超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第14話(4)疾風怒涛、参上

公開日時: 2022年12月25日(日) 00:29
文字数:5,972

「なんだかんだでプロレスとやらも見てしまったわね……」

「どうだったかしら?」

「あの奏さん? 彼女が乱入したところの盛り上がりぶりがヤバかったわね」

「プロレス好きが高じてつい乱入しちゃったみたいね……気鋭の女性作家が、あんな見事な見事なバックドロップを決めたら、それは会場もヒートアップするわよね……」

 ドトウと会話しながら舞が思い出したように笑う。二人に挟まれたジンライが口を開く。

「……終わったことはいい! まだ着かないのか! 運転手! スピードを上げろ!」

「市電に無茶を言わないの……」

 舞が呆れる。ドトウが首を傾げる。

「お兄ちゃん、なにをそんなにイライラしているのよ?」

「イベントが始まってしまっているではないか!」

「イベント?」

「ああ、今日函館駅前で、大ヒットを連発している漫画ユニット、『シーズンズ』のトークショー&ライブドローイングが行われる。ファンとしては絶対に見逃せないイベントだ!」

「ま、漫画?」

「そうか、漫画を知らんか……」

「いや、この星で人気のある娯楽でしょう?」

「そうだ、シーズンズはその漫画の製作者だ」

「ある程度はリサーチしたつもりだけど、そういう名前は聞いたことがないのだけど……」

「人気少女漫画家だぞ?」

「しょ、少女漫画⁉ お兄ちゃん、少女漫画読むの?」

「なにか問題があるか?」

「い、いや……」

「……あ、これね、配信もやっているみたいよ」

 困惑するドトウの横で、舞が端末を確認する。

「なに! ……お、これか!」

「どれどれ……」

 ドトウがジンライのタブレットを覗き込む。司会者の男性が話し始める。

「それではトークショーを始めさせて頂きます……シーズンズの皆さんです!」

「きゃあああー!」

 女性客から黄色い歓声が上がる。四人の端正なルックスの男性が画面に映る。それを見てドトウが困惑する。

「よ、四人組なのね……」

「連載を複数抱えているからな、一人二人ではなかなか大変なのだろう」

「そ、そうなんだ……」

 ジンライの説明にドトウが頷く。四人組が自己紹介を始める。

桜花おうか青春せいしゅんです! よろしく!」

 すらっとしたスタイルで、短い青髪の男性が挨拶する。

「その名の通り、青春を題材にした作品が多い。読者の間では『エモい』担当とされている。学園ものやスポーツものが多い、『苦虫マダム』とかな」

「どんなスポーツものよ……マダムとエモさはまず結びつかないでしょ……」

疾風はやてしゅです……よろしくお願いします……」

 四人組の中では小柄な、少年と言ってもいいルックスの朱髪の男性が挨拶する。

「恋愛や日常ものが多い。担当は『尊い』だな」

「疾風ってまさか……?」

「ええ、はとこよ、ほとんど会ったことはないけど、漫画家になっていたとはね」

 ドトウの問いに舞が頷く。ジンライが説明を続ける。

「代表作は『手洗いミューズの赤木さん』だ」

「どんな恋愛ものよ……」

げつはくしゅうだ。よろしく頼む……」

 やや斜に構えた態度の白髪の男性が挨拶する。

「バトルや歴史ものを多く手掛けている。『エグい』担当だ」

「エグい担当?」

「主に戦闘描写がな。それが良いという読者もいる。『文具のり』が代表作だ」

「文具でどうやってエグさを表現するのよ……」

吹雪ふぶきげんとう……よろしく……」

 四人の中では一番筋肉質で、黒髪の男性が挨拶する。

「『チルい』担当だな。その見た目に反してエッセイ風やほのぼのギャグ作品が多い」

「チルいってなに?」

「落ち着くような作風ということだ。『今朝、なに食べたっけ?』とかな」

「一体どんな漫画よ……っていうか、さっきから一つも知らない漫画ばかりなんだけど」

 首を傾げるドトウをよそに、司会者が話し始める。

「……皆様にご挨拶頂きました。それではトークショーの方を始めさせて頂きます……」

「きゃあー⁉」

 女性の悲鳴が響く。舞が驚く。

「な、なに⁉」

 画面には全身タイツの集団が現れる。観客が散り散りになる。ドトウが指を差す。

