超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第11話(4)心からのシャウト

公開日時: 2022年3月16日(水) 13:51
文字数:4,384

「は~るばる来たわ! 函館‼」

 ボサッとした茶髪でライダースにジーンズ姿の女性がワンボックスの車を降りるなり、まるで歌うように叫ぶ。

「うるさいですわ……いちいち叫ばないで下さる?」

「茶畑唱、函館に初、いや、子供の時を含めれば二度目! 叫ばないでいられる?」

「二度目なら尚更大人しくしていて下さい……」

 薄紫色でふわりウェーブがかった長髪の女性が唱と名乗った女性をジト目で見つめる。

「たのちん、ノリ悪いな~」

「ノリの良い、悪いではなくて……まず言うことがあるのではなくて⁉」

「え? そうだ! この函館のライブも絶対成功させようね! 今回のステージもアタシたちの伝説の一歩になるんだから!」

 唱はたのちんと呼んだ女性の手を握り、顔をグイッと近づける。

「ち、近い! 暑苦しい! だから、そういう意気込みの話ではなくて!」

 白いシャツに寒色系のワンピースと清楚な恰好をしている女性は唱から顔を離す。

「何故にして函館港からこの五稜郭までの短い距離で、こうまで車酔いになりそうな荒っぽい運転が出来るのか……しかも交通ルールをちゃんと守りつつ……理解不能……」

 薄緑色のロングヘアーで眼鏡を掛けた長身女性がぶつぶつ呟きながら車を降りる。

「おっ、かなたん~♪ 今回のライブも後世にまで語り継がれるものにしようね!」

「いつもながら単なるローカルライブに大袈裟な……鬱陶しい……っと!」

 唱はかなたんと呼んだ女性の肩をグイッと引き寄せ、五稜郭を指差す。

「ほら! これが今回の伝説となる場所だよ!」

「……正面入口ではない。むしろ港から一番遠い堡塁……」

 カーディガンにチェックのロングスカートと落ち着いた服装の女性は冷静に呟く。

「まあまあ、あんまり細かいことは気にしない、気にしない♪」

「ははっ! 唱は我が道を往くな~」

 最後に車から降りてきた女性が唱に声をかける。やや小柄な体格で髪がオレンジ色で、ストレートヘアーである。ダボッとしたシャツに膝丈ほどのガウチョパンツを着ている。

「おおっ! ひびぽん! 今日のライブもガンガンド派手に! ズバババーンと大爆発しちゃうくらいの勢いで行っちゃおう!」

「はははっ! 騒々しいな~」

 ひびぽんと呼ばれた女性は微笑む。唱が三人の腕を引っ張り、無理矢理に手を重ねる。

「この四人で今回、新たな伝説を作るから! 気合いを入れていこう!」

「気合いを入れたくても、この車酔い寸前の気分の悪さ……」

 眼鏡の女性が俯き加減で呟く。ウェーブヘアーの女性が頭を抱える。

「釧路、帯広、苫小牧、室蘭と回ってきて……皆機材車を運転しているのだからそろそろ貴女運転なさい! と言ったわたくしがまったく愚かでしたわ……」

「まっ、室蘭の港から再開に向けて準備中のカーフェリーに乗ることが出来たのは唱の大胆な交渉のお陰だけどね~。大分ショートカット出来たから」

 小柄な女性が笑う。唱も笑って胸を張る。

「予定を変更してまで、各地でライブしてきたからかな? 妙に度胸がついたよ」

「な、何故、お前らこんなところにいるんだ⁉」

 叫び声に四人が目をやると、白タイツを着た集団が立っていた。唱が天を仰ぐ。

「ま~た遭遇するとは、もしかしておっかけ? これもスターの宿命ってやつかな?」

「だ、誰が追っかけるか! おい、お前ら、こいつらを始末するぞ!」

 白タイツ集団が向かってくる。唱がニヤッと笑う。

「場所的に今一つ恰好付かないけど、メンバー紹介のリハーサルといこうか! まずは『東京の伝統が育んだ美人! ギター、涼紫楽!』」

「はっ!」

 楽と呼ばれたウェーブヘアーの女性が向かってきた白タイツを足払いして倒す。

