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「……うん?」
「……うん、それじゃあよろしくね、おじいちゃん……」
移動中の車内で仮眠をとっていたジンライが目を覚ますと、隣の席で舞がヒソヒソと小声で話していた。舞はそそくさと通信を切る。
「……大二郎はなんと?」
「わっ⁉ ジ、ジンライ、起きていたの? 停車したときに寝たと思ったのに……」
「ちょうど今起きたところだ」
ジンライは目をこすりながら、シートから少し体を起こす。
「そ、そう……」
舞は少し安心した様子を見せる。
「なんだ、俺様に聞かれたらマズい相談でもしていたのか?」
「べ、別に……」
「……怪しいな」
「そ、そんなことないわよ」
「車内の会話などは録音しているから再生しても良いのだが……」
「サキホドノツウワデータヲカクニン……サイセイシマスカ?」
ドッポの声が車内に響く。舞が慌てる。
「ちょ、ちょっと! プライバシーの侵害じゃない!」
「俺様に寝顔を見られているというのに、今更だな」
「そ、それとこれとは話が別よ!」
「……イカガナサイマスカ?」
「いや、冗談だ、再生しなくていい……」
「カシコマリマシタ」
ジンライはシートにもたれかかって、舞に問う。
「で?」
「え?」
「大二郎はなんと?」
「だ、だから、プライバシーの侵害よ」
「まさか、全てが全て、呑気にプライベートトークをしていたわけではあるまい……俺様が知っておくべき情報もあるはずだ、NSPを守る為にもな」
「あ、ああ、そういうことね……それなんだけど……」
「だけど?」
「特に今、伝えることは無いって言っていたわ」
「なに?」
ジンライが顔をしかめる。
「緊急事態が起こったら、すぐに知らせると言っていたわ」
「ふむ……これから目指す場所については変更なしか?」
「ええ、ただ、発信信号を確認した限りではそんなに慌てなくてもいいって……」
「まあ、その点についてはこちらでも確認したが……」
「せっかくだから観光がてらどこかに寄っていく?」
「観光か……」
ジンライは腕を組んで考え込む。舞は笑う。
「ふふっ……」
「なにがおかしい?」
「いや、てっきり『俺様は観光などに興味はない』とか言うのかと思ったから……」
「……ひょっとして、今のは俺様のマネをしたのか?」
「あ、分かった?」
舞は悪戯っぽく舌を出す。ジンライは不機嫌そうに呟く。
「似ていない……」
「え~そうかな~? ドッポはどう思う?」
「ジンライサマノソンダイナブブンヲヨクヒョウゲンデキテイタカトオモイマス……」
「ほら、高評価よ」
ドッポの回答に舞が胸を張る。ジンライが首を傾げる。
「なんだ、よく表現出来ていたとは……声の高低など、データを用いて判断しろ」
「データヨリモダイジナノハハートデス……」
「いや、データを軽視するな」
「良いこと言うわね、ドッポ」
「アリガトウゴザイマス」
「はあ……もういい」
ジンライは軽く頭を抱える。舞が尋ねる。
「それで?」
「ん?」
「ご希望の観光よ、どこに行きたい?」
「方針変更だ。やはり観光などをしている場合ではない」
「ええ~? たまには息抜きも必要よ」
ジンライの言葉に舞は唇を尖らせる。
「トキニハシンシンヲリフレッシュサセルコトモ、ニンムヲエンカツニススメルウエデモジュウヨウニナッテキマス……」
「ほら、ドッポもそう言っているわよ」
「……貴様が観光したいのではないか?」
「……バレた?」
「遊びにきたわけではない……大体ここは貴様の地元だろうが」
「そりゃあ銀河一のヴィラン様にとってはちっぽけかもしれないけど、私からすれば北海道は結構広いのよ? それに私は生粋の函館の女だから、この辺は来たことないのよ」
舞が大袈裟に両手を広げる。ジンライはため息をつく。
「まあ、興味を引かれたポイントはあるな……」
「え、どこどこ?」
「場所というか……物だな」
「物?」
「ああ、『流氷』とやらを見てみたい」
「りゅ、流氷?」
ジンライの言葉に舞が驚く。
「網走の街では、流氷を展示している建物や、流氷砕氷船などもあるらしいな」
「よ、よく知っているわね……」
「街のデータくらいしっかりと目を通す」
「で、でも今言われても……」
「無理か?」
「ええ、海とはもう反対方向に来ちゃっているし……大体流氷の時期ではないわ……」
「そうか、なら仕方がないな」
「いいの?」
「縁が無かったということだ」
「そう……って、このまま、目的地まで数時間ノンストップで行くつもり⁉」
「そのつもりだが……それがどうした?」
「い、いや、流石に退屈が過ぎるでしょ⁉」
「ドッポと楽しく会話をしていれば良いだろう」
「話のネタが無くなるわよ」
「俺様の悪口でも言い合ったらどうだ?」
ジンライは笑いながら言う。舞は腕を組む。
「それでも時間の半分は余るわね……」
「ちょ、ちょっと待て! そんなに不満があるのか⁉」
「冗談よ、冗談……」
「ったく、うん……?」
「どうしたの?」
「退屈をしのげそうな存在が現れたぞ」
「え? ……ええっ⁉」
ジンライの指差した先を見て、舞は大声を上げる。流氷のかけらに腰掛けながら、車をヒッチハイクしようとする日本刀を持った女性がいたからである。
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