帝国ザハルを目指し旅を続ける私達。一週間かけて村まで向かいながら私はタイムリミットが迫る度に過去から未来へと戻る生活を続けていた。
「お帰りフィアナ。無事に帰って来てくれて良かったわ」
「何も問題は起こっていないな?」
「何かあればいつでも言えよ。本当は一緒に行って手伝ってやりたいけど……でも、フィアナが一人でやるって決めた事だからな」
見慣れた我が家のリビングへと現れるとついほっとしてしまう私に姉とルシアさんとルキアさんが声をかける。いつもこうして迎えてくれるけれどもしかして三人とも私の事が心配でずっとここに留まってるとかじゃないよね?
「あのね、今は帝国ザハルに向けて旅を続けてるんだけど、ジュディスさんって人とアルスさんとロウさんて人が仲間に加わったの」
「ジュディス……アルス……まさか……」
私の言葉にルシアさんが考え込むような顔で呟く。
「ルシアさん何か知っているのですか?」
「いや、何でもない。それよりせっかく帰ってきたのだからゆっくり休んでだな――」
「そうしたいけれどゆっくりしている間にお父さんとお母さんに何かあったらって心配で、だから全てが終わるまでもう少し頑張って来るよ」
彼の言葉に私は首を振り答える。ルシアさんが何事か言いたそうな顔で見詰めてきたが小さく溜息を吐く。
「分かった。……これから旅も過酷になっていく事だろう。怪我をしないように気を付けるんだぞ」
「ほれ、エネルギーチャージ。これ食って頑張って来い」
「これフレン達から預かってるわ。身に着けている人の身を護る魔法がかかっているから絶対に無くさないようにって。それからドロシーから魔法薬もそろそろ底を尽きるだろうからってこれを」
「有り難う。……それじゃあ、行ってくるね」
名残惜しいし、もう少しここに留まっていたいけれどそうしている間にお父さんとお母さんが危険な目に合っていたらと思う時が気じゃなくて、だから振り切るように私は時渡のペンダントへと手を伸ばした。
「……ふぅ」
視界が歪んだと思った次の瞬間私は薄暗い森の中に姿を現していた。ここは野営地のすぐ近くの森で少し歩けばお母さん達がいる場所に繋がっている。
「さぁ、今日も頑張ろう」
意気込むと私は急いで皆の元へと戻って行った。
「フィアナ、また朝のお散歩?」
「はい。私お散歩が好きなんです。昔は病弱であまり外に出られなかったので」
「ふふ、そんなふうには見えないけれど。そう、それでお散歩が好きなのね」
お母さんが私に気付き声をかけてくる。それに笑顔を意識しながら答えた。
それからすぐに出発した私達だが辿り着いた村の様子に目を見張った。
「……すごいありさまだな」
「村……に何があったのだろうか」
ルークさんとハンスさんが呟いた言葉に私達は返事をする事が出来なかった。
家屋は焼き払われ怪我をしているお年寄りの人達が地面にしゃがみ込み、見ていて胸が締め付けられる。
「あ、旅の人だか? あいにくとこの村には泊れねえだよ」
「あの、何があったのですか?」
大量の薬草を籠に入れて運んでいる少女に声をかけられたのでアンナさんが何があったかを聞く。
「少し前にザハルの兵士さん達がこの村さ来ただよ。そんで食料をよこせと言われただ。だけど、この村は貧しくてそこにここ数年続く戦争のせいで今日食べる分もないくらいの状況になっただ。男達が出稼ぎに村の外さ行くくらいだ。だから断ったら食料を提供しなかったことに怒った兵士さん達が村で暴れて、女子供皆奴隷として連れて行かれて残ったのはお年寄りばかり。幸いその時私は村の外さ用事で出ていたから無事だったけど。戻ってきたらこのありさまで、村長家のじい様に話聞いただ。そんでこの村はもうだめだからお前もよそさ移って暮らせって言われたが、女一人この村を出たところで生きていけねぇ。だからこの村さ残ってお年寄りの面倒見てるだよ」
「ザハルの兵士が……」
「許せないね」
少女の言葉にアルスさんが憎らしげな瞳でここにいない兵士達を睨みながら呟く。ジュディスさんも怒りを露にする。
「そういうわけだから、ここには泊まれねぇだよ」
「事情は分かりました。あの、良ければ怪我をしたお年寄りの人達の治療を私に手伝わせてもらえませんか?」
少女の言葉に私はいてもたってもいられなくてそう声をかける。
「旅の方に頼むなんて申し訳ないだよ」
「こんな状態を見てこのままここを出て行く事なんて出来ません。お願いします。私に手伝わせてください」
「フィアナの意見に賛成よ。私も手伝いたいわ」
「俺もできる限りの事を手伝わせてもらえないかな」
躊躇い断る少女へと私はもう一度お願いする。するとお母さんとお父さんも笑顔で私の言葉に賛同した。
「俺も壊れた家屋を片付けるくらいなら手伝えそうだ」
「ぼくもお手伝いします」
「アルス様がやるとおっしゃるならこのロウもお手伝いいたしますよ」
アルスさんが言うとジュディスさんとロウさんも話す。
「建物を立て直すくらいなんてことはない。魔法の力を使って家を建てられるからな」
「力仕事なら任せてくれ」
ハンスさんがにやりと笑い言うとジャスティンさんも協力させてくれといった感じに頷く。
こうして私達はこの村の復興を手伝うことになった。
「皆さんのおかげで村さ綺麗になっただ。有難う御座います」
「お礼なんて……私はただいてもたってもいられなくてつい、お節介を焼いてしまっただけですので」
「でもフィアナがあの時手伝わせてくれって言ってくれたから私達も勇気を出して言えたのよ。だから今回はフィアナのおかげね」
