ルキアさんと恋人になってから大分経った頃。
「よし、準備できた。お散歩に行くよ殿」
「キャンキャン!」
私は言うとケージの中から子犬を出す。この子は柴犬の殿。この前ルキアさんが捨てられているところを見つけて私に飼ってほしいとお願いしてきたのだ。勿論姉の了承も得ている。
「おーい。フィアナ、殿。散歩に行くんだろうオレも一緒に行くぜ」
「キャンキャン」
外に出るとルキアさんが当たり前のように立っていてにこりと笑う。殿は嬉しそうにはちきれんばかりに尻尾を振って駆け寄っていった。
「よ~し。よし、殿は相変わらずかわいいな~」
「ワン、ワン!」
お腹を触れと言わんばかりに横になる殿へと彼はわしゃわしゃと撫ぜ回す。
「ふふ。殿はルキアさんの事が好きみたいね」
「可愛がりすぎて餌ばっかりやったら太るからやめろってルチアには怒られるけどな」
私の言葉に彼が苦笑して言う。確かに殿を可愛がりすぎててしつけとか全然できていない気がするけれど、でもルキアさんは動物大好きだから仕方ないかな。
「そんじゃ、殿。何時もの広場までかけっこスタートだ」
「ワンワン」
「あ、待ってよ。おいてかないで」
ルキアさんと殿がさっさと駆けて行ってしまう。私は慌てて後を追いかけた。
「ほら、フィアナ。ちゃんとつかまってろよ」
「うん」
すると数歩先で立ち止まり手を差し出してくるルキアさん。その手に確りとつかまると私の走るスピードに合わせて彼は駆け出す。
殿は自由に駆け回りながら時々私達の側に戻って来てはまた前へと走っていく。こうして私とルキアさんと殿の散歩は毎日欠かすことなく続いていて、王国騎士の隊長として恋人とイチャイチャしすぎではないかと噂が飛び交っているそうだが、彼も私も気になんかしない。だって一緒にいられる時間がとても大切でかけがえのない愛おしい瞬間であるのだから。
殿がいるおかげでルキアさんと一緒にいる時間が増えたんだもの。むしろ殿に感謝しないとね。ルキアさんは殿に会いに来たなんて言ってるけれどきっと彼も私と同じで私に会いに来る口実を作ってるんじゃないかな。そうだったら嬉しいけれど、でもどっちなのか分からない。
「今度さ、殿と一緒に森にピクニックに行こうぜ。フィアナに見せたい場所があるんだ」
「うん。ルキアさんと一緒なら私どこにだって行くよ」
ふいにルキアさんが話しかけてきた。私は勿論だって感じに頷く。
「よし、そんじゃ決まりだな」
「楽しみにしてるね」
「キャン、キャン」
私達の話にまるで返事をするかのように殿も吠える。もしかして殿は私とルキアさんの関係を知っているのかな? そうだとしたら殿なりに私達の事応援してくれているのかもしれない。
「ふふ。殿有り難う」
『フィアナ、ピクニックの時ルキアとラブラブできるようにぼくが頑張るからね。ファイト!』
殿がそう言って胸を張ったような気がする。動物の言葉が分かるってときどき便利で時々知らない方がよかったって思うことがある。殿は恥ずかしげもなく私にファイトだというけれど、ルキアさんとラブラブなんて恥ずかしいよ……
一方犬の言葉が分かっていないルキアさんは不思議そうに私の顔を覗き込む。
「どうした?」
「何でもない。ピクニックが楽しみだなって思っただけだよ」
そうごまかして私はルキアさんの手を放し殿の側へと駆け寄った。
「さぁ、ルキアさん。何時もの広場で殿とボール遊びしましょう」
「あぁ」
私の姿を微笑まし気に眺め頷いてくれるルキアさん。こんなに優しくて頼れるナイトがずっと側にいてくれて私はなんて幸せ者なのだろうと頬が緩む。そうしてこの幸せがずっと続いていくことを願った。
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