追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
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七章 孤独な王子 (フレンルート)

公開日時: 2022年4月16日(土) 03:00
文字数:9,147

 トカゲさんに伝言を頼んでから時は進んでいき、気が付いたら鳥のさえずりが聞こえ辺りは明るくなっていた。

 

「トカゲ、戻ってこないな」

 

「……信じるしかないよ。フィアナもそんな暗い顔しないで、ね」

 

「はい。そうですね」

 

アルスさんの呟きにジュディスさんがあえて明るい声で話す。私もつい不安になってしまう心をごまかすように答えた。

 

それから暫く経つと牢屋の鍵を開ける音が聞こえ中に兵士が一人入ってきた。

 

「出ろ!」

 

「きゃ」

 

偉そうな態度で兵士が言うと無理矢理連れ出される。その乱暴さについ悲鳴をあげてしまった。

 

「フィアナに乱暴するな」

 

「最低だね」

 

「黙れ! 女であれ罪人共をどう扱おうがよいと言われている」

 

二人が抗議してくれたが兵士は相手にしないといった感じで怒鳴りつける。その後も何事か言いたそうな顔をするアルスさんとジュディスさんだったが取り合っても無駄だと思ったのか無言になった。

 

そうして私達が連れてこられたのは町の中。大きな広場には民衆が集まりこれから執り行われる処刑を見に来ているようであった。

 

「皆の者聞け! こ奴等は我を殺そうと暗躍し刃を向けた反逆者達だ。よって本日見せしめのための公開処刑を執り行うこととなった。皆の者しかとその目で見届けよ。我に逆らった者達の末路をな」

 

帝王が簡易的に作られた物見台の上へとやって来ると処刑台に縛られる私達の前で偉そうに話す。

 

このまま処刑が執り行われてしまうのかな。……そうなったら私、もう未来に戻れないのね。お父さんとお母さんを助けられないまま……フレンさんの下に帰れないで死んじゃうのかな。

 

そう思うと涙が込み上げて来たけれどここで泣いてしまったら死を受け入れたみたいでいやだったので堪える。

 

「貴様等を葬る前に良いものを見せてやろう」

 

「「っ……」」

 

「ロウ……力がない俺が悪かった。すまない」

 

帝王の言葉に兵士が私達の前へと何かを放り投げる。物みたいな扱いをされていたのが見知った顔であることに気付き私とジュディスさんは息を呑む。冷たい石畳の上に転がっているのは一人だけ置いてきたロウさんで、彼は無残なまでに切り刻まれていて……おそらくはもう息はしていないだろう。

 

友人ではないが、過去の世界で知り合い一緒に旅をした仲間だから情もある。悲しみに涙がこぼれるのと共に帝王に対して怒りを覚えた。

 

「処刑を執り行え」

 

怒りと悲しみに心がもやもやしていると帝王がそう宣言する。私達の前に剣を抜き放った兵士達が歩いてくると武器を振りかぶった。とっさに目を閉ざしてしまったがしばらく経っても痛みも何も感じなくておかしいと思い目を開ける。

 

「えっ?」

 

目を開けて見えたのは切られた縄。私達は自由の身となっており三人して兵士達の意図が分からず困惑して見詰めた。

 

「貴様等何をしておる? 我の命令が聞こえなかったか」

 

「……ここで殺されるべきは貴様だ。帝王、覚悟しろ!」

 

帝王の言葉なんて聞いていないかのように一人の兵士が言うと兜を投げ捨て切っ先を物見台へと向ける。その顔はよく見知った人物で私は安堵して力が抜けてしまった。

 

「処刑前に間に合ってよかった。フィアナ、もう大丈夫だぞ」

 

「僕達の演技どう? 完璧だったでしょ」

 

「皆……」

 

私の横でそっと支えてくれるお父さんに、鼻の頭をこすり得意げにウィンクするリックさん。

 

私は助かった事と皆に再会できた喜びとで緊張の糸がほぐれていった。

 

「フィアナ、怖かったでしょ。もう大丈夫だから」

 

