ヒルダさんから話を聞いて私達は一度家へと戻るとフレンさんに元に戻る方法を伝え試してみる事となったのだが……
「やはり、俺の魔力では無理だったか」
「で、でも一瞬でも元に戻れたのだからもう一度試してみたら戻れるかもしれないじゃないの」
犬の姿で項垂れる様子に姉が励ます。そう、融合魔法により一瞬は人間の男の人の姿に戻れたのだけれど、瞬く間に白い光に包まれたかと思うと再び犬の姿に逆戻りしていたのである。
「いや、何度試したところで結果は同じだ。それよりも薬をもらってきた方のがいいだろう」
「それじゃあ、ちょっと話を聞きに行ってくるわね」
「あ、私も一緒に行く」
フレンさんの言葉に姉が言うと出かける準備をする。それに慌てて声をかけると私達はまた王国魔法研究所へと向かっていった。
「薬を作ることについては構わないのですが……その、お金がかかってしまいますが宜しいでしょうか?」
「構いません。おいくらですか?」
直ぐに話を聞きに戻ってきた私達の姿にヒルダさんも「やっぱりね」といった顔で薬を作ることに了承してくれた。でもお金がかかるらしい。私達のお小遣いで払える額だと良いのだけれど。
「魔法の材料となる薬草の費用と人件費を合わせて18000コールかかります」
「18000コール……」
彼女の口から飛び出した金額に姉は冷や汗を流す。お母さんとお父さんが送ってくれる仕送りで生活費を切り詰めたとしても全然足りないよ。どうしよう……
「今すぐに用意しろとは言いませんのでお金が集まったらまたわたしの所に来てください。薬は作っておきますので」
「はい、お願いします」
私達の様子に困っていると察したヒルダさんがそう言ってくれた。姉がお願いすると言って頭を下げると私達は家へと戻りフレンさんに話をする事となった。
「18000コールか……その、すぐに用意できるものではないだろう」
「明日早朝から私が広場で踊りを踊って稼ぐしかなさそうね」
話しを聞いた彼も難しい顔で呟く。それに姉が答えた。
「なら俺も手伝わせてくれ。俺が戻るために必要な薬なんだからな。それくらいは当然だ」
「分かった。なら、フレン。お願いするわ」
フレンさんも姉のお仕事を手伝うといった。私も何か手伝いたい!
「お姉ちゃん。私も手伝わせて」
「え、フィアナはダメよ。無理してまた病気になって寝込んだりしたらどうする気? 貴女には働くなんて無理なんだから大人しく家で留守番していて」
「で、でも私だってもう……」
また病人あつかいする姉に食って掛かるがその言葉は途中で消える。
「でももだってもないわ。貴女には無理よ。フィアナが働かなくったって私とフレンで頑張って来るからね」
「……分かった」
「……」
姉に言いくるめられ渋々頷く私の様子にフレンさんが何事か言いたげな顔で見ていた。
「兎に角、フレン。明日は朝が早いから今日は早めに休んでね」
「あ、あぁ。分かった」
そうして二人は翌日どのような感じで踊りを披露するのかの段取りを決めるための話し合いを始めてしまい、私はつまらないので自室へと逃げ込む。
「お姉ちゃんたらいつまでも子ども扱いして……私だって、私だって……」
ベッドへと飛び込むと溢れ出る感情を押さえ込むように愚痴をこぼした。
翌日、起きてくるとすでに姉とフレンさんの姿はなくて朝食が机の上に用意されていた。手紙には遅くなるかもしれないから買い物を頼むと書かれてあり、私は何もできない自分が情けなくて家を飛び出し気晴らしにルチアさんの両親が営む雑貨屋へと向かっていった。
「こんにちは。フィアナ、久しぶりね。犬を飼ってから最近全然寄ってこないからどうしているのか心配していたのよ」
「ごめん。いろいろとあってここに顔を出せなくて……」
お店に入ると私に気付いたルチアさんが近寄って来る。フレンさんの事でいろいろとあって顔を出すどころではなかったので心配させてしまっていたことに申し訳ない気持ちを抱いた。
「貴女もティアも元気にしてるなら別にいいのだけれど。でもやっぱり少し寂しいからたまにはここに顔を覗かせてね」
「うん。これからは顔を覗かせに来るようにするね」
ルチアさんが微笑み言った言葉に私は頷き答える。
「まぁ、犬を飼ってから大変なのだろうけれど……何か困った事があったらいつでも言ってね」
「あ、そうだ。ルチアさん早速困ってることがあるんだけれど聞いてくれる?」
