高貴が服を着ている。高尚が歩いている。気品が声を発している。
これが帝野桔梗(みかどのききょう)に対する第一印象だった。
ごく普通の家庭に生まれた俺なんかとは違う。平民なんかとは違う。
本物の貴族様。本物のお嬢様だ。
絹のようにたおやかで、艶のある少し長めの黒髪。精巧に作られた人形のように整った全身のパーツ。一切着崩すことなく、校則通りに着こなされた制服。育ちが良いことを思わせる挙動。
どこを切り取っても彼女は優雅なお嬢様であった。
俺が帝野に目を奪われていると、唐突にぱちと目が合った。
帝野はわずかな時間、口を小さく開けていた。
そして口を真一文字に結ぶと、ギラギラとした目つきで俺を射抜いた。
「あなた、不快だわ。平民の分際で……ワタクシを見つめて良いと思っているのかしら? どうせ両親もロクな人間ではないのでしょう? 不快だわ。今すぐワタクシの前から消えなさいな」
決して裕福ではない俺の家庭。稼ぎが多くない両親。何かに秀でているわけでもない自分。それでも俺は幸せだったのだ。
しかし原因は不明だが、帝野は俺の家族を侮辱してきた。
彼女に目を奪われていたことなど関係ない。
気がついた時には、俺は帝野に殴りかかっていた。
これが俺たちの出会いだった。
特筆することもない俺、平野山茶花(ひらのさざんか)と、入学初日に男子と殴り合いの喧嘩をして学校中の有名人となったダイナミックお嬢様、帝野桔梗の。
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