大通りへとやって来た私は立ち並ぶお店一軒一軒を訪ねてお仕事を探す。
「はぁ~。お仕事を募集しているお店はなし、か……」
私くらいの年頃の子を募集しているお店はなくて「後二歳年上だったら考えてあげたんだけどね」と言われるばかり。
「そこのお嬢さん、お仕事探してるんだろう? いい話があるんだけどちょっと一緒に来てくれない?」
「え?」
振り返ると若い男性二人が笑顔を浮かべて立っていた。
「お嬢ちゃん仕事探してるんだろ? いい話があるよ。そうだね、まずそのネックレス見せてちょうだい」
「あ、こ、これは……」
金髪の男性が言うと私の首に下げているペンダントを無理矢理取り外し右手で握りしめる。
私は慌ててそれを取り戻そうと動く。お父さんから貰った唯一の形見のペンダント。話も聞かないうちから手放すわけにはいかない。
「まぁ、まあ。落ち着いて、ちょっと鑑定するだけだから」
「っ! その手を放せ!」
もう一人の男性が言うと私の腕を掴み引きはがす。その時誰かの声が響いた。
「あん? なんだガキ」
「それに、そのペンダントは彼女の物だ。彼女に返せ」
金髪の男性が睨み付けるのにもひるまず少年が言い放つ。
「うるせえ。ガキには関係ないだろう」
「痛いめみねぇと分かんないか?」
「果たして痛い目を見るのはどっちなんだろうね」
男達の言葉に少年がにやりと笑い言う。すると彼の足元に魔法陣が浮かび上がり突風が吹き荒れる。
「「がっ」」
男達は突風に吹き飛ばされ背中から地面へとたたきつけられた。
「引け! 二度と彼女の目の前に現れるな!」
「「ひ、ひぃ~」」
鋭い瞳で睨み付け声高々に宣言する少年に怖気づいた男達が一目散に逃げていく。
「……はい、これ貴女の大切な物でしょう。お返しします」
「あ、有難う御座います」
男達を吹き飛ばした時に手から離れたペンダントを少年がしっかりと受け止めていたらしく私に返してくれる。先ほどと同じ人物だとは思えない程穏やかで丁寧な口調で話しかけられちょっとぎくしゃくしてしまう。
「いいんです。でも、貴女も気を付けて下さいね」
「え?」
少年が言った言葉の意味が分からず私は呆けた声をあげてしまった。気を付けるって何に?
「さっきの人達は盗人です。人の物を盗んで高額で販売する。そういう輩です。人間を売るという噂もあるんです。ですからああいう輩には気を付けて下さいね」
「き、気を付けます」
見ず知らずの少年に心配されてしまうなんて情けない。
「っ! かくまって!」
「え?」
少年が何かに気付くと建物の影へと隠れる。驚いていると大勢の兵士がこちらに近づいてきた。
「失礼お嬢さん。この辺りで高貴な方を見なかったか?」
「み、見てません……」
眼帯を付けた男性が尋ねてきた言葉に私は緊張しながら答える。見た事ない兵士さん達だけれどどこの国の人だろう?
「協力感謝する」
「……有り難う」
男性が言うと兵士達を引き連れ立ち去っていった。完全に見えなくなってから物陰に隠れていた少年が出てきてお礼を言う。
「あの、あの人達とはどういうご関係で?」
「実はぼくこの国には初めてくるんだ。だから街を見物したいってお母様に頼んで見物していたんだけれど何処に行くにしても兵士達が付いて来て、それでゆっくり見物できなくて、だから隙をついて逃げだしてきたんだ」
もしかしてこの子ものすごく偉い人なのかな? 兵士に守ってもらうんだもの貴族の人とかかもしれない。さっきの男性も高貴な方って言っていたし、すごく偉い人の息子さんなんじゃないかな。
「それよりもお仕事を探しているんですよね」
「え、どうしてそれを?」
少年の言葉に私は驚いてしまう。なんで私が仕事を探してるって知ってるんだろう?
