追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
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七章 決戦 (共通ルート カーネスルート)

公開日時: 2022年5月4日(水) 03:00
文字数:5,874

 夢を見ていたのだと思う。優しく微笑むカーネスさんの夢を。

 

『俺が貴女に恥じない生き方ができるようになって、貴女の前に現れるその日まで待っていてくれますか? いいえ、今まで貴女に散々待たされたのですから、今度は貴女が俺が現れるその日まで待っていてもらいますよ』

 

そう言って微笑む彼の姿がかすんでいく。私は慌てて手を伸ばした。

 

「っ!?」

 

「「フィアナ!」」

 

目を開けると私の頬は濡れていた。夢を見ていたようだがどんな夢だったのか思い出せない。そんな私の姿を安堵した顔で見るアルスさんとジュディスさん。

 

「よかった、目を覚まして」

 

「あぁ、タイムリミットの前に目覚めてくれてよかった」

 

「あの、私……」

 

どうしてこんなに心配されているのか分からず私は不思議に思い記憶をさかのぼる。確か兵士達に囲まれてロウさんが時間稼ぎしてくれている間に逃げて大通りで……そこから私どうなったんだっけ?

 

「大通りに出た途端兵士にお前が捕まって薬を嗅がされたんだ。それでお前は眠ってしまった」

 

「フィアナの命を助けたければ大人しくしろって言われて結局皆捕まって馬車で連れてこられたのはザハルの城。で、今は牢屋の中ってわけだよ」

 

説明してくれた二人の言葉に現状を理解できたがそれってつまり今命の危険が迫ってるってことよね。

 

「フィアナすまない。君までこんなことに巻き込んでしまって……」

 

「何とかして君だけ逃がせられればいいんだけれど、牢屋の守りが固くて抜け出せそうにない」

 

暗い顔で話す二人の言葉に、ここから逃げ出せない事でもう命のタイムリミットはないと諦めている様子。

 

「大丈夫です。私達は絶対に助かります。ですから、どうかそんな顔をしないでください」

 

「……どうしてかな。フィアナが言うと本当に大丈夫な気がしてくる」

 

「そうだな。最後まで諦めるわけにはいかないな」

 

私の言葉にジュディスさんが言うとアルスさんも頷く。

 

「っと。それよりフィアナはそろそろ一度未来に帰らないと……時の迷い人とやらになってしまうんだろう」

 

「そ、そうでした。怪しまれないようにすぐに戻ってきますのでちょっと待っていてください」

 

「その間はぼく達で何とかごまかしておくから大丈夫」

 

アルスさんの言葉に私が言うとジュディスさんがにこりと笑い任せろと胸を張る。

 

私は二人に一時的に別れを告げ一旦未来へと戻った。二人の姿が無くなり次に見えてきたのは見慣れたリビング。だけどゆっくりしている時間はない私は再びペンダントへと手を伸ばした。姉達が何事かと聞きたそうな顔をしたが切羽詰まっていると悟り黙って見送る。

 

本当はこんな時頼りたいけれど、でもそんな余裕はない。私がいない事を知った兵士達が今すぐにでも二人を処刑してしまうかもしれない。そうならないうちに早く戻らなくては。

 

そうして戻って来ると幸い兵士達に気付かれる事無く私達は輪になってこれからについての事を話し合った。

 

「おそらく俺達は明日、見せしめのために公開処刑されることだろう」

 

「そうなる前になんとか助かる道を見つけないといけない」

 

「う~ん……」

 

二人の言葉に私は何かないかと牢屋の中を見回した。冷たい石牢。鉄格子が嵌められた窓は固く閉ざされ外に出られそうもない。と、その時小さな隙間からドブネズミが一匹ちょろちょと牢屋の中へと入って来る。

 

「ネズミさん……そうだ!」

 

私は良い事を思いつきそっとネズミの方へと近寄った。

 

「あ、待って逃げないで! ねぇ、ネズミさん。あなたこの建物の外へは出たことある?」

 

