追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
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カーネスルート

六章 面影に君を重ねて (カーネスルート)

公開日時: 2022年5月3日(火) 03:00
文字数:3,928

 帝国ザハルを目指し旅を続ける私達。いよいよ目的地は目の前まで迫ってて、敵地に乗り込む前に最後の食料調達と武器や防具の手入れをするため少し大きな町で滞在していた。

 

「さて、アイリスさんが協力してくれるようになったおかげで未来に帰るのも大分怪しまれずに行けるようになったし、このまま誰にも私の秘密がバレないまま終われると良いな……あれ」

 

アイリスさんが協力してくれて未来との行き来が楽になったなと思っている私の目にある光景が映る。大人の人達に囲まれている少年の姿に私は思わず彼等の下へと駆け寄っていた。

 

「!?」

 

「ついて来てください」

 

いきなり目の前に現れ手を掴んだ私に驚いた少年が目を大きく見開く。そんな彼へと口早に告げて私は走り出す。

 

「はぁ……はぁ……も、もう大丈夫だと思います」

 

こんなに全力で走ったのは久しぶりで息切れを起こし立ち止まると少年が戸惑った顔で私を見上げてくる。

 

「どうして?」

 

「どうして……と言われたら分かりません。でも、何だかいてもたってもいられなくてついご迷惑でしたか?」

 

本当に自分でもどうしてなのか分からない。ただ彼の顔を見たらいてもたってもいられなくて……本当にこうやってよく見るとカーネスさんにそっくりなのよね。まだ幼さの残るその顔に彼の面影を見たような気がして気が付いたら少年の手を取って走っていた。でもそんなこと言えるはずもなくごまかすように笑っているとムッとした顔で睨まれる。

 

「助けてくれなんて頼んでないのに……変な人だね」

 

「……そうですよね。でも、人の物を取るのは良くないですよ。どうしてそんなことを?」

 

彼の言葉に私はごまかすように尋ねる。それに今度はその瞳に影を宿し口を開く。

 

「生きていくためにはこうするしかないから」

 

「……付いて来て下さい」

 

「えっ?」

 

私の言葉の意味が理解できなかったのか少年は不思議そうな顔で見詰めてきた。

 

「生きていくためにはお仕事をしないと。私は昔体がとても弱くてお仕事なんてした事がなかったんです。それでも人生で初めて働いて、自分の力でお金を稼げた事が嬉しくて本当に仕事を紹介してくれたあの人には今でも感謝の気持ちで一杯なんです。ですから、今度は私が……お仕事が見つかるまで共に探しますので、ですから一緒に探しましょう。貴方が生きていくためのお金を稼ぐために。ですから、もう人の物を盗むのはやめて下さい」

 

「……本当に、お姉さん変な人だね」

 

私の言葉に呆れたように言うも小さく笑い頷く。これは肯定と受け取っていいのだろうか。私は彼を連れてお仕事を募集していそうなところはないかと町の中を歩き回った。

 

「お仕事見つかって良かったですね」

 

「仕事なんてした事ないから不安だけど、少しだけ頑張ってみるよ。生きていくためにはお金は必要だしね」

 

私の言葉に彼は仕方ないからといいたげに話す。

 

「それでは、私はそろそろ行かないと。友達を待たせているので」

 

「あの……やっぱり何でもない」

 

私を引き留めるように口を開いた彼だが何でもないというと踵を返しかけて行ってしまう。何か言いたかったのかな? ここで考えていても答えが解るはずもないのでこれ以上はアンナさん達を待たせたらよくないと思い宿屋へと向かった。

 

翌日。昨日の少年の事がどうしても頭から離れられなくて、こっそり仕事をする様子を見に行った。

 

「……何だかもめてるみたい」

 

少年と雇い主がもめている様子に私は不安になりながらその光景を見る。店主が彼を殴り飛ばした時つい駆け付けたくなったがそれを必死にこらえ事の一部始終を見守った。

 

殴られ床に倒れた少年は店主を一睨みすると店から出てどこかへと駆けだした。きっとどこかに行く当てなんてない。それでもこの場所にいたくなくて逃げ出したのだろう。私は彼の後を追いかける。

 

「……」

 

「こんなところで如何したのですか?」

 

誰もいない河川敷。そこでぼんやりと佇む彼にそっと声をかける。私の言葉に驚いてこちらを振り返った少年は不貞腐れた表情を浮かべるとすぐに後明後日の方向へと顔をそむけた。

 

「……やっぱり、働くなんて無理だよ。生きていくためには働いて稼がなきゃいけないなんて言われても俺みたいなやつ誰も認めてなんかくれない。バカにされてこき使われて終わるくらいなら俺は……生きていたくない」

 

「……何があったのかは知りませんが、そんな悲しいこと言わないでください」

 

消え入りそうな声で言われた言葉に私は悲しくなりながら少年を背後から抱き締め囁く。その言動に驚きと戸惑いで身を硬直させる彼に私は口を開いて語り始めた。

 

「人生の先輩として一つ貴方に良い事を教えてあげます。生きていくためには、世渡り上手にならなくては――」

 

『……人生の先輩として一つ貴女に良い事を教えてあげます』

 