「お姉ちゃん……無事でよかった」

 

お母さんとドロシーさんが駆け寄って来ると二人に抱き締められ私はそれに答えるように受け止める。

 

「みんな無事だか?」

 

「ほら、こいつを奪い返してきたぞ。アルス、ジュディス受け取れ!」

 

アンジュさんが見知らぬ女性二人を連れてやって来ると一緒に来ていたハンスさんが二つの剣をアルスさん達の方へと放り投げる。アイリスさんとロバートさんも一緒だ。

 

『ふぃ~。久々に大仕事して疲れたわい。間に合ってよかった。お嬢さんこれでよいかな?』

 

「トカゲさん、有難う御座います」

 

トカゲが私の足から這い上がって来ると肩に乗りそう言ってくる。私は心からのお礼を述べると彼が誇らしげにふくりと胸を張った。

 

「許せぬ……この我を侮辱したこと後悔するがいい。何をしている。反逆者共を捕らえよ!」

 

帝王の言葉にいきなりの出来事に呆気にとられ見ているだけだった兵士達が槍や剣を構えて私達の方へと駆け寄って来る。

 

民衆は逃げ惑い我先にとこの場から立ち去っていった。でも、それはこちらにとっては好都合。兵士にとられないようにと必死に隠し通した懐に仕舞っている小瓶がある事を確認すると前へと進みでる。

 

「ここは私に任せて下さい」

 

「任せるって……何をする気だ?」

 

自信満々に話すとハンスさんが何を言っているんだといわんばかりに声をかけてきた。

 

「まぁ、見ていてください。……えい」

 

私は取り囲む兵士達へと向けて懐から取り出した小瓶を次から次へと投げる。

 

何をする気だと警戒し立ち止まる彼等の足元で割れた瓶の中身がぶちまけられるとその煙を吸い込んだ兵士達は次々に倒れる。

 

「睡眠薬です。ちょっとばかり強力に作っているものなのでちょっとやそっとじゃ起きることはできません」

 

私も被って丸一日眠りこけ皆を心配させた代物だけに効果は保証できる。これで帝王を守る者は誰一人としていなくなった。

 

「今です」

 

「帝王、ロウの……そして多くの人達の命を奪った罪償ってもらう。覚悟しろ!」

 

私の言葉にアルスさんが言うと切っ先を帝王へと向けた。

 

「貴様等の戯言に付き合う気はない。このような事でやられる我ではないわ! この前は試せなかったが今日こそあれを使って貴様等を葬ってくれる」

 

「何、あの赤黒い魔法陣は?」

 

帝王が言うと魔法陣を展開する。その見た事のない不気味な光景にアイリスさんが一歩後ずさりながら呟いた。

 

「あれは……アンナさん。今すぐに私が前に伝えたとおりに踊りを踊ってください」

 

「え? えぇっと……前に話していた古代の封印の魔法の事かしら。そ、そんなの無理よ。いきなりやれって言われてできっこないわ」

 

見覚えのある魔法陣あれは間違いなく古代の破滅の魔法。あれを使われたらこの町も……いいえ、世界中が消し炭にされてしまう。もう二度とその光景は見たくない。その為に私は過去に飛んでお母さんとお父さんを助けに来たんだから。そう思いアンナさんへと頼むと彼女は無理だと言って首を振る。

 

「大丈夫です。アンナさんならできます。ですから、お願いします」

 

「……貴女が言うとなんでも本当になりそうで不思議ね。分かったわ。私にしかできない事ならやってみる」

 

真剣な気持ちで伝えると私の目を見詰めていたお母さんが小さく笑い了承してくれた。

 

そうして一呼吸おいた後に壁画を思い出すように舞を踊り始める。それは女王を止めるために姉が踊りで描いた姿と同じで、あの時のお母さんの判断は正しかったのだと分かった。そのおかげで今私はここにいてこうしてお父さんとお母さんを世界中の人達を助ける事が出来ているのだ。

 

「ぬぅ? 何故だ……体から魔力がなくなっていく。お、おのれ……」

 

