追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
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レオンルート

六章 帝国ザハル (共通ルート レオンルート)

公開日時: 2022年4月24日(日) 03:00
文字数:5,657

 帝国ザハルへと向けて旅を続ける私達。あともう少しで帝都に到着するのだけれど暗くなってきたので森の中で野営することになった。

 

「いよいよ乗り込むのね……なんだか緊張してきちゃった」

 

「ここに集まった俺達は皆目的は違えど帝王を打倒さんと集まった同士だ。みんなの力を合わせれば必ず帝王を倒すことができる」

 

緊張で両手を握りしめるお母さんにジャスティンさんが力強い口調で言った。

 

「大丈夫。わたし達ならできる。必ず帝王の野望を打ち砕いてみせよう」

 

「私も何もできないけど、皆の足手まといにならないようにするだ。ドロシーちゃんの事も任せるだよ」

 

「わ、わたしも怖くないもん。ちゃんと最後までついて行くよ」

 

ハンスさんが言うとアンジュさんも語る。ドロシーさんも震える体をごまかしながら力強い口調で宣言する。

 

「明日はいよいよ帝国に乗り込む。今日はもう休もう」

 

ルークさんの言葉に私達は床に就く。さて、皆が寝静まった頃に抜け出して一度未来に帰らないとね。

 

それから静かになった深夜。私は誰も起こさないようにと気を使いながら起きると森の奥へと向かう。

 

野営地から大分離れたあたりまでくると時渡のペンダントを使い未来へと戻って行った。

 

「フィアナ、お帰りなさい」

 

「お帰り。何か困った状況になってないか?」

 

リビングへと姿を現した私に姉とレオンさんが声をかけてくる。

 

「もう直ぐ帝国に到着します。そうしたら最後の戦いになると思うの。お母さんとお父さんを助けて世界を救うことが出来たら戻ってこれると思います」

 

「そっか。いよいよか……フィアナ、気を付けろよ」

 

説明すると彼が真剣な顔で言ってくる。こんなに心配されているんだもの絶対に生きて帰って来るよ。レオンさんを悲しませたくないから。

 

「それから、これドロシーから預かって来たぜ。フィアナが被って眠っちまった睡眠薬と同じ薬だ。何か困った事態になったらこれを使って逃げろだってさ」

 

「有り難う御座います」

 

レオンさんが差し出してきた小瓶を大事に懐に仕舞う。さて、名残惜しいけれどそろそろ戻らないとね。

 

「それじゃあそろそろ行ってくるね」

 

「行ってらっしゃい」

 

「お前が帰って来るのを待ってるからな」

 

二人に見送られながら私はペンダントへと手を当てる。次の瞬間体が宙に浮かび上がると次に足を付けた場所は森の中だった。

 

「レオンさん。もうすぐ終わるから待っていてね」

 

そっと呟き踵を返した私は身動きが取れなくなった。いや実際に何か起こったわけではなく、目の前に立つ三人の人物の姿に動きを止めたといった方が正しいのかもしれない。

 

「フィアナ、これはいったいどういう事かな?」

 

「俺達が納得できるまで逃がさないから覚悟しておけよ」

 

「……すみません」

 

爽やかな笑顔なのに怖いと感じるジュディスさんと腕を組み木に寄りかかりながらアルスさんが言う。彼に付き添ってきたロウさんは小さく謝り頭を下げた。

 

み、見られた。ど、どうしよう。なんて思っている暇も与えてもらえず怖い顔でこちらを見詰めてくる二人に私は仕方なく全ての事を話す。

 

「つまり、お母さんとお父さんに頼まれたから過去の時代に時渡のペンダントを使って渡って来ていた……と」

 

「それでタイムリミットが迫ったら未来に戻っていた……ってこと」

 

「はい、そうです」

 

二人の言葉に私は大きく頷く。信じてもらえなかったらどうしようと心臓がうるさいくらいになる中彼等の様子を見守る。

 

「そうか、そうだとは知らずに君の事をザハルの内通者だと思っていてごめんね」

 

「話を聞いて納得した。その、すまなかったな」

 

「信じてもらえるんですか?」

 

暫く黙り込んでいたジュディスさんとアルスさんが謝ってきたことに驚き逆に尋ねてしまう。

 

「こんな嘘ついたところでフィアナには何の得にもならないだろう」

 

「嘘をついている目ではなかったしね」

 

二人の言葉に一気に緊張がほぐれ脱力してしまう。良かった、さすがは未来の王様。寛大さに感謝だね。

 

「そろそろ戻りませんと。皆さんに内緒で来ていますから目が覚めて私達がいないことが分かると騒ぎになりますよ」

 

「そうだな、そろそろ戻ろう」

 

今まで話を黙って聞いていたロウさんが声をかけるとアルスさんも頷き踵を返す。

 

「「「「!?」」」」

 

途端に大勢の足音が聞こえてきて私達はザハルの兵士達に取り囲まれる。いきなり現れた彼等に私達は警戒し身構える。

 

「お前達の正体は分かっている。一緒に来てもらおうか」

 

アルスさんとジュディスさんの正体がバレているってことよね。このまま従わなかったらもしかして剣で殺されてしまうの?

