超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第7話(4)魔法の力

公開日時: 2022年2月26日(土) 00:19
更新日時: 2022年3月19日(土) 00:22
文字数:3,534

「うおおっ!」

「グオアッ⁉」

「な、なんだ⁉」

「あ、貴方、その姿! ヒーローだったのですね⁉」

 オークを殴り倒す疾風迅雷を見て、十六夜が驚きの声を上げる。

「まあ、今はそういうことになる!」

「助太刀してくれるのですか?」

「そうだな、魔界の勢力争いには正直興味が無いが……こいつらがNSPを狙っているというのなら話は別だ!」 

「NSP……未知なるエネルギーのことですね」

「知っているのか?」

「ツマクバにも情報は流れていました……」

「こちらの情報がそちらにも?」

「ええ、行き来をするのは困難を極めるのですが、こちらの世界の様子をモニタリングすることは比較的容易でした。もちろん、100%完璧ではありませんが」

「なるほどな……」

 十六夜の説明にジンライは頷く。

「シンクオーレの連中もそれを狙っているようだという情報も掴んでいました」

「何故だ? 貴様に言うのもなんだが、魔界での大勢は決したのであろう?」

「……NSPを利用して、その支配を確固たるものにするため……あるいはこちらの世界への本格的侵略も考えているのかもしれませんね」

「尚更捨て置けんな! 『疾風』モード!」

「ウオアッ⁉」

 疾風迅雷がオーク数匹を瞬く間に撃破する。

「やりますね! はあ!」

 十六夜も刀を振り、オーク数匹を斬る。オークのリーダーが顔をしかめる。

「こ、こいつら!」

「ど、どうします⁉」

「第二陣、到着しました!」

 黒い穴からオークの群れが現れた。リーダーが頷く。

「よし、方針転換だ! 各自散開しろ! 第二陣は俺に続け! NSPとやらを獲る!」

 オークの群れは統制の取れた動きを見せ、元々いたオークは散開して、疾風迅雷たちを包囲するように位置取り、残りのオークはリーダーの後に続き、その場を去ろうとする。

「ちぃ!」

「ここは任せて! 貴方の優先任務はNSPの防衛でしょう?」

「ああ、すまん! クラシックフォーム! 『トルーパー』モード!」

 疾風迅雷が銀色の甲冑を纏ったような姿になる。手には大きなランスが備わっている。

「色や形状が変化した⁉」

 驚く十六夜をよそにジンライが槍を掲げて叫ぶ。

「ドッポ!」

「ハッ!」

 ドッポが馬の形に変形し、疾風迅雷はそれに飛び乗る。

「やつらを追え!」

「リョウカイ!」

 疾風迅雷はNSPを狙って、その場を離れたオークの群れにあっという間に追い付く。

「な、なに⁉」

「喰らえ!」

「グハッ!」

「き、騎兵だと⁉ いつの間に⁉」

「図体に似合わず、なかなか素早いようだが、機動力もこちらが上回ったぞ!」

「お、おのれ! 迎え撃て!」

 オークたちが踵を返し、武器を振りかざして、疾風迅雷に襲い掛かる。

「ドッポ、飛べ!」

「くっ⁉」

 勢いよく飛び上がった疾風迅雷はオークたちの攻撃を躱し、見下ろす。

「喰らえ、『乱れ突き』!」

 疾風迅雷は空中からランスを乱れ突く。

「ギャアア!」

 正確な突きを喰らったオークたちは悲鳴を上げて消え失せる。着地した疾風迅雷はランスをリーダーに向けて呟く。

「……残るは貴様だけだな」

「くっ! うおりゃ!」

「⁉」

 リーダーは持っていた斧を地面に叩き付け、土塊を疾風迅雷に向かって飛ばす。予期せぬ攻撃を受けた疾風迅雷は思わず顔を手で覆ってしまう。

「へっ! 今の内に逃げるぜ! って⁉」

 逃げようとしたリーダーの先に刀を紙で拭う十六夜の姿があった。

「まさか逃げられるとお思いですか?」

「キラスーン⁉ ま、まさか……」

「ご心配なく……皆さん一匹残らず成敗致しました」

「お、おのれ!」

「二対一だ、命運尽きたな」

「そうでしょうか?」

「⁉」

 疾風迅雷たちやリーダーの間に大きく黒い穴が発生し、その中から、小柄な人型の生物が現れる。頭部に二本の角が生えており、人とは異なった種族だということが分かる。

「キョ、キョウヤ様!」

「キョウヤですって⁉」

「これはこれはキラスーンさん、お噂はかねがね……こうしてお目に掛かるのは初めてになりますね。わたくしはキョウヤと申します」

 キョウヤは十六夜に向かって、恭しく礼をする。十六夜は舌打ちする。

「貴方の暗躍のお陰で辛酸を舐めさせられたわ……」

「こちらは勝利の美酒を味わえました……」

「まだ負けていないわ!」

 十六夜は剣を構える。キョウヤと名乗った者はため息をつく。

「諦めの悪い御方ですね……今日は偵察のつもりでしたが……」

 キョウヤはリーダーの方に振り返る。リーダーはやや怯えながら、尋ねる。

「な、なんでしょうか?」

「わたくしはこの後、大事なパーティーに顔を出さなければなりません。服を汚したくはないのです。よってここは貴方に任せます」

「ご、ご加勢下さらないのですか?」

「力は貸しましょう……」

 キョウヤはリーダーの頭上に右手を掲げる。

「⁉ ウオオオッ!」

「な、なんだ⁉」

 雄叫びを上げたリーダーの体を暗い光が包む。十六夜が説明する。

「奴はオーガという種族……ほとんどが獰猛な連中だけど、キョウヤ、奴は例外です。味方の潜在能力を引き出すことが出来るのです」

「バフ効果とかいうやつか……」

 ジンライは漫画で得た知識を呟く。

「グオオッ!」

「! 速い!」

「フン!」

「どわっ⁉」

 リーダーは一瞬で距離を詰め、疾風迅雷に襲い掛かる。鋭く重い斧の攻撃を受け止めきれず、疾風迅雷は落馬する。

「ムン!」

(くっ! あばらをやられたか⁉ これでは躱せん!)

 相手が斧を振りかぶるが、ジンライは脇腹を抑えたまま、起き上がることが出来ない。

「オンッ!」

「ちっ⁉」

「『ヒーリング』!」

「⁉ おっと!」

「ヌッ⁉」

「こ、これは……体が動く、負傷箇所が直ったのか? 貴様の仕業か?」

 ジンライが視線を向けると、両手をかざした十六夜の姿があった。

「ええ、回復魔法です」

「か、回復魔法を使えるのか?」

「元々、私は組の中でも戦いは得意ではありません……ヒーラーポジションです」

「そ、そうか……とにかく助かった、礼を言う」

「ヌオオッ!」

「『サムライ』モード!」

「! ガ、ガハッ……」

 またも襲い掛かってきたリーダーを疾風迅雷はすれ違い様に斬る。

「な、なんて剣速……新誠組でも上位に匹敵するかも……」

 十六夜は感嘆の声を上げる。

「はっ!」

「ふん!」

「うおっ!」

 疾風迅雷はすぐさま、返す刀でキョウヤに斬り掛かるが、キョウヤが右手を掲げると、逆に吹き飛ばされてしまう。

「意表を突いたつもりですが甘いですよ……」

「な、なんだ、今のは……なにかに弾かれたような……」

「障壁魔法の応用形ですよ」

「バリアーを展開したのか?」

「バリアーなるものを存じ上げませんが……概ねその理解で合っているかと思います」

「ぐっ……」

 疾風迅雷が刀を杖代わりにして立ち上がる。キョウヤが首を傾げる。

「はて……貴方とわたくし、争う理由が無いと思うのですが……?」

「理由ならある! NSPは渡さん!」

「……ほいっ!」

「ごはっ!」

 疾風迅雷は再びキョウヤに斬り掛かろうとしたが、キョウヤは指を弾くと、疾風迅雷の体が爆発する。疾風迅雷は仰向けに倒れ込む。

「今のは爆発魔法の応用形ですね」

「う、噂以上の魔法の使い手……」

 十六夜の表情が畏怖に変わる。その時、疾風迅雷のバイザーに文字が表示される。

「ぬ……ん? これは……大二郎からのデータ転送!」

「何ですか?」

 キョウヤが近づこうとした次の瞬間、疾風迅雷が勢いよく立ち上がって叫ぶ。

「意志を表示!」

「何⁉」

 疾風迅雷の体が光る。キョウヤたちだけでなく、離れて様子を見守っていた舞も驚く。

「な、なに⁉」

 そこにはパワードスーツの色がエメラルドグリーンに変わっただけでなく、スーツの形状も変わった疾風迅雷の姿があった。スーツというか、スカート丈のやや短いドレス姿なのである。舞が驚きの声を上げる。

「ジ、ジンライ、なにその恰好は……⁉」

「これは疾風迅雷の数あるフォームの一つ、『マジカルフォーム』だ!」

「マ、マジカルフォーム?」

「ああ、このステッキが気になるのだろう?」

 ジンライはピンク色と金色の二色が混じったステッキをかざす。

「い、いや、むしろ、そのミニスカート……」

「聞こえない!」

「き、聞こえないって……」

「くっ、銀河一のヴィランがなんという恥ずかしい恰好を……さっさと終わらせる!」

「マジカル? 魔法で勝負になるとでも?」

「行くぞ! 『マジカル……」

 疾風迅雷がステッキを振りかざす。キョウヤの顔つきが変わる。

「急激な魔力の高まり⁉ どんな魔法でも対応してみせる! ⁉」

「……ストレート‼』」

「がはっ⁉」

 懐に入った疾風迅雷のパンチがキョウヤのボディに突き刺さる。

「「魔法は⁉」」

 舞と十六夜が思わず声を揃える。

「意外とボディががら空きだったもので……」

「魔力を拳に付与させたのですね、見事です……ここは退きましょう」

 キョウヤが姿を消した。

「見たか! これがマジカルフォームだ!」

 ジンライが使わなかったステッキを掲げて叫ぶ。

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