帝王が喚くとその場に頽れる。その瞬間物見台から落っこちてきてしまうが何とか倒れ込まずに膝をついていた。帝王と呼ばれた者の最後のプライドだったのかもしれない。

 

「アルスさん……」

 

すっと動いたアルスさんの姿に私はつい声をかけてしまったが見守る。

 

「帝王、貴方のした罪は重い。多くの人の命を奪い多くの人を傷つけてきた。決して許されることではない。そんな人が帝王であっていいはずがない。貴方の命は今この時をもって俺が預かる。牢獄で今までの罪の行いを反省する事だな」

 

彼の言葉を聞きながら女王に悲しみを込めて罪を償うようにと告げたフレンさんの姿が重なって見えて、あぁ。やはり親子だなと思った。アルスさんの言葉に帝王と呼ばれた男は項垂れる。その弱弱しい姿には先ほどまでの威厳は感じる事が出来なかった。

 

かくして帝王はわずか九名という革命軍に倒されたと後の歴史書には綴られることとなりお母さん達は英雄と呼ばれ称えられることとなる。

 

こうして英雄が誕生することとなった。それからアルスさんことカイルさんがザァルブルブ国を建設し国王となると父親を戦争でなくしてしまったジュディスさんことライディンさんが後を継ぎオルドゥラ国の新王に即位した。

 

カイルさんの頼みでジャスティンさんとリックさんが彼を守る側近兵として使える事となり、信頼している人を側に置きたいからとアンジュさんがメイド長となった。

 

独りぼっちになってしまったドロシーさんも王宮で育てるという事となり魔法に興味を持った彼女の師としてハンスさんが勉強を教える。ドロシーさんが一通り覚えた頃に彼はライディンさんの頼みで王国魔法研究所の所長を務める事となった。

 

今回の旅で親密になったアンナさんとルークさんは旅芸人として二人で世界中を飛び回り、何かあると事あるごとにカイルさんやライディンさんの下を尋ね二人の代わりに頼み事を引き受けるようになる。アイリスさんとロバートさんも住み慣れた森へと帰り二人は今まで通りの生活へと戻って行った。

 

これで私の役目は終わり……と思っていたが国を立て直すのに時間がかかるので私も手伝ってほしいと頼まれもう暫く過去の時代に飛ぶ日々が続いた。


 過去の時代と現在を行ったり来たりの生活が続く私。ザールブルブ国とオルドラ国と国名が改名されてからすごくショックなことがあっていらいこちらに飛ぶことがなくなっていたが、お母さんとお父さんから切願され、この世界では数年経った頃に私は再び時渡のペンダントを使い訪れるようになる。そんな私の下には皆からの頼み事が多く集まっていた。今回も話があると言われているのだけれど、一体どんな内容なんだろう?

 

「フィアナ、すまないな。本当はこんな事頼むべきじゃないと分かってはいるが、君以外に頼める者がいなくてな」

 

「いいんですよ。友人なんですからもっと気楽に頼んでください」

 

カイルさんに呼ばれた私は秘密裡に頼みたいという話を聞くため彼の部屋へとやってきていた。ちなみに私は大切な客人というあつかいになっているらしく王宮に仕えている人達からも丁重にもてなされていている。

 

「あぁ、実は息子……第一王子であるフレイルと第二王子であるアレクセイの事についてなんだ。あの二人は血のつながった兄弟なのに境遇が全然違っていてな。王妃はアレクセイの事ばかり可愛がりフレイルの事に関心がない。それどころか兄弟の仲を裂くかのように二人を会わせようとせず。そのせいなのかフレイルは母親に可愛がられている弟を敵視し拒絶するようになってしまった。俺は二人にはいつまでも仲睦まじい兄弟でいてもらいたいと考えているんだ。そこで君に頼みたい。二人が仲良くできるように力を貸してもらいたい。王子達の心を癒してやってほしい」

 

