追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
退会したユーザー ?
退会したユーザー

七章 いつかの約束 (ルキアルート)

公開日時: 2022年4月22日(金) 03:00
文字数:6,658

 小鳥さんを見送ってから時間はどんどん経過していき気が付いたら牢屋の中で朝を迎えていた。

 

「おい、出ろ!」

 

 

「「「……」」」

 

牢屋の鍵が開けられると一人の兵士が中に入ってきて私達は連れ出される。

 

このまま処刑場へと連れて行かれるのだろう。やって来たのは大きな広場で処刑台となる場所には民衆が集まっていた。

 

私達は処刑台になる十字に組まれた木に体を縛り付けられる。周りを見回すもお母さん達の姿はなく、不安と緊張で心臓の音がうるさいくらいに騒ぐ。小鳥さんを信じるしかない。きっと大丈夫だ。そう内心でいくら呟いても恐怖はぬぐい切れない。

 

「皆の者よく聞け。こ奴等は我に刃向かい命を狙った。よって今後二度と我に逆らうものが現れぬようこの場で公開処刑を執り行う!」

 

物見台の上へと帝王がやって来ると優雅に座り声高々に叫ぶ。

 

「冥途の土産だ見るがいい」

 

「「「っ!?」」」

 

帝王の言葉に兵士が何かをこちらの足元へと放り投げる。最初は何を投げつけられたのか分からなかった。でもそれをよく見ると人であることが分かりその顔はロウさんで彼は無残なまでに切り刻まれていた。……ずっと見ていると気持ち悪くなってきて私は慌てて目を閉ざし見ないようにする。

 

「貴様等もすぐに仲間の下へ送ってやる。……処刑を執り行う。始めよ!」

 

帝王の言葉に私達の横に一人ずつ兵士が駆け寄り剣を抜き放つ。私は覚悟を決めて目を閉ざした。

 

「…………え?」

 

しかしいつまで経っても剣が振り下ろされることはなくおかしいと思い目を開けてみると私を縛り付けていた縄が切られていて驚く。

 

「貴様等、何をしておる? まさか、我に刃向かうか!」

 

「ここで処刑されるべきは彼等ではない。……帝王貴様だ!」

 

「ジャスティンさん?」

 

苛立たしげな帝王の言葉なんか気にしていない様子でアルスさんの隣に立っている兵士さんがそう言い放つと兜を捨てる。その見慣れた顔に私は驚く。ジュディスさんの側にはリックさんがそして私の横にはルークさんがいて「もう大丈夫だ」といいたげに微笑んでいた。

 

「間に合ってよかった。もう大丈夫よ」

 

「アンナさん……」

 

私の下へと駆けつけ抱き締めてくれたアンナさんの言葉に安心感でつい身体から力が抜けていく。みるとハンスさん達もこちらへと駆け寄ってきていた。見慣れない女性が二人一緒に付いて来ていたがきっとリックさんのお母さんとお姉さんだろう。

 

「ピィーッ」

 

「小鳥さん……有り難う」

 

私達の真上を一羽の白い小鳥が迂回する。その姿に私は心からのお礼の言葉を述べる。

 

「何をしている。その者達を全員残らず捕らえよ!」

 

帝王が命令すると兵士達が慌ててこちらへと武器を手に持ち駆け寄って来る。民衆は我先にとこの場から逃げ出し残ったのは私達だけになった。

 

「ど、どうするだ? 兵士に捕まっちゃうだよ?」

 

「私に任せて下さい」

 

「任せるって、フィアナ一体何を?」

 

慌てるアンジュさんの言葉に私が言うとルークさんが驚く。

 

「まぁ、見ていてください。……えぇい」

 

自信満々に答えると私は前へと一歩進み出る。そして懐に隠し持っていた小瓶を兵士達目がけ投げつけた。頼りない速度で飛んでいったそれは地面にたたきつけられると中身がぶちまけられ煙が発生する。するとそれを吸い込んだ彼等はその場へと倒れ込んだ。

 

「睡眠薬です。ちょっと強力に作っているものなので直ぐには目を覚ませません」

 

これはかつて私が被って眠りこけてしまった睡眠薬と同じもの。ドロシーさんが何かあった時に使いなさいと渡してくれていた物だ。効果は保証済みの為これで兵士達が目を覚ますことはまずないであろう。

 

「さぁ、残るは帝王だけです」

 

「フィアナ、感謝する。帝王、覚悟するがいい」

 

私の言葉にジャスティンさんが小さく礼を述べると鋭い眼差して物見台の上にいる帝王へと宣言した。

 

