追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
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ルキアルート

六章 絶体絶命の危機と希望の光 (共通ルート ルキアルート)

公開日時: 2022年4月21日(木) 03:00
文字数:5,555

 ザハルまであと少しとなったところで大きな町に立ち寄り最後の食料調達と武器の手入れを済ませた私達はいよいよ敵陣に踏み込む勢いで旅立つ。

 

もう直ぐ帝国が見えてくるはずなんだけれど深い森の中に足を踏み入れたところでドロシーさんが疲れてしまったらしく私達はここで野営することとなった。

 

「いよいよザハルね……私何だか緊張してきちゃった」

 

「それは俺も同じだよ。無事に勝利できると良いが……」

 

焚き火を囲い夕食を終えたところでお母さんが言うと両手を握りしめる。少し小刻みに震えている彼女へと励ますように肩に手を置いたお父さんも真面目な顔をして呟く。

 

「明日からはいよいよ帝国に入る。皆気をひきしめて行かないといけない。今日はもう休もう。英気を養った方が良いだろうからな」

 

ジャスティンさんの言葉に私達は思い思いに横になる。

 

「……」

 

真夜中。フクロウの鳴く声を聞きながら私はそっと起き出す。寝たふりをする事にもだいぶ慣れて来たな。こんな特技あってもめったに使わないだろうけれど……さて、早く戻らないとタイムリミットになってしまう。

 

「行くのね。気を付けて」

 

「はい」

 

そっと抜け出していく私へとアイリスさんが寝た格好のまま声をかける。私はそれに返事をすると野営地を離れ森の奥へと向かった。

 

「この辺りなら大丈夫かな」

 

周囲を見回し野営地から大分離れたことを確認するとペンダントへと手を添えた。時計型の魔法陣が足元に現れると私の身体は宙に浮かぶ。そして次の瞬間見慣れたリビングの床に足を着地させていた。

 

「ふぅ……」

 

「お疲れさん」

 

「ワン、ワン、ワン!」

 

小さく溜息を吐き出した時誰かに声をかけられそちらを見るとルキアさんが立っており、隣にはすっかり成犬になった殿が尻尾を振って出迎えてくれる。

 

「またすぐに戻らないといけないんだろう? ほら、殿。寂しいだろうけどお見送りだぞ」

 

「ク~ン……」

 

彼の言葉に殿がとても悲しそうな声をあげる。ルキアさんも寂しいって思ってくれていたら嬉しいななんて不謹慎な事を考えながら口を開く。

 

「もう直ぐ帝国ザハルに入るから。そうしたらいよいよ帝王と戦うことになると思うの。もうちょっとで終わるから、だから待っててね」

 

「俺が一緒にいて助けてやりたいけど、フィアナにしかできない事じゃしょうがないからな。……ここで帰って来るのを待っててやるよ」

 

「ワン!」

 

私の言葉に彼が心配そうな口調で話すと待っていると言って笑う。それに殿も「僕も待ってるからね」と言いたげな顔で吠えた。

 

「有り難う……それじゃあ行ってきます」

 

私は言うとペンダントへと手を当てる。魔石が反応し時計型の魔法陣が現れた。

 

「早く終わらせて帰らないとね……」

 

次に現れたのは夜明け前の森の中。私はセンチメンタルになる気持ちをごまかしながら野営地へと向けて体を反転させる。

 

「!?」

 

「やあ、おはよう。フィアナ」

 

「いつも一人でどこに向かっていたのかと思えば……こんな秘密があったとはな。さて、俺達が納得できるように説明してもらおうか」

 

「……」

 

振り向いたそこにいたのは笑顔なのに怖いジュディスさんと、腕を組み仁王立ちするアルスさん。その彼についてきたのだろう申し訳なさそうにこちらを見ているロウさんで私はしばらく硬直したまま動くことが出来なかった。

 

「つまり、お父さんとお母さんの頼みで時渡のペンダントを使い過去の時代にやってきてぼく達を助けに来た……ってことなの?」

 

「はい、そうです」

 

全ての事情を語るまで解放してくれそうにない二人に説明をすると話を聞いたジュディスさんが確認するように聞く。それに大きく頷き答えると二人は何事か考えこむように黙る。

 

「そうか、そうだとは知らずにその……フィアナの事をザハルの内通者だと疑ってしまってすまなかった」

 

「ぼくもごめんね。こんな理由があるとは知らなかったとはいえ君を疑ったことを許してもらいたい」

 

「いいんですよ。私も怪しいだろうなって思いながら本当の事が言えずにずっと申し訳ないと思っていたので」

 

謝ってくる二人に私は慌てて手を振って答える。

 

「アルス様、ジュディスさん、フィアナさん。そろそろ戻らないと、皆さんが目を覚ました時に私達がいないと心配しますよ」

 

「あぁ、そうだな。そろそろ戻ろう」

 

ロウさんの言葉に私達が頷き動こうとした時。足音が聞こえてきてザハルの兵士達に取り囲まれてしまう。

 

「「「「!?」」」」

 

「貴様等の正体は分かっている。おとなしくついてきてもらおうか」

 