「こいつら、レポルーとかいう連中じゃない⁉」

「函館駅前にもNSPの石を用いたモニュメントがある。それを狙っているのだろう」

 ジンライが冷静に呟く。ドトウが問う。

「だ、大丈夫なの⁉」

「まあ、見ていろ……」

「行きますよ!」

「なっ⁉」

 朱髪の男性の掛け声でシーズンズの四人が前に進み出るのを見てドトウは驚く。

「「「「連載開始!」」」」

 四人が光に包まれ、一人の姿になる。青と朱と白と黒の四色が混ざり合ったカラーリングのパワードスーツを身に纏っている。

「「「「風花ふうかせつげつ、見参!」」」」

「ヒ、ヒーローだったのね……四人の身体が一つになったわ」

「ひ、怯むな! かかれ!」

 レポルーの戦闘員たちが風花雪月に飛びかかろうとする。

「ページチェンジ!」

 風花雪月が青色一色になる。戦闘員たちが驚く。

「スーツの色が変わった⁉」

「へへっ! エモい攻撃を見せてやる!」

 風花雪月は短い棒のようなものを手に構える。

「ば、馬鹿め! そのようなもので戦えるか!」

「『集中線』!」

「⁉」

 風花雪月を中心にして、周囲に無数の線状の帯が放たれ、群がった者たちは倒れ込む。

「なっ⁉ レ、レーザー光線か⁉」

「違うな、これは効果線の一種だぜ」

「効果線だと? そ、その短剣から発したのか?」

「短剣? いいや、これは丸ペンだ! 『ペンは剣よりも強し』っていうだろう!」

「わ、訳の分からんことを! おい!」

 戦闘員の一人が銃を発射しようとする。

「花さん! 僕が行きます!」

「任せたぜ! 風! 『ページチェンジ』!」

 風花雪月が今度は朱色一色になる。

「尊い気分にさせてあげます! 『トーン:柄』!」

「なっ⁉」

 銃を構えた戦闘員の周りにキラキラとした球体がいくつも浮かび上がる。

「どうです⁉」

「こ、心が不思議な高揚感に包まれる……戦いなんて愚かな行為だ……」

 戦闘員が胸を抑え、銃を投げ捨てる。風花雪月が笑う。

「どうやらここまでのようですね」

「い、いや! まだだ! おかしな能力を使いやがって!」

 戦闘員のリーダー格が首を激しく左右に振って、風花雪月に殴りかかろうとする。

「ふむ……リーダー格だけあって、なかなかの精神力ですね」

「風、自分に変わってくれ」

「雪さん! お願いします! 『ページチェンジ』!」

 風花雪月が黒色一色の姿になる。

「これがチルい攻撃かどうか自分でも分からんが……『吹き出し:モノローグ』!」

「どあっ⁉」

 風花雪月のペンから白い雲のような煙が吹き出る。飛び掛かろうとした戦闘員は押し出されるように吹き飛ばされる。

「大声を出すのは苦手だ。周囲への迷惑も考えて、叫び声の吹き出しは極力使いたくない」

「ま、またしても妙な能力を!」

「いい加減しぶといな……雪、それがしに変われ」

「月か、任せた。『ページチェンジ』!」

 風花雪月が白色一色に染まり、ペンを掲げる。

「エグい攻撃を見せてやる……『効果音』……」

「⁉」

「『グキ』……」

「! がはっ……」

 鈍い音と同時に戦闘員が力なく倒れ込み、動かなくなる。

「ふん……」

「あ、ああ……」「うわあ、ちょっと引くわ……」「奴らの目的を聞きそびれた……」

「さ、三人で一斉にしゃべるな! お主らのやり方が生ぬるいからだ!」

「レポルーの戦闘員クラスではまるで相手にならんな」

 タブレットを眺めていたジンライが淡々と呟く。ドトウが尋ねる。

「これは……四人の人格が共存しているの?」

「そうだ、流石に察しが良いな」

「それで多彩な攻撃が可能ってわけね」

「……しばらく時間を置いて、イベントが再開されるだろう。間に合うな」

「いや、普通はイベント中止じゃない?」

 舞がもっともなことを言う。ジンライが困惑する。

「ちゅ、中止するというなら、主催者に抗議するぞ……ん?」

「……私の勘が正しければ、この函館の地にヒントがあるわ!」

「勘ですか……」

 ジンライたちとは少し離れた席に、ショートボブの髪に赤色のカチューシャを付け、黒のトップスに赤いフレアスカート、黒いストッキングを穿いている長身でスレンダーな身体つきの女性とグレーのタートルネックにデニムのGジャンを羽織り、黒のロングスカートを着た、艶のある黒髪ストレートロングの髪型の女性が並んで座っている。ドトウが呆れる。

