こんにちは。七海璃空だよ。4月。私は小学校2年生になりました。7歳です。いやー、時間が経つのは早いなあ。今も、そーくんとは仲良しです。幼なじみ街道突っ走ってます。
さてさて、今、教室がざわついています。どうやら、転校生が来るらしいです。
これは、アレかな!?
日向玲弥かな!?颯真と玲弥の幼なじみフラグかな!?
そう思いながらワクワクしていた私は、そのままそーくんに話しかける。
「ねぇねぇ、そーくん」
「?りあ?なに?」
私の前の席のそーくんは、くるりと振り返ってきょとんと首を傾げて私を見てくる。相変わらず、わたしの推しはかわいい。私が話しかけるとその顔をふにゃってさせて笑うのすごいかわいい。幼稚園の時から可愛い、天使だったそーくんは、小学生になってもその可愛さはそのままで、私の天使は健在だ。
そして、『なつめ』と『ななみ』なので、新しいクラスになったら、席は前後なのだが、席替えをしても何故か奇跡的にそーくんと私の席は近くになる。なんでだろう?
「てんこうせいはどんな子かなぁ?なかよくなれるかな?」
「なに、りあは気になるの?」
私がそう聞くと、さっきまでふにゃっと笑っていた顔をスンっと真顔にさせるそーくん。そーくん、顔整ってるから、真顔怖いよ?
「えーっと、男子かな、女子かなって、気になってるけど…。…それに、男の子だったら、そーくんの友だちこうほかなって…」
私がそう言うと、眉をよせるそーくん。
「ぼくはりあがいればそれでいいよ」
そーくんは一旦目を伏せて、ちらっと私を見たと思ったら、私から目を逸らし、ポツリとそう一言言ってそれきり黙って前を向いてしまった。
(あー、ちょっと失敗しちゃったかな…)
そーくんは、さすがは攻略対象者と言えるくらい、とても整った容姿をしている。でも、その容姿は日本人にはいない色を持っているため尚更目立つのだ。それゆえ、誘拐未遂を経験(私もその場に居合わせた。巡回中のお巡りさんが助けてくれた。これ以外にも数回ある)したりと、そーくん(と、私)は7歳にしてなかなかにハードな人生を送っている。しかも、小学生になって、そーくんは自身がもつその色のことで男子にからかわれるようになった。だから、そーくんは、授業中などの必要にかられた時以外、あまり人と関わろうとしない。私以外の人間はみんな同じだと思って、自身が傷つく前に、とハリネズミのように、針を纏って自分を守ろうとしているのだ。
そーくんは、幼稚園の時も私以外と遊ぼうとしなかったが、なんだか少し悪化したような気がする。『君ラブ』では、ここまで詳しいことは語られていなかったが、日向玲弥にだけ心を許していないというのは、この辺りに原因があったのではないだろうか、と思った。
ガラガラっと教室のドアを開けて入ってきたのは私とそーくんのクラスの担任の吉川先生(男)。入ってきた吉川先生は私達クラスの様子に苦笑しながら口を開いた。
「転校生が来たぞー」
「はいはーい!先生!てんこうせいは、男?女?」
クラスの中でも元気な女の子がそう先生に聞く。
「男だ。おい、入っていいぞー」
ハハっと笑いながら女の子の質問に答え、先生は、恐らく廊下で待っている転校生に声をかける。
そして、入ってきたのは、黒髪に、少しつり目気味なキリッとした色素が薄めの茶色の瞳が印象的な可愛い男の子ーー#日向玲弥__ひなた れいや__#だった。
(日向玲弥キター!!やばいショタ玲弥だ。かわいい。ってか尊い。そーくんもショタ颯真でかわいいけど、ショタ玲弥もかわいい。つり目がちな意志の強そうな目も、猫みたいだし、生意気そうな雰囲気出てて可愛いし、うん、推せる。さすがは、サブキャラながら、攻略対象者にも引けを取らない人気を誇っていたキャラ)
そう。日向玲弥は夏目颯真攻略時のサポートキャラだ。
