翌日。姉と二人で王国魔法研究所へと向かいヒルダさんに情報料を渡す。
「確かに15000コールあるようですね。分かりました。約束通りお教えいたしましょう。……魔法の失敗で動物になってしまった人を元に戻す方法は簡単です。基の魔法が何かわかればそれを解除する魔法と魔法の効果を打ち消す魔法を組み合わせた融合魔法をかければ元に戻すことができます」
「解除する魔法と効果を打ち消す魔法を融合……」
ヒルダさんがお金を受け取り中身を確認すると約束通り教えてくれる。姉は忘れないようにと復唱していた。
「それでは、わたしは研究室に戻らないといけませんのでこれで」
「はい、有難う御座いました」
彼女は言うと奥へと立ち去っていく私達も帰ろうかなって思った時にレオンさんがやって来るのが見えた。
「あ。ティア、フィアナ。用事は終わった?」
「レオンさん昨日は有り難う御座いました」
彼も私達に気付き笑顔で近寄って来る。私は再度昨日の事についてお礼を言う。
「お礼なんてもういいって。それよりフィアナ。昨日の約束覚えてる? これからお願いしたいんだけどいいかな」
「あ、はい。大丈夫ですよ。お姉ちゃん悪いけど先に帰ってて。私レオンさんにこの町の観光名所を案内するって約束をしてたから」
「分かったわ。それじゃあ、先に帰ってるね」
レオンさんの言葉に私は頷くと姉へと声をかける。姉は了承すると立ち去っていった。
「さて、レオンさん行きましょう」
「あぁ。よろしく頼む」
私はレオンさんを連れて町へと繰り出す。噴水広場に市街地を一望できるテラス。お城が見える別館の近くの通りに市場。ありとあらゆる観光名所を巡ると最後に近くの森へと入っていく。
「ここがこの町の皆の憩いの場であり森林浴やピクニックを楽しむ森です」
「って、ここってオレとフィアナが昨日来た森だろう」
私の言葉にレオンさんがそう言って笑う。
「そう言えばこの森でレオンさんに初めてお会いしたんでしたね」
「そう言えばそうだったっけ。……フィアナのおかげでこの町のある程度の場所は覚えれたし、今日は有り難う」
私の言葉に姿勢を正すとお礼を述べるレオンさん。
「この町の事好きになってもらいたくて頑張っちゃいました」
「フィアナはこの町で生まれて育ったからこの町が好きなの?」
私の言葉にレオンさんが尋ねる。それにちょっと困ってしまった。
「あ、ごめん。変なこと聞いちゃった?」
「いいえ。私生まれはこの町じゃなくて森の中で父と二人で暮らしていたんです。でも六歳の時に父が病で亡くなって、それで父の友人の夫婦に引き取られてオルドラに来たんです」
慌てて謝る彼に私は首を振って答える。
「そうだったんだ……なんか、ごめんね」
「でも私この国に来てこの町で住むようになってここが大好きになったんです。だからレオンさんもこの町のこと好きになってくれたら嬉しいなって」
謝ってほしいわけじゃないのに申し訳なさそうな顔をするレオンさんに私は精一杯の笑顔を作り話す。私が好きになった街だからレオンさんにも同じように好きになってもらいたくて。
「オレもこの町好きだよ。……フィアナが好きな街だから」
「え?」
優しく微笑み言われた言葉の意味が分からなくて不思議そうにする私に彼はごまかすかのように明後日の方向を見る。
「さぁて、暗くなるとクマやオオカミなんかが出てくるから明るいうちに町に帰ろう。ティアも君の事心配するといけないし途中まで送るよ」
「はい。有難う御座います」
さっきの言葉の意味がわからないまま私はレオンさんの後について町まで戻る。
「ここまでで大丈夫です」
「うん。それじゃあ気を付けて帰ってね」
家の近くまで来た時に彼に声をかける。レオンさんは言うと手を振って立ち去っていった。
「ただいま」
「お帰り」
リビングへと入ると知らない男の人が笑顔で迎え入れてくれて私は驚いて扉を閉める。
「おい、そんなに驚かなくてもいいんじゃないのか」
