フレン王子の行方を探しながら逮捕要請が出ている人攫いが隣国オルドラに潜伏していると聞きついでに捜査に向かう。
「そんなの持っていたって仕事にならないの。これはオレが預かってやっから」
「や、止めて下さい!」
尾行して様子を窺っていた時、銀の髪をなびかせた少女がペンダントを奪われるところを目撃する。
そのペンダントと少女の姿に過去の記憶が重なって見えて……
「大丈夫、大丈夫。悪いようにはしないから……さぁ、君はこっちに」
「おい。貴様等何をしている?」
俺は我慢が出来ずについ人攫い達に声をかけていた。兎に角あの人を助けなければ。それだけしか頭に入っていなかった。
「見逃してやろうと思ったが……そういうわけにもいかなくなったな。人の物を取るとは言語両断。そのペンダントは彼女に返してもらうぞ」
「あんたには関係ないだろう」
彼女に危害をくわえようとする奴等を黙って見逃すことが出来ず気が付いたら啖呵を切っていて、こんなにも冷静さを欠いたのは若いころ以来だと思い自嘲する。
「戯言は聞く気はない。……はっ!」
「ぎぁあ」
「ぐぇっ」
男達が何事かほざいていたが罪人の言葉など聞く耳など持っていない。さっさと倒してペンダントを彼女に返さねば。
「ベルシリオ様」
「こいつらを連行しろ」
俺の指示を待っていた兵士達が駆け付ける。人攫い達の事は彼等に任せ彼女の方へと視線を向けた。
「お嬢さん怪我はないか?」
「あ、有難う御座います。私は大丈夫です」
そこで記憶の中の彼女と目の前の少女では年齢が違うことに気付く。あの時のあの人は俺より年上のように思えた。つまり現在ならばもう少し年を取っているはず。
にもかかわらず彼女は15,6歳くらいの少女の姿で目の前に立っていて、あの人の娘さんかもしれないそう思ったが、どうにも引っ掛かりを覚える。
「いや、礼にはおよばない。彼等は逮捕要請が出ていた人攫いだ。君に危害が加われなくて良かった。それからこれをお返しする」
「あ、私のペンダント……」
動揺していることを隠しながらペンダントを彼女へと返す。仕事を探しているみたいだが、俺が何か手伝ってやれることがあればいいのだが……彼女は見るからに華奢で頼りなさそうに見える。腕力もそれほどないだろう。となると重労働は難しそうだ。
「有難う御座います。このペンダントはとっても大切なものなので」
「いや……仕事を探しているそうだな。付いてこい」
「は、はい」
頭の中を回転させながら彼女に合う仕事が見つかる場所を考え一つの答えに行きつく。
俺の後を必死について歩く少女の様子に気付かない程度に歩調を合わせながら目的地へと向かう。
やって来たのは国中の冒険者が集うギルド。隣国の騎士団隊長という事でここには顔なじみが多い。だからここなら話を通せると思い連れてきたが、毎回頼まれごとは変わる。今回彼女でもこなせる依頼が来ていることを願うばかりだ。
「ここには国中の仕事の依頼が集まる。この中から君がやれそうなお仕事を見つけてそれを受付に持って行くんだ」
「有難う御座います」
説明を聞いて理解したらしい彼女が依頼表を調べ自分でも出来そうなものを探す。
「これにします」
「王立図書館の本の仕分け作業……か。確かにそれくらいなら君でもできそうだな」
数分依頼の内容を読み上げていた彼女が決めたのは新人の冒険者が受けるレベルの物だった。しかしそれくらいならばこの少女でもできるだろう。
受付女の下までくると小声で「分けあって今回だけ依頼をしたいという俺の大切な友人で名前はフィアナという。どうか彼女に特別に依頼を受けさせてやってくれ」と頼む。雑貨屋で確か看板娘が彼女の事を「フィアナ」と呼んでいたと思い出して伝えたのだが、俺の事を知っている受付の者でよかった。快く了承してくれた女性が口開く。
「それではフィアナさん。こちらの依頼をよろしくお願い致します」
「は、はい」
後は手続きをするだけだから俺はそっとその場を離れ図書館の館長に話を通しておこうと動く。彼女が困らないようにと手を回すことも忘れない。
後はアニータが上手い事彼女に仕事を教えるだろう。そうして夕方依頼が終わったと思われる頃に様子を見に行く。
「どうやら無事にお仕事を終える事が出来たようだな」
「あ、貴方は……有難う御座います。あの、ちょっとよろしいでしょうか」
「?」
付いて来てほしいと言わんばかりの彼女の後に続いて向かった先は一件の小さなお店。一体何をするつもりなのか。
「ちょっとここで待っていてください」
「あぁ……」
お店の前で待っていてくれと言われ不思議に思いながらも彼女の帰りを待つ。
「あの、今日は本当に有難う御座いました。それでお礼をと思ったのですが、男の方がどの様なものがいいのか分からなかったので日常で使えるかなと思ってこちらを」
「! こ、これは……」
数分後店から出てきた彼女が差し出してきた物にさすがに驚き呆気にとられる。それは真新しい白いハンカチで、ごくありふれたもののように見えるが俺が昔彼女から手当てを受けた時に巻いてくれた古いハンカチと全くもって同じものだったのだ。これには何か運命的なものを感じる。柄にもなくそう思う自分がいた。
「あ、あの……ご迷惑でしたか?」
「いや、少々驚いてしまった。……有り難う」
驚いていると彼女が困った様子で尋ねてくる。その言葉に現実に戻った俺は急いで答えた。
あの人から貰った古いハンカチといま貰った真新しいハンカチ。二つを比べるまでもなく同じもので、彼女はワザとやっているのではないのかと思ったほどだ。
しかし、この時の彼女に他意はなく、純粋にお礼をしたいと思っている顔をしていた。
このハンカチの謎が解けるのはもう少し後になってからである。
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