日向玲弥は、ヒロインに素っ気ない態度をとる『君ラブ』のそーくんのことを「ごめんな。あいつ、悪いやつじゃないんだよ」なんて言って苦笑いしながら、そーくんのことを庇ってたり、『君ラブ』の裏話のそーくん視点では、ヒロインに惹かれるそーくんに、「俺もあの子、いい子だと思うぜ。さっさと素直になれよ。じゃないと、俺があの子のこと貰っちまうぞ?」なんて言って、そーくんにわざとニヤッと不敵に笑ってみせたり(私の見解では「貰っちうまうぞ?」の部分は半分本気なんじゃないかと思う。そして、そう言われた時のそーくんの驚いたような顔と、その後の不機嫌そうな顔はとても良かった)と、もうとにかく、日向玲弥は最っ高にいいキャラだったのだ。
「はい、じゃあ日向くん、自己紹介」
先生が日向玲弥を促す。
「はい!おれは日向玲弥!すきなことはスポーツ。よろしくな!」
先生に頷いてから、そう言ってニカッと笑った日向玲弥。かわいい。めっちゃ『君ラブ』の時の面影ある。
「えーと、日向くんの席は…。あぁ、夏目くんの隣だな。夏目くん、手を挙げて」
絶対そーくん今嫌そうな顔してる。あ、こっそり今ため息ついた。そして、そーくんは渋々といった雰囲気を隠さず手を挙げた。
それを見た先生は少し苦笑い気味に日向玲弥に声をかける。
「じゃあ日向くん、席について」
「はい!」
先生に元気よく返事をした日向玲弥は、そーくんの隣に来て席に座り、そーくんに「よろしくな!」とニカッと笑いながら声をかけている。それに対して、そーくんは一瞥しただけですぐに前を向いた。日向玲弥はそれに首を傾げている。
あぁ、そーくん…やっぱりそうすると思った…。
「ねえ、日向くん。ごめんね?」
私はそーくんに冷たい対応をされた日向玲弥に、申し訳ない気持ちで謝る。それに対して、日向玲弥はキョトンっと首を傾げて「何で?それと、えっと…だれ?」と不思議そうに返される。
「あ、わたし、七海璃空。日向くんのとなりのせきのそーくん…夏目颯真とはようちえんのときからおなじなの」
そう言って私はニッコリと笑ってみせた。私が一肌脱いで、そーくんと日向玲弥の仲を取り持って見せようではないか。そーくんにも男友達は必要だよね?
そして、そーくんと日向玲弥の幼なじみフラグ折らせてなるものかっ!!2人が不仲とか私が許さん!私は2人が仲がいいのが好きだったんだ!実はこっちが本心だったりする…。
私の言葉に、「そうなんだな。でも、りあちゃんがあやまるひつようはないよ」と、言って笑ったショタ玲弥。可愛すぎか。そして、ナチュラルに名前呼び。うぅ、さすが小学生。そうだよね。小学生は名前呼びに羞恥心なんて感じないよね。これが普通だよね。でもね、お姉さんにとっては普通じゃないんだなぁ。お姉さん、君の将来が心配だよ。女の人に「私のことは遊びだったのね!?」って後ろからグサって刺されたりしない?大丈夫?
そう思いつつも、それを表に出さないようにしながら、日向玲弥に微笑む。
「ううん。それでも、そーくんがごめんね?」
「いいって!あ、そんなに気にするなら、そのかわり、りあちゃんがおれの友だちになって!」
なっ?いいだろ?ってニコニコしながら問いかけてくるショタ玲弥。うぅ。かわいい。あざとい。語彙が溶ける。推しにこんな風にお願いされて断れる人間が果たしているのだろうか。少なくとも私には無理だ。あざといそーくんのお願いにいつも陥落しているのは私です!
だから、言ってしまった
「うん、もちろんだよ!よろしくね、れいやくん!」
締まりのない笑顔を日向玲弥ことれいやくんに向ける。そんなだらしのない私の笑顔にも、素敵な笑顔を見せてくれるれいやくんは天使かな?神様かな?
そして、れいやくんにそーくんのことをお願いしようと口を開こうとしたところで、先生からタイムアップの声がかかった。授業を始めるとのことだ。空気が読めないのね、先生。まあ、仕方ないか、と諦めて、大人しく教科書とノートと筆記用具を取り出して広げる。
さて、ちょっと考え事をしよう。だって、小学二年生の授業だよ?前世の記憶持ちな私には退屈すぎるから、考え事していても問題ないのでちょうどいいのだ。まあ、普段は普通の小学生を演じているけどね。面倒事には巻き込まれたくないし。あ、でも、程々に優秀な子供を演じているので、テストとかはいつも満点だよ!
