超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第14話(3)公演の邪魔は許さない!

公開日時: 2022年12月17日(土) 21:39
文字数:5,817

「ふむ……美味しいわね」

「そうでしょう? 函館に来たら、ここのハンバーガーは絶対に食べないとね~」

 ドトウの感想に舞は満足気に頷く。今、彼女たちは赤レンガ倉庫通りの近くにある海沿いのファストフード店にいる。

「すっかり函館観光になっているな……」

 ジンライが海を見ながら呟く。舞がドトウに尋ねる。

「次はどこに行きたい?」

「あそこは?」

 ドトウはある島を指差す。舞が答える。

「あ、あれは『緑の島』よ」

「さっきロープウェイで函館山に登って、山の上から見ていたときから気になっていたけど、随分とこう……四角い島よね」

「まあ、埋め立てて造った人工の島だからね。イベントとかがよく行われるわ」

「なにか準備しているみたいだけど、どんなイベントが行われるの?」

「え? あ、本当だ、なにか準備しているわね……なにをやるのかしら?」

「私たち、PACATFの公演があるのよ」

「ええっ⁉」

 ドトウが驚く。赤を基調とした派手な燕尾服を着た小柄な女性と身長2メートル以上ありそうな熊の顔をした男が隣の座席に座ったからである。舞が落ち着いて会釈する。

「団長、お久しぶりです」

「お久しぶり、疾風博士はお元気かしら?」

「ええ、ぼちぼちやっています」

「え、えっと……」

「ああ、こちらはドトウ、ジンライの妹です」

「へえ、妹さん……初めまして、PACATFの団長、坂田さかたあずです」

「い、いや、く、熊! ケモノ⁉」

 ドトウが椅子からずれ落ちそうになりつつ、杏美の向かいに座る熊を指差す。

「ああ、ほら、アンタも挨拶なさい……」

「こ、こんにちは……」

「え、ひ、人なの……?」

「少し落ち着いて観察しろ。手足や衣服は人間のそれだろう……」

 ジンライがため息交じりに呟く。

「あ、ああ……」

「ちゃんと名前も名乗りなさいよ」

「あ、鮭延川光八さけのべかわみつはちです……」

「ごめんね、シャイな性格だから、ずっと熊のマスクを被ってんの、試合でもないのに」

「試合?」

 ドトウが首を傾げる。

「あら、知らなかった? うちは世界でも稀に見るプロレス団体兼サーカス団よ」

「プ、プロレス兼サーカス⁉ 銀河でも稀に見るわよ……」

 杏美の言葉にドトウが呆然とする。光八と名乗った男を指し示し、ジンライが説明する。

「この男はレスラーで、この奇抜な恰好はリングコスチュームというわけだ」

「あ、は、はい、そうです。リングネーム『ベアーマン』です、そのまんまですが」

「す、すみません……とんだ失礼を……」

 ドトウが体勢を直して、光八に頭を下げる。

「いいえ、気にしないで下さい。慣れていますから」

 光八はリアル過ぎる熊のマスクからは想像も出来ない程の柔和な声色でドトウに答える。

「……見たところ、サーカスのテントの他にステージも作っているようだが?」

「ああ、バンドによる音楽イベントも開催されるのよ」

 ジンライの問いに杏美が答える。

「バンド? 要はサーカス団の前座か……」

「前座とは随分とご挨拶ね!」

 ボサッとした茶髪でライダースジャケットにジーンズ姿の女性がジンライに話しかけてくる。ジンライが目を細める。

「お前は……」

