うおお。朝日がまぶしすぎる。
翌朝、というか眠る間もなくオレは出発の手伝いをしていた。
アランは二日酔いでまだ動けない。
ミーシャもまだ起き上がれないようだ。
「この分だと出発は昼だな」
オットーがぼやく。
システィーナは朝早くに出発していた。
交易都市キリムに帰ったということだから、もしかしたら町中で会えるかもしれない。
正直会いたくない。
彼女にオレはどうも恨まれているらしい。
うむむ。色々とやらかしてしまったみたいだし。
まさか、フェロモンの効果があんなものだったとは……
悩んでもしょうがない。
システィーナが出てきたらその時はその時だ。
「キリムまでどれくらいなんだ?」
「そうだなぁ」
オットーは幌車から羊皮紙を持ってきてオレの前で広げて見せる。羊皮紙には簡単に丸と線が描かれていた。
どうやらこれは地図のようだ。
ひどく大雑把に街の場所、川の場所などが記入されている。所々に注意書きがあり、採れる果物の種類や生息する魔物の情報などが書き記されていた。
「街に着いたら三人でこの地図の情報を写し合うんだ」
そうすることで旅をする者たちの情報が共有されるのだ。冒険者は冒険者の、商人は商人の地図ができあがっていく。
「しかし、地図が正確でないと不便だな」
正直、これでは仲間内だけが得をするだけで他に情報が行き渡らない。確かに重要な情報は財産だが、例えば周辺の村人が街へ行こうとするとそれなりにリスクがつきまとう。
せめて、地図だけでもいいものがあればリスク回避は容易だ。
地図さえあれば、あとは魔物の情報を買うなどすればいいだけだ。
そのことをオットーに話すと彼は笑って言った。
そもそもどうやって正確な地図を描くのか? と。
距離や重さの単位でさえ国によって異なるのだ。地図を描くにしても共通の情報・単位でなければ意味がない。
「とりあえず、地図を描いてみればいい。距離は四〇km……獣車の一日の距離を基本的な単位にすればいいと思うよ」
マヤが隣から口をはさんだ。
でも。オレに地図を描く能力はない。その前にこの辺りがどんな地形かもよくわからない。
そんなオレにまやは小さくため息をついた。
マヤの冷たい視線。
なんだかゾクゾクする。
ああ、やめてくれ。なんだかクセになりそうだぜ。
「カルネアデスのデータとリンク」
マヤが羽ペンを手にとった。
その手が素早く動き出す。
――えっ!?
そういえば人類移民船「カルネアデス」ってずっと上空にいるんだっけ。
(回答。人類移民船「カルネアデス」は衛星軌道上に待機しています)
上空からずっと見ているんだったら地図なんて楽勝じゃん。
オレの見ている前でマヤが羊皮紙に周辺の地図を描き始めた。 まるでインクジェットプリンターのような正確な動きだ。
いや、マジで手の動きが正確無比。
「周囲四〇〇kmの地域を描写しているよ」
山は等高線を使い、川も描いていた。都市部は円で描きとこに出しても恥ずかしくない立派な地図が出来上がったのだ。
地図の上が北だ。この世界には旅人の必需品として方位磁石がちゃんとあった。
「ノゾミ……これは!?」
オットーが描かれていく地図を驚いた顔で見ている。
いきなり緻密な地図を見せられてもわからないだろう。
オレは地図の大まかな見方を教えてやった。
「では、大体この距離を一日とみればいいんですね」
オットーの目は真剣そのもので地図を食い入るように見ている。
「もしこれが本当だったとしたら……これは国家機密並みのものですよ……」
村や町の名前、山や川の名前などは空白にしていた。
そもそも名前知らないし、この世界の文字知らない。
「この地図は差し上げます」
「えっ。いいんですか!」
もともとそのつもりだった。
彼らには助けてもらいっぱなしだ。
これでも足りないくらいだ。
「分かりました。では、しばらく預からせてもらいますね」
オットーは大事そうに地図を荷物にしまい込んだ。
「出発までまだ時間があります。周辺を散歩してみては?」
そういえば、昨日はゴタゴタで村の様子など全く見ていなかった。
「私、お兄ちゃんとあっちこっち見てみたい!」
マヤがオレの手を引いて歩きだす。
すごい力でグイグイと引っ張られた。
「昼までには戻ってきてください」
「ああ、分かった」
オレとマヤはしばらく周囲を散策することにした。
マヤと少しだけ仲良くなれた気がした。
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