超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ
阿弥陀乃トンマージ

第5話(4)五色の力

公開日時: 2022年2月17日(木) 04:53
文字数:3,831

「ぐっ……なんという大声だ……」

「三半規管に異常をきたしているのか? 足元がおぼつかねえ……」

「あのような攻撃方法を持っていようとは……」

 ポイズとキントキも苦い表情を浮かべる。

「方々! 情けないぞ! さっさと体勢を立て直せ!」

 ドランが檄を飛ばす。

「そ、そうは言ってもだな!」

「虫人には三半規管が無いのか、スーパー頼もしいね!」

「申し訳ないが何とか時間を稼いでもらいたい!」

「心得た! ん⁉」

 ドランの目の前に疾風迅雷が迫る。

「もらった!」

「スピードはなかなかだが、パワーでワシを制することが出来るつもりか⁉」

「こういうことが出来る! ジャイアントフォーム! ライトハンドリミテッド!」

「なっ⁉」

 疾風迅雷は右腕部分だけを巨大化させて、大きな握り拳をつくり、ドランに向かって思い切り叩き付ける。ドランは受け止め切れずに地面にめり込む。

「叩き潰したつもりだったが、意外と丈夫だな……」

「……? 続けざまに来ないのか?」

「……」

 ドランの問いに、ジンライは沈黙で答える。ドランは笑って立ち上がる。

「どうやら、連続では出来ないようだな! それならば付け入る隙がある!」

「……ふん!」

「なっ!」

 疾風迅雷が左手部分だけを巨大化させ、デコピンをする要領で迫ってきたドランを迎え撃った。不意を突かれたドランはヤンクたちとぶつかって転がり、一か所に固まる。

「ジンライ! チャンスじゃない!」

「ああ! 分かっている!」

 疾風迅雷が右足部分を大きくし、ひと固まりになって倒れ込んでいるソウダイの幹部を踏み潰そうと足を下ろした瞬間、右足が元の大きさに戻ってしまった。舞が驚く。

「こ、これはどういうこと⁉」

「ジャイアントフォームは一回の変身後は数日間、スランプに陥るそうだ……」

「ええっ⁉」

「……どうやら今日がその日だったようだ」

 疾風迅雷が体勢を崩す。ヤンクが声を上げる。

「へっ、驚かせやがって! それが貴様ら人類の限界だ!」

「あまり粋がらない方が良いわよ! まだアタシたちがいるわ!」

 カラーズ・カルテットが倒れ込むヤンクたちに迫る。

「ちっ!」

「ブラウン! もう一度、さっきの『デスボイス』で動きを止めて下さる⁉ そこをわたくしの弓矢がまとめて射抜きますわ! それで決まりです!」

「デ、デスボイスって! わ、分かった……行くよ!」

 ブラウンがマイクを手に取り、声を発しようとした次の瞬間……。

「くっ、この程度の相手に使うことになるとはな!」

「なっ⁉ き、消えた⁉」

 ヤンクたちの姿が忽然と消えたのである。ブラウンたちは困惑する。

「ど、どういうことですの⁉」

「グリーン、状況を説明出来る?」

「無茶言わないで、オレンジ。『事実は小説より奇なり』ってやつよ……」

「まさか、逃げたとか?」

「可能性はあるね……」

 オレンジとグリーンのやりとりを聞き、ブラウンは天を仰ぐ。

「なによ! 逃げたの? 口ほどにもな……ぶはっ!」

 ブラウンが突如吹き飛んだ。それとほぼ同時に三人も吹っ飛んだ。ジンライが驚く。

「な、なんだ⁉」

「……貴様ら人類の迫害から逃れるために苦心して開発した、ステルス機能だ」

「ス、ステルス機能ですって⁉」

 ヤンクの言葉にブラウンが困惑する。パープルが尋ねる。

「ブラウン、念の為にお尋ねしますけど、ステルスってご存知かしら?」

「台所とかの……」

「それはステンレス!」

 パープルは呆れながら突っ込みを入れる。

「分かんないよ~グリーン、どういうこと⁉」

「……説明がめんどい。要は『透明状態に近い』ってこと」

「と、透明⁉ そ、そんな……どうすれば!」

「ぐはっ!」

「オレンジ!」

「ちぃ……今度は奴らがボクらを追い詰めているってわけだ……」

「そ、そんな……」

 ブラウンたちは見えない敵に包囲され、先程とは逆に一か所に集まってしまう。

「ジ、ジンライ、彼女たちを助けないと! ……って、どうしたのよ、うずくまって⁉ ジャイアントフォームはそんなにエネルギーを消費するの⁉」

「それもあるが、急にデータが転送されてきてな……」

「データが?」

「説明しよう!」

「うわっ! おじいちゃん⁉ どこから喋っているの? ドッポから?」

 舞はドッポを拾い、覗き込む。

「そう、ドッポのマイクをお借りしているよ。ジンライ君、新しいフォームが先程調整完了した。早速で悪いが、試してみてくれないか?」

「例の如く、テスト兼実戦か……まあ、やるしかあるまい!」

「話が早くて助かるよ! 選択してくれ! 意志表示だけで良い!」

「!」

 疾風迅雷の体が光る。舞やブラウンたちが驚く。

「な、なんだ⁉」

 そこにはパワードスーツの色が赤・青・黄・緑・桃の五色に変化した疾風迅雷がいた。

「こ、これは……」

「それは疾風迅雷の数あるフォームの一つ、『カラフルフォーム』だ!」

「カラフルフォームだと?」

「ああ、五色の中からどれか一つの色を選ぶことで、人間の持つ五感の内の一つを最大限に引き出すことが出来るフォームなんだ!」

「ふむ……」

「物は試しだ! まずは黄色を選択してくれ!」

「ああ、『イエロー』モード!」

 疾風迅雷のパワードスーツの色がより濃い黄色になる。

「これは『味覚』を最大限に引き出すのだよ!」

「味覚……そうか!」

「ジ、ジンライ⁉」

 疾風迅雷はカラーズ・カルテットがステルス機能を使ったヤンクたちに包囲されているであろう地点に近づき、地面に這いつくばると、おもむろに地面を舐めはじめる。ブラウンはその姿に露骨に困惑する。