「久しぶりね! 茶畑ちゃばたけうたい、襟裳が生んだスーパースターよ!」

「スーパースター?」

「あくまでも自称だ」

「ああ、ちょっと痛い人ね……」

 ジンライの言葉にドトウが頷く。唱がムッとする。

「失礼な! アタシたちはこれから伝説になるんだから!」

「アタシたち?」

「そういえば、お仲間はどうした?」

「……それなんだけど……皆遅れているみたいね。おかしいわね、この店で待ち合わせって言ってたのに……」

「~~とっくに着いていますわよ! 貴女が例の如く大遅刻をかましているんですの!」

 ジンライたちの隣のテーブルに座っていた、やや薄紫色で、ふわっとしたウェーブがかった長い髪をなびかせた女性がガバッと立ち上がり、唱を睨み付ける。

「ああ、たのちん、おっつ~♪」

「おっつ~♪ではなくて、先に言うことがあるのではなくて⁉」

「そうだ! 今日のイベントは絶対成功させようね! このステージがアタシたちの伝説の1ページになるんだから!」

 唱は女性の手を握り、顔をググッと近づける。

「ち、近い! 暑苦しい! だからそういう意気込みの話ではなくて!」

「あ、この子はすずむらさきたのしちゃん!」

「ちょ、ちょっと! あ、ど、どうも、初めまして……」

 楽と紹介された女性は姿勢を正し、ドトウに対して丁寧に頭を下げる。その仕草から育ちの良さが窺える。服装も白いシャツに寒色系のワンピースと清楚な恰好であり、ライダースを羽織った唱とは実に対照的である。タイプこそ異なるが、美人という点は共通している。

「初めまして……」

「わたくしたちはリハーサルをしましたが、唱さん、貴女は大丈夫なのですか?」

「大丈夫、未来のスーパースターは本番一発でしっかりこなしてみせるから!」

 唱は右手の親指をグイッと立てて頷く。楽はため息をこぼす。

「不安要素しかありませんわ……そもそも唱さん? 何度も同じようなことを言っていますが、真のプロフェッショナルというのは準備段階から……」

「たのちん、悪いけど、今のアタシ、テンションがガンガンにブチ上がってきているから、お説教されても、『カシオペアに隕石』よ!」

「は、はあ⁉ な、何をおっしゃっておりますの⁉」

「だからそれを言うなら、『馬の耳に念仏』……」

 楽の席に自分の注文した商品トレーを持ってきた薄緑色のロングヘアーで眼鏡を掛けた長身女性が訂正を入れる。

「おっ、かなたんも来てたんだね~♪ 今日のイベント、未来にまで長く語り継がれるものにしようね!」

「単なるローカルイベントに大袈裟な……鬱陶しい……っと!」

 唱は女性の肩をグイッと引き寄せ、ドトウに紹介する。

「この子は新緑奏しんりょくかなでちゃん!」

「ど、どうも……」

 奏と呼ばれた女性は端正な顔をしかめながら、ドトウに頭を下げる。服装はカーディガンにチェックのロングスカートと落ち着いた格好であり、ライダースを羽織った唱とはこれまた対照的である。ルックスが良いのは共通している。ドトウが会釈する。

「どうも、初めまして……」

「かなたん、どう? 緊張してない?」

「全然してない……食事に集中したいから少し静かにして」

「流石♪ 頼もしい限りだね!」

「おっ! やっと来たか~唱!」

 お手洗いから出てきたと思われる女性が唱に声をかける。やや小柄な体格で髪の毛がオレンジ色で、ストレートヘアーである。ルックスは整っているが、ファッションはダボッとしたシャツに膝丈ほどのガウチョパンツを着ている。これまたやはり唱とは対照的である。