警戒する私達へと一人の兵士が声をかける。でも剣に手をかけていて、従わなかったら斬り殺されるのではないだろうかと冷や汗を流す。

 

「でゃ! ……アルス様、ここは食い止めますので、皆さんと一緒に野営地へ戻ってください」

 

「ロウ! ……くっ」

 

「行こう」

 

ロウさんが前へと駆け出ると剣で兵士達を押さえる。驚いた彼等の意識はそちらへと向けられた。その隙に野営地へと戻れという言葉にアルスさんが何事か言いたげな顔をしたが私達に目配せして駆けだす。ジュディスさんが私の手を取り言うと引っ張るように走り出す。

 

「ロウさん……」

 

一人だけ残していくロウさんの事が心配で背後へと首を向ける。嫌な予感に騒ぐ胸が治まらず、それを振り切るように私は必死に前へと足を動かした。待っていて、野営地に戻ったら皆を連れて必ず助けに来るから。そう言って唇を強くかみしめた。

 

アルスさんとジュディスさんに置いて行かれないようにと必死に後を追いかける。

 

「はぁ……はぁ……っ!?」

 

もう少しで野営地に戻れるそう思った時誰かに腕を掴まれ引っぱられた。驚いている間もなく口に布を当てられ私の意識はもうろうとしていく。

 

「「フィアナ!」」

 

二人が険しい表情で私の名前を呼ぶ声を遠くに聞きながら意識は深い闇の中へと落ちていった。

 

「う……ん」

 

「フィアナ、気が付いたか?」

 

「良かった。このまま目覚めなかったらどうしようかと思ったよ」

 

次に意識が浮上した時心配そうな二人の顔が目の前にあって驚いて飛び起きる。でもなんでこんなに気を使われているのだろう? と思い記憶をさかのぼる。確かザハルの兵士達に囲まれてロウさんが隙を作ってくれて私達は野営地に戻って行ってもうちょっとで辿り着くって時に誰かに腕を掴まれて……あ、そうか私睡眠薬で眠らされたんだ。

 

「心配おかけしてすみません」

 

「いや、フィアナまでこんな目に合せてしまってこちらの方こそ申し訳ない」

 

「うん。何とか君だけでも逃がせられればいいんだけど……」

 

眠ってしまう前の記憶を思い出しそりゃ心配されるよなと思い謝るとアルスさんとジュディスさんが暗い表情で呟く。

 

「大丈夫ですよ。私達は必ず助かります。ですから、気を落とさないでください」

 

「……フィアナがそう言うとなんだか大丈夫なような気がしてくるから不思議だな」

 

「そうだね。最後まで希望を捨てちゃいけないって気持ちを持ち直せるよね」

 

私の言葉に二人は明るい表情に戻り力強く頷き合う。彼等が希望を持てたとこに良かったと思いながらも自分でもこれからどうしたら良いのか本当の所は分かっていないんだよね。

 

「それよりも一度未来に戻らないと、時の迷い人になってしまうんでしょ」

 

「そ、そんなに時間が経っていたのですか。怪しまれないようにすぐに戻ってきますのでちょっと待っていてください」

 

「俺達の事なら大丈夫だ。とりあえず今はまだな」

 

「?」

 

ジュディスさんの言葉に私は冷や汗を流す。そんなに時間が経っていたなんて早く元の世界に戻らないと。そう思い返事をするとアルスさんが大丈夫だといった。けど、「今は」ってどういう事なんだろう? 疑問に思ったけれどそれを聞こうとした時二人が早く帰れと言わんばかりの表情をして見てきたので私はペンダントに手を当てた。

 

視界が歪むと次に見えてきたのはリビングの部屋。牢屋番の兵士に見つからないうちに戻らないといけないけれどでも、このまま時を超えて行った所で牢屋から出られる方法が分からない事には手詰まりだし……

 

「フィアナどうした?」

 

「ねぇ、今私達ザハルの兵士に捕まって牢屋に入れられているんだけれど、どうにかしてお母さん達に連絡を取る方法ってないかな?」

 

悩む私に気付きルキアさんが声をかけてくる。それで思い切って訪ねてみた。

 

「はぁ? 牢屋に捕まってるだって……お前、一体何でそんな危険な目に合ってるんだよ。まぁ、今ここでとやかく言う場合じゃないな。いいか、よく聞けよ。お前は動物の言葉が解る。なら、それを利用すればアンナさん達に自分達の居所を知らせることが可能なはずだ」

 

「動物の言葉が解る事とそれを利用する事って?」

 

私の言葉に呆れた様子で呟くも今はそんな時じゃないとアドバイスをくれる。でもその意味がよく分からなくて聞き返してしまった。

 

「それをゆっくり説明している時間はないから、向こうに行ってから自分で考えろ」

 

「うん」

 

早く過去の時代に戻れというルキアさんに促される形で私は時渡してアルスさんとジュディスさんの下に帰っていった。

 

私が戻って来ると幸いそれほど時は経過していない様子で牢屋番にも気付かれていないようで安心する。

 