『食べ物がない時は時々外に出てるよ』

 

人間が近付いた事で慌てて逃げようとするネズミさんを止めて私は優しい口調を意識して語りかける。

 

「そう、それならネズミさんにお願いがあります。私と同じようにあなたの言葉が分かる人と一緒にいる人達をここに連れてきて。お願いできますか?」

 

『う~ん……後でお腹いっぱいご馳走くれるなら聞いてあげる』

 

交換条件を持ち出すネズミさんの言葉に私は小さく頷くと口を開いた。

 

「約束します。無事に助かった時はあなたにお礼をするって」

 

『分かった。それなら連れてきてあげるよ』

 

私の言葉に了承してくれたネズミさんがひび割れた隙間へと消える。今はネズミさんが皆を連れてきてくれることを願うしかない。私は祈るようにネズミさんが消えた穴を見詰めた。

 

*****

 

アンナ視点

 

フィアナがいなくなることはいつもの事であんまり気にしていなかった。この時までは……

 

「……フィアナ、戻ってこなかったわね」

 

いつもなら朝の出発までには戻ってくる彼女が今日ばかりは帰ってこなかったのだ。

 

何かが気になっている様子でちょっと出かけてくるといって出て行ったきり戻ってこなくて気が付いたら夕方になっていた。

 

「アルスとロウとジュディスも戻ってこない。これは何かあったのかな?」

 

ルークも怪訝そうな顔で首をかしげる。こんなこと今までなかったのだからそう思って当然よね。

 

「まさかとは思っていたが……フィアナはやはり帝国側の内通者だったのか?」

 

「そんなことはないわ。フィアナはそんな人じゃない」

 

「アイリスが言うなら俺もそう信じる」

 

ジャスティンの言葉にアイリスが否定するとロバートも信じるという。私も共に旅をしてきた仲間が帝国側のスパイだったなんて信じたくはない。けれど、今までも度々どこかへと行っていた。もしかしたらこちらの動きを帝王に知らせに行っていたのかもしれない……いいえ。友達を疑うなんて良くないわ。私もフィアナの事を信じないと。

 

「皆、大変だ!」

 

「リック如何した?」

 

嫌な考えに支配されそうになり頭を振って否定していた時リックが血相を変えて駆け込んでくる。ハンスが驚いて尋ねた。

 

「僕見たんだ。帝国の兵士達に連れて行かれるフィアナ達の姿を」

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

「それってつまり攫われたってことだか?」

 

彼の言葉に皆驚いて目を見開いた。最初に声をあげたのはアンジュでその言葉にリックが大きく頷く。

 

「きっと帝国に連れて行かれたんだと思う。このままじゃ皆の命は危ない。急いで助けに行こう」

 

彼の言葉に私達は弾かれたように急いで旅支度を済ませると帝国へと向けて足を進める。

 

しかし一日では辿り着けそうもなくて限界まで歩き続けたドロシーちゃんが座り込んでしまった為森の中で立ち止まりここで休むべきかどうするのかを考えていた。

 

「このまま乗り込んだところで三人がどこにいるかもわからない。むやみに乗り込めば敵の思うつぼかもしれない」

 

「でも時間はないと思うわ。急いで助けないと」

 

「あら……」

 

ジャスティンの言葉はもっともだけれども時間がない。こうしている間にも三人は殺されそうになっているかもしれない。その時何かに気付いたアイリスが声をあげる。そちらを見ると一匹のドブネズミが私達の方を見ていてその動きは何かを訴えかけているようだった。

 

「ネズミさん何か知ってるの? ……っ!?」

 

優しく語りかけたアイリスにネズミが一鳴きする。すると彼女は血相を変えて目を大きく見開いた。

 

「ネズミさんお願い連れて行ってその場所に! ……皆、聞いて。あのネズミさんはフィアナに頼まれて私達を探しに来たのだって。明日の朝三人は見せしめのために公開処刑されるそうよ。急いでいかないと間に合わないわ」

