ミーシャとマヤとおかげで宿を出発したのは昼近くになってしまった。
次回はもう少し時間を早くするように心掛けよう……実現できる気が全くしないが……
「もう日もだいぶ高くなってしまいましたね」
のんきな声でマヤがつぶやく。
「明日からは少し早めに出発できるようにしましょうね」
ミーシャがオレに言った。
なんだろう。まるでオレが悪いみたいな言い方をされているような気がするのは……
オレが原因ではない。朝起きてすぐに隣で眠っていた二人にちょっかいを出してしまい、逆に返り討ちにあってしまっただけなのだ。
「もう、お兄ちゃんのせいで出発が遅くなったじゃない」
誘ったのは確かにオレだが……その後の二人はノリノリで楽しんでいたじゃないか。
「本当に……冒険者は時間を大切にしなければいけないんですよ」
ミーシャが先輩風をふかした。
こ、こいつら……夜になったら仕返ししてやる!
気を取り直して冒険者ギルドへと向かう。
「あっ! 師匠お疲れ様です!」
「女王様!」
「マヤ様!」
ギルドへ入るとすぐに若い冒険者たち――いや、おそらくオレたちと同い年ぐらい――が挨拶してきた。
それだけ昨日の戦闘が印象的だったのだろうか。
「うむ」
マヤは鷹揚に頷くと奥へと進む。
ギルドカウンターではローズが笑顔で出迎えてくれる。
「あら、ミーシャ、それにマヤさん……とノゾミさん?」
うん。何故にオレだけ疑問形?
もう。お兄さんは悲しいよ。昨日はあんなに激しく求めあったのに! 一晩経ったら忘れちゃうなんて……カラダが目的だったのね!
「ローズ、私達向けの簡単な依頼ってない?」
ミーシャが気軽に話しかける。
そうオレたちは駆け出しの冒険者なのだ。
「うーん。そうだね」
ローズは掲示板に向かわず手元の資料をちらりと見る。
もしかして、簡単でお得なクエストかがあったりするのかな。
期待してしまう。
「これは……掲示板に張り出すかどうか迷っているんだけど……」
ローズはそう言って一枚の羊皮紙を差し出した。
「ランタン草の採取クエスト」
ミーシャが首をかしげる。
「そうなの。この時期に咲いている場所なんてないのにね……」
なんでも。ランタン草と呼ばれる草花は花が開花したのちに身を守るためにガクの部分が成長してまるでランタンのようになることからそう呼ばれているらしい。薬草としても重宝するほか、死者の魂を照らし出す燈火として魔術に使われることもあるということなのだ。
もしかして鬼灯のことか? この世界にも鬼灯に似た草花があってもおかしくない。
「依頼主は?」
ミーシャが質問した。
「依頼主は子どもなの……まあ、子供みたいだから報酬の方はあまり期待しないでね」
ローズは「どうする?」という目でこちらを見ている。
「そうね……」
ミーシャはしばらく考え込んでいた。ここは冒険者の先輩としてのミーシャに従うことにする。
「一度、その依頼主に話を聞いてみるってのはどうかしら?」
ローズが提案してきた。
「そうね。依頼の内容的には問題ないんだけど」
ミーシャがこちらを見る。
「依頼の内容が問題ないなら依頼主に会ってから判断しても問題ないんじゃないか?」
判断が難しそうなので妥協案を提案してみる。まあ、大概はなし崩し的に受けることになりそうなのだが……今ここでそれを言うのは野暮というものだろう。
「分かりました」
ミーシャは頷いた。
「まずはその依頼主に会ってみましょう」
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