パチパチ。
目を覚ますと焚き火の音が遠くから聞こえた。
隣にはマヤの寝息。
夜。
虫の音がかすかに聞こえる。
目が覚めるとオレは幌車の中に寝かされていた。
縛られてもいない。手足に鎖がついていることもない。
オレはどうやら見捨てられずに済んだみたいだった。
体を起こす。かけられていた毛布がはらりと落ちる。
「気がついたみたいだな」
オレが起きたことに気づいたのか、焚火のそばにいたアランとオットーが駆け寄ってきた。
「今日は本当にすまなかった。そして、ミーシャを助けてくれてありがとう」
アランが頭を下げ、その後ろでオットーも頭を下げている。
「みんなが無事でよかったよ」
改めて頭を下げられると照れくさくてしょうがない。
そもそも、こちらは勝つ見込みがあったからそれを実行したまでのことだ。
勝てる見込みがなければ、逃げ出していたかもしれない。
「それにしても、すごい回復魔法だったな!」
「あんな回復魔法見たことないよ!」
オットーが関心したようにうめいた。どうやらオレの自己修復を回復魔法だと勘違いしているらしい。
魔法という概念は小説や映画などで知っている。しかし、実際にその力を行使する人たちからほめられるとくすぐったい気持ちになる。オレの回復……正確には自己修復だが……科学の産物でしかない。世界の神秘の力を行使する彼らの方がよっぽど凄いだろう。
「怪我人なんだから、休ませてあげないとダメじゃない!」
ミーシャが水桶を運びながら叫んだ。
「ノゾミ。ミーシャにもお礼を言ってやってくれ。彼女はずっと君のことを看病してくれていたんだ」
「ち、ちょっと! 余計なこと言わないでよ!」
からかうように言うアランを睨みつけた。
そうなんだ。オレの事を心配してくれたんだ。
そう思うとなんだかちょっとうれしい。
ミーシャは幌車から顔だけ出したオレの額に自らの額を当てる。
「よかった。熱は下がったみたいね」
ミーシャの顔が目の前に迫る。
呼吸を感じるほどの距離。
きらきらとした瞳に、ピンクの唇。
とっても柔らかそうだ。
このままちょっと顔を出すだけで唇どうしが触れ合える距離だ。
知らずどぎまぎしてしまう。
ヤバい。鼻息が荒くなってしまった。
あまりこういうことに慣れていないせいか、拒絶反応が出てしまっている。
うさ耳の美少女ミーシャ。
オレには刺激が強すぎだ。
「熱が上がってきた?」
「いや、これはその……」
ミーシャのような可愛い娘の前だからなどと口が裂けても言えない。
「汗かいたでしょ、体拭いてあげるね」
ミーシャが幌車に入ってくる。オットーとアランは焚火の方へと行ってしまった。
マヤのスヤスヤとした寝息が聞こえる。
シンとした静寂。
ちょっと待て、これって二人っきりになったんじゃないのか。
ミーシャさん。無防備すぎませんか。
落ち着けオレ。
とりあえずは深呼吸だ。
ひっひっふーっ。
す、少し落ち着いたかな……
こういう時どうしていいのか、オレには分からないよ。
襲えばいいと思うよ。
そんなことできるか!
「さあ、脱いで!」
まあ。だよね。汗拭くんだから脱がなきゃ駄目だよね。そういえば、刺されたり切られたりした時のオレの血はどうなったんだろ。
(回答。自己修復時に身体に吸収されました)
なるほどなるほど。
いやしかし、可愛い女の子に体を拭いてもらうのはちょっと抵抗あります。
チキン野郎でゴメンナサイ。
「自分で拭けるから……いいでふ」
かんでしまった。
「いいから、私が拭きたいの!」
真っ赤になってミーシャがオレの服を無理やり脱がした。
何で怒っているのだろう。
よく分からないが、ここはおとなしく従うのが無難だ。
いわれるがまま、オレはミーシャに体を拭いてもらうことにした。
ゴシゴシと背中を濡れた布で拭いてもらう。
女の子に触れてもらう――この場合は布越しだが――考えてみれば、今までそういった経験なんてないな。
女の子と話をするなんてこともあんまりなかったな……いや、何もかもが初体験でした。
今までのオレの人生って……うん。考えないようにしよう。
「ノゾミはどこから来たの?」
さっそく答えに困る質問が来ました。
なんと言ったらいいんだろう。
思わす上を見上げるそこには幌車の天井、その向こうには夜空、そしてそのさらに向こうには宇宙が広がっている。
夜空はオレの知っている夜空ではなかった。
マザーの話が本当なら――というか信じるしかないのだが――オレはこの星の人間ではない。
今さら魂がどうのと思いたくもないが、考えようによっては生きてすらいないのだ。
人工的に生み出された。調査をするためだけの存在。
オレは誰だ? オレは何だ?
