「見た?」
ニヤリと怪しい笑みを浮かべる西村さんに、
「はい」
私も同じ顔をして答える。
朝の挨拶が、「おはようございます」から「見た?」に取って代わったのは2か月前で、それはちょうど、同僚の飯島さんが新居に越した時期。
飯島さんは40歳のアルバイトスタッフで、2年前にめでたく結婚した。入籍と同時に新居に向けて動き出し、2か月前、これまためでたく立派な一軒家が完成、長年暮らした実家からピカピカのお家に踊るようにして引っ越した。
そして同時に、彼女は新居での暮らしを発信するインスタグラムのアカウントを開設したのだ。
「見た?」という挨拶はそう、だから彼女のインスタの投稿についてである。
最初に飯島さんのアカウントを見つけたのは、パート主婦の遠藤さんだった。
遠藤さんは飯島さんの一番の仲良し。付き合いも最も長い。職場であるこのホームセンターがオープンしたのがちょうど20年前で(20周年記念セールを絶賛開催中)、飯島さんと遠藤さんはオープニングスタッフとして働き始めているから、もう、まんま、付き合いも20年になるわけだ。
遠藤さんは飯島さんの10個年上、50歳。25歳になる娘さんが今年子どもを産んで、おばあちゃんになった。グループラインに大量の写真が送られてきたので、お孫さん及び娘さんの顔は完全に脳みそにインプットされている。
話が逸れたが件のインスタである。
学生を除く朝のメンバーのうち、飯島さんの新居に招かれたのは遠藤さんだけである。
〝その日〟の前日、突然、飯島さんを除いたメンバーのみで構成されるグループラインが作られ、その作成主が遠藤さんだった。そして遠藤さんから一言、「遂に明日、行ってまいります」とのメッセージが送られてきた。
以下全員パート主婦──西村さん(55歳)、佐伯さん(52歳)、瀬戸さん(48歳)──が「いってらっしゃい」的なスタンプを送信、そしてフリーターの私(30歳)もあとに続き、文字のみで「ラジャ」と送った。
4つの既読は光の速度でついていた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!