「ふん、こざかしい。貴様等なんぞに我が倒されるものか。以前は邪魔が入り取り逃がしてしまったが、今日こそあの魔法で片を付けてやる」

 

「な、この魔力は?」

 

帝王が言うと地面一体に赤黒い魔法陣が現れる。その魔力にハンスさんが冷や汗を流した。

 

「古代の破滅の魔法を使うつもりなのね……アンナさん」

 

「は、はい?」

 

私はアンナさんへと視線を向ける。彼女はその勢いに驚いた顔でこちらを見た。

 

「私が以前教えた事覚えていますか?」

 

「封印の古代魔法の事かしら……えぇ。勿論覚えているわよ」

 

私の問いかけに何の事だかすぐに分かったようで答える。

 

「今すぐそれをお願いします」

 

「こ、ここで古代の封印の魔法を私に描き出せって言うの? 無理よ。魔法なんて覚えた事もない私がいきなりやったことのない魔法陣を描き出すだなんて」

 

私の言葉に自信が無いと言って首を振るお母さんに私は彼女の手を握りしめ口を開く。

 

「大丈夫。アンナさんなら絶対にできます」

 

「…………不思議ね。貴女が言うと大丈夫な気がしてきたわ。分かった、やってみる」

 

しばらく私の瞳を見詰めていたアンナさんがふっと微笑むと了承してくれた。そして彼女は私達の前へと進み出ると一呼吸を置いてから壁画の絵を思い出すように瞳を閉じて舞を踊り出す。

 

その姿は女王を止めるために魔法陣を描き出した姉の姿と同じで……私は自然と涙がこぼれていた。

 

「ぐぉぉ……ま、魔力が……我の魔力がなくなっていく?」

 

帝王が苦しげに呟くと物見台から足を滑らせ落ちてくる。力が入らないのか膝をついたままの姿で動かなくなった。

 

こうして帝王は革命軍により捉えられ後にその罪の重さから処刑される。アルスさんことカイルさんが路頭に迷うこととなってしまった国民を救うために新たにザァルブルブ国を建設し国王となると、隣国オルドゥラ国の王子だったジュディスさんことライディンさんが父親の後を継いで王位に即位した。

 

新たな国を創り上げるために力になってもらいたいとジャスティンさんとリックさんは王を守る側近兵として仕える事となり、アンジュさんはメイド長として働くこととなった。

 

孤児となってしまったドロシーさんも王宮で預かり育てる事となり、魔法に興味を持った彼女のためにハンスさんが師匠となり魔術を教える。それが終わった後彼はオルドゥラ国に新たに建設された王国魔法研究所の所長として勤める事となった。

 

アンナさんとルークさんは旅芸人として二人で世界中を飛び回るようになり、アイリスさんとロバートさんは住み慣れたラウラスの森へと帰っていてこうして私達はそれぞれの道を進む事となる。ちなみに別れる前に皆に私が未来から来たことを暴露すると驚かれたが今までの謎の行動の意味が分かって良かったと言って笑ってくれた。

 

これで私の役目は終わりを迎えた。って思っていたけれども、その後も王国の建設を手伝ったりアンナさん達の頼みごとを聞いたりとで何かと過去の時代にもう暫く滞在することとなる。


 ザハルの帝王が倒されてから時は過ぎ去りザールブルブとオルドラと国名が改名された頃、私はアンナさんとルークさんの頼みを聞くため過去の時代へと来ていた。

 

「頼みたい事があるって……いつもながら唐突なのよね」

 

小さく苦笑を零すと待ち合わせ場所へと向かう。

 

「フィアナ、来てくれたのね。有り難う」

 

「毎回毎回頼み事ばかりですまないな」

 

「いいんですよ。二人の頼み事を無下になんてできませんから。それで、お願いしたい事って?」

 

アンナさんとルークさんが私に気付き声をかけてくる。二人は今では結婚して一人娘であるティアさんの育児のため暫くの間オルドラ国で生活していた。そんな二人のお願いっていったい何なんだろう? 育児の悩みとかを相談されてもあまり役には立ちそうにないと思うけれど……

 

「私の友人がね子育てで悩んでるのよ」

 

「私に子育ての悩みを相談されても役に立たないと思いますよ」

 

ティアさんの事ではなかったけれど子育ての悩みの解決を手伝ってほしいと頼まれ慌てて断る。

 

「まぁ、まぁ。大丈夫。フィアナにしか頼めない事だから、ね、お願い」

 

「話だけでも聞いてくれないかな」

 