「お次は『杜の都が生んだ才媛! ベース、新緑奏!』」

「ふん!」

 奏と呼ばれた眼鏡の女性が白タイツを投げ飛ばす。

「続いて『沼津の潮風が培った元気っ娘! ドラム、橙谷響!』」

「ほい!」

 響と呼ばれた女性が白タイツに軽く手刀を入れて倒す。響が声を上げる。

「最後は『なにもない襟裳が輩出してしまったお転婆娘! ボーカル、茶畑唱!』」

「せい! ……ねえ、やっぱりアタシだけ言われようひどくない?」

 唱は白タイツを殴り倒しながら首を傾げる。響が笑う。

「気のせいだって、気のせい」

「少しくらい違和感があった方がむしろちょうど良い……」

 奏が同調する。唱が首を傾げる。

「そ、そうかなぁ……」

「唱さん!」

 楽の言葉に唱が振り返ると、四人の亜人が立っている。

「⁉ ア、アンタたちは!」

「まったく……これで何度目だ。俺たちの邪魔をしてくれるのは……」

 狼の顔をした獣人が呆れ気味に呟く。

「そりゃ邪魔するでしょ! 私たちの地球は絶対に渡せない!」

「ふざけるな! おのれらのじゃない! この『ソラ』と『ウミ』と『ダイチ』は俺たち『ソウダイ奪還同盟』のものだ!」

 狼の獣人が声を荒げて叫ぶ。楽が目を細める。

「幹部揃い踏みとは少々厄介ですわね……釧路などでは何故か一人ずつでしたが……」

「スケジュールがどうしても合わなくてな」

 鷲の顔をした鳥人がウィンクする。楽が戸惑う。

「そ、そういうものなのですか?」

「おのれらとの因縁もそろそろ終わらせてやる!」

「ヤンク様! 誇り高き狼の獣人!」

「これまで以上にスーパーな戦いぶりを見せてやるよ」

「ポイズ様! 偉大なる鷲の鳥人!」

「精々格の違いを思い知れ……」

「ドラン様! 剛力無双のカブトムシの虫人!」

「もはや貴女たちにかける言葉はありません……」

「キントキ様! 情け容赦のない鮫の魚人!」

 四人の幹部の登場に白タイツ集団は歓声を上げる。対して唱たちも横一列に並ぶ。

「こっちも本気で行くわよ! カラーズ・カルテット、出動よ! レッツ!」

「「「「カラーリング!」」」」

 四人が眩い光に包まれて、色とりどりの特殊なスーツに身を包む。

「勝利の凱歌を轟かす! シャウトブラウン!」

「栄光の姿を世に示す! メロディーパープル!」

「輝く未来を書き記す! リズムグリーン!」

「蔓延る悪を叩き伏す! ビートオレンジ!」

「四人揃って!」

「「「「カラーズ・カルテット」」」」

 四人が名乗りと共にポーズを決めると、その後方が例の如く爆発する。

「唱さん……いえ、ブラウン!」

「なによ、たのちん……じゃなくてパープル?」

「例によって立ち位置がおかしいですわ! 真ん中に寄りすぎではありませんか⁉」

「ええ……とりあえず暫定リーダーはアタシで良いってことになったじゃん」

「……わたくしが言いたいのは、四人なのだから、もっとバランスの取れた並び方をするべきだということですわ! これだと全体的に右寄りな気がいたしますわ!」

「うん……ちょっと左側に余裕があった方が良いかなって気がして……」

「だから何なのですか⁉ その気がするっていうのは⁉」

「後々ね、後々……」

「後々って、一体何を言っているのですか⁉」

「まあ、その話は後で……奏、じゃないグリーンが体勢維持に辛そうだよ」

「響、いや、オレンジの言う通り、この体勢を維持するのは結構辛い……」

 グリーンが体をプルプルとさせながら呟く。ブラウンが声を上げる。

「よし! 皆行くわよ! 平和の為、ソウダイの連中を倒すのよ!」

 四人が勢いよく前に飛び出す。

「ソルジャーども、迎え撃て!」

「うおおおっ!」

 ヤンクの檄を受け、ソルジャーと呼ばれた白いタイツの集団も前進する。

「えい!」

 ブラウンが相手を蹴り飛ばす。

「そこを退きなさい、三下!」

