変装したフレンさんを連れて王国魔法研究所へと向かう。
「あれ。ティア、フィアナ。今日はどうしたの?」
「ちょっとヒルダさんに用があって……レオンさんはいつもここにいるんですね」
受付に向かうと不思議そうな顔のレオンさんが立っていて私は受け答える。
「あ、あ~ぁ。まあ、ここって興味深いからな。ちょくちょくここに来るんだよ」
「お、おまたせしました。あの、わたしに御用があるとか。その、この前の事でなにかお困りでも?」
レオンさんが笑って答える。確かにここは興味深いところだものね。そんなことを思っているとヒルダさんがやって来る。うぅ、緊張するな。
「あ、いえ。今日は私達が用事があるのではなくこの人が」
「あんたはザールブルブから来た魔法使い見習いだろう。なら、王宮から派遣されたはず。何か知っていることはないかと思って……」
姉の言葉に帽子をわざとぬいで顔を晒したフレンさんがヒルダさんを見る。
「え? ……っ!」
「っ! あんたは……」
彼の顔を見た二人が驚く。ヒルダさんは分かるけれどレオンさんも驚くなんて。一体どうして?
「そう、生きていたのね……それじゃあ仕方ないわよね」
「ちょ、ちょっと待てよ。ヒルダ! ここには……っ!」
「「「「!?」」」」
ヒルダさんが低い声で言うと右手を掲げる。その行動を止めるようにレオンさんが言うとどこからか取り出した小瓶のふたを開けた。すると辺り一面白い光に包まれる。
「……逃げられたか」
「レオンさんも黒幕と繫がる関係者だったんだね」
「フィアナ、大丈夫?」
光が治まるとそこに二人の姿はなくフレンさんが言う。私はレオンさんが黒幕と繫がっていることが信じられなくて、いや信じたくなくて複雑な心情を抱いた。
そんな私に気付いてか姉が声をかけてくるけれどうまく答えられなくて黙る。
「とにかく一度家へ戻ろう。こちらが仕掛けたのだから相手が接触してくるのを待つだけだ」
フレンさんの言葉に私は重たい足取りで家と帰っていった。
「はぁ……」
あれから家に帰り作戦会議を終えるといつ二人が襲ってきてもいいように警戒しながら過ごすこととなった。それでも私の気持ちは沈む一方であんなに優しくしてくれたレオンさんがフレンさんの命を狙っていた。観光でこの町に来たというのは嘘でずっとフレンさんを探して殺そうとしていた。そう考えると悲しくなってくる。
「レオンさんどうして……」
「フィアナ……」
自室でこもりっきりの私の下に姉が遠慮がちに入って来る。
「お姉ちゃん。フレンさんを一人にして大丈夫なの」
「そ、それがね……説明するよりも見た方が早いわ。ちょっと下に来て」
姉の言葉に私は不思議に思いながら一階のリビングへと向かう。
「ルシアさん、ルキアさん?」
「手紙を届けに来たらフレンがここにいたから、どういうことなのかと訳を聞いた。お前達の様子がここしばらくの間おかしかったのにも納得した」
「そんで、オレはルシアから話を聞いて手伝いに来たんだ」
どうして二人がここにいるのかと不思議に思っているとルシアさんとルキアさんが説明してくれる。
「それで、とりあえず作戦の見直しとこれからの動きについて話し合うことになったからフィアナも聞いてくれ」
「……はい」
フレンさんの言葉に私は元気なく頷く。いまだに心情は複雑なままでレオンさんのことを考える度に溜息が零れそうになった。
それから夕方になっても夜になっても一向にヒルダさんもレオンさんも現れることはなく。私達は交代に仮眠をとりながら過ごすこととなった。
*****
≪オルドラ王国の路地裏≫ (共通ルート 分岐点)
「せっかく王子自らこっちに出向いてくれたって言うのに、どうして逃げたりなんかしたのよ」
「あの場にはフィアナ達がいたんだぜ。あの子達を巻き込みたくなかったんだよ」
腕を組み苛立たしげに言い放つヒルダの言葉にレオンが答える。
「そ、それは……そんなことよりなんであの子達王子と一緒にいたのかしら?」
「王子と出会う接点なんてなさそうに思うけど……って、あっ!」
彼女の言葉に彼は何かを思い出し大きな声をあげた。
「ちょっと耳元でいきなり大きな声あげないでよ」
「彼女達がヒルダに聞いてきた話だ。なんか聞かれたくなさそうに困ってたから助け舟出してあげたけど」
唇を尖らせ怒るヒルダへと彼がそう言って説明する。
「そういえば魔法の失敗で動物になってしまった人を元に戻す方法なんて普通は聞くことじゃないとは思っていたけど……っ! まさか、そういうこと?」
「きっと王子は動物に姿が変わっていたんだ。そりゃどこを探しても見つかるはずもないし死体が出てくることもない。動物になっていたんなら探知魔法にだって反応が現れるはずもない。そして動物になった王子を彼女達が助けたんだ」
彼女も答えに行き付き目を見開き驚く。レオンが言うとヒルダは何事か考えこむように俯いた。
「どうする?」
「……王子を見つけたのだからあの人の命令通り消すしかないわ。それがわたし達のやるべきことだもの」
彼が問いかけると彼女は静かな口調でそう話す。
「……その命令に従うかどうかオレは考えるかな。だって王子の側には彼女達がいる。巻き込んで危険な目に合わせたくはない」
「それはわたしも同じ気持ちよ。フィアナ達を危険な目に合わせたくない。何とか王子だけ始末する方法を考えて見せるわ」
レオンの言葉にヒルダも同意すると良い知恵はないかと考える。
「そうだわ。この方法なら……ちょっと耳を貸しなさい」
「っ! ……なるほどね」
彼女が言うと彼へと耳打ちした。その言葉にレオンは納得したものの不安そうな顔で彼女を見詰めた。
「それ、ホントに上手くいくのか?」
「上手くやって見せるから、あんたはわたしが合図を出すまで隠れてなさい」
「……」
彼の言葉にヒルダは自信満々に答える。それにレオンは不安そうな顔のまま頷いた。
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