ロバートさんとアイリスさんと出会い一日が経った。私は過去の時代へと戻って来てその光景に絶句する。
「一体、何があったの?」
たった一日……少しの間元の時代に戻っている間に華やかな町並みはなくなっており、焼き払われたり、壊された家屋に沢山の人の……これは見ないでおこう。兎に角無残な有様に私の胸が締め付けられる。と同時にお母さん達の安否が不安で焼け野原の町を走り回った。
「うっ……うっ……」
「あれは……」
しばらく走っていると前方に一人の少女がうずくまって泣いている姿が見えて私はそっと近寄る。
「大丈夫ですか?」
「お姉ちゃん誰?」
少女と視線を合わせるようにしゃがみ込むと安心させるように優しい声音で問いかけた。その言葉で私の方を見上げた女の子の顔は幼くてもドロシーさんであることが分かった。
(やっぱりドロシーさんだったのね。でも、どうしてこんなところに?)
「もしかして、お姉ちゃんもお母さんとお父さんとはぐれちゃったの?」
「いえ、私は……」
内心で声をあげていると少女がそう尋ねて来た。それにどう答えようかと悩み口を閉ざす。
「わたしね、お父さんとお母さんと一緒にいたの。でも大きな音の後に家が燃えて私は風に飛ばされて、気が付いたら一人ぼっちになっていて……うぅ……お父さん、お母さん……」
「泣かないで。そ、そうだ。私と共にお父さんとお母さんを探しに行きましょう。きっとどこかに無事に逃げ延びているかもしれません。だから一緒に探しましょう」
「うん!」
この状況でご両親が無事に生き残っている可能性は低い。それでもこのままここに留まっていたらドロシーさんの身も危ないかもしれない。私は彼女を連れてアンナさん達を探しながら町の中を歩き回った。
「フィアナ!」
「アイリスさん」
皆の姿を見つけると私に気付いたアイリスさんが安堵した顔でこちらを見る。
「姿がなかったからずっと心配していたのよ。何処に行っていたの?」
「フィアナ。その子は?」
アンナさんも駆け寄ってきて私の無事を確かめながら話す。ルークさんの言葉に私は隣にいる少女へと視線を向けた。彼女は大勢の人に驚いたのか私の後ろへと隠れる。
「皆を探している時に一人でいるところを見つけてそれで放っておけず連れてきたんです」
「お姉ちゃん達もお父さんとお母さんとはぐれちゃったの? わたしねお父さんとお母さんを探してるの」
「フィアナ……」
私の言葉に後ろに隠れていた少女が握り拳を作り勇気を振り絞って皆へと話しかける。その言葉に皆気付いているのだろう私へと視線を向けた。
「……そうだったの。それなら私達も共にお父さんとお母さんを探してあげるわ。もしかしたらもうこの町にはいないかもしれない。他の町に避難しているかもしれないから貴女も私達と一緒に来る?」
「うん!」
アンナさんが優しく微笑み少女と視線を合わせるとそう問いかける。それに彼女は大きく頷く。いつか知ることとなるその日までは彼女を助け守り育てていこう。この時この場にいる皆の気持ちは一致していたと思う。
「わたしドロシー。お姉ちゃん、お兄ちゃんよろしくね」
こうしてドロシーさんを拾い助けるとここに長く留まるのは良くないからと急いで町を出る。
それから薄暗い森の中へと入るとドロシーさんの事も考えて早めに野営することとなった。
「でも、どうして町が襲われたんでしょう?」
「「……」」
戻って来てみたら崩壊されていた町の様子を今でも思い出しただけで胸が苦しくなる。私は誰にともなく尋ねた。それにアルスさんとジュディスさんが何事か考えこんでいる様子で俯く。
「……たぶん、それはぼくのせいだ」
「……それは俺のせいだ」
「「「「「「「「「え?」」」」」」」」」
同時に声をあげた二人の言葉に私達は驚き彼等を見詰める。
「いや、ジュディスは関係ない。俺のせいだ」
「うんん。ぼくのせいだよ」
「ふ、二人とも落ち着いてください。どういう事なのか説明して下さい」
お互い自分のせいだと言って譲らない様子に私は尋ねた。
「まずはぼくから話すよ。皆には秘密にしていたけどぼくは――ぼくの本当の名前はライディン・ジュディス・オルドゥラ……オルドゥラ国の王子なんだ。だからザハルの兵士に命を狙われていた。あの町が狙われたのもぼくがいたからなんだ」
「ジュディスが……王子様?」
(オルドゥラって……オルドラ国になる前の国名よねってことはこの人は……オルドラ国国王様!?)