「なによ、美人に鼻の下を長くして……」

「い、いや、違う、知り合いだ。貴様ら、何故ここにいる?」

「あら? 迅雷くんと舞さん?」

「……奇遇ですね」

「……そちらの可愛い子は?」

「こちらはドトウ、ジンライの妹です」

「へえ、妹さん……」

「……どなた?」

「これは失礼。私、こういうものよ」

 女性が名刺を差し出してきたので、ドトウが受け取る。

「えっと凸凹でこぼこ探偵事務所……代表……平……?」

たいら凸凹あいよ。皆デコボコっていうから、それで呼んでもらっても構わないわ」

「はあ……」

「私は菱形ひしがた十六夜いざよいと言います……」

「どうも……」

「二人ともなんで函館に?」

「……私が仲間を探しているのはご存知ですよね?」

「ええ、同じ映像クリエイター集団の……」

 十六夜の言葉に舞が頷く。十六夜は隣のデコボコを指し示す。

「大学が一緒だったという縁もあり、デコボコさんに捜索を依頼したところ、函館が怪しいのではないかという話になりまして……」

「そうよ。『北日本の名探偵』と呼ばれている私の推理に間違いはないわ」

「さっき、勘とかなんとか言っていただろう……」

 胸を張るデコボコを見て、ジンライがため息をつく。十六夜が苦笑する。

「まあ、ご先祖様のお参りも出来たので良かったのですが……」

「これからどうされるんですか?」

「函館駅前のホテルに泊まります」

「……そういえば、いつになったら函館駅に着くのだ?」

「そろそろ着いても良い頃だけど……ええっ⁉」

 舞が窓の外を見て驚く。ジンライが尋ねる。

「ど、どうした⁉」

「なにかおかしいと思ったら、この電車、反対方向に進んでいるわ!」

「な、なんだと⁉ おい、運転手!」

「……皆さんを海の底へとご案内します」

 運転席から魚の顔をした人間が振り返る。舞が驚く。

「は、半魚人⁉」

「海の底って⁉」

「このままのスピードだと、線路を脱線して、海へと落ちる……!」

 ドトウの問いにジンライが答える。ドトウが慌てる。

「ど、どうにかしないと⁉」

「この電車を止める!」

「どうやって⁉」

「私に任せなさい! 『凸凹護身術』!」

 デコボコが床を叩くと、周囲一帯の地面が隆起したり、沈下したりした。

「じ、地面が凸凹に⁉」

「これでスピードが緩むはず……えっ⁉」

 デコボコは目を疑う。電車が地面の凸凹に対しても、全く速度を緩めなかったからである。半魚人が再び振り返って笑う。

「この乗り物自体が生き物と化しています。多少の地形変化も関係ありません」

「そ、そんな⁉」

「ここは私が……」

「なっ⁉ 十六夜ちゃん⁉」

 十六夜が腰に掛けていた鞘から刀を取り出す。

「『爆ぜろ剣』‼」

 十六夜が浅葱色のだんだら模様のドレス姿に変わる。それを見た半魚人が驚く。

「き、貴様は⁉」

魔法少女新誠組しんせいぐみ副長、菱形十六夜、参る!」

「くっ! 疾風舞が狙いだったが、まさか『ビルキラ』が同乗していたとは!」

「はっ!」

「ぐはっ!」

 十六夜が素早く半魚人の首を刎ねる。ドトウが困惑する。

「ど、どういうこと?」

「私のことを知っていたということは、あの半魚人は魔界『ツマクバ』の者でしょう」

「ま、魔界?」

「ええ、私たちはそこで魔法少女ビルキラとして、治安維持活動をしていました」

「へ、へえ、魔法少女……」

「そこで私たちは『邪悪・即座・滅殺』を合言葉に、日夜活動に励んでいました」

「物騒ね!」

「当然です。殺るか殺られるかの世界でしたから……」

「殺伐としている!」