「分かりました。フレンさんとアレンさんの事は私に任せて下さい。私も二人には仲の良い兄弟でいてもらいたいですので、協力できることをさせて下さい」

 

内容を聞いた私は力強い口調で答えていた。フレンさんとアレンさん今ではとても仲の良い兄弟だけれど昔はそうじゃなかったのね。私が二人の仲を取り持ってあげられれば将来と同じ様になるのかもしれない。せ、責任重大だなぁ……失敗して未来が変わらないように頑張らないと。

 

「フィアナなら王子達を助けることができると俺は信じている。だから、そんなに肩に力を入れなくてもいい。もっと気楽に考えてくれ、な」

 

「は、はい」

 

意気込んでいる私の様子をおかしそうに見詰めてカイルさんが言う。緊張していることを見抜かれた。流石は国王様なだけはある。人の何気ない変化に気付けるなんて凄いな。

 

兎に角こうして私は二人の仲を取り持つこととなり、まず最初は孤独な王子であるフレンさんの下へと向かっていった。

 

「……」

 

「如何したの?」

 

中庭にぼんやりと佇む寂しそうな背中へとそっと声をかけるとフレンさんが驚いた顔で私を見詰める。

 

「……誰かは知らないが、俺にはかかわらない方が良い」

 

「どうしてそんな悲しい事を言うの。もしかして、私のため? それなら心配しなくても大丈夫だよ。誰に何と言われようとかまわないわ。だって、私は貴方が本当は誰にでも優しくて親切でとても礼儀正しい人だって知っているから。だから、自分と関わると相手が傷つくと思ってあえて遠ざけているんだよね。でも、私は貴方の味方です。ですから私の事を信じてもらいたいの」

 

いきなり声をかけられ驚いたものの睨み付ける様に私を見やると突き放すように告げるフレンさん。その顔に陰りを見た私は優しい口調を意識して話す。フレンさんは私達姉妹の事をとても大事に思い、陰謀に巻き込んでしまったことを本当に申し訳ないと言って謝ってくれた。そんな優しい心を持っている事を知っているから。だから大丈夫だと言える。今も昔もそれは変わっていない。彼の瞳が揺らいだのを見てそう確信した。

 

「どうしてだ……どうして俺の味方になろうとする? 王宮に仕えている者達は昔は誰もが俺の味方だといってくれていた。だけどその度に母上に厳しい罰を与えられた。だから城の者は皆分っている。俺と関わった者はひどい目に合うと。だから貴女も酷い目にあわされてしまうかもしれない。今ならまだ間に合うから、俺と関わらないでくれ」

 

「王子様……王妃様が私の事を罰せる事なんて出来ませんので大丈夫だよ。もう、独りぼっちになろうとしなくたっていい。これからは私が、私が貴方の味方になります」

 

困惑した顔で話す彼を抱きしめ私はそっと囁く。驚いたフレンさんは如何すればいいのか分からず固まってしまった。

 

「私はしばらくこの宮殿にいますので、お話したくなったら声をかけに来てくださいね」

 

「……」

 

今日はこれ以上は話しても変わらないと思った私はそう言うと立ち去る。それから今日の出来事をカイルさんに話すと一度未来へと戻る。こうして私はフレンさんが心を開いて近付いてきてくれる日を待ちながら王宮に通うようになった。

 

フレンさんと出会ってからというもの隠れてはいるが私の事をじっと見ている視線を感じるようになる。お母さんとお父さんと王宮に来て話をしている時も、ジャスティンさんやリックさんにお話を聞きに行っている時も、彼は物陰からこちらの様子を窺っていた。

 

(気付かれていないと思っているよね)

 

彼に話しかけてもいいが相手からこちらに声をかけてくるまで見守ろう。そう思い気付かないふりをして過ごす。

 

「それで、フィアナ様はいつまでこちらにいらっしゃるんですか?」

 

「アンジュさん。普通でいいんですよ。私は偉い人じゃないですから」

 

すっかりメイド口調が板についているアンジュさんから王子達の日常の事を教えてもらっていると、いつまでいるのか聞かれ私は普通に話してくれていいと伝える。

 