私の演技についてはさておき。
ふむ。転校生は予想通り、日向玲弥だった。日向玲弥と夏目颯真の幼馴染フラグが綺麗に立った状態な訳だ。だが、しかし、そんなフラグを素手でへし折るだけでなく、粉々に粉砕して、ご丁寧に火に#焚__く__#べて灰にするような勢いでそーくんれいやくん仲良しフラグをなかったことにするのが、今のそーくんだ。
今だって、れいやくんはまだ教科書が届いてないから、お隣と机をくっつけて、教科書を見せてもらわなきゃいけないのに、そーくんは知らんぷりをしていて、れいやくんはどうしよう、と困り顔だ。れいやくんのそんな困り顔も可愛いけどね!
仕方ないなぁ、と私はふぅとため息を吐き、「そーくん。れいやくんに、きょうかしょ見せてあげなきゃ。ほら、つくえくっつけて」とそーくんに促すと、そーくんは渋々といった表情で机をくっつけて、くっつけた机の真ん中に教科書を置いた。
ちょっと思考を戻そう。
つまり、今のそーくんでは、れいやくんと幼馴染にはならず、それどころではなく、そんなに仲良くならず、二人が絡むことも無いかもしれない。え、それはいやだ。私は、『君ラブ』みたいに二人が笑い合っている姿が見たい。親友が大事で、信頼しあっていて、そんな『夏目颯真』と『日向玲弥』に憧れて、だから『私』は彼らを好きになったんだ。だから、このまま、二人が不仲のままで許される訳がない。二人を仲良くさせたいというのは、これはあくまでも私のエゴだ。きっと、そーくんはそんなことを望んでいないだろう。でも、『夏目颯真』と『日向玲弥』は『幼馴染』で、『親友』でなければならない。それが、この世界の『設定』で、二人はそういう『キャラクター』でそういう『役割』をもっているから。もちろん、この世界は現実だ。物語やゲームの世界じゃない、今、私達が生きている世界だ。でないと、私の存在に説明がつかない。とはいえ、二人の『設定』を変えるのは怖い。もちろん、私は二人が仲良くなれば嬉しいし、それを見るのが楽しみというのが、私が二人を仲良くさせたい理由の大半で、でも、多少なりとも、そう思う気持ちもあった。私はどうしたらいい?二人を仲良くさせたい。幼馴染にしたい。そうなったら嬉しいし、だから、そうする。私の自己満足でエゴだ。それでいい。そのためには、二人を仲良くさせるためには、どうすればいい?どうするのが正解なの?どうしたら……
そんな風に、考えていた私は、前の席で、そーくんがれいやくんを睨みつけていたことなんて気づかなかったんだ。そして、この時、そのことを知っていたら、もしかしたら、違う未来があったかもしれないと思う。
◇◆◇◆◇◆◇
授業中考えた結果。正解らしい答えなんて思いつかなかった、が、とりあえず、私はれいやくんと仲良くなろうと思う。だって、私はそーくんの幼馴染で、そーくんは私のそばを離れない。だったら、私がれいやくんと仲良くなれば、自ずとそーくんとれいやくんは一緒にいることが増えるんじゃないかと思ったのだ。やだ、私ってば天才かもしれない。脳内でてへぺろをしながら星をパチンと飛ばす。あ、ごめんごめん、嘘だから!だから、変な目で見ないで!!
と、いうわけで、
「れいやくん!おうち、どこ?いっしょに帰ろ!」
ランドセルを背負って、ニコニコしながられいやくんを誘ってみた。あ、そーくんは私の隣で私と手を繋いでいる。可愛いなあ。そーくん、まだまだ、私には甘えてくるんだよ。だめ?なんて言って、首をこてんってさせてこっちを伺いながら見てくるんだよ?勝てないよね?今日も私の推しが可愛いです!ただ、今は、無表情で凍てつくような目でれいやくんを見ている。そーくん、そんな顔したらめっ!だよ?
「いいのか?」
ほらー。れいやくんも遠慮がちにそう言ってるよ。絶対そーくん見て言ったんだよ。
「うん、もちろん!ねっ、そーくん?」
「…」
またしても、渋々といった様子を微塵も隠す気はないようだが、頷いただけまだマシかな。「じゃあ、」と了承してくれた何気に家が近かったれいやくんと、不機嫌そうなそーくんと、三人で通学路を通っていく。もっぱら喋っているのは私だけで、そーくんは仏頂面のまま相槌を打つだけだ。そして、私が質問してれいやくんが答えて、という何とも微妙な空気のまま、いつも遊んでいる公園に着いた。
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