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

アイリスの言葉に私達は驚くとともにこのまま立ち止まっていられないとネズミの後を追いかけて帝国へと向かっていった。ドロシーちゃんもフィアナ達が死んでしまうかもしれないとの思いで必死についてきてくれる。フィアナ、皆如何か無事でいて。すぐに助けに行くから……

 

*****

 

ネズミさんが無事に皆の下へと向かってくれていると信じながら夜は更け、気が付いたら朝陽が暗かった牢屋の中へと差し込む。

 

「おい、出ろ」

 

「きゃっ」

 

「「……」」

 

兵士に乱暴に外に連れ出されつい小さな悲鳴をあげてしまう私とは対照的に無表情で声をあげる事無くアルスさんとジュディスさんは歩く。

 

連れてこられたのは広場でそこには民衆が処刑場となる空間を囲んでいた。

 

「この者達は我に刃向かった。よって本日見せしめのための公開処刑を執り行う。皆のもの聞け、我に逆らえばこうなるのだ。今日の処刑をよく見ておくのだぞ。我に刃向かう者の末路がどうなるのかをな!」

 

簡易的に建てられた物見台の上から帝王と思われる人物が威厳ある偉そうな声で高々に言い放つ。

 

「処刑を執り行え」

 

「「「……」」」

 

私達は十字に建てられた柱に縄で腰と腕をがんじがらめに縛り付けられる。

 

「冥途の土産にこれでもくれてやる」

 

「「っ!?」」

 

「ロウ……」

 

帝王が言うと兵士がこちらへと何かを放り投げた。それはよく見るとロウさんで、彼は無残なまでに切り刻まれていた。おそらくはもう……

 

「貴様等もすぐに仲間の下へ送ってやる……始めよ!」

 

「「「……」」」

 

帝王の命を受け兵士達が剣を抜き放ち私達へと刃を向けた。

 

「っ……」

 

つい目を閉ざしてしまったが何時まで経っても痛みもなければ衝撃も走らない。おかしいと思い目を開けてみると私の身体と腕に巻き付けられていた縄が切り落とされていた。隣を見るとアルスさんとジュディスさんも同じように自由の身となっている。

 

「貴様等何をしている? 我に刃向かうか!」

 

「……あいにくとここで処刑されるのは帝王貴様の方だ」

 

帝王が苛立った口調で言い放つ言葉に物おじせず言い返した声はジャスティスさんの声音で。よく見ると私の横に立っている兵士さんはルークさんでにこりと笑いウィンクした。

 

「ルークさん、ジャスティンさん、リックさん」

 

「フィアナ、もう大丈夫よ」

 

嬉しくて笑顔になる私に駆け寄り抱き締めてきたアンナさんを受け止め返す。

 

見るとハンスさんもアンジュさんもロバートさんもアイリスさんもドロシーさんもこちらに駆け寄って来ていて、その隣にはリックさんにそっくりな女の人が二人。おそらくお母さんとお姉さんだろう。私は皆の姿に安堵の吐息を吐き出した。

 

「おのれ……我を侮辱しよって。何をしている。そ奴等を全員捕らえよ!」

 

帝王の言葉に兵士達が私達に槍や剣を向けて突っ込んでくる。その様子にここが戦場と化すことを悟った民衆は慌てて逃げ出した。

 

「流石に、この兵士の量はきついか……」

 

「私に任せて下さい」

 

多勢に無勢の状況に苦い顔をするジャスティンさんに私は言うと一歩前へと出る。そして持っていた小瓶を兵士達目がけて投げつけた。

 

すると中から煙が出て風に乗り広場全体へと広がる。それが晴れた時には兵士達は地面に倒れていた。

 

「眠り薬です。強力に作っているものなのでちょっとやそっとじゃ目を覚ませないですけれどね」

 

過去に飛ぶ前にドロシーさんから渡された強力な睡眠薬。これは以前カーネスさん達が被ってえらい目に合った薬なだけにその効果は保証済みである。さぁ、これで兵士達はしばらく起きてはこないからこの間に帝王を何とかすれば終わるはず。

