超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第15話(2)凍らせてみる

公開日時: 2023年1月8日(日) 00:02
文字数:2,216

「『疾風モード』! はああっ!」

「『疾風モード』! ええいっ!」

 疾風迅雷と疾風怒涛が船の周りに群がるマグロを一掃する。舞が唸る。

「す、素早い攻撃……」

「……」

「なによ? お兄ちゃん、じっと見て」

 ドトウがジンライに尋ねる。ジンライが口を開く。

「一度に多数を相手にすることを想定したモードだな……」

「ええ、そうね」

「設計思想まで似通っているとは……ますますもって怪しいな」

「怪しいだなんて酷い言い草ね」

 ドトウが苦笑する。

「なにを企んでいる?」

「企んでなんていないわよ」

「百歩譲って、貴様が何も企んでいなかったとしても……貴様にそのスーツを与えた者が何やら怪しいな……」

「そう? お兄ちゃんの気のせいじゃない?」

「そんなわけがないだろうが……!」

 再びマグロの大群が現れ、船体にぶつかってくる。ドトウが叫ぶ。

「第二波ってこと⁉ 厄介ね!」

「何度でも追い払ってやる!」

 ドトウとジンライがマグロの大群に立ち向かう。

「本当のマグロだったら、漁師さんが血の涙を流して喜ぶだろうね」

「アイス、そんな呑気なことを言っている場合じゃないでしょう……」

 舞がアイスを冷ややかな目で見つめる。

「しかし、あの妹ちゃんもヒーローだとはね~」

「この場合はヒーローというか、パワードスーツ着用者と言った方が良いかしらね……」

「あのスーツもおじいちゃんの造ったものじゃないの?」

「確認したけど、知らないって言ってたわ」

「本当? こう言っちゃなんだけど、あのおじいちゃん、信用出来ないところがあまりにも多すぎるからな~」

「身内ながら、反論が出来ないわね……」

 舞が軽く頭を抑える。アイスが呟く。

「……まあ、とりあえずあの兄妹に任せておいて大丈夫っしょ」

「ちょ、ちょっと、アイス、どこに行くのよ?」

「船室に戻るよ、寒いから」

「マイペース過ぎるでしょう……」

 アイスと舞がそんなやり取りをしている間に、ジンライたちはマグロの第二波を追い払ってみせていた。ジンライが呼吸を整えながら呟く。

「はあ、はあ……ざっとこんなものだ……」

「はあ、はあ……お兄ちゃん、息が上がっていない?」

「そういう貴様はどうなんだ?」

「アタシにとってはちょうど良いウォーミングアップよ」

「ふん、抜かせ……」

 ジンライがドトウの言葉に苦笑いを浮かべる。

「そろそろ向こう岸に着くかしら……きゃっ⁉」

 船が再び揺れる。ドッポの音声が響く。

「サキホドヨリモタイリョウノマグロガムラガッテキテイマス!」

「ちいっ! しつこいな!」

「コレイジョウ、センタイニブツカラレルト、サスガニキケンデス!」

「だってよ、お兄ちゃん!」

「船の下に潜られると厄介だな! そこまでの水中戦は想定していない!」

「どうするの⁉」

「こうする! 『意思を表示』!」

 疾風迅雷の着るスーツのカラーリングが全身銀色に変化する。それを見たドトウは驚く。

「⁉ そ、それは⁉」

「疾風迅雷の数あるフォームの一つ、『メタルフォーム』だ!」

「メタルフォーム……」

「行くぞ! 『エレクトリカルダイブ』!」

「⁉」

 ジンライは海中に飛び込むと同時に、凄まじい電流が流れ、周囲一帯の海中から、大量のマグロが浮かんでくる。やや間を置いてジンライが船に上がってくる。

「……ざっとこんなものだ」

「ジンライサマ、タイヘンデス!」

「どうした?」

「タダイマノデンゲキノエイキョウデ、コチラノボディニシンコクナダメージガ……! コウコウヲツヅケルノガムズカシクナッテシマイマシタ……!」

「なんだと⁉」

「いや、大体予想つくでしょう……お兄ちゃん、アホなの?」

「ア、アホとはなんだ! アホとは!」

「素直な感想を述べたまでよ」

「サラニワルイシラセデス!」

「今度はなんだ⁉」

「マグロノタイグンガマタセマッテキテイマス!」

「ならばもう一度、エレクトリカルダイブを……!」

「その『ヘクトパスカルライブ』禁止!」

「エレクトリカルダイブだ!」

「どっちでもいいわ! ドッポが持たないでしょう⁉ お兄ちゃん、バカなの⁉」

「バ、バカとはなんだ、バカとは! このままでは沈められてしまうぞ!」

「ア、アイス! マズい状況よ!」

 舞がアイスに声をかける。

「う~ん、コタツから出たくない……」

「そんなこと言っている場合じゃないわよ! このままだと、皆で海にドボンよ!」

「! そりゃあ大事だね……」

「だからそう言っているでしょう!」

「仕方がないな~」

 アイスが船室の外に出てくる。舞が状況を説明する。

「マグロがさらに量を増やして襲ってきているのよ!」

「フリージング! ファム・グラス、参上! 愛すべきこの三次元の世界はウチが守る!」

 アイスが変身する。ジンライが声を上げる。

「来たか! 手を貸してくれ!」

「言われなくても……!」

「どうする気なの⁉」

「こうする気! 『アイスリンク』!」

 ファム・グラスが両手をかざすと、周囲の海がたちまち凍り付く。ドトウが驚く。

「えっ⁉ う、海を凍らせた……⁉」

「この氷はしばらくしたら溶けるから……その間にゲームキャラのマグロは無力化するはず。今の内にさっさと渡っちゃおうよ」

「う、うむ、ドッポ!」

「シャリョウモードニヘンケイシマス……」

 四駆の車に変形したドッポに乗って、ジンライたちは対岸に到着する。

「な、なんとか着いたわね……」

 舞がホッと胸を撫で下ろす。ジンライが呟く。

「さて、目的地まではもう少しあるが……」

「そういえば目的地ってどこなの? アイスも一緒みたいだけど」

「恐山だ」

「お、恐山⁉ す、凄い響きね……」

 ジンライの答えにドトウは身構える。

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