頭を深々と下げてお礼する少女に私は慌てて答える。そんな様子を見てアンナさんがくすりと笑い言った。お母さんに褒められた気がして照れ臭くて俯く。
「そんで私お礼がしたいと思ったけどなんもあげられねえだ。だから皆さんのお手伝いさしたい。お願いだ。私も旅に同行させてくれ」
「気持ちは嬉しいけれどでも、私達はとても危険な旅をしているのよ。帝国ザハルの帝王を倒すための旅なの。だから命を狙われることになるわ」
少女の言葉にアンナさんが止めるように話す。
「この村はザハルの兵士達に襲われた。だったらザハルの帝王さ倒す皆さんの手助けさしたい」
「分かったわ。でも危険だと思ったらすぐに村に戻るのよ」
彼女の強い熱意に打たれ皆の顔を見る。私達は小さく頷いた。その答えにお母さんは少女へと視線を戻すとそう言って笑う。
「有り難う。私はアンジュ。料理に洗濯何でも任せてくれだ」
こうして村娘のアンジュさんが仲間に加わり私達の旅は再開される。次の目的地は国境の町。そこを超えれば帝国ザハルの領域に入る。いよいよ敵地に乗り込むのだから気をひきしめないとね。
アンジュさんが仲間になってから二日目のこと。私達は山の麓から山越えを開始したのだけれど霧が濃くて気が付いたら道に迷ってしまっていた。
「……方位磁石も動かないです」
「探索魔法をかけてみたがこの周辺に人の作った道はなさそうだ」
方位磁石をあっちこっちに向けてみるも全くと言っていいほど反応しない。壊れてしまったのかな? ハンスさんも困った顔で話す。
「動物さんの姿も見当たらないから聞くこともできないし……」
こっそりと呟き溜息を零す。これからどうすればいいのかと途方に暮れていると人の足音が近づいてくるのに気づいた。
「誰かくる」
ジャスティンさんも足音に気付き警戒する。もしザハルの兵士ならばこの霧の中戦うのは困難になる。
「誰かいるの? こんな山の中に人が来るなんてもしかして道にでも迷った?」
近付いてきた声の主は青年で見るとボロボロの服を身にまとっていた。
「俺達は旅の途中なんだけど、この霧のせいで道に迷い途方に暮れていたんだ」
「ふ~ん、そうなんだ。なら家に来る? 家っていっても立派な家じゃないけどね」
ルークさんの言葉に青年が言うと私達はお言葉に甘えて彼の家へと向かうこととなった。
「家……なのか?」
「これでも頑張って作ったんだよ」
アルスさんの呟きに青年が少し怒った顔で話す。私達が彼について行った所にあったのはその辺に落ちていたと思われる太い木の枝を集めて蔓草で縛り木の葉や動物の革で屋根を作っただけのいつの時代の家なのかと思われるほどのものだった。
「でも、どうしてこんな山の中に一人で暮らしてるんですか?」
「う~ん……話してあげてもいいけど絶対に信じてくれる?」
アンナさんの問いかけに彼が困った顔で尋ねる。私達は意味がよく分からなったけれど頷いた。
「僕は元々ザハルの王宮に仕える兵士だったんだ。家の家系は代々王家に仕えていてね。だけど相次ぐ戦争に父が帝王に戦争をやめるよう助言したんだ。そうしたらそれをよしと思わない奴にはめられて父は罪人に仕立て上げられ処刑。僕は流刑されてこの辺鄙な山奥に一人放り込まれた。母と姉は帝王に取り上げられて無理矢理婚姻。逆らえば一族全員命はないと脅されて仕方なく側室に」
「そんなことが……」
青年の言葉に私はつい呟きを零す。何の罪も犯していないというのに人が殺されこの人は流刑されてお母さんとお姉さんは無理矢理結婚させられるなんてそんなひどい話あっていいのだろうかと胸が痛んだ。
「帝王に逆らう家臣達は皆逆賊に仕立て上げられ処刑または流刑される。ってことで僕がここにいるのは濡れ衣をかぶせられて流刑の身となったからさ」
「どうして違うと言わなかったんだ」
語り終えた彼へとジャスティンさんが問いかける。
「言ったところで聞いてもらえるわけがない。帝王様は自分の意志に反する者の言葉に耳を貸す人じゃないからね」
「だけど、このまま黙って流刑の身のままでいいの?」
諦めているといった感じで話す青年へとジュディスさんがさらに質問する。
「いいわけないよ。だけど僕一人でどうにか出来るわけもない。へたをしたら母と姉の身にも何か起こるかもしれない。……そう考えたらなにもできやしないよ」
「それでも立ち向かわないといつまでたっても変わらない。俺達はザハルの帝王を倒そうと考えている。もしよかったら君も一緒に行かないか? お母さんとお姉さんも助け出す」
「そうよ。私達が協力するから。貴方のお母さんとお姉さんを助け出しながら帝王を倒すの、どうかしら?」
青年の言葉にルークさんが言うとアンナさんも力強い口調で話す。
「そうですよ、私達なら絶対に帝王を倒せます。そして世界は平和になる。だから一緒に行きませんか?」
「……なんだか君が言うと本当にどうにかなりそうな気がしてきた。分かった。僕も仲間に入れてくれ」
私の言葉に数秒黙ってこちらを見ていた彼がにこりと笑い言う。
「僕の名前はリック。今は流刑の身だけれど剣の腕は確かだから頼りにしてくれてもいいよ」
こうしてリックさんが仲間に加わり帝王と戦えるだけの十分な戦力ができた。霧が晴れたら山道まで案内してくれるというので私達はしばし身体を休ませることとなる。
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