それから一週間が経ったある日。
「よっ。フィアナ」
「ルキアさんどうしたんですか?」
私達の家にルキアさんが尋ねて来たのだ。あの一件の後一度も家に来ることのなかったのに一体どうしたのだろうか? もしかして何か問題でも起こったとか。
「その、あれから大分経つし、そろそろ落ち着いて話してもいいかなーなんて思って……」
「?」
困った顔でそう言われても一体何のことだか分からず私は不思議に思うだけだった。
「ってことで、ちょっと付き合ってくれよ」
「う、うん」
よく分からないまま彼に連れられてある場所へと向かう。
そこは大通りを抜けたさきにある市街地のテラス。ここから街を一望できる場所であった。
「……オレさ、フィアナと出会う前、すんごく小さかった頃さものすごく弱い子でいつも泣いてはルシアやルチアが助けてくれていたんだ」
「……」
話し始めたのは私がここに来る前のルキアさんの幼少の頃のお話でどうしてそんなこと言うのか分からなかったけれど黙って聞きいる。
「それからフィアナに出会って、それでオレ強くなろうって決めて騎士になろうと思って体を鍛えて剣の稽古もして……強くなったって思っていたし、もう大切なものを守れるだろうって思ってた」
そう言うと私へと顔を向けた彼が泣き出しそうな顔で微笑む。
「だけど、ヒルダの睡眠薬被って眠り続けるお前を見て、オレはあの時助けてあげられなかったことを酷く後悔した。このまま目を覚まさないんじゃないかって不安で……オレの気持ちも伝えられないままお別れするんじゃないかって凄く怖かった」
「気持ち?」
ルキアさんの気持ちって? どういうことだろう。ルキアさんが私に伝えたい気持ちがあったってことかな。
「フィアナ……オレな……ずっと小さなころからお前の事その……す、好きだったんだ。お前の側にいたのに、近くにいたのに全然守ってやれなかった自分に自責の念を感じていた。だからこれからはもう二度とお前が危険な目に合わないようにずっと側にいるって決めたしお前の事守り続けるって約束する。だからオレと付き合ってくれないか?」
「へ?」
付き合うってそれってもしかしなくても恋人としてってことだよね? どうして、そんな……だって姉の事がずっと好きだったんじゃ……
「ルキアさんは私の事好き、だったんですか?」
「そ、そうだよ。好きじゃなきゃあんなに必死にお前のためにいろいろやってやるわけないだろう」
今の言葉が聞き間違いなんじゃないかって思って確認したら彼は頬を赤らめそうはっきりと答えた。
「っ!」
「フィ、フィアナ?」
途端に瞳から何か生暖かいものが溢れて私の視界は微かににじむ。私の顔を見て驚いたルキアさんが焦っているけれどとめどなく溢れる涙は止まってくれなくて私は嬉しくて泣き続けた。
「私ねルキアさんはお姉ちゃんのことが好きなんだって思ってて、だからその恋を応援するんだって小さい時から決めていたの。だから、自分の恋心に蓋をしてずっとごまかしてきたのに……ルキアさんが私のこと好きだって言ってくれて嬉しくて涙が止まらなくて……」
「フィアナ……」
涙を必死に手の平で拭いながら話す私の左手をそっと取りその甲に軽くキスを落とす。
「……約束する。オレは君を守り続けると。そして必ず幸せにすると。だからオレを君だけの騎士として側においてくれないか?」
「ルキアさん……ルキアさんに守られる姫としてずっと側にいてもいいですか?」
姫に忠誠を誓う騎士のように跪いてルキアさんが言った。私も精一杯の気持ちを込めて尋ねる。
「勿論。今も昔も変わらず……オレの姫はフィアナだけだよ」
「はい!」
柔らかく微笑むルキアさんの言葉に嬉しくて力いっぱい返事をした。こうして私達は恋人としてこれから付き合うこととなる。
その後、私達の話を聞いた姉達は驚くのかと思っていたが「やっぱりね」「ようやくか」「ふふ、よかったわね」となぜか最初から知っていたかのように言われた。どうやらルキアさんが私の事を好きだってことは皆気付いていたらしい。それでも不器用な彼が告白するまでみんなでそっと見守ろうって感じだったらしい。知らなかったのは私だけで、ルキアさんの気持ちはいつも私に向けられていたんだね。……そう思うと急に恥ずかしさと嬉しさで心臓がうるさいくらいにドキドキしてきた。
