帝王を倒した後も時渡のペンダントで度々過去の時代へと飛んで用事を済ませた私はようやく全てを終わらせ未来へと戻ってきた。
「はぁ~。……これでもう私は二度と過去に行くことはなくなる」
そう考えると少し寂しいと感じてしまう。たった一時だったとしても過去で関わった人達とお別れすることになるのはやはり悲しいから。
「なに感傷に浸ってるのよ。貴女がいるべき場所はここでしょ」
「お姉ちゃん……」
私の呟きを聞いていたらしい姉へと視線を送る。
「それに、貴女には待つべき相手がいるじゃない。その人と再会しないまま終わるつもり?」
「……」
姉の言葉に過去の世界で出会った少年の事を思い出す。あれから一度も会えないままだったが彼はちゃんとお仕事ができるようになったのだろうか。ちゃんと生きていけれているのだろうか。
「フィアナ?」
「何でもない。私、ちょっと気になるからザールブルブに行ってくるね」
その様子に怪訝そうに声をかける姉へと答え、私はザールブルブへと向かった。
行った所であの時の少年に再会できるか分からない。それでも、探したくて、もう一度会いたくて……彼と別れたあの町の河川敷まで向かった。
「やっぱり、あれからずいぶんと時が経っているから町並みも変わってしまっているんだね」
そんなことは当たり前だったのに。過去と未来とではずいぶんと変わってしまった街の中を当時の事を思い返しながら河川敷を目指す。ずいぶんと綺麗になった河川敷で私は一人佇む。
「……カーネスさん」
ここに来れば会えるかもしれない。と、そう思った。あの時の少年がカーネスさんであったのかどうかは分からない。けれど、もし彼なのだとしたらここで待っていれば会えるかもしれない。そう考えたのだけれどやはり違ったようだ。
「……私何してるんだろう。帰ろう」
悲しくなってしまってそれをごまかすかのようにオルドラへと帰ろうと踵を返す。
「そこのお嬢さん、こんなところで如何したのですか?」
「え?」
聞こえてきた声に驚いて振り返るとカーネスさんが優しい微笑みを浮かべて立っていた。
「カーネス……さん?」
「やはり、あの時の女性は貴女でしたか。ここで、俺が来るのを待っていてくれたのですか」
目の前に立っているカーネスさんの姿に私は驚くことしかできなくて、彼がそう言って微笑む。
「……カーネスさんもずっと、ずっと私の事を待っていてくださっていたんですよね。ごめんなさい。ずいぶんと長く待たせてしまいました。もう、どこにも行ったりなんかしません。ですからもう待たなくて大丈夫ですよ。だから、カーネスさんも――」
「意地悪ですよね。貴女もそして俺も……ですがもうそんな事どうでもいいのです。貴女とようやく会えた。それだけで十分です」
私が話していると腕を掴まれ強引に引き寄せられその唇へと優しくキスを落とされる。それに驚いているとそっと放れた彼が意地悪そうに微笑み言った。
「あの日あの時、貴女と出会い俺は救われました。あれから仕事も勉強も頑張りザァルブルブの王宮で魔法使い見習いとして入り。それから時は流れ俺は魔法使いの長として地位と名誉を確立しました。貴女が教えてくれた通りに世渡り上手に生きてきた。ですが……きっと、貴女が本当に伝えたかった生き方とは違っていたのだといまなら分かります。それでも俺のした事を後悔することはありません」
「カーネスさん。私もあの時貴方に言われた言葉の意味を今なら分かります。ごめんなさい。貴方にとても辛い思いをさせてしまって。本当は気付いてもらいたくて言ったんですよね。気付くのが遅くなってごめんなさい」
彼の話に私も申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら言う。
「……本当に、貴女には敵いませんね。こんな俺の事をずっと待っていてくれるなんて……もう二度と手放したりなんてしませんよ」
「はい、これから先どの様な困難が待ち受けていようとも私はずっと、ずっとカーネスさんについて行きます」