「分かりました」

 

二人に切願され仕方なく頷くとこれから友人の家に向かうというのでついて行くことに。

 

「ルシア君、ルチアちゃん、ルキア君。こんにちは」

 

「「「……」」」

 

(友人って雑貨屋のおばさんの事だったんだ……)

 

店の前で遊んでいる三つ子へと笑顔で声をかけるお母さんの言葉には返さずに、知らない人が一緒に来ていると物珍し気な眼差しで私を見詰めてくる三人の姿を見ながら内心で呟く。

 

「あぁ、アンナいらしゃい。待っていたのよ。さぁ、中に入って」

 

「お邪魔します」

 

ずっと見られているから私も挨拶くらいした方が良いかなと思っているとおばさんが出てきて私達は店の中へと通される。

 

奥に入り客間へと案内されるとそこで座っておばさんが戻って来るのを待つ。

 

「早速で悪いんだけれど、相談に乗ってもらえるかしら? 実はねうちの子達の事なんだけれど、ルチアは女の子なのに男二人の間に挟まれて育ってるせいか勝ち気で男勝りで困っていてねぇ。それでアンナの所のティアちゃんが友達になってくれたら少しは女の子らしくなるんじゃないかと思って。ルシアも長男って意識が強いみたいで手のかからないいい子だけれどそれ故に私達に遠慮してあまり自分の事を語ったり問題を抱えていても一人で解決しようとしたりしてね。それからルキア。あの子は純粋な子なんだけれど喧嘩っ早くてこの前も近所の子ともみ合って怪我して泣いて帰って来たりして困ってるんだよ。私達が何とかしてあげないといけないんだろうけれど、店があるからなかなか三人に寄り添ってあげられなくてねぇ」

 

「分かったわ。ルチアちゃんの事は家のティアに任せて。女の子通し仲良くなれると思うから。それからルシア君の事は私とルークで何とかしてみるわ。それでね、ルキア君の事なんだけれど彼女に任せてもらってもいいかしら」

 

お茶を持ってきたおばさんが配り終えると席に着く。そして一息も入れないまま悩みを打ち明けた。その言葉にアンナさんが微笑み答える。

 

「そう言えば今日は助っ人を連れてくるって言っていたけれど、彼女があんたが言っていた助っ人かい?」

 

「えぇ。彼女ならルキア君の気持ちを読み取って寄り添えると思って私が頼んできてもらったの」

 

私を見詰めておばさんが話すとそれにお母さんが返事をした。

 

「あの、私にできる事なら何でもする気持ちでいますので、ルキアさんの事は私に任せて下さい」

 

不安そうな顔で私を見詰めるおばさんが口を開く前にそう言って頭を下げた。ルキアさんのためなら私にできることしたいから。それに喧嘩ばかりしているなんて……今の彼から考えたら想像もつかないけれど、そうしないといけない何か大きな理由があるはず。それを聞き出して解決すればきっと喧嘩なんかしなくなるはず。私の勢いに押されたおばさんがお願いしますと言ってくれたのでさっそく問題解決をするために店の外へと出て行った。

 

「お店の前で遊んでると思ったんだけれど……」

 

お店の前で遊んでいたはずの三人の姿はなくなっていてどこかに遊びに行ってしまったようである。

 

「う~ん……ルキアさんが行きそうな場所っていうと」

 

子どもの頃ルキアさんとよく行っていた場所は森や林とか、町中の広場とか……兎に角いろんなところに行っていた記憶がある。どこにいるのだろうと場所を絞っているとふとルキアさんに告白された市街地のテラスを思い出した。

 

「もしかしたらそこにいるかもしれない」

 

そう思うと私は市街地のテラスへと向けて足を進める。思った通り彼の姿はそこにあったのだが膝を抱えて俯いていてよく耳を澄ませるとすすり泣く声が聞こえた。

 

「どうして泣いてるの?」

 

「!?」

 

急に声をかけられたためか驚いてルキアさんが顔をあげる。

 

「あ、あんたには関係ないだろう」

 

「……」

 

驚いていたのも数秒で直ぐにむくれるとそう言ってそっぽを向いてしまった。私は黙って彼の横に座り込む。そうしてしばらく何も話さずにただ寄り添っているとちらりとルキアさんが私を見てくる。

 

「……裏切られたんだ」

 

「……」

 

消え入りそうな声で呟いた言葉に私はあえて何も言わず彼の顔を見やった。

 

「友達だって信じてたのに……だからあいつのために俺は悪ガキ達と喧嘩したんだ。なのにあいつは俺を裏切りそいつらに味方して俺をいじめてきたんだ」

 