「ア、アンタ、何をやってんの⁉」

「奴らがどの辺りを移動しているか、味を調べることでつかめるはずだ……って! そもそも奴らの味を知らんぞ!」

「うん! この場合。黄色は必要なかったね!」

「じゃあ使わせるな! 『銀河一のヴィラン』が地べたを這いずりまわるなど……」

「ただ、今ので要領は分かったはずだよ!」

「ふん……! 『レッド』モード!」

 疾風迅雷のパワードスーツが今度は赤一色になる。舞が呟く。

「赤色……」

「潮の匂いがするな……オレンジ! 貴様を狙っているそ!」

「おっと!」

「な、何⁉」

 オレンジは自らに噛み付こうとしたキントキの口の中にスティックを突っ込む。キントキは口を閉じることが出来ない。

「それっ! 『スマッシュビート』!」

「ぐはっ!」

 オレンジによって、思い切り横っ面を殴られたキントキは倒れ込む。

「レッドは嗅覚か……『ピンク』モード!」

 疾風迅雷のスーツ色が今度はピンクになる。

「ピンク一色……意外と似合うかも……」

「先程交戦した感触と同じ感触を空気の振動から感じる……グリーン!」

「はっ!」

「くっ! どわっ!」

 グリーンはドランの触角の部分を両手で掴んで持ち上げる。自らの後方に倒れ込むようにして地面に叩き付ける。

「『フィッシャーマンズ・スープレックス』!」

「ぐおっ! ……ま、まさか、ワシがパワー負けするとは……」

 ドランはぐったりとしてしまう。

「ピンクは触覚……『グリーン』モード!」

 疾風迅雷の体の色が濃い緑になる。

「リズムグリーンさんより濃い緑ね」

「……これは翼の羽音! パープル! 10時の方向だ!」

「了解しましたわ!『花蝶扇射』‼」

「がっ⁉」

 扇状に放たれた弓矢がポイズの体を数か所、正確に射抜いてみせた。

「ちっ、音までは消せねえよ……」

 ポイズは力なく地面に落下する。

「グリーンは聴覚が研ぎ澄まされるのか……『ブルー』モード!」

 疾風迅雷が青一色になる。

「クールで良い感じね」

「……貴様の講評はなんなのだ? まあいい、残った五感は視覚! ……見えたぞ、ステルスも完璧ではないようだ! ブラウン、3時の方向だ!」

「え⁉ おやつの時間が何よ⁉」

 ブラウンは戸惑う。ジンライは即座に言い直す。

「……右真横に迫っているぞ!」

「最初からそう言ってよ! おりゃ!」

「ぐはっ……」

 ブラウンの放ったアッパーカットがヤンクの顎を捉えた。ヤンクは大の字に倒れ込む。

「や、やった!」

「まだだ!」

「⁉」

 リーダー格の男を中心にソルジャーたちがいつの間にか両手に爆弾をそれぞれ抱えていた。嫌な予感がしたブラウンは慌てる。

「ちょ、ちょっと、アンタたちの幹部もここにいるのよ⁉」

「なにかあった場合は投げ込めとの指令だ、投げろ!」

「おおっ⁉」

「うわっ⁉ ホントに投げてきた⁉」

「ジンライ君、カラフルフォーム専用ウェポンだ!」

「何⁉ ドッポ⁉」

 疾風迅雷の手元に飛んできたドッポがバズーカ砲の形に変化した。

「これでビームを発することが出来る!」

「相変わらずサイズ感を無視した変形を……」

「カラフルフォームのモードに合わせて、発射するビームは異なるよ!」

「ならばイエローで撃ってみる……発射! ⁉」

 放たれたビームは雷撃の属性を持っていて、爆弾を全て空中で霧消させた。

「ちっ! ここは撤退だ!」

「雷撃ビームは本人だけじゃなく、周囲一帯も痺れさせてしまうのが難点だね……」

「か、改良の余地ありだな……しまった、幹部連中まで逃してしまった……」

「と、とりあえず勝ったから良しとしましょう……」

 舞の言葉にジンライは痺れながら頷いた。

「……もう少しゆっくりして行けばいいのに」

 激闘の翌日、ジンライたちは出発しようとしていた。

「この地の脅威はひとまず去った。次の街に急がなければならない」

「そう……どう? あらためて襟裳の街は?」

「何もないというのは訂正しよう、貴様らがいるからな……」

「何もなかったはずのアタシたちの心にもビビビッと愛の稲妻が走ったよ……」

「ん? よく分からんが縁があったらまた会おう」

 走り去るジンライたちを見て、唱が三人に尋ねる。

「次のライブは函館で良いわよね?」

 三人は黙って頷いた。

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