出発の時間になってもシスティーナはオレたちの前に姿を現さなかった。
「娘は気分がすぐれないとのことで、見送りには来れないようです」
朝食にも姿を見せなかったシスティーナだが、どうやら体調がよくないとのことだ。
まったく、お嬢様ってのは身体が弱いものだ。
うん。体調管理には気を付けよう。
「半分以上、お兄ちゃんのせいだよね」
マヤが小声でささやいた。
こら、余計なことを言うもんじゃありません。
「えっ? 昨日何かあったんですか?」
目ざとくミーシャが聞いてきた。
彼女は朝からご機嫌斜めでございます。聞けば「なんで夜這いに来なかったんですか!」だとか。
いや、領主の屋敷で仲間に夜這いとか……オレは鬼畜ですか?
まあ、それ以上のことをいっぱいやらかしちゃってますけどね。
システィーナのことは心配だけど、出てこないのであれば仕方ない。無理に彼女の部屋に押しかけて話をこじらせる必要もないだろう。
昨晩のことを思い出すと怖いことをしたなと思う。下手をすれば斬首刑だ。
あの領主ならやりかねない。
まあ、彼女から誘ってきたんだけどね。しかも、返り討ちにしちゃったんだけどね。
「システィーナの事は、たまに顔を出した時にでも確認しよう」
しばらくはこの街にいる予定だ。また、どこかで会うこともあるだろう。
ちょっと会うの怖いけど。
「そろそろ出発しよう」
アランが声をかけた。
「新しい情報や地図が手に入ったらご連絡下さい」
お金がなくなったら地図でも売りに来るか。
みんなで話し合った結果、地図の代金である金貨一〇枚はオレたちがもらうことになった。
もともとマヤが描いたものだ。それに今のオレとマヤにはまとまったお金がない。
アランとオットーはそれぞれの目的のためにここでお別れとなる。
ミーシャはオレとマヤについてきてくれるということだった。
これで毎晩うさ耳を堪能することができる……もちろん、身体も隅々まで調査するけどね。
今までのお礼を兼ねて地図をアランとオットーに一枚ずつ渡している。もちろんミーシャにもだ。
このことが後々になって、かなり面倒な事への火種となるのだが、この時のオレはそんな事知るはずもなかった。
「ノゾミたちはこれからどうするんだい?」
オットーが聞いてきた。彼は獣車には乗らない。このまま歩いて近衛兵舎へ向かうとの事だった。
「とりあえずは宿の確保かな、それから冒険者ギルドに行って冒険者登録をするつもりだ」
領主の推薦状もある。年齢的にマヤが登録できるかどうかは疑問だが、まあ、なんとかなるだろう。
「途中まで、送っていくよ」
獣車はレンタルしたものだということだった。それを返却がてら街の中心まで送ってくれるというのだ。アイスクラ卿の館は中心部からかなり離れていた。正直歩きたくなかったので、助かった。
「まずは、色々と冒険に必要な道具をそろえないとですね」
ミーシャがうきうきした顔で言う。
オレたちと一緒に行動することがよほど嬉しいらしい。
その時だった。
(報告。個体名「システィーナ」の「ほとばしる白い稲妻」による解析結果が出ました)
白い稲妻って……もういいやそれで。
昨晩、いっぱい調査しましたからね。
お口とかお尻とか……てへ。
(報告。聖騎士固有能力「筋力強化」「防御力強化」「攻撃力強化」「治癒力向上」「剣技」を獲得。身体構造の最適化を行います……成功しました。有機調査体名「望月望」はLV15になりました)
ぶーーーーっ!
なんじゃそりゃ!
いくらなんでも、上がりすぎだろ!
課金アイテムか?
いや、そんなものないし。
(報告。人間族を解析することによって、身体構成の最適化をより効率的に行うことができました)
それなら、もっと人間の女の子を調査すれば……
(助言。レベルの高い個体であれば身体構成の最適化はさらに効率よくなります)
そうか、そういうことなのか。
であれば、出会ったらとにかくセッ……いやいや、調査協力を申し出なければならないということだな。
今回、魔法の修得はできなかった。まだ……足りないのだ。女の子が足りないのだ。
そう、これはオレに与えられたすーこーなる使命だ。妥協は許されない。
(報告。マヤの身体構成の最適化に成功しました)
ということは、マヤはどれくらいだ。
(報告。成長に個体差が生じています。マヤはLV10です)
ふむふむ身体も成長したのかな?
今日の夜にでも確認せねば。
「成長したマヤをお兄ちゃんに思い知らせるです」
マヤもなぜかやる気満々だし。
これは夜が楽しみだなあ。
「アイスクラ卿。色々とお世話になりました」
「いや、私も久しぶりに楽しみました。また、お手合わせしたいですね」
「ははは……」
「ふふふ……」
二度とご免です。LVは上がったかもしれないけど、剣の技術なんて全くないです。
アイスクラ卿とメイド達に見送られてオレたちは出発する。
「ノゾミ、あれ!」
ミーシャの指さす先にシスティーナがいた。
恐らくは部屋着だろう。道端にたたずみ真っ赤になりながらこちらを見ている。
「あの……ノゾミ、昨日のことは……よく覚えていないんだ」
うつむき加減で、途切れそうな声で。
「しばらくはこの街にいるんだろ……宿が決まったら教えてくれ……」
「分かった。必ず連絡する」
「必ず……必ずだぞ! 約束したからな!」
システィーナは何度も確認するように叫んだ。
その顔はもはや聖騎士ではなく一人の乙女。
「本当に……何があったんですか?」
ミーシャの視線をオレは無視する。
何をしたのか知りたいって?
今夜、教えて進ぜよう。
そのカラダで存分に味わうがいい!
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