「いやいや、十六夜ちゃん、魔界なんて、そんな非科学的なことあるわけないじゃない~」

 デコボコが笑い飛ばす。ドトウが突っ込む。

「い、いや、貴女のあの能力は何なのよ⁉」

「ドトウ、それはひとまず置いておけ……」

「で、でもお兄ちゃん!」

「この半魚人を始末すれば、この電車の暴走も止まる……そう考えたのだな?」

「ええ……術者を始末するのは基本です」

 ジンライの問いに十六夜が頷く。ジンライが首を傾げる。

「狙いは分かるが……スピードが緩まんな……」

「ま、まだ暴走している⁉ このままじゃ、本当に海に落下しちゃう!」

「落ち着け、舞。まずは貴様の身の安全を確保する」

「ど、どうやって⁉」

「……こうやってだ!」

「きゃあ⁉」

 ジンライが舞を抱きかかえながら、窓を開け、舞を電車の外に投げる。ドトウが驚く。

「な、何を⁉ あっ⁉」

 投げ出された舞の体を、青色と白色を基調とした、独特な文様の衣装を身に纏った、やや長い髪を後ろに一つにしばっている小柄な少年が受け止める。少年は超大型犬を一回り大きくしたくらいのリスのような灰色の生き物に跨っている。少年は苦笑する。

「……無茶をしますね、ジンライさん」

「テュロンに乗って並走している貴様のことは確認済だ」

「だ、誰?」

「初めましてドトウさん、凸凹探偵事務所の助手、無二むにマコトです」

「な、なんでアタシの名前を⁉」

「独自の情報網がありまして……」

「こいつのことも今は放っておけ。それよりこの暴走電車だが……おい、迷探偵」

「え、私?」

「他に誰がいる」

「めいのイントネーションが若干引っかかるんだけど……」

「気にするな、それよりも貴様の珍妙な護身術の出番だ」

「珍妙って。どうするの?」

「この電車をとにかく殴りまくれ」

「! 分かったわ! うおおっ!」

「⁉」

 電車が急停止し、立ち上がったような姿勢になる。十六夜が頷く。

「なるほど……電車自体が生き物と化していると言っていましたね」

「そう。つまり腹の中を叩かれている状態というわけだ……」

「‼」

「むっ⁉」

 電車が空中に飛び上がる。舞が唖然とする。

「で、電車が飛んで行った……」

「函館駅の方ですね、追いかけましょう!」

 マコトがテュロンを別の方角に向けて走らせる。

「……どわっ⁉」

 電車が函館駅前に落下し、ジンライたちが外に投げ出される。風花雪月が驚く。

「な、なんですか⁉」「で、電車か?」「いや、あれはまるで竜だな……」「化け物か」

「くっ……電車自体を破壊しなければならないか……」

「行けますか?」

「今日はもう二回も変身した。正直エネルギー不足だ……」

 十六夜の問いにジンライが苦々しい表情で答える。

「……ここはアタシに任せて」

「ドトウ⁉」

「吹けよ、疾風! 迫れ、怒涛! 疾風怒涛しっぷうどとう、参上! 邪な野望はアタシがぶっ壊す‼」

 真っ赤なスーツに身を包み、真っ赤なマスクを被ったドトウを見て、ジンライが驚く。

「そ、そのスーツは……?」

「細かいことは気にしない、気にしない、はああっ!」

 疾風怒涛の強烈な一撃で化け物と化した電車は粉々に打ち砕かれる。

「あ、あのパワードスーツは……?」

 駅前にたどり着いた舞が疾風怒涛を見て困惑する。

「様々な勢力が入り乱れているということは昨日今日でよく分かったわ。MSP、本気を出して獲りに行かないといけないわね……」

 ドトウが淡々と呟く。

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