真剣な顔で真実を明かしてくれたジュディスさんの言葉に呆気にとられるアンナさん。私も驚いてしまった。オルドラ国の国王様だったなんて……どうして気付かなかったんだろう。まぁ、国王様に会ったことなんてなかったからな。分からなかったのはそのせいだと言い張っておこう。
「だからぼくのせいでこの町は狙われたぼくがいたから……」
「それは違う。俺のせいだ。俺の本当の名前はカイル・アルス・ザァルブルブ……帝国ザハルに住む貴族だ。父は国王の話にすっかり丸め込まれて我が家の財力を全て戦争に使う軍資金につぎ込んでいる。新たな武器を開発するためのお金だって惜しまずに出す始末だ。このままでは世界中で戦争で苦しみ命を落とす者ももっと多くなるだろう。貧困の差で食べるものに困る者も……だからこんなこと辞めさせるため俺は父上に頼んだんだ。だが、
父は耳を貸そうとはしてくれなかった。それどころか俺を丸め込もうとした。だから家を飛び出した。そうして帝王を暗殺してこのバカげた戦争に終止符を付けようと思ってそのために隣国オルドゥラの国王に会おうと旅をしていたんだ。結局旅の途中でオルドゥラが攻め落とされたと知り引き返していたところでお前達と出会ったんだ。父上は俺の動きに気付き帝王に話したんだろう。だからザハルの兵士に狙われた。だからこの町が襲撃されたのは俺のせいなんだ」
自分のせいだというジュディスさんにアルスさんが頭を振って違うというとそう説明する。何か訳ありだろうとは思っていたけれどそういうことだったのね。……て、ザァルブルブってザールブルブ国の旧名よね。ということはこの人はフレンさんとアレンさんの……
それで分かった。どうしてアルスさんの姿に見覚えがあったのか。この人の戦い方も顔つきも彼にそっくりだったからだ。
納得するのとともに私はこの事実に驚いていた。兎に角自分が悪いといって譲らない二人の言い合いはしばらく続き、きりがない為アンナさんが声を挟み仲裁した。
「二人とも自分を責める気持ちは分からなくもないわ。でも、どちらのせいだったとしても悪くない。悪いのはザハルの帝王よ。人々を苦しめるそんな人をこれ以上野放しになんかできないわ」
アンナさんの言葉にみんなそうだと言わんばかりに頷く。
「……そうだね、ここで責任の取り合いなんかしている場合じゃない。一刻も早く帝国ザハルへ向かい、帝王を倒さないとね」
「そうだな。こんな犠牲もう二度と出さないように俺達が終わらせよう」
ジュディスさんが言うとアルスさんも頷く。そうして二人はお互いしっかりと固い握手を交わし合った。
こうして二人の話を聞いた私達は秘密を知って驚いたものの、目的は同じだからこれからも協力していこうという感じで話はまとまった。
「……ぅう」
「眠れないんですか?」
何度も寝返りを打ち眠れていない様子のドロシーさんへとそっと声をかける。
「お姉ちゃんも眠れないの?」
「……少しお話しましょう」
起き上りこちらを見てきた彼女に私は優しく声をかけると座りこみ星空を見上げる。
「私、お母さんを早くに亡くしてお父さんも六歳の時に亡くしたの。……だからお父さんとお母さんとの思い出はあんまりなくてね」
「……」
私の言葉に驚いた顔で彼女が見上げてくると、悲しそうに俯いた。
「……本当はもうわかってるんだ。お父さんとお母さんは生きていないかもしれないって……でも、認めたくなくて。認めちゃったらもう二度と会えなくなるから……」
「私も本当のお父さんとお母さんに二度と会うことは叶わないと思っていた。でもね、私の胸の中にずっと二人は生きていていつでも見守ってくれている。だから寂しくないの」
「わたしの胸の中にもお父さんとお母さんは生きているのかな?」
「勿論です。ずっとドロシーさんの事を見守ってくれていますよ」
励ますように話す私にドロシーさんの瞳はみるみる輝きを取り戻していった。
「お姉ちゃん、ありがとう」
「ドロシーさんに一杯助けてもらったから。だから私もドロシーさんを助けたかったんです」
「?」
私の言葉に不思議そうに首をかしげ見上げてくる。今の言葉を理解するのはきっともっとずっと後なのだろうけれどでも今伝えておかないといけない。
「このペンダント……これはね時渡のペンダントと言って自由に過去の時代に飛ぶことができるの。でもこのペンダントを使って時を越えられるのはたった一日。それを過ぎてしまうと時の迷い人となり一生時の中を彷徨うことになる。だから扱い方を間違えてはいけないの。このペンダントを使うのはとても簡単でね、魔石に手を当てて強く祈るの。そうすれば過去の時代に飛ぶことができるのよ。……ドロシーさんにはこのことを覚えていてもらいたい。そして未来の貴女に皆の命を託します」
「どういうこと?」
私の言葉を理解できなかったドロシーさんがさらに不思議そうな顔で尋ねる。
「今はまだ、分からなくていいです。だけど、きっといつかその言葉の意味が分かる日が来ます。その時は二つの国の未来を……いいえ、世界の事をよろしくお願いします」
「うん?」
話しにピンと来ていない様子であいまいに頷く彼女に私は頭を下げた。
この時私が託した未来へのバトンは後に十五歳の私を助け皆の命を救うこととなる。
共通ルートはここまでです。次章からはまたキャラクター別ストーリーとなります。
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