 パープルが相手に向かって、弓矢を数本同時に連射する。

「こんちくしょう! タココラッ!」

 グリーンがラリアットとエルボーで次々と豪快に相手を薙ぎ倒す。

「ほい! ほいっと!」

 オレンジが二本のスティックを器用に使いこなし、相手を叩きのめす。

「ちっ、ソルジャーどもがあっという間に……」

「ふふっ! 腕を上げたアタシたちの敵じゃないわね!」

「あまり調子に乗るなよ……」

「なっ⁉ き、消えた⁉」

 ヤンクたちの姿が忽然と消えた為、オレンジが驚く。グリーンが冷静に分析する。

「ステルス機能を発動させた……」

「またそれですの⁉ 目で追えなくとも……耳を澄ませば……ぐはっ!」

 パープルが吹き飛ぶ。ほぼ同時にグリーンとオレンジも吹っ飛ぶ。ブラウンが驚く。

「み、みんな⁉」

「くっ……音楽をたしなむわたくしたちなら、移動音を聞き分けるくらい造作もないはず……でも全く音がしませんでしたわ……」

「……前回はそれで見破られたからな、その対策はしてきた……」

「無音で高速移動かよ!」

「本当に厄介……」

 オレンジとグリーンがそれぞれ顔をしかめる。

「貴様ら、耳を塞げ!」

「⁉」

 四人が叫び声のした先に視線をやると、そこには疾風迅雷が立っている。

「ブラウン、叫べ!」

 ブラウンがマイクを取り出し、思いっ切り叫ぶ。

「『ライブキャッスル、五稜郭にようこそ‼』」

「ぬおっ⁉」

 ブラウンが発した声が凄まじい衝撃波と化し、ヤンクたちがふっ飛ばされる。

「見えた! 『クラシックフォーム』! 『アーチャー』モード!」

 深緑色のローブに身を包んだ疾風迅雷が弓矢を立て続けに放つ。

「ぐおっ!」

 四人の幹部に矢が突き立てられる。疾風迅雷が叫ぶ。

「矢の羽根に色が付いている! それで場所が分かるはずだ!」

「よしっ! 『スマッシュビートダブル』!」

「ぐはっ!」

 オレンジによって、顔面を二度殴られたキントキは倒れ込む。

「はっ! 『ジャーマン・スープレックス』!」

「ぐおっ……」

 グリーンはドランの触角を掴んで持ち上げ地面に叩き付ける。ドランはぐったりする。

「頂きましたわ!『真・花蝶扇射』‼」

「がっ⁉」

 扇状に放たれた弓矢がポイズの体を数か所、正確に射抜いてみせ、ポイズは落下する。

「そこね! うおりゃ!」

「ぐはっ……」

 ブラウンの放った強烈な右フックがヤンクの顎を捉えた。ヤンクは大の字に倒れ込む。

「やったわ!」

「ちっ、NSPを前にしながらまたしても……ここは退くぞ!」

「あっ! くっ……逃がしたか」

「……それにしても以前より声量が増したのではないか?」

 近寄ってきた疾風迅雷が声をかける。ブラウンは照れ臭そうに頭を掻く。

「ライブを重ねたからね……野外だし、気合い入っちゃった♪ 近所迷惑だったかな?」

「周辺住民も退避しているから、恐らくその心配は無いだろう……」

「この後はどうすれば良い?」

「舞から指示があるだろう、それに従って動いてくれ。俺様は別の場所に向かう」

「ちょ、ちょっと、プウジン君! 確認したいことがあるんだけど!」

「プ、プウジン⁉ 疾風迅雷の間を取るとは……ざ、斬新な発想だな……」

「あの舞さんと夫婦っていうのは、その場を誤魔化す為の嘘だったってことだよね?」

「? ま、まあ、そうなるな。それがどうした?」

「い、いや、なんでもない」

「ほっと一安心ですわね……」

「これは間違いなく朗報……」

「へへっ、こりゃあモチベ上がってきたね、唱?」

「爆上がりだよ! それじゃあプウジン君、互いの健闘を祈る!」

「あ、ああ……」

 呆然とするジンライを置いて、カラーズ・カルテットは意気揚々と走り出していく。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート