二十歳の誕生日を迎えると共に両親から送られて来た手紙により時渡のペンダントを使い過去の時代へと飛び若かりし頃の両親を助けに行くこととなった私。
話しを聞いた皆は心配したり一緒に行くと言ってひと悶着あったりと大変だったけれど何とか話し合いで解決し、私が一人で過去の時代へと飛ぶことを許してもらえた。
「それじゃあ、行ってくるね」
「気を付けるのよ」
「何かあったらすぐに戻って来るんだぞ」
「いいか、絶対にタイムリミットまでには帰って来いよ。そうじゃないと……」
「大丈夫だよ。ちゃんと帰って来るから。……それじゃあ、行ってくるね」
心配した顔で見送る姉とルシアさんとルキアさんに笑顔で声をかけると私はペンダントへと意識を向けた。ヒルダさん……あ、違った。本当の名前はドロシーさんだったね。ドロシーさんから教わった通りに魔石へと手を当てる。すると地面に時計の形の魔法陣が現れ私の身体は空中へと浮かび上がる。
「!?」
一瞬視界が歪んだ次の瞬間見慣れない森の中に私は一人で立っていて、姉達の姿も無くなっていた。
「……無事に時渡出来たってことかな?」
景色が変わったのだから無事に過去の時代へと渡ることができたのかもしれない。兎に角ここからどうやってお父さんとお母さん……じゃないや。若いころのルークさんとアンナさんを探せばいいのやら。
「ちぃちぃ」
「小鳥さん……そうだ!」
木の上に止まる小鳥をぼんやりと見ながら私はあることを思いついた。
「ねぇ、小鳥さん。私人を探してるの。この辺りで人間を見かけなかった?」
『人間? う~ん。この辺りでは見かけてないわよ。でも私のお友達から聞いた話だとこの前東にある人間が作った古い建物の辺りで人を見かけたって聞いたわ』
「有り難う」
こういう時動物と会話できるって便利ね。小鳥さんから貰った情報を基に方位磁石で位置を確認すると、とりあえずここから東へと向けて歩みだす。
「東にある古い建物って……遺跡だったのね」
昔の人が造り上げた神殿のようある。とりあえず何か手がかりはないかと中へと入ってみることに。
「……これは」
中には壁画が描かれた空間がありその絵を見た私は目を見開く。そこに描かれていたのは一人の女性が踊りながら魔法陣を描き出す様子で、それは以前女王の破滅の魔法を止めるために姉が踊って描き出した封印の魔法と全く同じだったのだ。
「……もし、ここに来たという人がお父さんとお母さんならばこの壁画を見てお母さんは封印の魔法を覚えたのかもしれない」
確証はないけれどその可能性は十分に考えられる。私はここに来た人達の痕跡が残っていないかと周囲をくまなく調べてみた。
「足跡……大きさからして男の人と女の人よね」
そこには複数の足跡がありその中の一つは女性のものであることが分かった。そして足跡はまだ新しい。風化していないということは小鳥さんが教えてくれた人物達のものの可能性がある。この足跡からしてまだそう遠くには行ってないだろう。
「今から追いかければいつか追いつけるはず」
この足跡の主の中にお父さんとお母さんがいる事を願い私は遺跡からでて動物達に情報を貰いながらその人達の後を追いかけて旅を続けた。
そうして旅を続けながらタイムリミットが迫ってきたころに未来へと戻り過去と現在を行ったり来たりすること数週間。ようやく私は足跡の主達の下へとたどり着くことができたのである。
「あの人達だわ」
私が最初に現れた森から大分離れ大きな町までやってきた。そこで動物達に話を聞いてようやく見つけた足跡の主達。女性が一人に男性が三人。だけどよく見ると青年と少女のように見える。その中の二人の顔は若くても見紛うはずもなくお父さんとお母さんであることが直ぐに分かった。
「なんか、あれって危ないわよね」
お父さんとお母さん達は誰かと対峙している様子なのだけれど追い詰められ今にも殺されそうなのである。
「それにあの赤黒い魔法陣……間違いないあれは女王が使おうとしていた破滅の魔法。このままじゃお父さんとお母さんが」
そう思った途端いてもたってもいられなくて私の足は勝手に動いていてお父さんとお母さんの前へと駆けこんでいた。
「!?」
「だ、誰?」
驚くお母さん達には答えずに私は何かあった時のためにと渡されていた魔法薬の瓶のふたを開ける。
すると辺り一面光が放たれ私達の姿はそこから消えていた。
「ゴホ、ゴホ……だ、大丈夫ですか?」
「ゴホ、ゴホ! 一体何が起こったの?」
瞬間移動した先は埃っぽい場所で思いっきりせき込みながら私は尋ねる。それに若いころのお母さんがむせ返りながら聞いてきた。
「あのままだと危ないと思い、この魔法薬を使って瞬間移動で別の場所に移動したんです。皆さん無事でよかった」
「貴様は一体何者だ? 助けてくれたということは敵……ではないのだろうが」
私の言葉に剣をもった人が鋭い眼差しで睨み付けながら言う。まぁ、警戒されても仕方ないか。
「私は……」
ここで返答に困ってしまった。お父さんとお母さんに頼まれて未来から過去にいる二人を助けに来たなんて言ったって信じてもらえないどころかますます怪しさで警戒されてしまうだろう。ここは無難な言葉を選ばなくては……
「私は友人から頼まれてあなた達の助けになるようにと言われて皆さんを探して旅をしていた者です」
「友人とは誰だ?」
私の言葉に鋭く追及してくる剣士の言葉に頭を捻らせ考えながら口を開く。
「未来を予言できる魔法使いの友人です。その友人が言うにはあなた達は世界を崩壊の危機から救うことのできる人達なのだと。だからあなた達を助けて世界を守って欲しいと頼まれたのです」
ドロシーさんから昔聞いた話を言葉を変えて伝えるとなぜか驚いた顔で私を見る。
「どうして俺達が世界を救おうとしていることを知っているんだ?」
お父さんの言葉に私は変な顔をしないように気を付けながら言葉を選ぶ。
「それは今話した通りに未来を予言する事の出来る魔法使いの友人から聞いたからです。それで、私は皆さんの助けになるためにここに来ました。……あなた達が敵対している人が使おうとしている破滅の魔法。それを止める事の出来る魔法を貴女に教える為です」
「私に?」
私の言葉にお母さんは驚いて己を指し示す。
「はい。……ちょっと前に古い神殿に立ち寄りましたよね。そこの壁画に描かれていた絵を覚えていますか?」
「どうしてそれを?」
私の言葉にお母さんがさらに驚いて目を瞬く。
「実はその壁画に描かれている舞と魔法陣こそ破滅の魔法を阻止する事の出来る古代の封印の魔法なんです。貴女ならそれを扱うことができるはずです」
「どうして、私が……」
「アンナは踊り子だろう。だからこの中ではそれができるのがお前しかいないってことなんじゃないのかな」
私の言葉に困惑するお母さんへと魔法使いっぽい格好の男の人が話す。
「兎に角君が敵ではないことは分かった。……自己紹介が遅れたな。俺はルーク。演奏家の卵だ」
「私はアンナ、踊り子見習いよ」
「俺はジャスティン……ちょっと前までルドアニア王国で剣士として働いていたが、今や我が国はザハル国の帝王に攻め落とされ壊滅状態。その為ザハル国の王を倒すためこの者達に協力してもらいザハルへと向かっていたのだ」
「わたしはハンス。魔法使いです」
「私は……」
これが後の英雄となる彼等との出会いであり、運命のほんの始まりに過ぎなかった。
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