王国魔法研究所にいるヒルダさんって人に話を聞けば犬になった人を元に戻す方法がわかるかもしれない。その情報を基に私と姉とフレンさんは研究所へと向かった。
「俺は中へは入れないが、二人で大丈夫か?」
「大丈夫よ。心配しないで」
「頑張って来るね」
動物は中には入れないということで門の外で心配そうに見送るフレンさんの視線を感じながら私達は施設の中へと入っていった。
「あれ、ティア。フィアナ?」
「え、レオンさん?」
受付に行ってヒルダさんを呼んでもらっているとレオンさんが研究室の奥から姿を現す。どうして彼がここにいるんだろう。
「どうして二人がこんなところに? あ、もしかして早速オレに会いに来てくれたの?」
「ち、違います。私達はヒルダさんって人に会いに来たんです。それよりレオンさんがどうしてここに」
嬉しそうに笑う彼に私は慌てて答える。
「オレこの研究所の隣の家に居候してるんだよ。それで時々ここにも顔を出すんだ。ほら、魔法研究所なんて興味そそるだろう。てっきりこの前渡した紙の住所を見てオレに会いに来てくれたのかと思っていたんだけど……違うんだね」
この前私が状況反射で受け取った紙に書いてあった住所ってこの辺りだったんだ。それは知らなかった。とても残念そうに肩をおとすレオンさんに何だか申し訳ない気持ちを抱く。
「お、お待たせしました。わたしに御用があるとか……それで、どのような御用でしょうか?」
「貴女がヒルダさん。あの、実は私達魔法や魔法使いに詳しい人を探していて、貴女がとても詳しいとお伺いして訪ねてきたんです」
奥から小柄な女の子がやって来るとおどおどとした態度で尋ねる。それに姉が話をした。
「えぇ、ある程度の知識でしたらありますけれど。その、どういった事をお知りになりたいのですか?」
「魔法の失敗で動物になってしまった人を元に戻す方法を知りたいんです」
ヒルダさんの言葉に姉が尋ねる。
「魔法の失敗で動物になってしまった人を元に戻す方法……ですか。一応お伺いしますがどうしてそんなことをお知りになりたいんです」
「そ、それは……」
「え、ええっと……」
探るような眼差しで見てくる彼女へと姉が答えようと口を開くが本当のことは言えなくて助けを求めるように私に視線を向ける。私も何も思い浮かばず困って黙り込んでしまった。
「まぁ、いいじゃないの。二人が知りたがってるんだから教えてあげたら」
「そうは言ってもタダで教えることはできないんです。そうですね情報と同じ値段のものと等価交換するのが普通なんですが、一般の方にそんなこと言っても分からないと思いますので情報料をお持ちください。情報料をいただければお教えします」
「情報料? それっておいくらですか?」
レオンさんが助け船を出してくれるとヒルダさんが溜息を吐き出しそう話す。情報料っていくらくらいなんだろう。
「そうですね15000コールです」
「15000コール……」
彼女の口から飛び出した金額に姉は愕然とする。15000コールなんて私や姉のお小遣いをかき集めても全然足りないよ。
「ヒルダ、もうちょっと安くしてあげられないの?」
「そ、そうは言ってもこれでも破格の価格なんですよ。これ以上安くなんて出来ません」
「分かりました、何とか用意してきます」
レオンさんの言葉にヒルダさんが慌てて答える。姉が言うと私達は施設を出て外で待つフレンさんに説明すると一旦家へと帰る事となった。
「それで、どうやってお金を集めるつもりだ?」
「私が踊りを踊って稼げば何とか集まると思うの」
家に帰って来るとフレンさんがそう言って尋ねる。それに姉が答えた。
「なら俺も手伝う。俺が元に戻るために協力してもらっているのだからな。それくらいさせてくれ。それに犬が踊ったらよい見世物になるだろう。それでお金を稼げると思う」
「分かった。フレンお願いするわ」
フレンさんの申し出に姉が快く了承する。私もフレンさんのためにお手伝いしたい。
「お姉ちゃん私も何かお手伝いするよ」
「フィアナには無理よ。ようやく熱を出さないようになってきたんだからお仕事なんかしてまた熱が出たらどうするの。だから貴女はおとなしく家で待っていなさい」
「でも……」
私だってもう昔と違って体も丈夫になってきたって思うのにお姉ちゃんはいつまでたっても過保護なんだから。
「分かった……」
だけどこれ以上話したところで連れて行ってもらえるとは思えないので不満ではあるが引き下がる。
そうして翌日姉はフレンさんを連れて広場に踊りに行き私は家で過ごすこととなった。
「……はぁ。私もお仕事出来たらな」
かといって今までお仕事なんてした事がないからどんな仕事が自分に向いているのかも全く分からない。姉に心配かけずに初心者でもやれるお仕事があれば……
「そうだ。レオンさんに相談してみよう」
レオンさんならいろんなところを旅してきたしいろんなお仕事を見て来ただろうから私にできるお仕事を知っているかもしれない。そう思い立つと早速王国魔法研究所へと向かった。
「あれ、フィアナ?」
「レオンさん、あの少し良いですか」
私が思った通り王国魔法研究所の受付の前に彼の姿はあった。私が何でここに来たのか分からず不思議そうな顔をされる。
「何、オレに聞きたいことでもあるの?」
「あのね。情報料を払うためにお姉ちゃんは頑張ってお金を集めているんだけれど、私も何かお手伝いしたくて……でもどんな仕事がいいのか分からなくて。お姉ちゃんには無理だって言われちゃうし……だからレオンさんに相談しようと思って」
優しく微笑み話を聞いてくれる彼へと私は思いのままに仕事を探していることを伝えた。
「ふ~ん。……なるほど、ね。フィアナはお仕事がしたいわけだ」
「はい」
私の話に彼が納得する。今更ながらにこんなこと相談して迷惑だっただろうかと思い始めてきた。
「……付いて来て」
「へ?」
レオンさんの言葉の意味が解らず私は驚く。
「お仕事探してるんだろう。フィアナにもできるお仕事オレが手伝ってあげるから。だから、付いて来て」
「はい!」
彼の言葉にようやく意味を理解した私は慌ててレオンさんの後についていく。
彼に連れられてやって来たのは近くの森の中。一体何をするつもりなんだろう?