「おおっ! ひびぽん! 今日のイベントはガンガンド派手に! バババーンと大爆発しちゃうくらいの勢いで行こう!」

「はははっ! なんともまた騒々しいな~」

「この子はとうひびきちゃん!」

「おおっ? なんだか分からんけど、よろしく~」

 響と呼ばれた女性は気さくにドトウに挨拶する。

「ど、どうも……」

「この四人で今日、新しい伝説を作るから! 前座だとは言わせないわよ!」

「伝説とはこれまた大きく出ましたね。満足にリハーサルもしていないのに」

 ドトウが少し意地悪に答える。

「大丈夫よ、アタシたちは厚い信頼関係で結ばれているから!」

「暑苦しい、鬱陶しい、騒々しいと散々な言われようだった気がするのですが……」

「とにかくしっかり見てなさい! えっと……そう言えば名前は?」

「ドトウです。こちらのジンライの妹です……」

「え⁉ 妹さん⁉」

「ええ」

「じゃあ、尚更イベントを見ていってちょうだい! きっと思い出に残るはずだから!」

「はあ……」

 約一時間後、ドトウたちは緑の島に移動する。司会が告げる。

「それでは皆様、お待ちかね! 襟裳発の四人組ガールズバンド……『カラーズ・カルテット』によるライブの始まりです!」

「わあああっ‼」

 お揃いのステージ衣装に身を包んだ唱たち四人がステージ上に出てくると、詰めかけた観客から大きな声援が巻き起こる。四人が所定の位置に着く。ドラムを担当する響がスティックを鳴らしてカウントをとる。

「ワン……トゥー……ワン、トゥー、スリー、フォー!」

 演奏が始まる。観客は早くも興奮のるつぼである。

「……あのボーカル、唱さんだっけ? ……下手ね」

 ドトウは素直な感想を述べる。舞が苦笑する。

「そ、そうね……」

「だけど、不思議とどこか惹きつけられるものがあるわね……他の三人の演奏もなかなかのものだし。でも、ボーカルも決して負けていない。むしろグイグイと引っ張っていっている感じ。それにしてもギターの彼女……楽さん? ステージングに気品を感じるわね」

「あ、分かる? 東京の伝統芸能の家の出身でモデルや女優などで活躍していた人よ」

「へえ……ベースの彼女は……奏さん? 指遣いが緻密ね」

「仙台生まれで『杜の都の天才文学少女』として騒がれた人よ」

「天才文学少女?」

「そう、『小説家と化そう』という小説投稿サイトで注目を集めたの。『転職したらレスラーだった件』、通称『転スラ』が代表作よ」

「ど、どんな小説よ……ドラムの彼女は……響さん? 芸術的なドラミングね」

「静岡の沼津出身で、『さすらいの画家』として有名。代表作は『東京メトロ百八十駅』よ」

「有名な子たちが無名な子とバンドを組んでいるというのはなかなか興味深いわね……」

「きゃああああ⁉」

 ライブも佳境に迫ったころ、女性客の悲鳴が響く。演奏が止まる。客席に白いタイツに全身を包んだ、怪しげな集団が乱入してくる。リーダー格らしき男が叫ぶ。

「罪深き人類どもめ、我々ソウダイが鉄槌を下してくれる!」

「な、何⁉ あいつらは⁉」

「皆、逃げて! ……三人とも行くわよ!」

 唱がステージ上から客に退避を呼びかけ、四人が横一列に並ぶ。ドトウが戸惑う。

「な、何をするつもり……⁉」

「カラーズ・カルテット、出動よ! レッツ!」

「「「「カラーリング!」」」」

 ステージ上の四人が眩い光に包まれていくのをドトウは驚きの表情で見つめる。

「!」

 ステージ上に色とりどりの特殊なスーツに身を包んだ四人が立っていた。

「勝利の凱歌を轟かす! シャウトブラウン!」

「栄光の姿を世に示す! メロディーパープル!」

「輝く未来を書き記す! リズムグリーン!」

「蔓延る悪を叩き伏す! ビートオレンジ!」

「四人揃って!」

「「「「カラーズ・カルテット」」」」

 四人が名乗りと共にポーズを決めると、その後方が爆発する。ドトウが驚く。

「ば、爆発した⁉」

「あ、大丈夫よ、安全面にはきちんと配慮はしているから」

 ブラウンがポーズを取りながら横目で答える。

「は、配慮しているの……結構な爆発だったけど……」

「それよりも唱さん……いえ、ブラウン!」

「なによ、たのちん……じゃなかった、パープル?」

「相変わらず立ち位置がおかしいですわ! 真ん中に寄りすぎではありませんか⁉」

「え? いや、一応、アタシがリーダーなんだから、中央に立った方が良いでしょ?」

「だ、だから! い、いつ、貴女がリーダーになったのですか⁉」

「パープル、それは今いいから……結局何が言いたいの?」

「あ、し、失礼しましたわ! 奏さん……ではなくて、グリーン! えっと……わたくしが言いたいのは、四人なのだから、もっとバランスの取れた並び方をするべきだということですわ! これだと全体的に右寄りですわ!」