「ですが、王様の大切なお客人様に失礼のないようにしないといけませんので……」

 

「それでは周りに人がいない時は普通に接して下さい。お願いします」

 

「分かったよ。……久々に会えて嬉しいけれど、ここにいつまでもいられないでしょ?」

 

私がお願いすると普通の口調になった彼女が尋ねる。昔みたいに訛りはないがさっきの丁寧語よりはこっちのほうが落ち着く。

 

「カイルさんから頼まれた用事が終わるまではここに通うことになります。ですからその間は会いに来ますね」

 

「そっか、私も時間を作って会いに行くね」

 

「メイド長のお仕事大変なのに、お話聞かせてくださり有り難う御座います」

 

私がお礼を言うと彼女は小さく笑い口を開いた。

 

「お礼なんていらないよ。だって、友達なんだから。友達のためなら何でも協力するわよ。それより……」

 

「王子様は隠れているつもりなんです。そっとしておいてあげて下さい」

 

アンジュさんが言うと花瓶の方へと視線を向ける。それに私は小声で耳打ちする。彼女も分かったといった顔で頷く。

 

「王子様の事よろしくお願いします」

 

「はい」

 

頭を下げてお願いされて私は頑張らないといけないなと気をひきしめた。

 

(そろそろ、話しかけてくれないかな……)

 

毎日毎日王宮に通いフレンさんが声をかけてくれる日を待っていて気が付いたら一週間を超えていた。さすがにここまでくるとこちらから話しかけた方が良いのだろうかと考える。

 

「……お姉さんその」

 

「……私に何か用事?」

 

考えていた私に遠慮がちに声をかけてきたフレンさんへと優しい表情を意識しながら尋ねる。

 

「貴女に会った日からずっと見ていた。それで、お姉さんになら俺の事話してもいいと、そう思ったんだ」

 

「あそこに座ってお話しよう」

 

中庭にある階段の縁に座るように勧めると彼は黙ってついて来てくれた。

 

「俺はいずれ父上の後を継ぎ王様になるんだって。だけど、魔法国家であるこの国の後を継ぐ俺が魔法が全然うまくできない。だから母上は魔法ができる弟の方を大事にするんだと思う。でも、俺も母上の愛情が欲しいと思ってしまう。母上に愛されているアレンがすごく憎らしくてそれで冷たくするようになった。そうしたら母上は俺の事だけ叱るんだ。俺、母上に嫌われているのかな……だから母上はアレンにばかり優しくするんだ」

 

「フレンさん……王妃様が貴方の事を嫌いかどうかは私には分からない。でも、どうか忘れないで、貴方の事を思っている人がいるという事を。そしてアレンさんもお母さんの期待に応えないといけないと、とても苦しんでいるの。王妃様が貴方にきつく当たる度に貴方と離されていく悲しみを抱いている。アレンさんはお母さんに愛されているけれどとても孤独な思いをしている。仲良くなりたい人と仲良くできずにいるの。そして本当はフレンさんと仲良くなりたいと思っている。だからね、フレンさん。アレンさんに優しくしてあげて。貴方だけはアレンさんの味方になってあげて欲しいの。血の繋がった兄弟なのだから仲良くしてほしい。フレンさんならそれができるはず。お願いできますか?」

 

私はフレンさんを抱きしめ想いのままに話す。

 

「知らなかった……母上に愛されているのにアレンが孤独な思いをしていることも、期待に応えるほうも大変なんだってことも……俺も本当はアレンと仲良くしたいと思っていた。だから、お姉さんがお願いするなら俺、アレンと仲良くするよう努力する。もう、突き放したりしないと約束するから。また、お話してくれるか?」

 

「勿論。ここにいる間はいつでもお話しします。ですから、また会いに来てね」

 

「うん」

 

ようやく笑顔を見せてくれたフレンさんの姿に私は心底安堵した。これでもう心を閉ざし孤独な人生を歩むことはなくなるだろう。今回の事をカイルさんに話すと彼も嬉しそうに微笑み私にお礼を言った。これでもう大丈夫だろうと。それからというものフレンさんは私の姿を見かける度に話しかけてくるようになる。

