超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第1話(4)疾風迅雷、参上

公開日時: 2022年2月4日(金) 12:11
更新日時: 2022年2月4日(金) 13:38
文字数:3,547

「む、疾風迅雷だと……? ふん、我が組織が開発したのニャらばともかく、民間の一企業で……すらない一個人が造ったパワードスーツなどたかが知れているニャ」

 怪人ネコまんまが笑みを浮かべる。ジンライが呟く。

「試してみるか?」

「ふん、威勢は結構だが!」

 怪人の方が先に仕掛ける。

「ふっ!」

「ニャ⁉ スピードについてきただと……ならば!」

「ほっ!」

「攻撃をはねのけた……まさかスピードもパワーも我々を上回るということニャのか⁉」

「そういうことだ! 降参するなら今の内だぞ!」

「ニャに⁉」

「い、いや、俺様はなにも言っていないぞ、後ろのアイツだ」

 ジンライが後ろで叫ぶ大二郎を指し示す。怪人が忌々し気に呟く。

「疾風大二郎め……NSPの詳細さえ分かれば、さっさと始末するものを……」

「……貴様らの組織はNSPを狙っているのか?」

「そうニャ! それ以外にニャにがある!」

「そうか。ならば、ここで貴様を倒す!」

「! お前はニャにものだ? ここには二人しかいニャいと、報告があったはずだが……」

「……これから消え行くものに教えても無駄だろう」

「~~!」

「ぐっ!」

 怪人の爪が疾風迅雷の頬の辺りを掠める。

「ふっ、これからは本気でいくニャ……」

「ふん、今のが本気か? たかが知れているな……」

「そうやって虚勢を張るのも今の内ニャ!」

(このスーツに慣れていないのは確かだ……そもそもどんな性能を備えているのだ……?)

「ジンライ君! その疾風迅雷の性能について解説しよう!」

「⁉」

 ジンライが振り返ると、メガホンを片手に叫ぶ大二郎の姿があった。

「その疾風迅雷にはいくつかのフォームがある! 戦い方や相手に合わせてフォームを使い分けて戦うことが出来る、柔軟な戦法をとれる画期的なパワードスーツなんだ!」

「そのフォームとやらはどうやって使い分けることが出来るんだ⁉」

「ええっと……NSPからのエネルギー供給などがまだ不十分……なおかつ、その活用方法が今一つ確立出来ていない為、フォームはいずれも未実装なんだ!」

「はぁっ⁉」

「だから、その通常の……『ノーマルフォーム』で頑張ってくれ!」

「お、おじいちゃん! スーツ内にだけ通じるマイクとかは無いの⁉」

「え、あ、もちろんあるよ」

「あるの⁉ なんでそれを使わないで、わざわざメガホンを……相手に筒抜けよ!」

「つ、つい、興奮してしまって……」

「手の内がすっかりバレちゃったじゃない!」

 大二郎と舞のやりとりを背中で聞きながら、ジンライは拳を握る。怪人は笑う。

「ふふふっ、どうやら準備不足なようだニャ。運が悪かったニャ」

「……勘違いするなよ、貴様ごときを倒すのに小細工など必要ないということだ」

「……ニャま意気ニャ!」

「ふん!」

「躱した⁉ ふニャ⁉」

 攻撃を避けたと同時に疾風迅雷がキックを放ち、喰らった怪人は後方に吹っ飛ぶ。

「要領は分かってきた……」

「くっ! お、お前ら! 突っ立てないで援護するニャ!」

「は、はっ!」

 怪人の指示を受けた戦闘員たちが疾風迅雷の前方に立ち塞がる。大二郎が小声で囁く。

「ジンライ君……バイザー内に表示されていると思うけど、ノーマルフォームには二つのモードがある。上のモードを選択してくれ。操作は要らない。脳内で意志を持つだけで良い」

