「『疾風モード』! はああっ!」
「『疾風モード』! ええいっ!」
疾風迅雷と疾風怒涛が船の周りに群がるマグロを一掃する。舞が唸る。
「す、素早い攻撃……」
「……」
「なによ? お兄ちゃん、じっと見て」
ドトウがジンライに尋ねる。ジンライが口を開く。
「一度に多数を相手にすることを想定したモードだな……」
「ええ、そうね」
「設計思想まで似通っているとは……ますますもって怪しいな」
「怪しいだなんて酷い言い草ね」
ドトウが苦笑する。
「なにを企んでいる?」
「企んでなんていないわよ」
「百歩譲って、貴様が何も企んでいなかったとしても……貴様にそのスーツを与えた者が何やら怪しいな……」
「そう? お兄ちゃんの気のせいじゃない?」
「そんなわけがないだろうが……!」
再びマグロの大群が現れ、船体にぶつかってくる。ドトウが叫ぶ。
「第二波ってこと⁉ 厄介ね!」
「何度でも追い払ってやる!」
ドトウとジンライがマグロの大群に立ち向かう。
「本当のマグロだったら、漁師さんが血の涙を流して喜ぶだろうね」
「アイス、そんな呑気なことを言っている場合じゃないでしょう……」
舞がアイスを冷ややかな目で見つめる。
「しかし、あの妹ちゃんもヒーローだとはね~」
「この場合はヒーローというか、パワードスーツ着用者と言った方が良いかしらね……」
「あのスーツもおじいちゃんの造ったものじゃないの?」
「確認したけど、知らないって言ってたわ」
「本当? こう言っちゃなんだけど、あのおじいちゃん、信用出来ないところがあまりにも多すぎるからな~」
「身内ながら、反論が出来ないわね……」
舞が軽く頭を抑える。アイスが呟く。
「……まあ、とりあえずあの兄妹に任せておいて大丈夫っしょ」
「ちょ、ちょっと、アイス、どこに行くのよ?」
「船室に戻るよ、寒いから」
「マイペース過ぎるでしょう……」
アイスと舞がそんなやり取りをしている間に、ジンライたちはマグロの第二波を追い払ってみせていた。ジンライが呼吸を整えながら呟く。
「はあ、はあ……ざっとこんなものだ……」
「はあ、はあ……お兄ちゃん、息が上がっていない?」
「そういう貴様はどうなんだ?」
「アタシにとってはちょうど良いウォーミングアップよ」
「ふん、抜かせ……」
ジンライがドトウの言葉に苦笑いを浮かべる。
「そろそろ向こう岸に着くかしら……きゃっ⁉」
船が再び揺れる。ドッポの音声が響く。
「サキホドヨリモタイリョウノマグロガムラガッテキテイマス!」
「ちいっ! しつこいな!」
「コレイジョウ、センタイニブツカラレルト、サスガニキケンデス!」
「だってよ、お兄ちゃん!」
「船の下に潜られると厄介だな! そこまでの水中戦は想定していない!」
「どうするの⁉」
「こうする! 『意思を表示』!」
疾風迅雷の着るスーツのカラーリングが全身銀色に変化する。それを見たドトウは驚く。
「⁉ そ、それは⁉」
「疾風迅雷の数あるフォームの一つ、『メタルフォーム』だ!」
「メタルフォーム……」
「行くぞ! 『エレクトリカルダイブ』!」
「⁉」
ジンライは海中に飛び込むと同時に、凄まじい電流が流れ、周囲一帯の海中から、大量のマグロが浮かんでくる。やや間を置いてジンライが船に上がってくる。
「……ざっとこんなものだ」
「ジンライサマ、タイヘンデス!」
「どうした?」
「タダイマノデンゲキノエイキョウデ、コチラノボディニシンコクナダメージガ……! コウコウヲツヅケルノガムズカシクナッテシマイマシタ……!」
「なんだと⁉」
「いや、大体予想つくでしょう……お兄ちゃん、アホなの?」
「ア、アホとはなんだ! アホとは!」
「素直な感想を述べたまでよ」
「サラニワルイシラセデス!」
「今度はなんだ⁉」
「マグロノタイグンガマタセマッテキテイマス!」
「ならばもう一度、エレクトリカルダイブを……!」
「その『ヘクトパスカルライブ』禁止!」
「エレクトリカルダイブだ!」
「どっちでもいいわ! ドッポが持たないでしょう⁉ お兄ちゃん、バカなの⁉」
「バ、バカとはなんだ、バカとは! このままでは沈められてしまうぞ!」
「ア、アイス! マズい状況よ!」
舞がアイスに声をかける。
「う~ん、コタツから出たくない……」
「そんなこと言っている場合じゃないわよ! このままだと、皆で海にドボンよ!」
「! そりゃあ大事だね……」
「だからそう言っているでしょう!」
「仕方がないな~」
アイスが船室の外に出てくる。舞が状況を説明する。
「マグロがさらに量を増やして襲ってきているのよ!」
「フリージング! ファム・グラス、参上! 愛すべきこの三次元の世界はウチが守る!」
アイスが変身する。ジンライが声を上げる。
「来たか! 手を貸してくれ!」
「言われなくても……!」
「どうする気なの⁉」
「こうする気! 『アイスリンク』!」
ファム・グラスが両手をかざすと、周囲の海がたちまち凍り付く。ドトウが驚く。
「えっ⁉ う、海を凍らせた……⁉」
「この氷はしばらくしたら溶けるから……その間にゲームキャラのマグロは無力化するはず。今の内にさっさと渡っちゃおうよ」
「う、うむ、ドッポ!」
「シャリョウモードニヘンケイシマス……」
四駆の車に変形したドッポに乗って、ジンライたちは対岸に到着する。
「な、なんとか着いたわね……」
舞がホッと胸を撫で下ろす。ジンライが呟く。
「さて、目的地まではもう少しあるが……」
「そういえば目的地ってどこなの? アイスも一緒みたいだけど」
「恐山だ」
「お、恐山⁉ す、凄い響きね……」
ジンライの答えにドトウは身構える。
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