「う~ぅ~。……ルキアさんはずっとお姉ちゃんが好きだと思っていたのにそれが全て違っていて私に向けられていたなんて……」
「ふふ。フィアナ可愛いわね」
「初心なんだからしかたないわよ」
ルキアさんはずっと姉のためにいろいろと努力していたと思っていたことがすべて私のために向けられていた。その事実に赤面してしまう私の様子に姉とルチアさんが微笑ましいと言わんばかりに言う。
「も、もう。気付いていたなら教えてくれてもいいじゃない。お姉ちゃんもルチアさんも意地悪」
「だって、ルキアが貴女のためにあれだけ必死になってるのに気づいていないだなんて思ってなかったから」
「昔からフィアナの側でいろいろとアプローチしていたからてっきり気付いていると思っていたのよ」
八つ当たりするように二人に言うと彼女達は困った子だなって顔で話す。そ、そんなに分かりやすいくらいアプローチされていたんだ。全然気づけなかった私も私だけど、ルキアさんももっと早く言ってくれてばよかったのに。
「フィアナ。やっぱり家に来てたんだな」
「ルキアさん」
扉が開かれルキアさんが入って来る。私は恥ずかしさと嬉しさで慌てて姉の陰へと隠れた。
「何隠れてるのよ。あなた達付き合ってるんだからもっと堂々としなさい」
「きゃ……お姉ちゃんの意地悪」
姉に突き出されルキアさんの前へと立つこととなった。どうしよう真っ赤になってないかな。ルキアさんはそんな私に気付いていないのか気付いていて何も言わないのかにこりと笑うと口を開く。
「フィアナ、ちょっと一緒に来てくれよ。お前に頼みたい事があるんだ」
「う、うん。分かった」
「「いってらっしゃい」」
ルキアさんにそう言われ手を引かれ雑貨屋を出る。その背へと向けて姉とルチアさんが笑顔で見送ってくれた。
こうしてルキアさんと恋人となった私の日常は少しの変化と変わらない大切な人達に囲まれて過ぎ去っていく。
「あ、そうだ。フィアナ……」
「な、何?」
歩きながら何か思いだした様子で口を開くルキアさんへと私は視線を向ける。
「そのペンダントな……オレ昔同じペンダントを付けた人と会ったことがあるんだ。その人の話だとそのペンダントは時渡のペンダントって言われていて過去の時代に自由に飛べるらしい。ただし過去の世界にいられるのはたった一日だけ。それを過ぎてしまうと時の迷い人となり二度と元の世界には戻れなくなり時の中を彷徨い続けるそうだ。だから扱い方を間違えてはいけないんだって……その人はそれだけ言うとオレの前に二度と現れることはなかったけれど、フィアナにこの話をしたらいつかまた再会できる日が来るかなって思ってる。これオレの勘なんだけどな。ほら、オレの勘て当るだろう。だから……そのペンダントの秘密ちゃんと覚えておいてくれよ」
「ルキアさんこのペンダントの秘密知っていたの? それなのにどうして今までずっと黙っていたの」
ルキアさんが話してくれたのは私の父の形見のペンダントの秘密でどうしてそれを知っていながらずっと黙っていたんだろうって不思議に思う。
「……なんか話したら、また俺の前から消えていなくなっちゃうんじゃないかなって思って、言えなかったんだ」
「また?」
またってどういう意味だろうって考えたけれどよく分からない。
「だけど、きっと彼女もこの話をフィアナにしてほしかったんだって思う。だからフィアナに教えようって思ったんだ」
「このペンダントの秘密を教えてくれてありがとう」
振り返りにこりと笑う彼の顔がとても寂しそうに見えたのは気のせいかな? 私は気付かないふりをしてお礼を言った。
ペンダントの秘密が解ったけれどこのペンダントを使う日が来ることはあるのかな。もしその日が来たら私はちゃんと元の時代に戻ってこれるのだろうか。少し不安になる気持ちを抑えてルキアさんの手に引かれ私は歩くことだけに意識を向けた。
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