超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第4話(3)迷わず行けよ

公開日時: 2022年2月13日(日) 00:52
更新日時: 2022年2月13日(日) 13:31
文字数:3,224

「こちらがピンチの時に限っていつもタイミング良く駆け付けてくれるのよね~」

「えっと……団長さん、気付きません?」

「え、なにが?」

 舞の問いに杏美は首を傾げる。

「な、なにがって……あの奇抜なコスチュームとか……」

「え? 見当もつかないわね……コスチューム? ああいう地肌なんじゃないの?」

「そ、そんな! こ、股間だけシースルーな地肌ってなんですか⁉」

 舞は少し顔を赤らめながら声を上げる。

「もしかして……えっと、疾風……」

「舞です」

「舞さんはあのベアーマスクの正体を知っているの⁉」

「ベアーマスク?」

「我々が付けた呼称よ」

「そ、それはまた随分とそのままですね……」

「こういうのは分かりやすい方が良いのよ」

「……ちなみにPACATFは何と称しているのだ?」

 ジンライが口を挟む。

「え、なんだろ、パキャトフとかかな? パッキャット派もいるわね。面倒だからPAC、パックって皆言っているわ」

「呼称を統一していないんですか、そんなアバウトな……」

 杏美の返答に舞が戸惑う。

「各員の自主性を重んじているのよ」

「き、聞こえは良いですが、軍事行動をとる部隊なんですよね?」

「そうよ、主に怪獣撃退の任に当たっているわ」

「それならば、ある程度の規律は必要かと思うんですが……」

「でもあんまりガチガチに縛っちゃうとね、自主性を損なうとともに、創造性まで失ってしまって、プロレスやサーカスのパフォーマンスに悪影響が出ちゃうのよ」

「いや、プロレスやサーカスはあくまで世を忍ぶ仮の姿なんですよね⁉」

「う~ん、気が付いたら、プロレスやサーカスにもマジになってきちゃって、もはや自分たちが何の集団なのか分からなくなってきているフシがあるわね」

「そんなのおかしいでしょう!」

「笑っちゃうわよね~」

「そういう意味ではなく!」

「それ以上はやめておけ、舞」

 ジンライが会話を遮る。杏美が問う。

「それより、舞さん! ベアーマスクの正体は⁉」

「え、えっと……」

「団長! 前を見ろ!」

「え? おおっと!」

 戦闘機の目前に、二足歩行になったトカゲのような巨大怪獣が迫っていたため、杏美は慌てて操縦桿を倒し、怪獣を避けた。後を追いかけようとした巨大トカゲだったが、やや大きさで上回るベアーマスクがそれを阻止する。舞がほっと胸を撫で下ろす。

