追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
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フレンルート

六章 窮地とわずかな光 (共通ルート フレンルート)

公開日時: 2022年4月15日(金) 03:00
文字数:6,563

 帝王との戦いをまじかに控え私達は帝都に一番近い町で最後の食料調達と武器防具の手入れをしていた。

 

「今日はこのままこの町に泊まって明日の早朝にザハルへ向けて旅立つぞ」

 

「いよいよ帝王との戦いなのね……」

 

「大丈夫。みんな一緒ならどんな強固な敵であったとしても必ず倒せるさ」

 

ジャスティンさんの言葉にお母さんが震える体をごまかしながら言う。

 

その様子にお父さんが励ますように話しアンナさんの手を握った。

 

そっか、いよいよ帝王と戦うことになるんだね。……何だか私まで緊張してきちゃった。

 

「あ、フィアナ。ちょっとお願い聞いてくれるかしら?」

 

「はい。いいですよ」

 

アイリスさんが私に近づいてきて声をかける。それに返事をすると部屋を出て行く。これは二人で決めた合図で未来に戻るタイムリミットが迫ってきたら怪しまれずに皆の前から立ち去る為の作戦なのである。

 

そうして二人で人通りの少ない路地へと入ると私はペンダントに手を当てた。

 

「後は任せて」

 

「お願いします」

 

にこりと笑い見送ってくれるアイリスさんの姿が消えると私は見慣れたリビングにいて、姉達が出迎えてくれる。

 

「お帰りなさい」

 

「向こうはどうだ? 問題は起こっていないな」

 

「ほら、これ食えって。向こうでもろくに食べてないんだろう?」

 

出迎えられ姉とルシアさんとルキアさんから声をかけられ私はいっぺんに答えられなくてちょっと困る。

 

「もう直ぐ帝王と戦うことになると思う。帝王を倒せば世界は平和になるからそうなれば元の時代に戻ってこれると思うよ」

 

「いよいよなのね……フィアナ無理だけはしないでよ」

 

「お前は無茶をするからな。気を付けるんだぞ」

 

「オレ達が手伝ってやれないんだから、自分の身の守り方ちゃんと考えておけよ」

 

私の言葉に姉達が心配そうな顔で話す。もう、二十歳になっても心配されることには変わりないのね。大丈夫なのに……

 

「フィアナ、これをドロシーから預かってきた。何かあったらこいつを使えとな」

 

「これは……」

 

今まで黙っていたフレンさんが声をかけてくると何かを差し出す。それは小瓶でどこかで見た事あるなと思っていると彼が口を開いた。

 

「フィアナが被って丸一日眠ってしまった睡眠薬と同じものだそうだ。兵士に狙われたらこれを使って逃げろと」

 

「有り難う」

 

小瓶をいくつか貰うと懐にしまい込む。さて、もうしばらくここでゆっくりしていたいが早く戻らないと。私がいなくなったことを知られて大騒ぎになると良くないからね。

 

「それじゃあ、そろそろ行ってくるね」

 

「「「「行ってらっしゃい」」」」

 

私の言葉に笑顔で見送ってくれる皆の姿が歪んで消える。次に現れたのは薄暗い路地で時間は影の様子から見るとお昼頃だろうか。それほど時は経っていないようで安心する。

 

「いよいよかぁ……大丈夫だよね」

 

明日になったら帝王と戦うことになるその覚悟もできない自分に不安になりながら喝を入れて踵を返した私は目の前に見えてきた光景に動きを止めた。

 

「フィアナお帰り」

 

「一体どういうことなのかちゃんと説明してもらいたいのだが」

 

「すみません……」

 

優しい笑顔なのに全然笑っていないと感じるジュディスさんに、壁に背を預け腕を組みこちらを見詰めるアルスさん。その彼の付き人であるロウさんは申し訳ないと言って頭を下げた。

 

「え、えっと……」

 

これは全て本当の事を話すしかここから出られないと悟った私は掻い摘んで説明をする。その話を三人は半信半疑といった顔で聞いてくれた。

 

「つまり未来を守るために時渡のペンダントだったか? それを使ってフィアナからしてみたら過去の時代にいる俺達を助けるために来た……と」

 

「はい、そうなります」

 

難しい顔をしてアルスさんが確認してきた言葉に小さく頷く。本当の事を話したのに信じてもらえなかったらどうしようと不安になる。

 

「それで一日しか過去の時代に干渉できないから、タイムリミットが迫ってきたら未来に戻るためにこっそりと抜け出していた……ってこと」

 

「はい、そうです」

 

今度はジュディスさんが尋ねてくる。私は機械仕掛けの人形のように同じような言葉で小さく頷く。

 

「そうか……そうとは知らずにフィアナを内通者だと勘違いしてしまいすまなかった」

 

「ぼくも謝るよ。君の事ほんの一時でもザハルの関係者だと疑い怪しんでいてごめんね」

 

「いいんですよ、私も怪しまれるようなことしていたのが悪いのですから」

 

謝ってくる二人に私は慌てて手を振りながら答える。信じてもらえてよかった。流石は未来の国王様。器の大きさが違いすぎる。

 

「そろそろ戻りませんと、皆さんに内緒で来てしまっていますので心配されるのでは?」

 

彼等の寛大さに有り難いと思っていると今まで空気を読み黙っていたロウさんが口を開いた。

 

「そうだな、そろそろ戻ろう――っ!」

 

「「「っ!?」」」

 

戻ろうと言いかけ何かに気付いたアルスさんが身構える。その後すぐにたくさんの足音が聞こえてくると通路を埋めるようにザハルの兵士達が現れ私達も警戒した。

 

「貴様等の正体は分かっている。抵抗せず大人しくついてこい」

 

隊長だと思われるちょっと品の良い軍服を着た男が言うと一歩前へと出てくる。でも手には剣が握られており抜き身であるという事は逆らえば命を奪うと言いたいのかもしれない。

 

「でやっ! ……若、今です。お二人を連れて逃げて下さい」

 

「ロウ……っ! すまない」

 

このままじゃ殺されちゃうかもしれないと思い足かすくむ私の前に立っていたロウさんが剣を抜き放ち兵士達に突っ込む。その隙に逃げろとアルスさんに告げた。

 

彼は唇をかみしめると私達へと視線を送る。ジュディスさんが無言で頷くと動けなくなっている私の右手を掴み引っぱるように駆けだした。

 

ロウさんが作ってくれた隙に脇道へと駆けこむ。兎に角引っ張られて勝手に付いて行く足に任せてしばらく走っていると、私も自然に前に動けるようになり途中から一人でも大丈夫になった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

全速力で走るのも久しぶりだなと思いながら息が上がって呼吸が苦しくなるも、まだ兵士達に追われているかもしれないという恐怖で前へ前へと進んでいく。二人の背中が少し遠くなると不安が押し寄せ必死に足を動かしてついて行った。

 

「はぁ……はぁ……!?」

 

そうして必死について行っていた時脇道の暗闇に潜んでいた誰かに左腕を掴まれ引っぱられる。

 

(何?)

 

誰か分からないけれどザハルの兵士かもしれないので警戒する私の口に柔らかいものが当てられ漂ってきた甘い匂いに私の意識は途切れた。

 

『フィアナ!』

 

途切れた意識の中で誰かが必死に叫ぶ声が聞こえたような気がする。

 

夢なのか現実なのか分からなかったけれど、フレンさんが目の前にいて私の顔を心配そうに見詰めていた……ような気がする。

 

「フィアナ……」

 

「フレンさ……ん?」

 

目を開けるとフレンさんが心配そうな顔で見ていてどうしてここにとぼんやりと思っているとその姿が別人であることに気付き慌てて起き上がる。

 

「フレンとは誰だ? 俺はアルスだ。寝ぼけていたのか?」

 

「寝ぼけられるってことは心配はいらなさそうだね」

 

「す、すみません……」

 

小さく苦笑するアルスさんと意地悪く微笑むジュディスさん。二人の顔をまともに見られないくらい羞恥心で耳まで真っ赤になった私は俯き視線を逸らす。

 

「兎に角、フィアナが目覚めてくれてよかった」

 

「そうだね。フィアナ目覚めたばかりで悪いけれど今の状況を説明するね」

 

「は、はい」

 

真面目な話になったので慌てて顔を上げると二人から事情を聞く。どうやら私はザハルの兵士に捕まり睡眠薬で眠らされたそうで、私の命を助けたければ大人しくついてこいって言われ馬車に乗せられ連れてこられたのはザハルの城。牢屋に入れられているが明日見せしめのために公開処刑されると言われているそうだ。

 

「フィアナまでこんな目に合わせてしまってすまない。君だけ助かる方法を考えてはいるのだが……武器を取られてしまった以上抵抗しようもない。魔法もいつまでもつか分からない以上使えなくてな」

 

