキスを唇に落とす。それに気づいた時私はゆでだこになったのではないかと思う程頬が熱くなり固まってしまう。これって、ファ、ファ……ファーストキスぅう~。
「フィアナ? す、すまない。俺、泣かせるようなことをしてしまったな」
「ち、違うんです。嬉しくて、その本当に嬉しくて……」
彼の言葉で泣いていることに気付き慌てて違うと答えると彼が安堵したように溜息を一つつくと微笑む。
「王様である俺の側にいると苦労することもあると思う。王宮にいる奴等も皆が皆フィアナに優しくしてくれるとは限らない。だが、味方もいる。だから安心して宮殿で暮らしてくれ。俺もお前の側にいられる時は一時も離れず守り通すと誓う」
「私も、頼りないかもしれませんが、フレンさんを支えます」
「はい、はい、ご馳走様。って、事で、早速式を挙げる日和を決めるわよ」
「お兄様とお姉様の門出を祝うんですから盛大に開かないといけませんね」
良い雰囲気になっているところでかけられた二人の声に驚いてそちらへと振り返る。
「ド、ドロシーさんいつの間に?」
「アレンいつからいたんだ?」
慌てて二人して離れると羞恥心を隠すかのように尋ねた。
「そうね、フィアナがこの部屋に駆け込んで王様と抱き合った時からかしら」
「ぼくはもう用事は終わったのか辺りでしょうか」
「それって、最初からじゃないか……」
「は、恥ずかしい~」
二人の言葉にフレンさんは耳まで真っ赤になり私は顔を覆って隠した。穴があったら入りたいとはこのことだろうか。
「ふふ、意地悪はこのくらいにして、早速招待客の名簿を作らないとね」
「ぼくも招待状の準備を手伝わなくては。あと式場は王宮の教会でいいですよね。とびっきり腕のいい仕立て屋に頼んでお兄様とお姉様のタキシードとドレスを作ってもらわなくては」
「ま、待てアレン。それはお前がやる事じゃないだろう。おい……」
「ドロシーさん。ち、ちょっと待って下さい。今すぐに挙式を上げるわけでは――こ、心の準備がっ」
二人して頷き合うと部屋を出て行くドロシーさんとアレンさんを止めるようにフレンさんと私も慌てて後を追いかける。
結婚式の日取りを勝手に決め始めてしまい私達の声は無視されているようだ。もう、本人達よりも周りが盛り上がるなんて……これは姉達の下に招待状が届くのも時間の問題だろう。
「あは……」
「はぁ……」
結局ドロシーさん達に何を言っても無駄で私とフレンさんはお互い顔を見合わせると空笑いした。
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