「往来で大声を上げるな、迷惑だろう……」
「ヴィランに諭された!」
「とにかく入るぞ」
「ちょ、ちょっと待って!」
「なんだ……」
舞に腕を引っ張られたジンライはウンザリ気味に呟く。
「百歩譲って、イベント観覧はいいわ。でも誰よ、シーズンズって?」
「シーズンズを知らないだと?」
「生憎、ちっとも!」
「正気とは思えんな……」
ジンライは信じられないと言った表情で舞を見る。
「そ、そこまで言われるほど⁉ 漫画はそれほど見ないのよ。代表作は?」
「……ドッポ、教えてやれ」
ジンライは車から通常形態に戻って、自らの肩に乗ったドッポに説明を促す。
「サクヒンメイハ『キ』デハジマリ、ゴモジメガ『イ』デス」
「なによ、その微妙なヒントは……」
「ゲキジョウバンアニメモダイヒットシマシタネ」
「あ! 分かった! え? 『鬼○の刃』⁉」
「違う」
「違うの⁉」
ジンライはやや呆れ気味に答えを言う。
「『季節の合間』だ」
「なにそれ⁉」
「人と人外の生物によって織り成される季節の合間を描いたハートウォーミングな作品だ」
「し、知らないわ!」
「アニメでは食卓シーンのハイクオリティな作画が話題を呼んだ……」
「ほ、本当に話題を呼んだの?」
「特にあの里芋の煮っころがしの作画は世界のSNSを席巻した……」
「クオリティ高めるところ間違っていない?」
「全く、季節の合間も知らんとは……」
ジンライはため息をつく。
「ほ、他にはないの?」
「……ドッポ」
「サクヒンメイニ『ジュツ』ガハイリ、『カイセン』デオワリマス」
「また、クセのあるヒントの出し方ね……でも分かったわ! 『呪術○戦』ね!」
「……違う」
「え⁉」
「『手術海鮮』だ」
「はい? なによ、それ?」
「医者として手術をする二人が、オフの日には仲良く釣りを楽しむストーリーだ」
「し、知らない! ってか、どんなストーリーよ!」
「医療漫画としてだけでなく、釣り漫画、グルメ漫画の側面も併せ持つ贅沢な作品だな」
「コンセプトがぶれていない?」
「むしろそこが良いと評価されている」
「どこで評価されているのよ……」
「季節も手術も知らん奴がいるとはな……国民的少女漫画だぞ?」
ジンライが軽く頭を抑える。
「え、少女漫画なの⁉」
「まあいい、そろそろ時間だ、店に入るぞ……」
ジンライたちがビルに入り、イベントが行われる会場に着く。
「イベントのお客さん、99%女性ね……」
「良いものに性別など関係ない……いわんや星の違いもな」
「説得力ある物言いね……あ、そろそろ始まるみたいよ」
司会者が壇上に上がり、イベントの開始を告げる。
「それではトークショーを始めさせて頂きます……シーズンズの皆さんです!」
「きゃあああー!」
女性客から黄色い歓声が上がる。四人の端正なルックスの男性がステージに現れる。
「よ、四人組なのね……」
「複数連載を抱えているからな、一人二人ではなかなか大変なのだろう」
「ヨニンソレゾレノサッカテキキャラクター、パーソナリティヲツカイワケタサクフウニテイヒョウガアリマス」
「そ、そうなの……」
ジンライとドッポの説明に舞が頷く。四人組が自己紹介を始める。
「桜花青春です! よろしく!」
すらっとしたスタイルで、短い青髪の男性が挨拶する。
「その名の通り、青春を題材にした作品が多い。読者の間では『エモい』担当とされている」
「エモい担当……青春を題材……学園ものとか?」
「そうだな、後、スポーツものが多い、『苦虫マダム』とかな」
「どんなスポーツものよ……マダムとエモさはなかなか結びつかないでしょ……」
「疾風朱夏です……よろしくお願いします……」
四人組の中では小柄な、少年と言ってもいいルックスの朱髪の男性が挨拶する。
「恋愛や日常ものが多い。担当は『尊い』だな。疾風というがもしや……」
「ああ、はとこよ、ほとんど会ったことはないけど、まさか漫画家になっていたとはね」
「ふむ、世間は意外と狭いものだな……代表作は『手洗いミューズの赤木さん』だ」
「どういう恋愛ものよ……」
「佳月白秋だ。よろしく頼む……」
やや斜に構えた態度の白髪の男性が挨拶する。
「バトルや歴史ものを多く手掛けている。『エグい』担当だ」
「エグい担当って……」
「主に戦闘描写がな。それが良いという読者もいる。『文具のり』がヒットした」
「文具でどうエグさを出すのよ……」
「吹雪玄冬……よろしく……」
四人の中では一番筋肉質で、黒髪の男性が挨拶する。
「『チルい』担当だな。見た目に反してエッセイ風やほのぼのギャグ作品が多い」
「チルい?」
「落ち着く作風ということだ。『今朝、なに食べたっけ?』とかな」
「どんな漫画よ……っていうか、さっきから一つも知らない漫画ばかりなんだけど」
首を傾げる舞をよそに、司会者が話し始める。
「……さて、四人にご挨拶頂きました。まずはトークショーの方を始めさせて頂きます……」
「きゃあー⁉」
女性の悲鳴が響き、ビルの窓が割れる。舞が驚く。
「な、なに⁉」
「! あれは……」
窓に駆け寄り、外を見下ろしたジンライが目を見開く。そこには灰色のパワードスーツに身を包んだ者が数人、茶色のパワードスーツを着た者が一人いた。茶色のスーツが叫ぶ。
「我々はドイタール帝国第十三艦隊特殊独立部隊である! 突然だがこの都市は我々の支配下とする! 無駄な抵抗はしないことだ。さもないと……」
「!」
茶色のスーツが周囲のビルの壁や窓ガラスに銃撃を加える。群衆はパニックに陥る。
「ジ、ジンライ!」
「奴らめ……ん⁉」
「行きますよ!」
「なっ⁉」
朱髪の男性の掛け声でシーズンズの四人が窓から勢いよく飛び出し、ジンライは驚く。
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