アンナさんとルークさんに挨拶してから未来へと戻る。
「フィアナ、お帰りなさい」
「ワン!」
リビングに姿を現した私に姉が笑顔で声をかけると、殿が駆け寄ってきて飛びつきじゃれはじめた。
「ふふ、殿ただいま。……お姉ちゃんも有難う。それで……」
「ルキアなら貴女を見送った後行く場所があるからってずいぶん前に出て行ったわよ。フィアナが帰ってきたら伝えてくれって言われていたのだけれど、「約束の場所で待つ」だってさ。貴女ならこの言葉の意味が分かるはずだって言っていたけれど、どうするの?」
ルキアさんの姿が見当たらないと思い視線を左右に動かしていると姉が含み笑いして話す。
「勿論行くよ。ルキアさんが何十年も前から待ち続けてくれているんだもの。会いに行かなきゃ」
「そういうと思っていたわ。さっさと行ってきなさい。それから……頑張るのよ」
行かないなんて選択肢なんてない。私は出かける準備に取り掛かる。その背中へと向けて姉が声援を送る。お、お姉ちゃんたら気楽に頑張れなんていって……でも頑張るしかないよね。今度こそルキアさんの気持ちにちゃんと答えないと。告白されたあの時よりも増した彼への想いを言葉にして表そう。
「ワン、ワン」
「あら、殿はダメよ。貴方はお留守番。フィアナとルキア二人きりにさせてあげないとね」
いつものようについてこようとする殿を抱き上げると姉がウィンクして言い聞かせる。
『そっか、フィアナ僕も応援してるよ』
その言葉に殿までしたり顔になり見送る。もう、殿ったら大きくなるにつれてそう言う勘だけは察しがよくなるんだから困ったものだ。と頬が赤くなっていないだろうかと思いながら二人から逃げるように慌てて玄関へと駆けて行った。
「ルキアさんは……」
私はルキアさんに告白され幼少の頃の彼とさよならをした場所……市街地が見渡せるテラスへとやって来る。そこに目当ての人物の後姿があり何やら物思いに耽った顔でぼんやりと町並みを見ていた。
「ルキアさん」
「! フィアナ」
私が声をかけると考えにのめり込んでいて私に気付かなかった様子で驚いた顔でこちらを見てきた。
「ずいぶん遅くなってしまったけれど、約束を守りに戻ってきました。……ルキアさん。ただいま」
「フィアナ……お帰り」
私の言葉が終わらないうちに彼が駆け寄って来ると優しく抱きしめられる。
「オレさ、ずっとずっと忘れられなかったんだ。忘れるっていたのにな……あの日の約束を馬鹿正直に信じてここで君が来る日を待ち続けて……心のどこかではわかっていた。二度とあの人には会えないんじゃないかって。それでも認めたくなくてずっと、ずっと待ってた。そして気付いちまったんだ。あの人が言った言葉の意味に。あれは俺を傷付けないようについた嘘だったんじゃないかって。裏切られたって思った瞬間悲しくて寂しくて涙が出そうになった。だけど……やっぱりオレの勘って当たるもんだな」
「そうだね。あの時の私は分かっていなかったけれど……けれど、今なら分かるよ。あの時なんで悲しそうな寂しそうな顔をしたのかも。ヒルダさん達の時に裏切られた過去があるかのように悲しげに呟いた言葉の意味も……ルキアさんあの時の約束を覚えていてくれて有り難う御座います」
抱き締められたまま語られるルキアさんの言葉に涙が自然と零れた顔で私も話す。
「フィアナ……あの時からそして今でもこの想いは変わることはない。初めて出会った時からずっと貴女に恋していました。だから、オ、オレと……オレと結婚してくれ!」
「!?」
私から離れた彼が真っ赤に染まった顔で告白する。その言葉に驚いてしまい固まってしまった。ルキアさんからの正式なプロポーズを聞けるなんて。これは夢なのではないだろうか?
「フィアナ?」
「はっ……はい。嬉しくて言葉が出なくてその……勿論です」
不安そうな顔をするルキアさんに早く答えないと誤解されると思い慌てて首を大きく縦に振って返事をした。
「……有り難う。お前ならそう言ってくれるって思ってたぜ」
「っ~~」
優しく重なる唇の熱が離れたと思ったらずるいくらいに柔らかく微笑む彼の姿が目の前にあって、私はゆでだこになったのじゃないかってほど赤面していると思う顔でルキアさんのことを見詰める。
「ははっ……なんて顔してんだよ。ほら、泣くのか喜ぶのかどっちかに決めろよな」
「嬉しいはずなのに何でか分からないけれど涙が止まらないんだもん。仕方ないじゃない」
優しく指で瞳にたまった雫を拭ってくれる彼が困ったような笑い顔で呟く。それに抗議するみたいな感じで言葉を連ねるも意味はなく私は自分でも何を言いたかったのかが分からなくなってしまった。
どうか、この瞬間が永遠に続きますように。時を止めてしまいたいと願う程ルキアさんの愛情の深さに私の心は完全にノックアウトされてしまったようである。
「もう二度と目の前から消えていなくなったりなんてしないからね。だから、ルキアさんも私の側にずっとずっといてくれるよね」
「勿論だ。言っただろう。オレの姫は今も昔も変わらずにフィアナ一人だけだって。姫を置いてどこかに行っちまうような騎士がどこにいるってんだよ」
「そっか……それなら良かった」
二度と離れたりしないという決意を伝えると彼がおかしそうに笑い言い切る。その言葉に私の心はなぜか安心してほぐれていく。
これからもずっと、ずっと彼と二人で歩み続けるのだ。この町で素敵な思い出を一杯作ろう。離れ離れになってしまった時間が全て埋まってなくなってしまう程の幸せで彩っていこう。
「これからもよろしくお願いします。私のたった一人の騎士様」
「勿論これからもよろしく頼むぜ。オレのたった一人のお姫様」
そう言うと二人してくすりと笑う。それから私達は夕暮れに染まるテラスで再び寄り添い合った。
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