 マスク内に聞こえる大二郎の声にジンライが答える。

「……選んだぞ」

「それで戦ってみてくれ」

「うむ……おおっ、体が一段と軽い!」

「どわあっ!」

 疾風迅雷は群がる戦闘員を一蹴する。

「それが一度に多人数の相手と戦う時に便利な『疾風』モードだ!」

「スピードに特化したモードか。つまり、もう一つのモードが……」

「うニャっ⁉」

 疾風迅雷はあっという間に怪人との間合いを詰め、怪人の頭部にかかと落としを見舞った。怪人は両手でガードしようとしたが、そのガードごと破壊した。ジンライが呟く。

「……パワーに特化したモードということだな」

「そう、一撃必殺の大技を繰り出せる『迅雷』モードだ!」

「お、おのれ……」

「! 爆発するつもりか!」

「……」

 怪人は庭を出て、よろよろと周りになにもない広場に向かい、そこで爆発した。

「な、なんだ……? わざわざ遠ざかってくれるとは……」

「ネコまんま様がやられた!」

「コアは回収した! 偶然飛んできたんだけど!」

「でかした! よし、撤退するぞ! お、覚えていろ! 疾風迅雷!」

 戦闘員たちは何やらわめき散らしながら撤退していった。

「なんだったんだ、アイツら……」

 ジンライはスーツを脱ぐ。

「ありがとう、ジンライ君! 君のお陰で助かったよ!」

「……一応、お礼を言っておくわ……あ、ありがとう」

 大二郎は満面の笑みで、舞は照れ臭そうにジンライにお礼を言った。

「……成り行き上、こうなっただけだ」

「また勝手な申し出だけど、今後も疾風迅雷として、この研究所とこの地域、いやこの国、いいや、この地球を守ってくれないか!」

「勝手過ぎるな……一宿一飯の恩でそこまでする義理はない……他の奴に頼め」

「そのパワードスーツに適応するのは、この星では君くらいしかいないのだよ!」

「それは大変だな、だが俺様には関係が無いし、メリットが無い」

「しかし、君には行くあてが無いだろう⁉」

「行くあてならある……このようなスーツを製造出来るのなら、ポッドも修理出来るだろう? それに乗って、さっさと帝国領に戻るだけだ」

「見たところそこまでの超長距離航行は出来ないようだけど……」

「太陽系を出れば、信頼出来る味方の船がある。そこまで保てば良い」

 大二郎の問いにジンライが淡々と答える。

「う~ん、そうか、それなのだけど……」

「? どうした、直せないのか?」

「えっと……」

 口ごもる大二郎の脇から小さなロボットが飛び出し、ジンライの肩に飛び乗った。銀色の球形をしていて、目と口がついており、手と足が伸びている。ジンライは驚く。

「な、なんだ、こいつは⁉」

「ドーモ、ジンライサマ」

「しゃ、喋ったわ!」

「えっと、修理出来なくも無かったのだけど、科学者としての欲求が爆発してしまって……小型ロボット、『ドッポくん』に改造してしまったのだよ……」

「アラタメテヨロシクオネガイシマス、ジンライサマ」

「な、何を勝手なことをしているんだ、貴様は⁉」

「短時間でこんなものを造るなんて……やっぱりおじいちゃんは超一流ね!」

「感心している場合か!」

 目をキラキラさせる舞に対し、ジンライは声を上げる。舞はジンライに告げる。

「……残念ながら、今のアンタには帰る手段が無い……それまで力を貸してくれない? 『ヒーロー』として」

「むう……」

 ジンライは舞を見る。気付かなかったが、わりとふくよかなボディラインである。

「な、なによ、ジロジロ見て……?」

「女だけに戦わせるのも男として気が引ける……力を貸してやろう」

「カッコ良さげなこと言っているけど、今、違うことで判断しなかった⁉」

「だが、大二郎、もう一つ条件がある……NSPのことを教えろ」

「! ふむ、そうくるか……まあいいだろう、ついてきなさい」

 大二郎は地下にある研究室にジンライを案内した。部屋の中心に大きな石が置いてある。

「これは……鉱石か?」

「そう、ただ特殊なエネルギー波を発している鉱石でね……このエネルギーを上手く活用すれば、この星のあらゆる問題が解決し、また科学分野の成長・拡大に繋がると見られている。一人の平凡な科学者に過ぎない僕が偶然発見し、NSPと名付けたってわけだ」

「すごい偶然だな……」

「本当だよ、ネットオークションで、綺麗な石だなと思って購入しただけなのだけど……」

「偶然ってレベルじゃないだろう! もはや奇跡だ、そこまでくると!」

「そうだね、まさに奇跡だ……」

 呑気に呟く大二郎をよそにジンライが考えを巡らす。

(そうか、このエネルギーを入手するのが、帝国の狙いだったのか……辺境に派遣された意味がようやく理解出来た。恐らく俺様をハメた連中もやってくるだろう。そこを返り討ちにして、なおかつこのエネルギーを手土産にすれば一石二鳥ではないか……ふっふっふ……)

「薄気味悪い笑いを浮かべているところ悪いんだけど……ヒーロー、なってくれるの?」

「……まあ、どうしてもというなら、なってやらんこともない」

 ジンライの答えに舞の顔が明るくなる。

「良かった~流石にそろそろヤバいと思っていたのよ~」

「? 確かにあのサイボーグはなかなかだったが、総じて間の抜けた連中だっただろう? そこまで脅威に感じることか?」

「いや、それが他にもいるのよ、NSPを狙う連中は」

「……なんだと?」

「えっと……巨大怪獣を操る軍団でしょ? 異次元からの侵略者に魔界の住人、未来から来たとかいう奴らに古代文明人……現在確認出来ているだけでも、5つ6つの勢力がこの研究所を虎視眈々と狙っているわ」

「ず、随分と大人気だな⁉」

 ジンライは驚愕した。

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