 

「お姉さん、お姉さんが何時も付けているペンダント……とっても素敵だなって思っていたんだ。それ近くで見てもいいか?」

 

「はい、どうぞ」

 

私が首につけている時渡のペンダントに興味を持った彼が瞳を輝かせながら聞いてきたので取り外し見せる。

 

「何とも複雑な作りのペンダントだな」

 

「!?」

 

ペンダントを眺めていた彼が発した言葉に私は驚いて動きを止める。

 

「お姉さん?」

 

「……このペンダントはね。時渡のペンダントと呼ばれていて過去の時代に自由に飛ぶことができる物なの。でも過去にいられるのは一日だけ。それを過ぎてしまうと時の迷い人となり一生時間の中を彷徨い続ける事となる。だから扱い方を間違えてはいけないの。……フレンさん。私ね、そろそろ帰らないといけないんだ。ここでの用事が終わってしまったから。だから、もうここには来られない」

 

私の様子に不思議そうな顔で見詰めてくるフレンさんへと時渡のペンダントの事を説明する。そしてお別れの言葉も言わないといけないと思った。これ以上ここに留まる理由はないのだから。フレンさんとアレンさんの仲がよくなり、二人に笑顔が戻った今。もう私にやれることはないのだから。

 

「そ、そうか。お姉さんは元々王宮の人じゃないからな。……で、でもいつかまた会えるよな?」

 

「フレンさんがもっと大きくなっても私の事を覚えていてくれたなら、きっとまた会えるよ。でも、その時の私は貴方の知っている私ではないかもしれないけれど。それでもきっと私は思い出す日が来るから。そうしたらその時は……フレンさんの下に必ず会いに行くよ」

 

私の言葉の意味を知るのはもっとずっと後になってからだろう。現に彼は言われた言葉がよく分かっていないといった顔でこちらを見詰めていた。

 

(フレンさんはずっと、待っていてくれていたんだね)

 

未来に戻ったらすぐにフレンさんに会いに行こう。そう考え私は立ち上がる。

 

「あの……俺、ずっと忘れない。貴女の事を覚えているから。だから……」

 

「はい。私も会いに行くと約束するから、だから、フレンさん。泣かないで」

 

何事か言いたかった言葉を飲み込み涙を流すフレンさんを優しくあやすと私は立ち去った。カイルさん達に挨拶してから帰らないとね。きっともう過去に来ることはなくなるのだから。フレンさんもアレンさんももう大丈夫だから。私が何時までも干渉していてはいけない。私のあるべき居場所はここではないのだから。そう言い聞かせ振り返ることなく前だけを見て歩いて行った。

 

「そうか、いろいろと有り難う。フィアナ、もうここには来ないつもりだろう」

 

「やはりバレてましたか。はい、私のいるべき場所はここではないので」

 

「未来から着ていたのだからな。いつかお前と別れないといけない日が来るとは思っていたが……だが、これで最後ではない。未来でまた会えると信じている」

 

もうここに来れないとなると皆に会えなくなる。その寂しさを感じていた私にカイルさんがそう言って笑う。そうか、そうよね。年を取っているけれども未来でも皆に会える――いや、ちょっと待ってよ。確かザールブルブの国王様は死去されていた。だから未来では会えない……。

 

「フィアナ?」

 

「いえ、これが最後ではないです、私また必ずカイルさんに会いに来ます」

 

考え込んでいる私に不思議そうに声をかけてきた彼に私はある決意をして話した。そっか、そうだったんだ。このからくりに今気づくなって。どうやらもう一度だけ私は過去に飛ぶことになりそうだ。

 

「あぁ、また会える日を楽しみにしている。気を付けて帰れよ」

 

「はい」

 

カイルさんと共に誰にも気づかれないようにこっそり地下にある秘密の空間へと向かう。そこから時渡のペンダントを使い未来へと戻って行った。

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