ザハルの帝王と戦ってから数年が過ぎ去り、私はルークと結ばれ可愛い娘を得た。そしてアイリスとロバートも結婚して赤ちゃんが出来た。その子の一歳の誕生日の日に私達お呼ばれして会いに行った。
「あら、フィアナ」
「こんにちは、今日はアイリスさんとロバートさんに会いに来たんです」
私達がロバートの家に向かうとフィアナが来ていて皆でお邪魔する。
それから暫く雑談を楽しんでいたのだけれど気が付いたらフィアナとアイリスの姿がなくなっていて何処に行ったのだろうと探しに行った。
「あ、いた。フィアナ――」
「アイリスさん!?」
声をかけようとした時フィアナが悲痛な叫び声をあげる。
「もう時間みたいね。こうなることは分かっていた。本当は自分の時代に帰らないといけなかったことも。でも、愛するロバートと我が子の側にずっと一緒にいたかった。私のわがままなの。だからフィアナ、泣かないで」
「いや、いやです。私が過去の時代に戻ってアイリスさんを助けます。そうしたら、未来を変えられますよね」
「それは無理なの。時の迷い人になってしまった人の未来を変えることはできない。だから過去に戻ったところで変える事ができないのよ」
「っ!?」
何を話しているのか分からなかったけれど、どうやら時の迷い人の話をしているようで、今にも崩れてしまいそうなフィアナの側に急いで駆け付けた。
「フィアナ」
「アンナさん」
私が側に寄ると彼女は震える声で答える。
「一体何があったの?」
「アンナ、私はね。この時代の人間ではないの。フィアナと同じで別の時代からこの世界にやって来た。最初は興味本意で時渡のペンダントの力を使ってきたのだけれど、ロバートと出会いアンナ達と出会いフィアナに出会った。そうしていたら、この幸せな時がずっと続くと良いと願ってしまって、この愛おしいかけがえのない時を一緒に過ごしたかった。だから自分の時代に帰る事を止めてしまったの。そうしてタイムリミットを過ぎてもこの時代に干渉し続けた。だから私は時の迷い人となってしまった。もう、お別れよ。アンナ、ロバートと娘の事をお願いね」
「うん、うん。分かったわ」
アイリスの言葉で状況を理解できた私も涙で歪む視界で彼女を見ながら力強く頷き答えた。
「フィアナ、貴女のせいじゃないから泣かないで。愛しているわ、私の娘……」
「アイリスさん!」
アイリスがその言葉を残すと光の粒子をまといながら消える。彼女がさっきまで立っていた所には時渡のペンダントだけが転がっていた。
「……アンナさん、このペンダントをロバートさんに渡してください」
「フィアナ、何処に行くの?」
大粒の涙を流し体を震わせて嗚咽していたフィアナが立ち上がると、それだけ言ってフラフラとした足取りでどこかへと消える。
心配ではあったが今はそっとしておいた方が良いと思い追いかけるのを止めた。それから駆けつけてきたロバートとルークに先ほど見た事を話す。
アイリスが別の時代からこの世界に来ていた事をロバートは分かっていたみたいで受け入れるとだけ呟く。
「フィアナ……ごめんなさい。貴女のお母さんを助けてあげられなかった」
ロバートの腕の中ですやすやと眠っている幼いフィアナへと泣いて謝る。それから泣きじゃくる私が落ち着いたのを見てからロバートの家へと戻って行った。
この出来事の後、「ルシアさんとルキアさんの事はもう大丈夫だから未来に帰る」と告げてから大人のフィアナが私達の前に現れることはなかった。
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