 

「やぁっ! ……ここは私が食い止めます。皆さんはその隙に野営地へ戻ってください」

 

「っ……行くぞ」

 

ロウさんが剣を抜き放ち兵士達へと駆けこむ。いきなり押し出された彼等は隙ができる。その間に野営地へ戻れと言われアルスさんが何事か言いたげな顔で彼を見たが私達を見やり促す。

 

ロウさん一人で大丈夫かな? 心配はあるけれど私がここに残っても何もできないのだから急いで野営地に戻り皆を連れてくるべきだよね。そう思い振り切るようにその場から走り出す。

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

野営地までそんなに離れていないというのに運動してきていない体では全力疾走をしてもなかなか辿り着けず、私の走る速度に合せてくれている二人の背中を追いかけながら何度も止まりそうになる。でも、ここで止まったら追いかけてくる兵士達に捕まって二人に迷惑をかけてしまう。その思いだけで足を動かす。

 

「っ!?」

 

瞬間木立の間にいた誰かに腕を掴まれ私は引っぱられる。何が起こったのか分からなかったけれど敵だったらと思い身構える。そんな私の口に布が当てられた。

 

「っ……」

 

瞬間朦朧としていく意識。必死に眠らないようにと格闘するもむなしく瞼は閉ざされていく。

 

「「フィアナ!」」

 

かすれていく意識の中でアルスさんとジュディスさんの叫び声が聞こえたような気がする。

 

夢を見ていたのかさえも覚えていない程深い眠りについてから再び瞼を持ち上げた。

 

「ぅ……ん」

 

「「フィアナ!」」

 

必死に呼びかけるアルスさんとジュディスさんの声に慌てて意識を取り戻し目を覚ます。ここ、どこだろう? 最初は薄暗かったので分からなかったけれどそこが夕日が差し込む牢獄であることに気付くのに時間はかからなかった。私どうなったの?

 

「フィアナ良かった目を覚ましてくれて。それで、目覚めたばかりで状況が分からないだろうから説明するね」

 

「は、はい」

 

安堵するジュディスさんが私が眠ってしまった後の事を全て教えてくれる。

 

私は睡眠薬をかがされたそうで、眠ってしまった私を助けたければ大人しくしろと言われ馬車に乗せられ連れてこられたのはザハルの城。そして今は牢獄に入れられているが明日見せしめのために処刑されるとのことだった。全てを理解した時は困惑と不安に駆られたけれどでも、私に謝ってくる二人を見ていたらそんなこと考えている場合じゃないと思った。

 

「大丈夫です。私達は必ず助かります。ですからそんな顔をしないでください」

 

「フィアナ……そうだな。まだ希望が無くなった訳ではない。最後まで頑張ろう」

 

「そうだね。フィアナが言うと本当に何とかなりそうな気がするから不思議だよ。皆で助かる為の方法を考えよう」

 

笑顔が戻って良かったと思っているとまた深刻な顔で私を見詰めてきてどうしたのかなと思う。

 

「フィアナ、一度未来に戻らないと。時の迷い人になったら一生時の中を彷徨い続けてしまうんでしょ」

 

「俺達の事は心配いらないから一度未来へ戻れ」

 

「は、はい。すぐに戻ってきますので待っていてください」

 

二人の言葉にそんなに眠り続けてしまったのかと慌てて返事をしてペンダントに手を当てる。

 

「フィアナ?」

 

「何、向こうで何かあったの?」

 

未来に戻った私が慌てて帰ろうとする様子に異変を感じた姉とレオンさんが声をかけてくる。そうだ、彼は元暗殺者だ。敵に捕まった時に助かる方法も知っているかもしれない。

 

「ねぇ、レオンさん。私達今ザハルの城の牢獄に捕まってしまっているんです。何とか助かる方法ってないでしょうか?」

 

「ザハルの城に捕まっているだって! ……いろいろと言いたい事はあるけれど今はそんな場合じゃないよな。全員捕まえられてるのか?」

 

険しい表情になった彼だったが表情を和らげ尋ねてくる。

 

「いいえ、私とアルスさんとジュディスさんだけでお母さん達は無事です」

 

「なら、助かる道はある。フィアナは動物の言葉が分かるんだったな。そいつを上手い事利用すれば外にいる仲間に知らせる事が可能のはずだ。さ、もう行け。兵士に見つかって騒ぎになるといけないからな」

 

動物の言葉が分かる事を利用するの意味はよく分からなかったけれど、それを聞く間も与えてもらえず過去の時代に戻れと言われ私は再びペンダントへと手を当てた。

 

戻って来るとそれほど時間は経過していないようで兵士達にも気づかれずに済んだようで安堵する。

 

さて、レオンさんが言っていた動物の言葉が分かる事とそれを利用する事って?