「その、すみません。さっきの人達との話を聞いてまして……街を見物していたらお仕事をしてくれそうな女の子を探しているというお店の奥さんの話を聞いたんです。ですからそこで今日一日だけ働けないか頼んでみたらどうかと思いまして」
「あ、有難う御座います」
申し訳なさそうに話す彼に私は心からのお礼を言った。そうして少年の案内で私はパン屋さんへと向かう。
ここのパン屋さんて夫婦二人で経営している小さなお店で売り子とかを募集しているなんて話は聞いた事ないんだけれど……
「奥さんが腰を痛めてしまったようでお仕事ができないらしく、それで今日一日試しでレジを担当してくれる売り子を募集しているそうです」
不思議に思っているのが分かったのか少年がそう言って教えてくれた。
少年が話を通してくれたおかげか私はすんなりとレジ係としてのお仕事をさせてもらえることとなり閉店の時間まで働く。
「有難う御座いました」
最後のお客を見送ると私は盛大に溜息を零す。今までこんなに街の人達と会話した経験がなかったから緊張してしまい、疲れてしまったのだ。
「お疲れ、フィアナちゃん有難うね。これ、今日の給金だよ」
「え? こんなにたくさん?」
奥からおばさんが出てきて私に給料の入った袋を渡す。その中には硬貨の他紙幣もたくさん入っていたのだ。
「一生懸命頑張ってくれたからちょっと多めにね」
「あ、有難う御座います」
おばさんにお礼を言うと私は店を出た。早く帰ってこのお金を姉へ渡さないといけないけれどもそれよりもお仕事を紹介してくれた少年にお礼が言いたくて彼の姿を探す。
「お仕事お疲れ様」
「あ、良かった。気が付いたらいなくなっていたから、お礼も言えないままもう会えないんじゃないかって思ってました」
街灯の向こうから少年が歩いてくると笑顔で私に声をかける。彼の姿を見てほっとして口を開いた。
「貴女の事が気になってこっそり抜け出してきたんです」
「貴方のおかげで私人生で初めてお仕事が出来たんです。ですから何かお礼がしたくて」
少年へと私は言うと給料袋からお金を取り出そうとする。
「お礼なんて、大したことはしてませんのでお気になさらずに」
「で、でも……」
彼のおかげで私はちゃんと働けるんだって分かったし、今まで貧弱で何もできないと思われていたけれどちゃんと皆と同じ様に動けるんだって分かった。だからちゃんとお礼がしたいのに。
「それじゃあ、貴女のお名前を教えてもらえませんか?」
「そ、そう言えばまだ名乗ってませんでしたね。私はフィアナです」
そう言えばまだ自己紹介していなかったなと思いながら私は答える。
「フィアナさんですね。ぼくはアレンです。覚えていてくださると嬉しいです。それでは、あんまり長いをするとお母様達にぼくが抜け出したことがバレてしまいますのでそろそろ帰ります」
「あ、あの。また会えますか?」
何故か分からないけれどとっさに彼を引き留め尋ねた。
「……これを」
「これは?」
少年が言うと宝石のはめ込まれていない台座だけの指輪を私に渡してきた。
「また会うための約束です。これを持っていたらまた会えるから……ですから、大事に持っていてください」
「はい」
なぜか悲しげな顔でそう言われ私は慌てて頷く。どうしてそんな寂しそうな顔をするんだろう。
よく分からなかったけれど、これを受け取らないといけない気がして私はしっかりと右手で握りしめた。
「それでは、これで」
「……」
アレンさんが言うと立ち去っていく。私はなぜかその背中が消えて見えなくなるまで見送った。
そうして彼の姿が完全に見えなくなったころ私は家へと帰る。
「フィアナ、遅かったから心配したのよ」
「ごめん、お姉ちゃん。それでお金は集まったの?」
家に帰ると姉とフレンさんは既に帰宅していて私は心配そうな姉に出迎えられた。
「それが、後8000コールどうしても稼ぐことが出来なくて、でも心配しなくても大丈夫よ。明日また朝から広場で踊りを踊って稼いでくるから」
「お姉ちゃん。このお金使って!」
姉の言葉に私は今日パン屋で働いたお給料袋を姉へと差し出す。
「このお金どうしたの? フィアナまさか……」
「違うよ。ちゃんとパン屋で働いて頂いた真っ当なお金だよ」
驚き疑う姉に私は慌てて答える。
「フィアナがお仕事を?」
「私だってもう子供じゃないんだもん。これからはちゃんとお仕事だってできるんだからね」
驚く姉に私は胸を張り言い切る。いつまでも子ども扱いはさせないんだから。
「兎に角、フィアナのおかげで薬は買えそうよ。有り難う」
笑顔に戻った姉が言うと私は誇らしくて嬉しさに胸が弾んだ。
こうして翌日私と姉は薬をもらうために三度王国魔法研究所へと足を運ぶこととなった。
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