「あ、危なかった……」

「今は撃退に集中しろ」

「あ、貴方、随分と落ち着いているわね……」

 杏美はジンライの不遜な態度に怒るでもなく感心する。

「戦闘機での空中戦は散々経験してきたことだからな……もっともあのような巨大な生物と遭遇した機会はあまり無いが……」

「あまり……ってことはあるの? 倒し方のコツは?」

「俺様が遭遇したのはその惑星の野良生物みたいなものだからな……無理に倒す必要は無かった。よって、倒し方など知らん。むしろ教えて欲しいくらいだ」

 舞の問いにジンライは首を振りながら答える。

「そ、そんな……!」

 ベアーマスクと巨大トカゲが激しくぶつかり合う。巨大トカゲの敏捷性を活かした動きにベアーマスクは手こずっているようである。

「団長、援護してやれ」

「と、とは言っても、この戦闘機の武装ではあのトカゲに傷一つ付けられないわ!」

「生物である以上、どこか弱い部分はあるはずだ……」

「弱い部分……そうか!」

 杏美が操縦席のコントロールパネルを操作し、ミサイルを数発発射する。発射されたミサイルは全弾巨大トカゲの右眼に命中し、巨大トカゲの右眼は潰れる。舞が叫ぶ。

「き、効いた!」

「成程、銀河広しといえども、眼球が鋼のように硬いという生物は見たことも聞いたこともない……良い狙いだ。団長を任せられるだけはあるな」

「貴方の助言のお陰よ! 貴方、ルックスも悪くないし……どう? うちに入らない?」

「生憎、プロレスにもサーカスにも興味は無い……」

「多角経営に乗り出そうという話も出ているのよ、貴方に見合った業種もあるはずだわ」

「多角経営とは……集団として方向性を見失っていないか?」

「分かってないわね、進む方向こそがそのまま道となるのよ!」

「ほう……」

「なにちょっと感銘受けちゃってるのよ!」

 腕を組んで頷くジンライに舞が突っ込みを入れる。

「グオオオッ!」

「⁉」

 突然の雄叫びに驚き、ジンライたちが視線を向けると、ベアーマスクが巨大トカゲの長い尻尾を掴んで持ち上げて振り回し始めた。杏美が声を上げる。

「こ、これはまるでジャイアントスイング! そういえば過去の戦闘でも水平チョップやドロップキックを繰り出していたわね。ベアーマスク、薄々思ってはいたのだけど……」

「だけど?」

 舞がじっと耳を傾ける。

「プロレスにも精通しているのね! 親近感が湧くわ!」

「あ、あまりにも察しが悪い!」

「投げるぞ!」

 ジンライの叫びと同じタイミングでベアーマスクは巨大トカゲの尻尾を離した。投げ飛ばされる形となった巨大トカゲは地面に激しく打ち付けられ、動かなくなった。

「た、倒したの?」

「やったわ! ベアーマスク! いつもありがとう!」

「ふっ……そろそろこちらも我慢の限界だ……」

「えっ⁉」

「声だと……! 大声でもないのに脳内に響いてくるような感覚……!」

 戸惑う舞とジンライをよそに、杏美が声を上げる。

「マスター・ハンザね! アンタらの悪巧みにはこっちも飽き飽きしてんのよ!」

「……我らの崇高なる目的は所詮君たちには理解出来ないよ……」

「あ、あそこに人が!」

 舞が指差した方向に僧衣を身に纏った男が立っていた。男は竪琴を奏でる。

「やられっぱなしでは終わらない……倍の倍!」

「⁉」

 竪琴から不思議な音が奏でられたかと思うと、倒れ込んでいた巨大トカゲが立ち上がり、更に巨大化し、ベアーマスクを見下ろすほどの大きさになった。舞たちが驚く。

「なっ⁉ ベアーマスクより二回りは大きくなったわ!」

「こ、こんなことが……」

「団長! あのハンザとかいう奴のしわざだろう! 奴は一体何者だ⁉」

「秘密教団『ファーリ』の一員よ……」

「秘密教団?」

「ええ、超能力の類なのか、怪獣を操ることが出来る連中が集まっているの……独自の教義を掲げて活動しているわ」

「独自の教義?」

「詳しくは分からないけど、大部分の人類にとってはあまり受け入れられない考えね」

「超能力者が集まっているカルト教団か、厄介だな……」

「くっ、迂闊だったわ……まさか会場に潜入しているとは……全く気が付かなかったわ」

「……あの恰好で竪琴を持ち歩いている人に気付きませんか?」

「舞、この団体に多くを求めるな」

「そ、それにしてもね……」

「団長! あのハンザという男に接近してくれ!」

「わ、分かったわ!」

 杏美が戦闘機を旋回させ、ハンザの立っているところに近づく。舞が尋ねる。

「ジンライ! どうするつもり⁉」

「あいつが怪獣を操っているというのなら、先に始末すべきだ!」

「ど、どうやって⁉ あいつは妙な力を使うわよ!」

 杏美が大声を上げる。

「こうやってだ! 吹けよ、疾風! 轟け、迅雷!」

「⁉」

「疾風迅雷、参上! 貴様らの邪な野望は俺様が打ち砕く‼」

「あ、貴方、そ、その姿! ヒーローだったの⁉」

「搭乗口を開けろ!」

「りょ、了解!」

 疾風迅雷が戦闘機から飛び降り、地面に着地し、ハンザと向かい合う。

「ふっ、只のヒーローが私に敵うとでも?」

「残念ながら、只のヒーローではない……」

「ん?」

「超一流のヒーローだ、メタルフォーム!」

「⁉ 色が変化した⁉」

「『ニーミサイル』!」

 疾風迅雷は片膝を突き、ミサイルを発射させた。至近距離からの砲撃がハンザに向かって勢いよく飛んでいき爆発する。

「!」

「ふん……躱しようがあるまい……何だと⁉」

 ジンライは目を疑った。ハンザが無傷で立っていたからである。

「ふっ、この防護盾の前では何をしても無駄だよ」

「強力なシールドを発生させることが出来るのか……どわっ!」

 強い揺れを感じ、ジンライが目をやると、そこには巨大トカゲによって倒されたベアーマスクの姿があった。

「さて……どうする? 超一流のヒーロー殿?」

 ハンザは不敵な笑みを浮かべる。

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