ネクロウスは語り始める。
「愛しき君が封印されるとき、私は一部始終を解析していました。封印の解除方法こそ掴めませんでしたが、勇者に憑依していた存在を解析することで、魂を支配する方法の片鱗が見えたのです」
「憑依って!?」
「極めて強い力、異様なる情報体…… あれが聖教団の言う聖女神なのかもしれません。いつの日にか愛しき君がお帰りになる時のために、私は勇者への憑依を調べることにしました。そしてあらゆる魂に共通する不具合を発見したのですよ」
「魂に不具合?」
「神話にはかつて星神が魂を創造したと言われています。星神の設計にも抜けがあったのでしょうね。魂の防衛機構には穴があるのです。私はこの穴を利用する手段の研究に没頭し、自らの肉体を改造し、そして遂に死霊操術を完成したのです。勇者への憑依とは違って支配対象の高度な自我は失われますが、それはそれで支配に便利というものです」
サスケがネクロウスをにらむ。
「その死霊操術を使って鬼魔族を支配したのか」
「鬼魔族は魔王復活を待って地下ですやすやとお休みでしたからね。楽勝でしたよ。後は魔導師として人間たちに潜り込み、いずれ前線となるこのノルトンの地を拠点とし、裏の力を提供して宰相に近づき、いずれ人間を滅ぼすための新兵器を人間たちに作らせました。龍魔族の姫も手に入れた今、戦力はもはや十分です」
「その戦力と言うのがあの近衛騎士たちなら、人間を滅ぼすにはいささか物足りないようだがな」
サスケは撮像を見る。その中では近衛騎士たちが分断されて、各個に冒険者たちから集中攻撃を浴びていた。
「あれが完成形と思っているならばそれは間違いですよ」
ネクロウスは鼻で笑う。
「あの、つまり魔王様の封印が解けるのをただ待ってたんですよね?」
「……不死身の私にはいくらでも時間があります。いつか愛しき君がお帰りになるのを待てばよいのです。現に復活されたではありませんか」
「このあたしが魔王様の封印を解いたからです。ネクロウスさんはまだ役にも立っていないどころか、魔王様の嫌がることしかしてないじゃないですか」
「今はお気持ちに添えなくても、必要なことなのですよ! 愛しき君をたぶらかして裏切る人間共は滅ぼさねばならないのです!」
サスケは渋い顔をして、
「少なくとも今はまだ第一の貢献者とは言えんな」
「……これからを見ていなさい」
ネクロウスは悔しそうだ。
「最後はあたしですね!」
エイダは喜び勇んで語り出す。
「あたしは魔王様の封印を解いてから一緒にダンジョンを作りました。ギルドを始めて、たくさん冒険者を集めて、イスカさんやクスミさん、ズメイさんやビルダたちと街を築いたんです。魔族と人間を仲良くさせようとして、ちょっとうっかり死んだりしましたけど魔王様から生き返らせてもらったんです。こんなのあたしだけですよね?」
ネクロウスは冷たく、
「蘇生の魔法を使わせるのはそれこそ迷惑でしょう。どれほど魔力を消耗したことか」
「で、でも代わりに魔力をたっぷり集めたし…… 魔王様の背は最初にお会いした時から三十ミルも伸びたんですよ。そう、それで魔族と人間がどうしても仲良くしてくれなかったから、悪い大魔王をでっち上げたんです。憤怒の化身で、人も魔族も滅ぼすっていう役です。そしたら皆が団結するようになって。本当は魔王様を人間にそのまま受け入れてほしいんですけど……」
エイダはテーブル上の撮像を見つめる。その中ではヴァールが懸命に町を守っている。
「こんなにお優しい方なのに」
「人間はその御恩を理解できない裏切り者なのです。だから滅ぼさねば!」
怒り出したネクロウスをエイダは無視して、
「そういう訳で、一番の貢献者は街の仲間たちだと思います。今も皆は魔王様と共に戦っています。ここで高みの見物をしているあたしたちじゃなくて」
テーブル上に浮かぶ様々な撮像には、ヴァリアに生きる者たちが街を守るために奮闘する様が捉えられていた。エイダの言葉通りだ。
「だから、魔王様の元に戻りたいんです。もう魔王城も完成したし、ここに用はありません」
エイダは訴えかける。
「そしてまた憑依されて愛しき君を害することになったらどうするのです。あなたは我が死霊操術にも抵抗できなかったではありませんか」
「うう…… 死霊操術はだいたい解明したし…… 憑依は分からないですけど……」
エイダは頭を抱えて考え込む。
「憑依の謎を解かなきゃ…… それには勇者が…… 魔王様が受け入れられるには…… そうか!」
エイダは勢いよく立ち上がった。
「サスケさん、勇者ルンを呼び寄せてください。ネクロウスさん、大魔王を用意しましょう!」
「なに?」
「なんですって?」
困惑するサスケとネクロウス。
そしてエイダは胸を張り宣言した。
「それが皆さんの求める答えにたどりつく道です」
読み終わったら、ポイントを付けましょう!