「これ、この花は染料になる素材の素なんだけど、この辺りではなかなか取れなくて希少価値が高い。だからこれ一輪だけでも相当な値で取引される。五輪もあれば情報料分の金額は集まると思うよ」
「あ、有難う御座います」
森の奥で一輪だけ咲いている真っ赤な花を摘むとそう言って説明してくれる。私はお礼を言ってそれを受け取った。
「ただし見つけるのにも苦労すると思うけれど」
「頑張ります」
そうしてレオンさんに手伝ってもらいながらなんとか五輪見つける事が出来た。
「それとこれで六輪か……うん。これだけあれば大丈夫だと思うよ」
「レオンさんが手伝ってくれたおかげです」
本当にレオンさんのおかげだよね。この花が咲いている場所は一目じゃわからないような場所ばかりで私一人じゃ全然見つけられなかったと思う。
「さ、暗くなる前に帰ろう……っ! フィアナ下がって」
「へ?」
彼が何かに気付き足にあるフォルダーからナイフを取り出し身構える。私は意味が分からなくて驚くことしかできなかった。
「グルルルッ」
「ク、クマ?」
茂みの奥から大きなクマが出てきて威嚇するようにこちらを見ていて私は一歩後退る。
「オレが仕留めるから、そこを動かないで」
「は、はい」
レオンさんが言うとクマ目がけて駆け込んでいく。でもあんな大きなクマ相手に大丈夫なのかな。
「はっ」
「ギャッ」
心配していたけれど彼は素早い動きでクマの背後へと回り込むと急所目がけてナイフで切り裂く。クマは大きな音を立てて倒れ込んだ。
「す、すごい……」
「ふ~。何とか倒せたな。どれどれ……おっ。フィアナラッキーだな。これこの辺りではめったにお目にかかれない珍しい大熊だ。こいつの毛皮や肉は高値で売れる。これも持って帰ろう」
一瞬で大きなクマを仕留めてしまった彼に見惚れてしまう。そんな私に気付かずに彼がクマを観察して言った。
「持って帰るってこの大きなクマをですか?」
「うん。捌いて小さくして持って帰るんだ……フィアナちょっと後ろ向いてて。女の子にはちょっと刺激が強いから。見ない方が良い」
彼の言葉に私は慌てて後ろへと体を向ける。背後から肉を絶つ生々しい音が聞こえてきた。今までお肉は市場で売られている捌かれて綺麗にされた物しか見た事なかったけれど、そうよね。元は動物のお肉なんだもの……これからはもっとお肉を大切に食べよう。
「もう見てもいいよ」
「……」
レオンさんの言葉に振り返るとクマの姿はどこにもなくて代わりに彼の手には大きな布袋が抱えられていた。
「さ、街に戻ってこれを売ろう」
「はい」
私達は町へと戻るとそれを質屋へと持ち込みお金に換えてもらう。レオンさんのおかげでお金を稼ぐことができた。何かお礼をしなくては。
「今日は有り難う御座いました。それで……」
「おっと。お金なんていらないぜ。それは情報料だろう」
封筒の中から紙幣を取り出そうとする私へと彼が止めるように言う。
「でもレオンさんのおかげでお金を集める事が出来たんです。ですから何かお礼をしたくて」
「ならさ、今度この町の観光地とかを案内してもらえないかな。オレ方向音痴だからすぐ道に迷っちゃってなかなか観光地を巡れなくて困ってたんだよ。それがお礼ってことで」
「分かりました」
レオンさん方向音痴で全然この町の観光出来てなかったんだな。この町のこと好きになってもらいたいしお礼もかねていろんなところ連れて行ってあげたいな。
「あ、もうここまでで大丈夫です」
「そう。それじゃまたな」
家の近くまで送ってもらうと私達は別れる。さて、お姉ちゃんにこのお金渡さないとね。逸る気持ちを抑え私は家へと向けて歩いて行った。
「ただいま」
「お帰り……」
リビングへと駆けこむと疲れた様子の姉がけだるそうに声をかけてくれる。
「お姉ちゃんお金集まった?」
「それがね、暗くなるまで頑張ったんだけどお金が足りなくて……」
「俺がもっとうまく踊りが出来たらよかったのだが……すまない」
どうやら頑張って踊りで稼いできたけれどお金が足りていない様子。
「あとどのくらい足らないの?」
「あと5000コール足りなくて……」
今5000コールって言った。言ったよね。それならば……
「お姉ちゃん。これ使って」
「え? このお金どうしたの?」
私は今日レオンさんに手伝ってもらって稼いだお金の入った袋を姉へと差し出す。それを受け取り中を確認した姉が驚く。
「今日レオンさんに手伝ってもらってお金を稼いできたの」
「貴女がお仕事したってこと?」
「とにかくこれで情報料は払えるな」
私の言葉に目を丸くする姉へとフレンさんが言う。こうして翌日私達は情報料を持ち王国魔法研究所へと向かう事となった。
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