私はそう口に出してかつてカーネスさんに言われた言葉を思い出す。もしかしてだからあの時彼は私にあんなことを言ったのだろうか。

 

「お姉さん?」

 

「……それが出来なくてはこの世界で生き残ることなどできないのですよ」

 

不思議そうに見上げてくる少年の言葉で現実に戻った私はそう続けて話した。

 

「世渡り上手に……そっか、そうだったんだ」

 

この時私の言葉を彼がどの様に受け止めたのかは分からない。もしかしたらこの言葉のせいで未来であのような事を起こしたのだとしたら……もし、そうだとしても分からない。いいえ、知りたくない。兎に角今は前を向いて生きていこうと決めてくれたことが本当に嬉しくてそっと安堵した。

 

「そろそろ行かないと」

 

「また、会える?」

 

そろそろタイムリミットが迫っているため急いで未来に帰らないとと思い彼から離れて歩き出そうとすると私の腕を掴み少年が尋ねる。

 

「……貴方がもっと大きくなって大人になったら、きっとまた会えます。ですから、その時が来るまで待っていてくれますか?」

 

「?」

 

あの頃の私は何にも知らなかった。彼の気持ちもどんな思いで私の側に現れていたのかも。でも、今なら分かる。ずいぶんと私は意地悪な事を言ってしまったね。彼はこの言葉を信じてずっと、ずっと、私を探し、私を待っていてくれた。だから、今度は私がカーネスさんが目の前に現れてくれるその日まで待ち続けよう。散々彼を待たせたのだからそのくらいは平気だよ。今すぐにでも会いたいと思う気持ちを静めて私は自分がやらなくてはいけない事のために一度未来へと戻って行った。

 

「今私がやらなくてはいけないことはお父さんとお母さんを助けて帝王を倒す事。それが出来なければ今の未来もすべてなくなってしまうのだから……」

 

カーネスさんに会いたいという気持ちに浸っている場合じゃないと自分に言い聞かせ私は再び過去へと戻る。

 

「……ふぅ」

 

誰もいない路地裏に姿を現すとさて、皆の元へと戻らないとと思いふり返り硬直する。

 

「……いつも一人でどこかに行っていると思ったら、なるほど、こういう秘密があった訳か」

 

「まったく、それならそうだって話してくれたらよかったのに」

 

そこには壁に背を預け腕を組みこちらを見ているアルスさんと付き添ってきたのだろう申し訳なさそうな顔で私を見るロウさん。それに笑顔なのに怖いと感じるジュディスさんの姿があって……

 

「ど、どうしてここに?」

 

「いつもいつも君が一人でどこかに行くから、もしかしたらザハルの内通者かと思って気になってね」

 

「様子見をしていたんだけど、さすがにザハルが近くなってきたからこれ以上はみすごせないと思い君を尾行してきたってわけだ」

 

二人の言葉に私はどんな顔をしていたのか分からないけれど冷汗が止まらなかった。これ、絶対に真実を全て話さないと解放してもらえないよね。溜息をつきたくなりながらも事のあらましと経緯を説明した。

 

「未来から時渡のペンダントを使って過去の時代に飛んでぼく達を助けに来た……ってこと」

 

「はい、そうです」

 

ジュディスさんの言葉に私は大きく頷き答える。すべて話して納得してくれた様子で疑う眼差しはなくなり空気も和らぐ。

 

「そうか、未来を守る為過去に飛んできたということか。そしてそのペンダントのタイムリミットが近付くたびに未来へ戻っていたと。理由は分かった。その……疑ってすまなかった」

 

「いいんですよ。我ながら怪しいと思っていたので。ですが、こんなにあっさり信じてくれるなんて思ってませんでした」

 

「フィアナが嘘をつくような奴じゃないことは見ていれば分かるからな」

 

「それに、嘘をつくならもう少しましな嘘をつくはずだよね。だから君が真実を話しているってことは疑う余地もないよ」

 

物わかりの良い人達でよかった。流石は未来で国王となるだけの人物だ。納得してくれた三人と共に皆の元へと戻ろうと路地を出ようとした時複数の足音が近づいて来て私達はザハルの兵士達に囲まれた。

 

「「「「!?」」」」

 

「お前達の正体は分かっている。おとなしくついてこい」

 

「アルス様、ここは私が食い止めます。貴方はお二人を連れて逃げてください」

 

「ロウ……すまない」

 

ロウさんが剣を構えて兵士達の前へと出る。アルスさんが何事か言いたげに彼を見たが唇をかみしめ小さく謝ると私達へと目配せした。

 

「「……」」

 

ロウさんの事がとても気になるがここに残れば皆捕まってしまう。私達は兵士達を食い止める彼を残して細い横道から大通りへと向けて駆けて行く。

 

「はっ……はっ……」

 

走り続けて息が上がってきたけどここで立ち止まるわけにはいかない。二人に置いて行か

れないように必死に足を動かし大通りへと出た。

 

「っ!?」

 

やっと大通りに出れたと思った瞬間私は誰かに腕を掴まれ口に布を当てられる。

 

「「フィアナ!」」

 

アルスさんとジュディスさんの切羽詰まった声が聞こえたのを最後に私の意識は黒い闇の中へと落ちていった。

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