「……」

 

涙ながらに語った言葉に私はそっと彼を優しく抱きしめる。その行為に驚きルキアさんは目を大きく見開いた。

 

「とても辛い思いをしたんだね。でも、友達を許してあげて。きっとお友達は弱かったんです。だから自分を守る事で精一杯だったんだと思う。ルキアさんを裏切った時きっと心では何度も謝っていたと思うよ。だから、友達を許してあげて。ルキアさんはそれができる優しい人だと思うから。それにね、本当に強い人は弱い人の気持ちを理解してあげて許せるはずだから、だからルキアさんにはそういう優しくて強い人になってもらいたいの」

 

「お姉さん……うぅ……うわぁ~っ」

 

優しく諭すように話すと彼は大粒の涙を流しながら大きな声で叫ぶ。今まで内に溜め込んでいた感情を全て外に吐き出すかのようにしばらく私の腕の中で泣き続けた。

 

それがルキアさんとの最初の出会いで、このことをきっかけに彼とよくこのテラスで話をするようになる。

 

「……はぁ」

 

いつものように過去に飛びルキアさんに会いに来た私は重い溜息を吐く。ちょっと前にショックなことが起こって以来ここに来ることが躊躇われるようになっていたのだ。今日こそはルキアさんにさよならを言おうと心を決めるも笑顔で話しかけてくる彼の姿を見ていたら言い出せずずるずると今日まで来てしまって……

 

「でも、やっぱりこのままじゃ駄目だよね。いつまでもルキアさんを待たせるわけにもいかない」

 

未来で待ってくれている彼の下に帰らなくちゃ。そう思い私は過去のルキアさんと別れるべく市街地のテラスへと向かう。

 

「あ、お姉さん。今日も来てくれたんだね」

 

「こんにちは、今日は怪我していないようね」

 

笑顔が眩しい彼の下へと向かいながら私は声をかける。

 

「うん。お姉さんと約束してからオレもう喧嘩しないようにしたんだ。喧嘩なんか弱い奴がやる事だから」

 

「そっか、偉いね……」

 

言わないとさよならをしないとそう思っているのが顔に出たのかルキアさんが不思議そうな顔で私を見詰めた。

 

「ねぇ、お姉さんが何時も付けているペンダント。それ前から思っていたけどすごく素敵だよね。やっぱり……誰か大切な人から貰った物なの?」

 

「これはね時渡のペンダントって言われていて過去の時代に自由に飛べる物なの。ただし過去の世界にいられるのはたった一日だけ。それを過ぎてしまうと時の迷い人となり二度と元の世界には戻れなくなり時の中を彷徨い続けることになる。だから扱い方を間違えてはいけないの……あのね、ルキアさん。私そろそろ帰らないといけないの。だからもうここには来られない」

 

「っ!? ……なんで、いなくなっちゃうのか?」

 

私の言葉に俯き不機嫌そうに呟くルキアさんにごめんねと心で謝りながら優しい口調を意識して口を開いた。

 

「私を待ってくれている大切な人がいるから、だからその人の下に帰らないといけないの。だからね、ルキアさん……泣かないで。これが最後のお別れなんかじゃない。今も昔もこれから先ずっと変わらず私の中には「貴方」がいるから。だから、思い出したら私の事を迎えに来てね。その時に今度は私が思い出したら貴方の下に会いに行くから……」

 

「訳、分からないよ……いなくなるんなら黙って行っちまえよ! お姉さんの事なんか、覚えててやらねえから!」

 

私の言葉に涙でぐしゃぐしゃの顔でルキアさんが叫ぶ。そんな彼を優しく抱きしめる。驚いて泣き顔のまま目を見開く彼はすぐに戸惑った表情で私を見てきた。

 

「……貴方はずっと待っていてくれます。だから私も必ず会いに行きます」

 

この約束は必ず未来に帰ったら果たすから、だから、ずいぶんと長いこと待たせてしまうけれどでもどうか今ここで別れることを許してください。そう願いながらルキアさんから離れて歩き出す。背後からすすり泣く声を聞かないように振り切るようにただまっすぐ前だけを見詰めて歩いて行った。

 

(最後にアンナさんとルークさんにも別れを伝えよう)

 

もう二度とここに戻ってくる気はないのだから、これが最後になるのならばちゃんとアンナさんとルークさんにも別れを伝えるべきだと思った。結局この後また過去の時代に行くことになるのだが、それはまた別のお話である。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート