「かかれ!」
派手なタイツ姿の連中は無駄に前転や側転をしながら、舞を包囲しようとする。
「囲んで一気に無力化しろ!」
「そんなことさせないわよ!」
「ぐほぁ!」
「のわっ!」
戦闘員たちは舞の蹴りを喰らい、あっさりとその陣形を崩してしまう。
「俺様に喰らわしたビンタといい、なかなか筋が良いな。何か格闘技でも?」
感心したジンライの問いに舞は首を振る。
「特にやっていないわ……護身用空手を少々……通信教育で1ヶ月ほど……」
「そ、それだけでそこまでのレベルに達するのか⁉」
「こんなのがほぼ毎日やってくるわけだからね、嫌でもレベルは上がるわ……」
「そ、そういうものなのか……」
「くそっ、またあの女か!」
「しかし、今回は結構良い線行っていたんじゃないか?」
「どこがだ! 文字通り蹴散らされていただろうが!」
ジンライは思わず相手のダメ出しをしてしまった。
「くっ、ならばお前の出番だ! やってしまえ!」
戦闘員の一人が呼ぶと、大柄な戦闘員が姿を現す。
「多少ガタイが良いくらいで!」
舞が素早く飛び蹴りを繰り出す。
「ふん!」
「なっ⁉ 受け止めた⁉」
「むん!」
「きゃあっ⁉」
大柄な戦闘員は舞の脚を掴んで投げつける。舞は地面に叩き付けられる。
「よしっ! その調子でやっちまえ!」
「ぐっ……」
「うおおっ! ⁉」
「ア、アンタ……?」
大柄な戦闘員が舞にパンチを繰り出すが、その拳をジンライが片手で受け止めてみせる。
「飯の借りがあるからな……」
「ぬっ……」
「ば、馬鹿な、あんな細身で、しかも片手で受け止めただと⁉」
「貴様らなんぞとは……鍛え方が違う!」
「どわっ⁉」
ジンライは大柄な戦闘員を投げ飛ばす。舞が驚く。
「そ、そのパワー……アンタ、もしかしてホントに宇宙から来たの?」
「ま、まだ信じていなかったのか⁉」
舞とジンライが言い合っているのを見ながら戦闘員たちが動揺する。
「そ、そんな!」
「ひ、怯むな! おい、お前ら、今度は一斉にかかれ!」
「おおっ!」
大柄な戦闘員が複数、ジンライに襲いかかる。パンチやキックをそれぞれ片手で受け止めるが、がら空きになったボディをもう一人の戦闘員に殴られる。
「ぐぬっ! おのれ!」
ジンライはすかさず前蹴りを繰り出して、大柄な戦闘員を一人蹴り倒し、少し後退して、腹部を抑えながら膝をつく。舞が声をかける。
「だ、大丈夫⁉」
「生身での戦闘は久々だからな……まともに喰らってしまった」
「下がっていて! 後は私がやるわ!」
「いや、貴様の手に負える相手では……⁉」
振り返ったジンライは驚いた。庭に転がっていた妙な箱が二階建ての家ほどの体長の大きさを持つロボットになり、その中心に舞が乗り込んだのである。
「こいつのパワーなら対抗できるわ!」
「搭乗型のロボットスーツ……まさか、大二郎が開発したものか?」
「そうよ! ええい!」
「どはっ!」
大柄な戦闘員二人が舞の操縦するロボットの攻撃を受け、吹っ飛ばされる。
「大柄な戦闘員カルテットがやられた!」
「ど、どうする⁉ 撤退するか⁉」
戦闘員たちは再び慌てふためく。
「慌てるニャ……」
「はっ⁉ 怪人ネコまんま様!」
戦闘員たちが敬礼する。ネコの顔をした人型の怪人が後方から姿を現す。
「なんだ……?」
ジンライは怪訝な顔を浮かべる。舞が叫ぶ。
「秘密結社レポルーは世界征服を目論む悪の秘密結社なの!」
「それはもう聞いた」
「高い科学力を持っていて、動植物などの能力を移植した、人間離れした力を持ったサイボーグ怪人を多数開発しているのよ! 遂に出てきたわね!」
「ほう、サイボーグか……ただの蛮族と思っていたが、なかなか侮れんようだな」
「なんか聞き捨てならないけど、まあ良いわ、下がっていて!」
舞がロボットを前進させ、怪人に向けて鋭いパンチを繰り出す。
「! ふっふっふ……動きが遅いニャ……」
怪人はロボットの後方に回り込んでいた。
「くっ! はっ⁉」
舞はロボットを急いで振り向かせようとしたが、手足の部分が切断され、バランスを崩して倒れ込み、舞の体は投げ出される。怪人は爪をかざして笑う。
「ふっ、子供の遊びは終わりニャ……!」
「⁉」
怪人が舞を爪で引き裂こうとしたが、間に割って入ったジンライが止める。
「ジ、ジンライ……」
「ほう、このスピードについてこられるとは……人間にしてはやるニャ……」
「人間かどうかは知らんが……!」
「おっと!」
ジンライは怪人の腕をはねのけ、蹴りを繰り出すが、怪人は後方に跳んで躱す。
「……サイボーグが相手となると、生身では分が悪いな……いつものスーツが無いと……」
ジンライが苦々しげに呟くと、間の抜けた声がする。
「ジンライ君~スーツを持ってきたよ~」
大二郎が折り畳んだスーツを持って、とてとてと現れた。
「! 気が利くな!」
ジンライは大二郎の元に駆け寄り、漆黒のスーツを手に取った。
「あ、それは……」
「まさか、直したのか⁉」
「えっと……」
「プットオン!」
ジンライがスイッチを押すと、スーツが伸びて、ジンライの身体を包み込む。顔の部分もマスクで覆われ、目の部分だけ、透明なバイザーとなっている。
「お、おお……」
「着用完了! 直っているな、褒めてやるぞ、大二郎!」
「ええっと、ジンライ君……」
「なんだ?」
「良いニュースと悪いニュースがあるのだけど……」
大二郎が言い辛そうに鼻の頭をこする。ジンライが苦笑する。
「その手の言い回し、この星にもあるのだな。まあいい、戦いながら聞こう!」
「あっ……」
ジンライが怪人に飛び掛かる。
「良いニュースとはこのスーツが直ったことだろう!」
「い、いや! むしろ悪いニュースというか……」
「何⁉ ぐはっ⁉」
ジンライの攻撃はあっさりと躱され、反撃を喰らい、倒れ込む。
「そのスーツ、どうやらこの星ではその能力を十分に発揮出来ないみたいなんだよね……」
「そ、それを早く言え!」
「ちょっと驚いたのが馬鹿みたいニャ……!」
「どわっ!」
怪人が爪を勢いよく振り下ろす。ジンライはころころ転がってその攻撃を躱し、大二郎の足下まで転がる。大二郎が笑みを浮かべる。
「実質生身なのに、凄い反応速度だね……」
「呑気に感心している場合か!」
ジンライは立ち上がって、大二郎に詰め寄る。
「ま、まあ、落ち着いて! 良いニュースを聞いてくれ! これを……」
大二郎は折り畳んだ黄色いスーツを手渡す。受け取ったジンライは首を傾げる。
「……なんだこれは?」
「僕の自信作だ、騙されたと思って、これを着用して欲しい!」
「騙されては困るのだが……」
「出たニャ! 疾風大二郎!」
怪人が飛び掛かってくる。
「くっ! スイッチは……これか!」
「ニャ⁉」
煙が巻き上がり怪人が吹き飛ばされる。そこには黄色いスーツに身を包み、黄色いマスクを被ったジンライが立っていた。ジンライは自分の手をマジマジと見つめる。
「同系統のパワードスーツかと思ったが、なんだこの湧き上がるパワーは……」
「そのスーツはNSPから生成したものだ! かなりのポテンシャルを秘めているはず!」
「NSPから……」
「勝手ながらコードネームを決めたのだけど聞いてもらって良いかな!」
「勝手だな!」
「これなんかどうかな……」
大二郎はジンライに近づき、小声で囁く。ジンライはため息をつく。
「まあ、製作者の意見を採用してやろう……離れていろ」
「話が分かるね!」
「コードネーム、疾風迅雷、参上! 貴様らの邪な野望は俺様が打ち砕く‼」
ジンライは派手にポーズを取る。民家の庭先で。
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