「ど、どちら様ですか?」
扉を開けられ呆れた顔の男性が言う。私は頭が混乱しながら尋ねた。
「誰って……フレンだ」
「フ、フレンさん?」
「あはははっ。やっぱりフィアナ驚いたわね」
困った顔で言われた言葉に呆けていると姉に盛大に笑われる。
「中に入ってくれ。フィアナにも聞いてもらいたい話があるんだ」
「は、はい」
人間の姿に戻ったフレンさんに呼ばれて私はリビングに入る。そうして彼の口から聞かされた言葉に驚くのと納得するのとであっという間に時間は過ぎていった。
フレンさんが隣国の王子様で何者かに命を狙われている事。そして私達の所でもう暫くかくまってもらいたいということと黒幕を暴くための情報収集に協力してほしいと言われた。
そうして私と姉は情報を収集する為に街に繰り出すことに。姉はルシアさんの所へ私はルキアさんの所に行くこととなった。
「ルキアさん、忙しいのにごめんね」
「いいって。それよりオレに用事ってどうしたんだ?」
王国騎士団の社務所の待合室で待っているとルキアさんがやってくる。さあ、フレンさんの事を悟られないようにしながら情報を聞き出さないと。
「あ、あのね。ルチアさんから聞いたんだけれど隣国の王子様が行方不明になってるって。それって凄く大変な事だよね。それで王国騎士であるルキアさんなら何か知ってるんじゃないかと思って」
「あぁ確かに王子が乗った船が事故に合いあいつが行方不明になってるらしい。だけどな……」
ルキアさんは周囲を見回し誰もいないことを確認すると私へと顔を近づけ小声で話しかけてきた。
「だけどなオレが思うにそれは嘘だ。本当は誰かがあいつの命を狙って事故に見せかけて殺そうとした。そう考えるのは先王が亡くなったばかりであいつが行方不明になったからだ。きっと政権交代を利用して勢力を持ちたいと思うやつが仕組んだことだと思う。そして怪しい事に王子が行方不明になった時期と同じでこの町に不審な人物の目撃情報が入ってきた。あいつが生きていたら友好関係を結ぶこの国に頼るかもしれない。だから先にこの国に刺客を送り込みあいつを見つけ次第始末しようと考えているんだと思う。そしてその怪しい人物がよく出入りしているのが王国魔法研究所なんだ。そこに居る誰かに会いに行っているらしいがオレの調べではそこまでしかわかなかった」
「ちょっと待って……ルキアさんそれって国家秘密級のお話なんじゃないの?」
情報を教えてもらえたのは嬉しい事だけれど普段私達にさえお仕事の事とか教えてくれないのに何かおかしいと思い尋ねる。
「これオレの勘なんだけどお前に教えることがあいつを助ける事に繋がってるような気がしてな。だけど、気を付けろよ。お前が行方不明になった王子と関係があるのだとしたらお前も命を狙われるかもしれないからな」
「王子と関係あることはないけれど、でも気を付けるね」
流石は幼馴染なだけあって私の異変に気付いているみたい。ぼろを出す前にさっさとここから離れなくては。
「お仕事忙しいのに有難う。それじゃあ私帰るよ」
「あぁ、気を付けて帰れよ」
彼に勘ぐられる前にここから立ち去り急いで家へと向かう。フレンさんにこのことを早く教えなくちゃ。
そうして家へと帰って来ると姉が帰宅するのを待ち今日仕入れた情報を話し合う。
「王国魔法研究所にいる誰かにその不審な人物は会いに行ってるってルキアさんは言っていたの」
「ルシアも王国魔法研究所にいる見習い魔法使いのヒルダが怪しいって。なんでもフレンがいなくなった時期とほぼ同じ時期に研究所にやって来たんだって」
「なるほど、こちらから鎌をかけてみれば何かぼろを出すかもしれないな」
私達の話を聞いたフレンさんが小さく頷きそう話す。こうして私達は翌日王国魔法研究所へと向かうこととなった。
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