 

「さぁ、後は帝王。お前だけだな」

 

「ふん、貴様等なんぞに我が倒せるとでも思ったか! この前は取り逃がしてしまったが今度こそあれで片を付けてやる」

 

「あれは……古代の破滅の魔法」

 

帝王が鼻で笑うと赤黒い魔法陣が地面一杯に現れて私はその見た事のある光景に急いでアンナさんへと振り返る。

 

「アンナさん。以前私が教えた事、覚えていますか?」

 

「え、えぇ。封印の古代魔法の話かしら? 覚えているわよ」

 

声をかけられ驚いていたが質問の意味を理解して大きく頷く。

 

「今すぐにそれをお願いします」

 

「私に踊れというの? む、無理よ。出来るという保証はないわ」

 

私の言葉に自信がないと言って首を振る。

 

「大丈夫です。アンナさんなら必ずやれます。ですから信じて下さい」

 

「……不思議ね。貴女が言うと本当にできるような気がするわ。分かった、やってみる」

 

私の言葉に数分こちらを見詰めていた彼女がふっと微笑むと了承する。そうして呼吸を整えるとそっと踊るように魔法陣を描き始めた。

 

それはかつて私が見た姉の踊る姿と同じで……舞を描くアンナさんにティアさんの姿を重ねて見ながらあの時姉に封印の魔法を踊るようにと頼んだお母さんの判断は正しかったのだと確信を得る。

 

「ぐぬ?! 何故だ? 何故身体から魔力が消えていく? お、おのれ……」

 

帝王が悔しげに言うとその場に頽れる。物見台から落ちてきた彼は私達の前に膝をついた状態で踏みとどまった。

 

「……帝王。貴方のしてきたことにより多くの人の命が消え多くの人が傷つき血を流した。これは到底許されることではない。よって今この時をもって貴方の命は俺が預かる。……牢獄でおのれの犯した罪の重さを知ると良い」

 

帝王の前へと進み出ていったアルスさんが静かな声でそう告げると男は力なくその場に項垂れる。こうして僅か九人の革命軍により帝国ザハルの王は捕らえられ後にその罪の重さにより処刑された。革命軍は英雄と呼ばれ称えられ。長らく続いた戦争時代は幕を閉ざす。

 

帝国ザハルは滅び新たな王が誕生する。その国王こそアルスさん……いいえ、カイルさんである。そして国名をザァルブルブと改め新たな国は誕生する。父を殺されてしまったジュディスさんことライディンさんが後を継いでオルドゥラ国の新王に即位した。二つの国はお互い協力関係を結ぶこととなりこうして後の世まで長らく続く交流が始まる事となる。

 

ジャスティンさんとリックさんはその腕を買われてカイルさんの身を護る側近兵として勤める事となりカイルさんが信頼する人を側に置きたいからとアンジュさんもメイド長として王宮にはいる事となった。

 

両親を亡くし独りぼっちになってしまったドロシーさんはカイルさんの王宮で責任をもって育てるということとなり魔法に興味を持った彼女のためにハンスさんが先生となり教えたが、彼は後にオルドゥラ国の魔法研究所の所長となる。アンナさんとルークさんはこの旅で親密な関係となり二人で旅芸人として世界中を回ると言って旅立って行った。二人がその後結婚したのは私の知っている通りである。そしてアイリスさんとロバートさんもラウラスの森へと戻って行った。

 

ちなみに無事に全てが終わった後私はドロシーさん以外のこの旅で知り合った仲間であり友達である皆に真相を明かす。彼女等は初めは驚いていたけれど私が時々抜け出していた理由の正体がわかって良かったと笑い未来でまた再会しようと言ってくれた。こうしてこの時代での私の役目は終わりを告げたかに思えたが、この後もちょこちょこ時渡のペンダントを使って過去の時代へと来ることとなるがそれはまた別のお話である。

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