彼女の言葉に私は良い事を思いつき口を開いた。
「まぁ、なにかしら?」
「あのね、実は今仕事をしたいなって思い始めていてね。それでここのお手伝いとかさせてもらえたらなって思うんだけれど」
ルチアさんへとお願いする。姉も何度か雑貨屋さんのお手伝いをしているし私にだってできるはず。
「貴女がここのお手伝いを? だ、だめよそんなの! フィアナ雑貨屋のお仕事って言っても一日中ずっと立ちっぱなしで作業しないといけないのよ。そんなこと貴女にはさせられないわ。そんなことしてまた身体を壊して熱でも出したらどうするつもりなの? ここのお手伝いはティアがやってくれれば十分だから貴女はそんなことしなくていいのよ」
だめもとで聞いてみたけれどやっぱりルチアさんも姉と一緒で私の事を病人あつかいするか。皆私に対して過保護すぎだよ。もう熱なんか出ないのに……
「分かったわね」
「うん……私市場で買い物しないといけないからもう行くね」
念を押されて渋々頷くと逃げるように雑貨屋を出る。はぁ、ここもダメか。となると後はどこかでお仕事を探すしかない。
「どうしようかな?」
今いるのは大通りここからどこに向かえばお仕事を探せるだろうかと考える。
「やっぱりもう一度雑貨屋に行ってルチアさんに頼んでみよう」
そう思い踵を返し雑貨屋へと向かおうとすると誰かに手を掴まれる。
「え?」
「お嬢さん。お仕事探してるんだろう。俺が良いところ紹介してやるよ」
驚いていると30代くらいの男性が笑顔で立っていた。この人さっき雑貨屋で見た人だ。話を聞かれていたのね。お仕事を紹介してくれるっていうけれどどうしようかな。
「大丈夫。丁度君くらいの若い娘を探していたんだよ。依頼主に会わせてあげるからついて来て」
「は、はい……」
半ば強引に連れていかれて向かった先は人気のない路地裏。そこには男性と同じ年代ぐらいの男の人が一人いて私の事を上から下まで眺めまるで値踏みをされているような気持になった。
「ふーん。……まぁ、いいんじゃないの? さて、お嬢さんこれから一緒に仕事先まで来てもらうんだけれど、その前にそのペンダントは持って行けれないからこちらに渡してもらおうか」
「え、ダメです。このペンダントは渡せません」
男の人の言葉に私はとっさに一歩後ずさりをするとペンダントを取られないようにと握りしめる。
「そんなの持っていたって仕事にならないの。これはオレが預かってやっから」
「や、止めて下さい!」
男の人は言うと強引に私の首からペンダントを取り外す。
「大丈夫、大丈夫。悪いようにはしないから……さぁ、君はこっちに」
「おい。貴様等何をしている?」
私に声をかけてきた男性に建物の奥へと連れて行かれそうになった時誰かの声が響いた。
「見逃してやろうと思ったが……そういうわけにもいかなくなったな。人の物を取るとは言語両断。そのペンダントは彼女に返してもらうぞ」
「あんたには関係ないだろう」
そこには騎士みたいな格好の人が立っていて左目には眼帯を付けていた。
「戯言は聞く気はない。……はっ!」
「ぎぁあ」
「ぐぇっ」
男の人は言うと瞬きの間に二人を薙ぎ倒す。
「ベルシリオ様」
「こいつらを連行しろ」
兵士の人が駆けつけてくると男性はそれだけ言って二人の事を兵士達に任せ私の方へと近づいてくる。
「お嬢さん怪我はないか?」
「あ、有難う御座います。私は大丈夫です」
男性の言葉で我に返った私はお礼を言う。
「いや、礼にはおよばない。彼等は逮捕要請が出ていた人攫いだ。君に危害が加われなくて良かった。それからこれをお返しする」
「あ、私のペンダント……」
あの人達人攫いだったんだ。何事もなくてよかったけどこの人が助けてくれなかったら私売り飛ばされていたかもしれないのよね。と思っていたらペンダントを返される。いつの間に取り返していたんだろう?
「有難う御座います。このペンダントはとっても大切なものなので」
「いや……仕事を探しているそうだな。付いてこい」
「は、はい」
男の人の言葉に私は慌てて彼の後について歩く。一体どこに向かうんだろうか?
大股で歩く男の人に置いていかれないようにと私は必死に後を追いかけて行った。
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