私は意気悠々と軽快な足取りで別館へと向かう。今日はお料理を作りに来たわけではない。これから私は違う目的でここに通うのだ。ルシアさんが仕事で使う部屋の前へとやって来るとノックを響かせ入室する。
「ルシアさんおはようございます」
「フィアナ……その格好は何だ?」
私の挨拶なんてまるで聞こえていなかったかのように彼が驚いた顔でまじまじと見てくる。
「ライディンさんに頼んでルシアさんのお手伝いをする秘書となりました。今日から一緒にお仕事をするんです。それから国王様のお話相手になることになったんです」
秘書らしい清楚でシンプルなランタンスリーブのワンピースを着ている私の姿を見たまま固まっていた彼が盛大に溜息を吐き出す。
「こうなると思ったからお前をここから遠ざけていたんだ」
「へ?」
頭痛がするのか額を押さえながら言われた言葉に驚く。こうなるから私を王宮や別館から遠ざけていたってどういうこと?
「国王様がお前に会えば必ず側に置きたがると思ったからな。だから会わせないようにしてきたというのに……お前は俺の努力を水の泡にしてくれたな」
「ルシアさん……私と国王様の関係をずっと前から知っていたの?」
彼の言葉に驚くばかりで開いた口が塞がらない。まだ国王様がジュディスと名乗っていた頃に私が出会ったのはつい最近の事であって、そうなる前はまったくと言っていいほど国王様に会ったこともなかったのにルシアさんは主幹のお仕事で城勤めしだした頃からこの事実を知っていたということだよね?
「国王様よりよく昔話を聞かされていたからな。それと、アンナさんとルークさんから話も聞いていた。王宮で働いていれば嫌でも情報はいくらでも入って来るからな。知らない事など何一つないと言っていいほどに……」
「そ、そうだったんだ」
溜息を吐き出し説明してくれた彼の言葉で納得したが、嫌でも情報が入って来るということは知りたくない事とかどうでもいい事とかも聞かされているってことだよね。改めて主幹のお仕事って大変なんだな~と思って見詰めていたらルシアさんがこちらを見やり小さく笑う。
「だが、こうなってしまった以上は仕方ない。今日からフィアナには俺の仕事の手伝いをしてもらうからな。厳しく指導してやるから覚悟しておけよ」
「が、頑張ります!」
怪しく笑う彼の姿に私は扱かれることを覚悟して姿勢を正し返事をした。こうして私とルシアさんの新しい生活が始まりを迎えるのである。
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