追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
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七章 募る想い (カーネスルート)

公開日時: 2022年4月8日(金) 03:00
文字数:2,591

 とても良い天気に鳥の鳴き声。ちょっと前まで女王によりこの国が攻め落とされそうになっていたなんて考えられない程穏やかで平和な一時。

 

「はぁ……」

 

あれから一日経って私は盛大に溜息をついていた。あの時は勢いでフレンさんにザールブルブに連れて行ってくれって頼んだけれど、よくよく考えてみたらカーネスさんが私に会ってくれるのかどうかも分からないのよね。

 

「カーネスさん……」

 

私はふと過去のことを思い返す。ザールブルブの城に潜入し捕まった時。あの玉座の間での出来事を。あの時は何が起こったのか分からなかったけれど私を突き飛ばしたのは……でもどうして彼がそんなことをしたのか全く分からない。もしかしてルキアさんはそうなることを予想していて眠り薬を放り投げたのだろうか。だとしたら彼の本意は一体何だったのだろう。

 

「教えて欲しいよ……」

 

こんな気持ち初めてでカーネスさんの事を考えれば考えるほど苦しくなり胸が締め付けられる。

 

「はぁ……」

 

「溜息なんかついてどうしたの?」

 

再び零れた溜息に誰かが声をかけてきてそちらを見やると姉が心配した顔で立っていた。

 

「お姉ちゃん……」

 

「どこか具合でも悪いの?」

 

心配する姉に私はどう説明しようか迷う。

 

「自分でもよくわからないんだ。考えれば考えるほど苦しくなって溜息ばかりついちゃうんだ」

 

「成る程、それは恋の病ね」

 

私の言葉に姉がくすりと笑い言う。恋の病?

 

「恋の病? これが、恋の病なの?」

 

「えぇ、そうよ。相手のことを思うと苦しくて切なくて辛くて溜息ばかり出てしまうのは恋の病よ」

 

これが恋の病なのか。初めての事で少し戸惑う。そっか、私カーネスさんに恋していたのか。だからこそ彼の気持ちが知りたくてそして私の気持ちを伝えたいって思ったのね。

 

「いつまでも子どもだと思っていたけれど、フィアナにもそんな時期が来たのね」

 

「お姉ちゃん……」

 

ニヤニヤ笑いながら言われた言葉に私は少し不機嫌そうに呟く。

 

「それで、その相手ってのがザールブルブにいる誰かなんでしょ。だからフレンに頼んで連れて行って欲しいって頼んだんじゃないの」

 

「う……」

 

流石は長年一緒に暮らしているだけはあり見抜かれてしまっているようだ。

 

「貴女が誰を好きになっても私はその恋を応援するわよ。あ、でも私とドロシー以外には言わない方が良いわ」

 

「どうして?」

 

如何して皆には言わない方が良いのだろうかと不思議に思い尋ねる。

 

「ふふ。皆あなたの事が大切だからに決まってるでしょ。特にルシアとルキアには言わない方が良いわ。下手したら相手を斬り殺さん勢いで殴り込みに行くかもしれないから」

 

「ルシアさんとルキアさんがそんなことするはずないじゃない」

 

姉の言葉に私は驚く。いくらかわいい妹のように思っているからと言って相手を斬り殺さん勢いで殴り込みに行くなんて考えられない。

 

「貴女の事が好きだからに決まってるでしょ」

 

「お姉ちゃんそれは違うよ。だって、二人は昔からお姉ちゃんの事が好きなんだから」

 

二人が姉の事が好きだということに気付いていない様子だったので説明する。

 

「ルシアさんは昔からお姉ちゃんの事となると見境なくなるし、ルキアさんは危険な森に薬草を取りに行くくらいお姉ちゃんの事が好きなんだよ」

 

「知らないってある意味幸せね……」

 

私の言葉に姉が溜息をついて言う。その意味が分からなくて私は不思議そうに見詰めた。

 

「ともかく、溜息ばかりついて悩むくらいなら相手に直接自分の気持ちをぶつけちゃえばいいわよ。大丈夫よフラれた時は慰めてあげるから」

 

「ちょっと、お姉ちゃん。フラれる事前提で話ししないでよ」

 

ただでさえカーネスさんの気持ちがわからなくて不安で仕方ないのにフラれる前からそんなことを言われたら怖くなってしまう。

 

「大丈夫よ。当たって砕ければいいの」

 

「砕けるなんてやだよ」

 

笑顔で言う姉に私は抗議するように叫ぶ。今の言葉のせいでカーネスさんに気持ちを伝えるのが怖くなってきちゃったよ。もう伝えない方がいっその事楽なんじゃないかな。

 

「まぁ、冗談はこのくらいにして。本気で相手の事が好きならちゃんと告白する事。フィアナ応援してるから頑張りなさいね」

 

「うぅ……緊張するよ」

 

姉の言葉に頑張れと言われても緊張してしまい身体を縮こませる。

 

「今緊張してどうするの。とりあえずはまずあなたは元気になることが先決なんだからね」

 

そう、私は未だに王宮の客室で療養中なのである。思った以上に体が弱くなっていて体調がよくなるのに時間がかかっているのだ。

 

姉やフレンさん達が時々様子を見に訪れてくれている。第二王子であるアレンさんも事あるごとにお見舞いに来てくれていて、彼にまで心配をかけさせているんだなと思うと申し訳なく思う。まぁ、目の前で倒れたのだからそりゃ心配されて当然だよね。そんなこんなで私は今も療養中の身なのである。

 

「早く元気になって、それであなたの想い人に気持ちをぶつけて来なさい」

 

「うん」

 

にこりと笑い言われた言葉に私は小さく頷く。

 

「もし上手くいったときはその時は紹介してね」

 

「それは別にいいけれど、でももし上手くいったとしても皆が皆賛成してくれるとは思ってないよ」

 

もし彼と思いが通じて恋人になったとしても、カーネスさんのしたことは到底許されることではないし、皆が皆祝福してくれるとは思えない。むしろ別れろって言われそうだ。

 

「それってどういう意味?」

 

「まぁ、上手くいった時に説明するよ」

 

不思議そうな顔で尋ねる姉に私はあいまいに答えた。上手くいくとは限らないし、私が彼の事を好きでもカーネスさんが私の事を好きでいるとは限らないのだから。だから今話す事ではないと思ったのだ。

 

「まぁいいわ。あなたの恋が上手くいった時に聞かせてもらうことにするわ」

 

「うん」

 

にこりと笑い姉が言う。私も頷くとこの話はここで終わることになった。

 

それにしても……会えないってだけてこんなにもつらく切ないものなんだね。二度と会ってくれないかもしれない。そう思うと気持ちが沈んで、彼の事を思うと溜息が零れて。

 

こんな気持ちで毎日過ごすなんていやだな。早く元気になってザールブルブにいるカーネスさんに会いたい。会って自分の気持ちを伝えたい。たとえそれで拒絶されることになったとしても私の気持ちだけでも知ってもらいたい。そう思うのは私のわがままなのかな。

 

募る想いに私は急かされるように早く体調がよくなるようにと願った。

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