「ぼくも牢屋の中をくまなく調べてみたけれど、特にこれと言って脱獄できそうな場所はなくて……フィアナまで危険な目に合せてしまってごめんね」

 

「二人とも顔をあげて下さい。大丈夫です、私達なら必ず助かります。ですからどうか希望を捨てないでください」

 

暗い顔で謝る彼等に私は安心させるためにできるだけ優しい口調を意識しながら話しかける。

 

「……どうしてかな。フィアナがそう言うと説得力があるね」

 

「あぁ、そうだな。自分でも何とかなると思えるようになるから不思議だ」

 

二人が小さく笑う。その瞳には輝きが戻っていて良かったと思いながらもこれからどうしようと考える。

 

「それより、一度未来に戻った方が良い。タイムリミットを過ぎると時の迷い人になるんだろう?」

 

「は、はい。すぐに戻ってきますので少しだけ待っていてください」

 

考えを中断させるようにアルスさんの声が聞こえ、タイムリミットが迫っていたことを知り慌てた。そして二人に一時の別れを告げると未来へと戻る。

 

「フィアナ、何かあったのか?」

 

「フレンさん……ごめん、今私達捕まってしまって牢獄に入れられていて、何とかして助かる道はないかなって考えていたので」

 

真剣な顔をしていたのだろうかいつもと雰囲気が違う私に気付いたフレンさんが声をかけてきたので答えた。

 

「フィアナ、皆牢獄に入れられているのか?」

 

「いいえ、私とアルスさんとジュディスさんだけでお母さん達は無事です」

 

「お前は動物の言葉が解るだろう。それを上手く使えば外にいる者にお前達の事を知らせることができるはずだ。俺の言葉をよく覚えておいてくれ。時間がないのだろう。さ、行ってこい。そして解決して戻って来い。フィアナならそれができると信じてる」

 

質問の意味が分からなかったが答えるとフレンさんがそう言って送り出す。私は首を傾げながらも彼の言葉を胸に仕舞い過去の時代へと渡っていった。

 

私が過去の時代に戻って来ると牢番の兵士に気付かれた気配もなく安堵する。

 

(動物の言葉が解る私の力を上手く使えば外にいるお母さん達に私達の事を知らせることができるって言っていたけれど……)

 

フレンさんの言葉に牢屋の中をくまなく見渡す。冷たくて頑丈な石で出来た床と壁、鉄格子がはめ込まれた窓は高くとても手が届きそうにない。

 

どう見てもただの牢獄だ。年季が入っているために壁と床の間にひび割れができているくらいだけれど人間が通れるほどの大きさではない。アルスさんの魔法を使えば穴を広げられるだろうけれど音を聞きつけ兵士達が駆け付ける可能性もある。見つかるリスクを背負いながらやる事は得策とはいえない。……と考えているとその隙間からちょろちょろとした動きで一匹のトカゲが入って来る。

 

「トカゲ……そうか、フレンさんの言いたかったことはこういう事なのね」

 

「「フィアナ?」」

 

一人で納得し大きな声をあげる私の様子に二人がどうしたのだろうと声をかけてきたがトカゲさんがどこかへと行ってしまう前に話かけないといけない。私の意識はそちらに注がれた。

 

「トカゲさん、トカゲさん。私の話を聞いてください」

 

『こりゃ驚いた!? 人間がワシに話しかけてきよったぞ。まぁ、どうせ言葉は分からないからこの狭い空間にいる退屈しのぎに話しかけてきてるんじゃろう。よくいるんじゃよね。そういう人間が』

 

「私は退屈しのぎに話しかけているわけではありません。トカゲさんの言葉もちゃんと解っているよ」

 

私が話しかけるがさほど相手にしようともせず茶化すような感じでけらけらと笑うトカゲさんに言葉が分かると伝える。

 

『ほぅ。そいつは珍しい人間もいたものだ。本当にワシの言葉が解るのか? それならお主は心の綺麗な人間なんだな。昔はそういう人間が沢山いたとばあさまから聞いたことがある。それで人間のお嬢さんよ、ワシに何を聞いてもらいたいのだ』

 

「私と同じようにトカゲさんの言葉が解る人と一緒にいる人達に私が今から話すことを伝えてきてもらいたいんです」

 

興味を持ってくれた様子でトカゲさんが私の方に顔を向けたので気が変わらないうちにと急いでお願いした。

 

『ずいぶんと訳あり、しかも早急にといった感じじゃな。あいにくとトカゲのワシの足じゃ一日かかるかもしれんぞ。それでもいいのかい?』

 