「ちょっと左側に余裕を持たせた方が良いかなって気がして……」

「だからなんの余裕ですか⁉」

「まあ、その話は後で良くないかな?」

「オレンジの言う通り、この体勢を維持しているのはなかなか辛いものがある……」

 グリーンが体をプルプルとさせながら呟く。

「よし! 皆行くわよ! ソウダイの連中を倒すのよ!」

「承知しましたわ!」

「さっさと終わらせよう……」

「おおおっ!」

 四人がステージから勢いよく飛び降り、白タイツの集団に突っ込む。

「せい!」

 ブラウンが相手を蹴り飛ばす。ドトウがそれを見て呟く。

「ふむ、歌唱力はひとまずおいといて、戦闘力は水準以上ね……」

「お退きなさい、三下!」

 パープルが相手に向かって、弓矢を数本同時に放つ。そして、それを連射する。

「弓矢の斉射を連続で行うとは……あれでは相手は容易に近づけないわね」

「こんちくしょう! なんだ、タココラッ!」

 グリーンがラリアットとエルボーで次々と相手を薙ぎ倒す。

「ま、まさかのパワースタイルね……まるで人が変わったみたい」

「ほいっと! ほいっと!」

 オレンジが二本のスティックを器用に使いこなし、相手を叩きのめす。

「こちらも近距離戦タイプね」

 ドトウが眺めている内に、白タイツ集団はほとんど倒されてしまった。

「くっ、まだまだ!」

「吹けよ、疾風! 轟け、迅雷! 疾風迅雷参上! 貴様らの邪な野望は俺様が打ち砕く‼」

「⁉ 疾風迅雷まで来たのか!」

「『迅雷モード』! そらあっ!」

「ぐわっ!」

「ふむ……あれはパワー特化モードってことね」

 疾風迅雷の戦いぶりにドトウが腕を組んで頷く。

「くっ、て、撤退だ!」

「あ、逃げた……幹部連中、今日は来なかったのね……ん⁉」

 海から巨大なロブスターのような怪獣が現れる。舞が叫ぶ。

「怪獣よ!」

「か、怪獣⁉」

「ここは私たちに任せて!」

 テントから戦闘機が飛び出して、怪獣に向かってミサイル攻撃を行う。

「あの声は……もしかしてさっきの女団長?」

「ええ、プロレスとサーカスは世を忍ぶ仮の姿よ」

 首を傾げるドトウに舞が答える。ドトウが頷く。

「……成程、『プロレス&サーカスは仮の姿』=『Professional wrestling And Circus Are Temporary Figure』……その頭文字を取ってPACATFというわけね……」

「きょ、兄妹揃って、並外れた理解力ね⁉」

「当然、だってアタシよ?」

 ドトウが舞に向かってどうだとばかりに胸を張る。

「べべベアー‼」

「⁉」

 そこに巨大な熊の顔をした巨人が現れ、怪獣と戦闘機の間に割って入る。

「あ、あれはもしかして……」

「もしかしなくてもそうよ……」

「そ、そうよね……」

「いつもここぞというときに助けにきてくれる謎の熊マスク巨人!」

「ええっ⁉」

 戦闘機から聞こえてくる杏美の言葉にドトウは驚く。

「フン!」

「強烈なドロップキック! これは決まった! ありがとう、『ベアーマスク』!」

 ベアーマスクのキックを喰らったロブスター怪獣は動かなくなる。

「倒した……凄いパワーね」

「ベアーマスク、カラーズカルテット……彼らもまた、北海道の頼れる地元ヒーローよ」

「色々と突っ込みどころがあるけど……まあ、気にしたら負けみたいね」

 舞の言葉にドトウはとりあえず頷いておく。

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