 

周りを見回して考えていると一匹のトカゲが隙間からちょろちょろと牢獄の中へと入って来る。

 

「トカゲ……そうか。有り難うレオンさん!」

 

レオンさんの言いたかったことの意味に気付いた私はトカゲさんに近寄る。

 

「トカゲさん、トカゲさん。私のお話を聞いてはもらえませんか?」

 

『ひゃひゃ。人間の娘さんがワシに話しかけてきおった。こりゃびっくりじゃな』

 

私が話しかけるとまさか声をかけられるとは思っていなかったトカゲさんが目をくりくりさせて驚く。

 

「私の言葉を伝えてもらいたい人達がいるんです。その人達の所に行ってはもらえませんか?」

 

『人間と話が出来たのは久方ぶりじゃし、よいじゃろう』

 

昔は私みたいに動物の言葉が分かる人が沢山いたのかな? と思いながら私は気が変わってしまう前にと口を開く。

 

「有難う御座います。その人達の一人は私と同じで動物の言葉が分かる人がいます。その人に今から言うことを伝えて下さい」

 

「お前さん達も大変じゃな。久々に全速力で言伝を伝えに行ってやるわい。だがワシの足では時間がかかるぞ」

 

内容を伝えると分かったと言って頷いてくれる。トカゲさんに全てを託し私はその背が消えて見えなくなるまで見送った。

 

「フィアナ、一体何をしていたんだ?」

 

「トカゲさんに私達の事を皆に伝えてもらえるようにと頼んだのです」

 

「フィアナは動物とお話ができるの? 本当に君って不思議な子だね」

 

不思議そうな顔で尋ねてくるアルスさんに説明するとジュディスさんが目を丸くして呆気にとられる。

 

兎に角今は信じるしかない。わずかな希望に私は賭けた。

 

*****

 

アンナ視点

 

 朝目を覚ますとフィアナとアルスとジュディスとロウの姿がなく。何処に行ったのだろうと騒ぎになった。一日待っていても四人とも一向に戻ってこなくて皆で話し合う。

 

「フィアナが今までみんなに心配かけるようなことはした事ないのに、一体どうしたのかしら?」

 

「アルス達も一体何処に行っただ?」

 

心配そうな顔で森の奥を見やるアイリスにアンジュも不安そうに尋ねる。

 

「まさか、まさかとは思っていたがやはりフィアナがザハルの内通者で俺達が眠っている隙をついて帝王に狙われている三人を連れて行ったのでは?」

 

「なんてこと言うんだ。フィアナは俺達の仲間だろう。そんなこと言うんじゃない」

 

ジャスティンの言葉にルークが珍しく目をひん剥いて怒る。彼の言う通り仲間を疑うなんて良くない……でも、もしかしたらと疑ってしまう自分がいて嫌な気持ちに吐き気がしてくる。

 

「そうじゃないとしたとして、それならどうして四人は忽然と消えてしまったんだ?」

 

「そうだよ。ちょっと散歩に行くって言うならもう戻って来ててもおかしくないでしょ。今日はザハルに乗り込む大事な日だったんだからさ」

 

ハンスの言葉にリックも大事な日にこんなに長い事戻ってこないのはおかしいと話す。

 

「お姉ちゃんの身に何か起こったの?」

 

状況を理解できていないドロシーちゃんが不思議そうな顔で尋ねて来た。

 

「そうじゃない。大丈夫だ」

 

「でも、いつもならとっくに戻ってきているはずなのに……あら?」

 

ロバートが優しく微笑み安心させている横で小さな声で独り言を呟くアイリス。しかし不思議そうに周りに首を振って何かを探している。

 

「どうしたの?」

 

「今誰かが私を呼んだような気がして……やっぱり聞こえる。私を呼んでいるのは誰?」

 

私の問いかけに答えながら声の主を探す。私も耳を澄ませてみるも聞こえなくて不思議に思う。一体アイリスは誰の声を聞いたの?

 

「私を呼んだのはあなた? ……え。トカゲさんそれ本当なの」

 

「アイリス、トカゲがどうしたって」

 

異変を感じたロバートが彼女に尋ねる。トカゲっていったい何を言っているの? 訳が分からないことだらけで頭が混乱してしまう。

 

「皆聞いて、このトカゲさんはフィアナが私達に向けて送ってくれたの。今アルスとジュディスとフィアナはザハルの城に捕まっていて明日見せしめのために処刑されてしまうそうなの」

 

「何ですって? それ、本当なの」

 

思わず聞き返してしまったがアイリスが小さく頷く。その瞬間私達の間に電撃が走った。

 

「今から急いで向かったとして明日の処刑に間に合うのか?」

 

「ここからそう遠くないとはいえ間に合うかと聞かれれば難しいな」

 

ルークの言葉にジャスティンが静かな口調で呟く。間に合うかどうかわからないってそれじゃあ何もできないまま三人が殺されてしまうかもしれないってこと。そんな事って……

 

「方法は……無くはない。わたしは魔法使いだ。転移魔法を使えばすぐにザハルに行くことができる。ただし一回では到着できないから何回かやらないといけないが、それでも徒歩で行くよりはずいぶんと早くザハルに行ける」

 

「それしか方法がないなら、お願いするよ」

 

ハンスの言葉にリックが真面目な顔で言う。私達は彼に言われるがまま側へと近寄る。どうか、どうか間に合って。必死に天に祈るしかできない自分にもどかしさを感じながら私は手を固く握りしめた。

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