「今はそれしか助かる方法がありません。お願いします」

 

トカゲさんが実際どれくらいのスピードで駆けれるのか分からないけれどこれしか方法がないのでお願いする。

 

『仕方ない。久々に全速力で伝達しにいってやろう』

 

「有難う御座います」

 

引き受けると言ってくれた彼が出てきたひび割れの中へと引き返していく姿に頭を下げてお礼を述べた。

 

今はこれしか方法がない。トカゲさんに私達の命は託された。一か八かの大きな賭けだけれどもお母さん達に伝言が伝わり助けに来てくれることを祈るしかない。

 

その後アルスさんとジュディスさんに質問攻めにあい動物の言葉が解るので言伝を頼んだことを説明することとなった。

 

*****

 

アンナ視点

 

 ジャスティン達が武器の手入れに行っている間私はアンジュとアイリスとドロシーちゃんを連れて買い物に。全てを終えて宿に戻って来ると他の皆も戻ってきていたのだがフィアナとアルスとロウとジュディスとリックの姿だけがなかった。

 

「夕食までには戻って来るかと思っていたのだけれど……」

 

「皆全然戻ってこないだな」

 

ルークが不思議そうな顔で呟くとアンジュも心配そうに顔を曇らせ話す。

 

「フィアナに頼んだ用事もそんなに時間がかかるものじゃないから、もう戻って来ていてもおかしくないのに……どうしたのかしら?」

 

「大きな町だから道に迷ってるという可能性もあると思うぞ」

 

「路地にさえ入らなければそんなことはないだろう」

 

アイリスも心配して窓の外を覗きフィアナが帰ってきていないかと姿を探す。

 

ハンスが言うとロバートがそれはないだろうと話した。

 

「っ、皆。大変だよ! 僕見たんだ。ザハルの兵士に連れて行かれるフィアナ達の姿を。追いかけたんだけど相手は馬車に乗り込んでしまって途中で見失ってしまったんだ」

 

「何だと!?」

 

勢い良く扉が開け放たれると血相を変えたリックが駆け込んでくる。彼の言葉にジャスティンが驚く。

 

「今から追いかければ何とか明日の朝までにはたどり着けるかもしれない」

 

「行きましょう」

 

ルークの言葉に私も皆に声をかける。そうして町を出てザハルへと向けて森の中へとやって来た。

 

「この森を抜ければザハルが見えてくるはずだ」

 

「あら、何かしら?」

 

ロバートの言葉に私達が気をひきしめ直したところでアイリスが何かに気付き草むらへと視線を落とす。

 

「今、私に話しかけたのは誰? ……あぁ、トカゲさん。あなたなのね……え?」

 

しゃがみ込み誰かと会話している様子の彼女の顔が青白くなる。

 

「トカゲさんお願いすぐにその場所に連れて行って。……皆、このトカゲさんはフィアナが私達にと伝言を頼んだトカゲさんなの。明日見せしめのために三人は公開処刑されてしまうそうよ。急いでいかないと皆が……」

 

アイリスがトカゲをすくい上げこちらに体を向けて話す。その言葉に私達は息を呑んだ。今何て言ったの? 公開処刑って……そんな、そんなこと絶対にさせないんだから。

 

ドロシーちゃんも話を聞いて泣きながら前へと駆けだす。

 

「早くしないとお姉ちゃんが殺されちゃんでしょ? 助けに行かないと……じゃないとお姉ちゃんが……お姉ちゃんが……うぅ」

 

付いてこない私達の方へとふり返りそう言うと泣きながらまた前へと駆けていく。その様子を見ていたハンスがドロシーちゃんに近寄りそっとしゃがみ込む。

 

「走っていってもいいが、それでは間に合わない。ここはわたしに任せてくれないかな?」

 

「どういう事?」

 

「わたしは魔法使いだ。転移魔法という魔法を使えば明日の朝までにはザハルに到着できる」

 

微笑み語り掛ける彼の言葉に彼女が不思議そうに首をかしげる。それにハンスが答えると私達の方へと視線を向ける。

 

「皆、わたしの側に集まってくれ。魔法陣を展開する範囲に入っていないと置いて行ってしまうからな」

 

ハンスの言葉に私達は駆け寄った。フィアナ、アルス、ジュディス皆どうか、どうか私達が到着するまで無事でいて。転移魔法が発動され視界が歪む中私は必死に祈った。


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