カーネスさんの言葉に私は大きく頷き答えた。
「まずは姉達に話をしないといけないのですが、認めてもらえるかな」
「そればかりは俺も自信はありませんね。別れろと言われるほうなら考えられますが」
私の言葉に彼も苦笑して溜息を零す。どうやら私達の道は最初から前途多難のようである。
それでもこれからが本当の始まりなのだろう。すれ違ってきた過去が点と線が結ばれるように重なった時、全ての歯車はかみ合い廻り出すのだ。
彼とならどんな未来が待ち受けていようともかまわない。カーネスさんと別れるなんて選択私の中にはないのだから。皆が反対しようと私は夜逃げしてでも彼と一緒になる。……と言った所で許してくれそうにないからちゃんと理解してもらえるまで話し合うことになるだろうけれど。
私達はもう二度とその手を放さないようにしっかりと握り合いオルドラ国へと向けて転移魔法で戻って行った。
それから姉やルシアさんやルキアさんに彼と付き合いたいと話すと皆驚いて、姉は最初は何か言いたそうな顔をしたが応援するといった言葉に嘘はないからと笑い、ルシアさんは思っていた通りに大反対。ルキアさんが笑顔で剣を構えて「勝てたなら認めてやる」と言った時は流石に止めたけれど二人を説き伏せるのには骨が折れた。
フレンさん達にも話に行った時ももう大変で、フレンさんは賛成してくれるかなと思ったけれど最初は反対意見ばかり、そりゃ罪を犯した人と一緒になりたいといった私の事を心配していろいろと言われましたが最終的には納得してくれる。流石は王様なだけはあるよね。アレンさんは最初驚いた後「フィアナさんに似合う相手かどうかぼくが確かめます」といって魔法合戦が起こりそうになり慌てて止めて、どうにかこうにか穏便に話をして認めてもらう。ヒルダさんは「こんな男の何処がいいのか分からないけれど、フィアナが決めた事なら応援するわ」と言ってくれた。
レオンさんはどこにいるのか全く持って見当もつかないので話せなかったけれどカーネスさんが時々殺気を感じると言っていたけれどまさかね。レオンさんはもう暗殺者を辞めたのだからカーネスさんの命を狙うことなんてないと思うし、殺気の正体は分からないけれどそのうち解決するから気にするなと言われ私はそれ以上の事を聞くのを止めた。
と、いろいろとあったけれど私と彼がお付き合いすることを皆から認めてもらい私達はようやく恋人同士になれたのである。
「……ふふっ」
「なんですか、人の顔を見てニヤニヤして気持ち悪いですよ?」
カーネスさんの顔を見て笑う私に彼が気持ち悪いと言ってあきれる。
「すみません。隣にカーネスさんがいるなと思ったらつい。今まではすれ違ってばかりでしたしずっと離れ離れだったので隣にいてくれる幸せがとても嬉しくて」
「本当に貴女って人は……ですが、それは俺も同じ気持ちなので今日はこれ以上聞くのはよしておきましょう」
私の言葉に彼が困った顔で微笑み言う。同じ気持ちか……嬉しくて変な顔してないかな。
「フィアナさん……これを貰ってくれませんか」
「これは……」
ふいにカーネスさんが何かを差し出してくる。それを見た私は驚いてしまった。小さな箱に収められているダイヤモンドの指輪。これってもしかしなくても?
「貴女の気持ちが私と同じなのであれば貰ってくださいますよね」
「勿論です。とっても嬉しくて何故か分からないですけれど涙が止まりません」
柔和に微笑む彼の言葉に私はその婚約指輪を受け取り答える。
恋人になって間もないのに結婚したいだなんて普通なら考えられないかもしれない。だけれど私達は25年前からずっとお互いのことを想い合ってすれ違ってきたのだ。むしろ遅いくらいなのだろう。だからこそこの気持ちが通じ合った今だから結婚したい。そうなのだと思う。ここから私達の新しい生活が始まりを迎える事になるのだ。
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