過去の……望月望の人格。
本物のオエは既に……何万年も前に死んでいる。
こうして、その人格だけがこうして動いている。
――これじゃまるでゾンビじゃないか。
生きているって言えるのか?
ここでこうして見知らぬ星で息をしている。
「……オレは遠くから来た。信じられないくらいに遠い場所だ」
ミーシャは黙ってオレの話を聞いている。
「オレはそこに帰れないし、今さら帰りたいとも思わない」
遥か彼方、三〇〇〇〇光年の先にある故郷。
何万年も前の世界。
すでに失われた世界。
そう考えると……
心の中にぽっかりとした穴があいた気がした。
「オレは……一人だ」
「そんな事、言わないで下さい」
ミーシャがオレの肩を抱いてくれた。
手のぬくもりが伝わってくる。
柔らかな胸のふくらみを背中に感じた。
「あなたは一人じゃありません」
優しい手触り。気がつけばミーシャがオレを抱きしめていた。
「アランもオットーもいます。それに私も……」
コツンとミーシャの頭が背中に当たった。
手を伸ばすとうさ耳に触ってしまった。
ぴくりとミーシャの耳が動く。
「痛かったか?」
ミーシャが小さく「いいえ」と頭を振った。
しばらく耳を触てみたが、ミーシャはされるがままだった。
ゆっくりとした時間が流れる。
「ほほを触っても?」
ドキドキしながら聞いてみる。
ミーシャがオレの手を握りほほに当ててきた。
熱い。ものすごく熱い。
「私……なんだか変なんです。あなたに助けられた時から、あなたが命懸けで守ってくれたあの時から……」
振り返る。
暗がりの中でもミーシャの瞳がうるみ、ほほが紅色に染まっているのがわかる。
オレは経験があるわけではないが、この状況がどういった状況なのかは分かっているつもりだ。
しかし、回復中なので身体が思うように動かない。
動け動けと念じても、身体の動きは緩慢だった。
「……じっとしていて下さいね」
言うが早いか、ミーシャがオレを優しく横にする。
ミーシャの唇がオレの唇と重なった。
オレにとってのファーストキスだ。
ミーシャの唇がオレの身体を優しく愛撫する。
胸から首、そして唇。
温かくて、やさしい口づけだった。
こんな時、女性経験値ゼロのオレにはどうしていいのかがわからない。
伸ばし損ねた手をミーシャがつかみ、自分の胸へと導く。
最初は服の上から、そしてたくし上げ中へと導いてくれた。
手のひらに収まるくらいのやわらかい双丘。
指が先端部へとたどり着いた。
「ん……♡」
ミーシャの身体が小刻みに震える。
優しく撫でるとミーシャの息が少しだけ荒くなる。
「い、いいのか?」
こんなオレでも受け入れてくれるのだろうか。
ミーシャはしばらくオレを見つめ赤くなりながらも頷いてくれた。
「ノゾミが構わないのでしたら……いいですよ」
ミーシャはそういうともう一度唇を重ねてきた。
「ノゾミ……私……その……初めてなので、優しくして下さいね」
奇遇ですね。オレも初めてです。
両の手で、双丘をゆっくりと撫でる。
オレの手にミーシャの手が重なった。
「……もっと強く♡」
唇が重なる。オレは手に力を込めた。
「あん♡」
ミーシャの吐息が耳元にかかる。
柔らかいなどというものではない。
弾力のある二つの双丘。
決して大きくはないが、こんな破壊力のあるものをミーシャは隠し持っていたのか。
そして――二人の時間が訪れる。
はい。色々いたしましたとも。
初体験でございましたとも!
幌車の中、オレが身を起こすとミーシャも身体を起こした。
暗い中にミーシャの裸体が白く浮かび上がる。
「ノゾミ……これからもよろしくね♡」
ミーシャはニッコリと笑った。
その笑顔にオレは心が満たされていくのを感じた。
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