みんなあなたのインスタ見てるよ

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公開日時: 2021年9月23日(木) 22:50
文字数:880

そうして迎えた当日、遠藤さんはあるものを目撃する。


飯島さんによる全部屋・全収納・全壁紙・全食器の解説を聞き終え、満身創痍でソファに腰掛けた遠藤さんは、「あっ。ちょっといい?」慌てながらリビングの写真を撮る飯島さんの姿を眺めていた。

「窓から入る光の加減がちょうどいい」飯島さんのそんな言い訳なのか説明なのかわからない言葉を聞き流していると、ウキウキした表情の飯島さんが隣に座った。


「ほらこれ、記録として載せてるの」


そうして見せられたのが例のインスタアカウントだった。

飯島さんがスマホの画面を遠藤さんに見せたのは、ほんの数秒だった。だけどそのわずかな時間で、「iiiiiii」とやたらに「i」が並ぶアカウント名を遠藤さんは完全に記憶、帰宅後、こっそりとインスタをのぞいたのだ。


そしてそのアカウントを、作ったばかりのグループラインにて速やかに我々に報告、今日に至る。


因みに、急繕いで作られた飯島さん抜きのグループラインのグループ名は当初「A」であったが、あまりにも秘密感が強すぎるという理由で、西村さんが「朝を守る五匹のババア」に改名した。改名後、「ごめん、高山さんはまだ若いのに」と謝られた。「全然大丈夫です」と答えた。事実、全然大丈夫だったから。


こうなったのには、複雑に絡まり合うが要因がたっぷり含有されている。


まず、というか語り部は私なので、私が知る限りのことを話そうと思う。

国道沿いに建つ巨大ホームセンターA(仮名。さっきのグループライン名とは関係ないから忘れて!)で私がアルバイトを始めたのは5年前、まだ25歳の頃だった。

当時、新卒で入った某アパレルメーカーでの激務に疲れ果て、ほとんどボロ雑巾みたいになって退職したばかりだった私は、子どもの頃から大好きだった、Aと同じ敷地内にあるペットショップに連日通い詰めていた。


癒しを求めていた。

小さな犬を見ていると、自分が生まれてきた意味、生きていく意味、老後の不安について忘れることができた。来世は富裕層に飼われる小型犬として生まれたい。本気でそう思っていた。そして今でも思っている。我ながらありきたりな願いだ。


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