「それで、改めて今の状況を説明するとだな。フィアナがザハルの兵士に捕まり命を助けたければ言う通りにしろと言われ皆馬車乗せられ連れてこられたのはザハルの城。その牢獄に入れられているが、俺達は明日の朝見せしめのために公開処刑されるそうだ」

 

「え? 公開処刑……」

 

戻ってきた私にアルスさんが事情を説明してくれる。でも公開処刑って……それでさっき「今は大丈夫」って言っていたのね。つまり今から明日の朝までにお母さん達に自分達の居場所を教えないと私達の命はない。そういう事なのね。震えそうになる体をごまかしながら何か助かる手はないかと周りを見回す。

 

(ルキアさんは動物の言葉を理解できる私にしかできない方法でお母さん達に居場所を教えればいいって言っていたけれど……)

 

冷たい石でできた牢獄は無機質で、鉄格子の嵌められた窓は高くとても手が届きそうにない。

 

(窓?)

 

私はあることを思い至りまじまじとそちらを観察する。黄昏時の時間牢獄に差し込む日の光は弱弱しいけれど同時に風も音も入って来る。この時代牢獄にガラスなんて付いていないから外と吹き抜けなのね。それならばこの作戦上手くいくかもしれない。私はそっと窓の下へと近寄り願いを込めて口を開いた。

 

「小鳥さん、小鳥さん。私の声が聞こえたら応えて下さい」

 

『わたしを呼んだのは貴女?』

 

私の呼びかけに一羽の白い鳥が窓の縁へと止まり首をかしげる。

 

「はい、そうです。私の頼みをどうか聞いてもらいたいのです。お願いできますか?」

 

『動物の言葉が分かる人間は心の優しい人。わたしにできる事があるならお手伝いするわ』

 

「有り難う。私達の事を伝えてもらいたい人達がいるんです。その人達の中に私と同じで動物の言葉が解る人がいます。お願い、今から言うことをその人に伝えて」

 

『分かったわ』

 

私の言葉に小鳥は了承すると飛び立つ。お願い、どうか明日の朝までに無事にお母さん達の下に辿り着いて。

 

「フィアナ今のは一体?」

 

「小鳥さんにお願いして皆に私達の事を伝えに行ってもらったんです」

 

「動物と会話ができるのか? フィアナは凄いな」

 

ジュディスさんが怪訝そうな顔で呟く言葉に答えるとアルスさんが目を丸くして呆気にとられる。

 

兎に角今はこれしか方法がない。私は飛び立って行った小鳥さんがお母さん達に出会えることを祈った。

 

*****

 

アンナ視点

 

 朝になり目を覚ますとフィアナとアルスとジュディスとロウの姿がなく、私達は疑問に思ったがそのうち帰って来るだろうと軽い気持ちで朝食を作り出発までの時間を過ごしていた。しかし、昼になっても夕方になっても一向に戻ってこない四人の様子に次第に変だと思い始める。

 

「出発の時間までには戻って来ると思っていたが、もう夕方だぞ」

 

「四人に何かあったんじゃないだか?」

 

ハンスの言葉に心配そうな顔でアンジュも話す。

 

「……帝国を目の前にしていなくなった四人。これは、まさかとは思っていたがやはりフィアナがザハルの内通者で俺達が眠っている隙に命を狙われていたアルス達を連れ去っていってしまったのではないのか」

 

「ちょっと、そんな事言わないで。フィアナは内通者なんかじゃないわ」

 

「そうだぞ、ジャスティン。いくらなんでも仲間を疑うのは良くない」

 

アイリスが怒るとルークも真面目な顔で諭すように言う。

 

私だってフィアナが内通者なんて思いたくない。でも、それならなんで四人は忽然と姿を消してしまったの?

 

信じたい思いともしかしたらと考える気持ちの間で揺らいでいると真面目な顔をしたリックが口を開いた。

 

「フィアナが内通者かどうかはともかくとして、もう丸一日経つ。四人の身に何か起こったと考えた方が良いと思うよ」

 

「そうだな。探しに行った方が良いかもしれない」

 

リックの言葉にロバートが頷く。私達もその方が良いだろうと思っていると遠くから羽ばたきが聞こえてくる。すると一羽の白い小鳥が私達の周りを飛び回る。

 

「小鳥さん? ……えっ。フィアナが……すぐに案内してお願い!」

 

「アイリスその小鳥はなんて?」

 

小鳥が甲高い声でさえずるとその言葉を聞いたアイリスが血相を変える。それに何かあったと思ったロバートが尋ねた。

 

「この小鳥さんはフィアナに頼まれて私達を探していたそうよ。フィアナ達はいま捕まってしまっていて明日の朝処刑されるそうなの」

 

「っ!? なんだって……こうしてはいられない。皆わたしの周りに集まるんだ。転移魔法で一気に帝国まで向かうぞ」

 

彼女の言葉に私達は息を呑む。ハンスがそう言うと慌てて彼の側へと駆け寄る。魔法陣が発動する様子を見ながら両手を握りしめた。お願い明日の朝までに間に合って!

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