長い間暗闇の中を彷徨っているような気がした。そして銀髪の女性とアレンさんに似た小さな男の子が何か話している夢を見ていたような気がする。
「ん?」
次に意識が浮上し目を開けると見たこともない立派な天井と天蓋が見えた。
あれ、私死んだんじゃないのかな? それともここはもう天国とか?
「フィアナさん、目を覚まされたのですね」
「アレンさん?」
私の顔を覗き込み安堵した様子でアレンさんが言う。アレンさんがいるということはここは天国ではないのか、ということは私生きているの?
「私、生きているんですか?」
「フィアナさんが倒れた後すぐにヒルダが解毒の薬をもってやって来てそれを貴女に飲ませたんです。あと少し遅かったら危なかったって……ぼく貴女が目を覚ましたことを皆さんにお知らせしに行ってきますね」
私の言葉にアレンさんが説明すると皆を呼びに部屋から出て行った。
「フィアナ、目が覚めたようで良かった」
「お姉ちゃん……」
部屋へと駆けこんだ姉に抱き締められ私はその反動で倒れそうになりながら抱き留め返す。
「フィアナ、ごめんなさいっ……貴女が無事で本当に良かった……」
「ほら、ヒルダ泣くなって」
ヒルダさんが涙でぐしゃぐしゃになった顔で謝る。その様子にレオンさんがなだめた。
「ヒルダによると副作用とかはないらしいが、大丈夫か?」
「はい、何処も痛くないので大丈夫ですよ」
フレンさんの言葉に私は答える。それから私が倒れてしまった後どうなったのかを聞かされた。女王は投獄され処罰が下されるのを待っているらしい。王国騎士のベルシリオさんは隊長の座を剥奪されたそうだ。ザールブルブにいるカーネルさんの所にも兵士が向かっているとのことでそのうち捕まるだろうとの話。そして倒れてしまった私をお城の客室に運んだらしく、私が寝かされていた部屋に見覚えが無かったのはその為だったようだ。国王様より私の体調がよくなるまで暫くはここで療養することを許してもらえたのだそうである。
それから私の体調が回復するまでの間アレンさんが面倒を見てくれた。
「本当に今日ザールブルブに帰ってしまわれるんですか?」
「はい。お兄様に頼んでフィアナさんがよくなるまでここに留まらせて頂いていたんです。でも、何時までも学校を休んでいてはいけないので、これ以上はここに留まる事が出来なくて……」
私の体調がよくなったのと同時にフレンさんとアレンさんはザールブルブに帰る事となって私は寂しさを感じる。
「それで、帰る前にフィアナさんに伝えたいことがありまして」
「伝えたい事ですか?」
姿勢を正し私の顔を見詰めるアレンさんの姿を見ながら私は首を傾げた。伝えたい事ってなんだろう。
「ぼくの腕の中で冷たくなっていくフィアナさんを見ていたら、ぼくは生きているのが辛くなるほど悲しくて、助けてあげられない自分が情けなくて……貴女に自分の気持ちを伝えられないままお別れするんじゃないかって思ったら不安で……ですからフィアナさんにちゃんと気持ちを伝えようって思ったんです」
アレンさんの言葉の意味を考えるが何を言いたいのか分からない。気持ちを伝えるってどういうこと?
「ぼくは、初めてフィアナさんにお会いしたあの日からずっと、貴女の事が好きでした。ですからぼくが立派な大人になった時は、ぼくとお付き合いして頂けないでしょうか?」
「それってつまり……」
アレンさんの言葉に私は驚く。こ、これってプロポーズ?
「はい、ぼくの婚約者としてお付き合いして頂きたいのです」
「……」
こ、婚約者?! あまりの事に私は驚きすぎて返事が出来なかった。
「……あ、やはりぼくが子どもだから異性としては見てもらえないのでしょうか」
「いいえ、アレンさんからまさかそのように言ってもらえるとは思ってなくてちょっとびっくりしてしまって……約束します。私もアレンさんに似合う立派な女性となるって。ですから、アレンさん私のこと忘れないでくださいね」
不安がる彼の言葉で我に返った私は慌てて返事をする。
「フィアナさん……大人になったら必ずや貴女の下に迎えに来ると約束します。そしてその時は貴女を幸せにすると誓います。ですから、それまでどうかぼくの事を忘れないでください」
「はい……アレンさんこれを」
アレンさんが背伸びして私の額へと軽く口づける。そして柔らかく微笑み言った。その言葉に返事をしながらポケットからあの指輪を取り出す。
「これは……」
「また会えるための約束です。これをどうか大切に持っていてくださいね」
「! ……勿論です」
私の言葉になぜか驚いて目を見開くも指輪を受け取り微笑む。
こうして私達はまた大人になったら会うという約束を交わし別れた。アレンさんはきっと大人になったらフレンさんに似て美青年になるんだろうな。私も綺麗な女性になれていたらいいのだけれど……また会える日まで私達はそれぞれの生活へと戻るのであった。
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